ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
僕はのんびりと空を飛んでいた。
東の海は平穏だ。雨こそあれ、それが魚の形をとったり渦になったりしない。
グランドラインの航路より余程楽だけれど、僕はガープさんとサカズキさんに教わったことを忘れないようにトラベラーズメモに整理したり、脳内でイメージトレーニングをしていた。
時々見かけた島に降りて、その土地の食べ物を堪能したり人と関わったりしていると、あっという間に数ヶ月が経つ。
ルフィくん達は今も修行しているのだろうか。それとも、もう海に出発したのか。あの小ささで一人で海に出るのは流石に村の人が止めてくれると思うが……彼ならやりかねない。
「ん……どうしたの、始祖」
僕は見聞色の覇気によって、始祖神鳥が何かを言い出そうとしていることに気づいた。
大海原には、人がいそうな島は見えない。
「人がいる? どこに」
辺りは断崖絶壁の岩島しか……もしかして、そこに人がいるの!?
「遭難者かもしれないんだね、わかった。助けに行こう!」
こんな岩しかない海で遭難なんて、数週間で餓死してしまう。
僕は始祖が大きく翼をはためかせ、岩島に向かうのを待つ。
たしかに、遠くにだが弱い感情の色がある気がする。よく聞こえないのは、それだけ弱っているのだ。
「っ……! 大丈夫ですか!?」
「……あ」
そこにいたのは、ガリガリに痩せこけ、もはや海を眺めるだけの置き物となったような少年だった。
金髪の髪は海風に当てられてパサパサで、頬は痩けている。もう数時間経てば終わってしまう命のような儚さだった。
「遭難者だよね!? 今助けを呼んでくるから!」
「……鳥……」
少年に僕の声は聞こえていないようだ。その視線は始祖にだけ注がれている。
待て、空腹な少年の目の前に大型の鳥。これは……確実に……。
「肉……」
「わああああ! ダメダメダメ! ほら、これでも食べて!」
僕は《非常食》を少年に渡す。胃が長期間空だったのならお粥とかの方がいいのだろうが、お粥のカードは残念ながら無いし、僕は基本食べ物を持ち歩かない。
少年がそちらに飛びついたのを見て、僕は取り敢えず始祖を守ることができた。
ただ、この状況はなんとかせねば。
「とっ、とにかく助けを呼べそうな客船を探してくるから!! 絶対に死なないでね!!」
そう叫んで(聞こえているといいけど)僕は始祖と共に大海原に飛び立つ。
海賊はダメだ。何されるか分かったもんじゃない。海軍……も難しいだろう。保護自体はしてくれそうだが、あそこはあくまでも軍艦。いつ海賊と接敵して戦い始めるかわからない。
目指すは客船や輸送船だ。余裕のありそうな大きな船がいい。
覇気と視界をフル活用して、僕は1時間にわたって客船捜索を続けた。
なんとか近くを客船が通りがかってくれたのは、運が良かった。
「すいません! 向こうの崖島に子どもが遭難してるんです!!」
「な、なんだ君は!? それに子どもが遭難だって!?」
「もう日が何十日と経っている様子でした! 保護をお願いします、僕は案内するので!!」
なんとか船長さんに許可を取り、僕は船が追いつける速度で少年の元へと向かう。
近くといっても、船の走行速度なら数時間かかる場所だ。それまでに力尽きてないといいが……と悪い妄想が膨らんでいく。
「本当だ!! 子どもが……あっちに大人もいるぞ! いったい何日遭難してたんだ!?」
「すぐにベッドの用意を!!」
どうやら岩陰の方に大人もいたようで、その人も保護されることになった。
なんだってこんな岩しか無い島に遭難することになったのかはわからないが、生き残っていて良かった。
「保護してくれてありがとうございます。突然の事で信じてもらえるか不安でしたから」
「いやいや、遭難者を助けると言うことは、いつか自分が遭難した時に帰ってくるものです。船乗りとして当然のことをしたまでですよ」
「ありがとうございます……二人の容態は」
「餓死しなかったのが奇跡なくらいですよ、あれは五十日以上何も食べてない。よく生きれたものです」
「それは……すごいですね」
人は一週間飲まず食わずだと死ねるらしい。その何倍もの期間を生き抜いたのは、この世界の住人が特別丈夫だからだろうか。
僕は体質的に悪魔の実の力なのか数ヶ月に一食程度で生き延びれるけれど、本人たちはそうもいかなかっただろうに。
「それでは、僕はもう行きます。あの子たちのことは、お任せしますよ」
「もう行ってしまわれるのですか? せめて彼らが目覚めるまで待っていては」
「そこまでご迷惑をおかけするわけにはいきませんから。少年も僕のことは覚えてないでしょうし。では!」
人助けができて良かった。そんな充足感に心が満たされつつ、僕は旅を再開した。
「ビンクス〜のさ〜けを……ふふ」
空路は海路に比べて波乱が少ないが、その分穏やかな……暇な時間が多い。
そう言う時は、ニューロンでふわんだりぃずに相性の良さそうなカードを探したり、ただ歌って過ごしたりする。
時には、モンスターを召喚し一緒に歌ったり話したりしながら旅をすることが多かった。見聞色の覇気によって、始祖の低音のユニゾンがよく聞こえた。
「ふふ〜……ん? あれって……嵐?」
ふと、進行方向に黒い雲が雨と共にすごい勢いで向かってくるのが見えた。大時化だ。
これはまずい、と進路を変えようにも、始祖が羽ばたく速度より早く雲はやってくる。
「まず……!?!?」
大嵐に巻き込まれた僕が、どぽんと海に落っこちたのは、それから間も無くのことだった。
*
「……ゲホッェホッ!?」
「うわっ起きた!!」
肺が水で冷えている。三半規管が悲鳴をあげている。
口から水を吐き出しながら、僕は思いっきり咽せた。どうやら運良く島に漂流したらしい。
「うえぇ……海水と砂が口に……」
「お、お前大丈夫かよ……」
ふと、自分に向かってかけられた声変わり前のソプラノを聞いて、顔を上げた。
そこには、少年が立っていた。鼻が長いのが特徴的な、たらこ唇の少年である。
ここの島の住民だろうか。
「ゔぇ……ここはどこ……っていうか、君は誰……?」
「お、おれはウソップ! 散歩してたらお前が倒れてたから、どうしようって……」
「ご、ごめん。実は嵐に巻き込まれて漂流しちゃって……。泳げないからここまで流されてきちゃったんだ」
「ええ……なんで泳げないのに海に出たんだよ。ここはシロップ村。ただの平和な村だ!」
どうやらここはシロップ村というらしい。ウソップくん曰く、平和で平穏、スパイスが足りない村らしい。
僕としては、平和なのが一番だと思うけど……。
「お前は海賊か? お、おれには800万の仲間がいるんだ、海賊なんて怖くないからな!」
「僕は海賊でも海軍でもない、ただの旅人だよ。うーん、この村に宿はあるかな?」
「無いなぁ……」
「そっかぁ……」
野宿するにしても、服を乾かしたい。野外露出は犯罪です。
「どうせならうち来いよ! 悪いやつじゃなさそーだし」
「良いの? お礼は絶対するから!」
「ウソップ様は懐がひれーんだ!」
そうして、僕はウソップくんの家にお世話になることになった。
彼の家はこぢんまりとしていて、大人の姿は見えない。
この子も訳ありなんだろうか、そう思いながら、僕はベタベタになったシャツのボタンを外した。
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