負ける気せぇーへん、機械兵やし 作:長い犬
最近いろいろと忙しくなってしまい時間が取れなくなってきました。猛省!
昨日、やっとあいつに約束を果たしてもらった。
全く、いつまで待たせるつもりだったのかと不満に思うことはあれど、あいつは私に好きだと言ってくれた。
嬉しかった。帰ったあと五分に一回はあの事を思い出してにやけるくらいには嬉しかった。
だけど幸せなことは続かない。
宿舎に来訪した憲兵が見せた召集令状の紙を見て、平穏はほど遠くなることを察した。
豪華絢爛な客室で、二人の兵士が所在なさげにソファの端で身を寄せあっていた。
「すぅ~、はぁ~」
「ライカさん、緊張してるんですか?」
「そりゃそうでしょ。これから最高指導者にお会いするのよ。逆にどうしてマルフーシャはいつも通りなのよ」
暫く俯いたあと、ポツリと呟く。
「緊張してないわけではないですが……私はまだここで終わるわけにはいきませんから」
「……あなた、変わったわね。門兵だったころから見違えたわ」
「短期間でいろいろありましたから」
「……そうね」
想定していなかったことがいっぱい起きた。あいつが生きていたこともそうだし、戦況の変化、宿舎への襲撃、そして最高指導者からの召集。
半年にも満たない期間だけど、ここまで濃い出来事が立て続けに来るとは思いもしなかった。
今思えば、あいつと出会ってから……と内心で考えていると、扉が開き憲兵がきびきびとした足取りで入室した。どうやら時間のようね。
「これから最高指導者のもとへ向かう。無礼な真似をするな」
「「はっ」」
私たちはすぐに立ち上がって憲兵の後をついていく。緊張のせいか足音がやけに響いて聞こえる。気を払うように胸元のロケットを握りしめた。
ふと隣のマルフーシャを見ると、マルフーシャの顔は普段より硬い。でもその目は揺れていなかった。
負けてられない。元々私が先輩だったんだから、少しでも威厳は見せないと!空元気だけど、無いよりはマシよ。
やがて重厚な扉の前にたどり着くと憲兵は足を止めた。丁寧にノックをして所属と用件を述べる。
「入れ」
短く、威厳に満ちた声が入室を許可した。憲兵は私たちに目で促す。モタモタしてられない、マルフーシャを引っ張るように私は重い扉を開いた。
最高指導者は背を向けて座っていた。葉巻を吸っているのか、紫煙が頭上を舞う。
「私は冗長なのは嫌いだ。手短に言う、お前たちは今日から私直属の溶鉄部隊に入ってもらう」
「直属……!」
最高指導者の直属。言葉を素直に受けとればとんでもない出世。でも裏がないなんてあり得ない。
「今回の襲撃を防いだこと、その中でもとりわけスコアが優秀だったお前たちを選んだ。東の国の言葉で玉石混淆とあるが、正しくその通りだな」
「っ……」
マルフーシャの片眼が痙攣している。それもそうだろう、私たちの仲間が役立たずの石であると言われているのだから。
勿論私だってムッとしたけれど、それを顔に出すわけにはいかないのよ。特に最高指導者の前では尚更ね。
「最近の戦況は益々悪くなるばかりだ。東部もそうだが北部も次々に侵略されている。数年前に選抜部隊を向かわせたのにこの様だ。無能がこの国を蝕む」
溜め息を吐くように葉巻の煙を吐く。戦況の悪さを嘆いているのだろう。でも私はある言葉を聞き逃さなかった。
(数年前の選抜部隊?……まさか)
あいつと私が軍学校を卒業したのは数年前。私が憲兵になったけど、あいつはある部隊に選抜されていた。そしてその部隊は北部に向かったあと全滅して……。
「やはり無能は国の癌だ。時間稼ぎにしか使えん……」
「お言葉ですが」
許せなかった。国のために命を懸けてまで戦ったバルスをあまつさえ無能や癌など、反射的に口を開いてしまった。
「この戦争は多くの兵士や国民が一体となって今も戦っているんです。私だけではない、他の者もいて初めて成り立っている」
未だに背を向ける最高指導者を睨む。
「それを無能と一方的に断じるなんてそれこそ無能の所業だと言わざるを得ません。少なくとも私はあなたの言う"無能"に鍛えられて"優秀"となりました」
「………」
「そんな考えではこの戦争は負けるわ。必ず」
「お前の発言、本来なら更生施設送りだ。しかし私は優秀なものに非常に甘い。今回は特別にその無礼を許す」
「ライカさん……」
心配するマルフーシャを見て頭を冷やした。脅しに怯えたわけではない。けれど今ここで無駄に歯向かっても何の利益もないとわかるから、口を閉ざした。
「この戦争はまだまだ続く。お前たちのような優秀なものはいつだって必要だ。これからも私のために尽力せよ」
「はっ!」
「……はっ」
話は以上らしい。素早く敬礼し、退室する。
その後、憲兵から等級の昇進や次の予定が手短に伝えられ、解散となった。
宿舎への帰り道、国内鉄道の電車に揺られながらマルフーシャは小さく言った。
「最高指導者は宿舎の皆のことを石と、無能と言いました。あのニュアンスは、幾らでも代わりはいるとでも言っているような……」
私は人差し指でマルフーシャの口を塞ぐ。不満げにマルフーシャはこちらをジト目で睨んだ。
「公共の場で名前を出すもんじゃないわよ。もうちょっとぼかしなさい」
「あっ……すみません」
「いいのよ。別に私だってとても腹が立ってるし。ここまでこらえてる時点であなたのほうが偉いわよ」
「あの時は本当にヒヤヒヤしました。気持ちはわかりますが次からは控えてもらうと助かります」
「ごめんなさい……」
いくら頭にきたとはいえ言い返したのは我ながら短気すぎる。マルフーシャもいたのだからもっと冷静になるべきだったわ。反省反省。
「でも、そうですね」
マルフーシャは眩しいものを見るように私に目を向けるとニコニコと笑った。普段あんまり笑わないのに、珍しいわね。
「何を笑ってるのよ」
「いえ、なんでも」
「そこはぼかすところじゃないわよ!そこで止められたら余計に気になるわ。さあ、言うのよ!」
本当に?と言いたげにジト目になるマルフーシャ。あなた最近よくその目になるわね。どこで覚えてきたのだか。
顎で「話せ」と促すと、仕方なさそうにマルフーシャは話し始めた。
「選抜部隊の話が出た直後にライカさんが怒ったじゃないですか。それってバルスさんが選抜部隊にいたからですよね。ライカさんは、本当にバルスさんのことが好きなんだな、と」
マルフーシャの言葉を聞いてフリーズした。数秒固まったあと、すぐに顔が真っ赤になるのを自覚する。
「そ、そ、それは………そうだけど!そうなんだけど!それ以上に頑張ってたあいつが無能なんて言われたのが我慢できなくて……」
「惚気ですか?ご馳走さまです」
「違うわよ!ああやめて!その目で私を見ないで!」
ちくしょう、ホントに見違えたわねこいつ!この後恥ずかしくて宿舎に帰るまでずっと顔を塞ぎながら帰っていた。
夜寝るときになっても「今思えば最高指導者に惚気しただけでは?」と考えてしまい夜中ずっとベッドでゴロゴロする羽目になった。