――胸壁の影に伏せたる白エルフが銃隊、轟然と斉射する。銃声
オルクセン軍の後軍において、兵たちは戦わずして既に
シュヴェーリンの指揮下にある後軍の兵士たちは、前線から次々に運ばれてくる戦傷者を担送し、一か所にまとめて並べる。治療所と呼ばれるその場所は、後代の野戦病院にあたる。全軍から集められた療兵と軍医たちがおり、その指揮をとっているのはゼーベック以下、兵站総監部の将校たちである。
地面に並べられ、血を流し、呻き声をあげる負傷兵たちを、順々に軍医や療兵が手当していく。しかし、治療すべき将兵が多すぎ、まるで間に合わない。順を待つ間に息絶える者が続出していた。
そこでゼーベックは軍医たちに命じ、負傷者を分類させた。治療すれば命を拾いそうな重傷者、しばらくは放置しても死にそうにない中軽傷者、何をしても死ぬであろう者の三種である。当然、第一の者たちを最優先にして、治療能力の高い者を割り当てる。
特に地位の高い重傷者に割り当てられるのは、軍医ではない。全軍でも十余名しかいない療術兵である。彼らは治療の魔術によって身体の治癒力を促進し、傷を塞ぎ、気力と体力までいくらか回復させることができる。その貴重な療術兵分隊の中に、グスタフ少年もいる。
悲鳴と泣き声の中を見回りながら、ゼーベックは、ちらと少年兵の様子を見た。少年がまだ軍に入る前からの縁である。少年は負傷者に声をかけ、自らも血まみれになりながら、懸命に治療を施していた。その健気さが哀れだった。
少年は声を枯らして呼びかけるが、また一名が息絶える。重傷者ばかりを看るというのは、そういうことである。
「どうして、どうして、こんなに……」
声を殺して泣く少年を、しかしゼーベックは怒鳴りつけざるを得ない。
「死んだ者に構うな。次だ、次。泣くのは後にしろ」
「は、はいっ!」
少年は涙を拭いながら立ち上がり、再び務めに向かい合った。
ゼーベックはその姿から目を背け、前線である南方を見やった。遠雷のような銃砲の音はまだ続いている。まだ死ぬ。もっと死ぬ。
いったい、これはどういう戦だ。何が起こっている――そう思った時、見慣れたコボルトが馬を飛ばしてきた。シュヴェーリンを呼びに来たようだった。
後軍を率いる将軍は、先任旅団長に何事かを話すと、騎乗してコボルトと共に前方へと去った。
その姿が小さくなって消えるまで、ゼーベックは無言でその背を見送った。
前線の部隊を指揮するのは、宿将たるゴルツ元帥である。半壊した前軍と、自らの中軍をともに率いて前進する。
目指すところは、ドワルシュタイン・エルフィンド連合軍の陣地にあいた突破口だ。その一角を占領するために前軍は半壊してしまったが、しかし穴を穿つことはできた。
そこから部隊を流し込めばいい――と、誰もがそう思った。アルブレヒト大王も、そこに光明をみて、中軍の投入を決断した。
この時代に当然の軍事的常識に従えば、それでよいはずだった。敵は戦列を形成している。堡塁に籠り、胸壁を盾としても、それは戦列歩兵を強化するため。彼らは疑いもしなかった。
オーク達は突破口に殺到した。最初に堡塁を占領した兵たちは全滅していたが、迷うことはない。足を止めずに進み、突破口を拡張すれば、敵戦列は崩れる。その奥にいるだろう第二戦列も同じように破ればいいのだ。
知らないことは幸いである。彼らが地歩を占めたのは、連合軍が用意した第一層陣地、その一つの突出部に過ぎない。
マルリアンが築かせた防御陣地は線状ではなく、三つの層を為していた。一つ一つの層は分厚く、複雑なため、それらが一つのまとまりだと認識することは難しい。
オーク達は、それを知らない。知らないがゆえに、勝利を信じられた。仲間の死には意味があったと、そう誤解することができた。そう信じたまま、自らも死んでいくことができた。彼らに許された幸運はそれだけだった。
先鋒の中隊は突破口を越え、その稜線の上に立ち、そして見た。視界の限りに波打つ起伏、そのどこにも敵の第二戦列はなかった。あったのは無数の陣地。それが散在しているように、彼らの目には見えた。
疑問を抱きつつも、勢いのままに反斜面を下る途中、彼らの前方に一人の白エルフ将校が出現した。その女は自らもマスケット銃を構え、そして叫んだ。
「歩兵隊、立ち上がれ! 奴らを阻め!」
途端、何もいなかったはずの辺りに白エルフ歩兵が出現し、その筒先が揃ってオークたちを向いた。距離は三十歩もない。
「撃てェ!」
その斉射で中隊長が即死し、幾名かの小隊長も倒れた。指揮系統を一瞬で消しとばされ、部隊は足を止めた。
そこへ左から、右から、次々に銃弾が襲った。砲弾まで飛んでくる。中隊はたちまち潰走を始めた。
大胆にも、かなり前方で中軍を指揮しているゴルツ元帥は、占領した稜線の高みから、その様子をありありと見た。
「なんだ。なんなのじゃ、これは」
味方の先鋒を一瞬で葬った敵歩兵は、すぐに姿を消した。よく見れば、起伏の中に細長い壕が掘られている。そこに身を屈め、速足に消え去った。エルフたちが築いているはずの横隊は存在しなかった。
「敵の戦列はどこにあるのだ!?」
連合軍の陣地は、この時代に類例がない形をしている。渓谷の波打つような起伏を生かし、天然の稜線をもとにした無数の島型堡塁が築かれている。それらに籠るのはマスケット中隊あるいは小隊と、ドワーフの砲兵だ。陣地内には銃砲の弾薬はもちろん、水と食料まで保管され、ある程度は独立して戦い続けられるようになっている。
陣地を縫い合わせるように見える線は交通壕である。それらは補給や増援、退避の経路でもあり、また陣地に拠らずに進退する精鋭歩兵たちの進出路でもある。それら歩兵は防御の弱点を補い、あるいは退却を援護するために用いられる。
連合軍は戦列という「線」で守ってはいない。複数の陣地という「点」が相互に支援し合い、活発に進退する歩兵がその弱点を補って、「面」での防御を目指している。
この時代の星欧において、戦列を放棄する戦い方はありえない。太鼓や喇叭と伝令しか通信手段がないこの時代にあって、分散した兵は統制を失う。よほどの精鋭でなければ動きがとれず、たちまち脱走、逃亡を始めてしまう。
また、小部隊の戦術を自ら判断できるほどの能力は兵にも下士官にも、下級将校にもない。彼らにできるのは規格化された行動をこなすのみ。この時代の教育程度の限界だった。
しかし世界の中で、ただエルフ達だけは、その限界を無視できた。彼らには魔術通信がある。声も喇叭も届かなくても、命令を達することができる。
それと同等以上に重要なのが、堡塁ごとに分散した小部隊が「孤立した!」と誤解せずに済むことだ。飛び交う魔術通信に耳を傾けることで、離れた陣地にいる味方の存在を感じとれる。あたかも戦列に肩を並べて戦っているように、味方と支え合っているという認識を保つことができた。
こうして彼女たちは戦列をぶつ切りにし、部隊ごとに分散した堡塁に籠もらせ、複数方向から敵を狙う火力網を作り出した。陣地帯には、チェス盤のような縦横の座標軸が設定されている。あらかじめ決められた地区に敵が侵入すると、対応する堡塁群は自動的に射撃を開始する。
そのような射撃区域を、エルフたちは「
その主火器はドワーフ軍の前装式重砲が撃ちだす散弾。これを補うものとして、彼らが偏愛する後装火縄式の小型砲が加わる。
この後装砲は砲手一名が抱えるようにして構え、別の一名が点火するもので、ドワーフたちは大銃と呼んでいる。兵器としては時代遅れで、重砲ほどの威力も射程もない。しかし装填と方向転換は、はるかに容易であった。これにより重砲の死角を補い、側面に回り込む敵を射撃する。
それらの砲撃の間隔を、マスケットの絶え間ない斉射が埋める。いわば主砲、副砲、銃の組み合わせだった。
そのような堡塁同士が空間をあけ、互いに支援し合っている。陣地帯のどこかをオルクセン軍が突破しても、そこから他の陣地の側面や背面に回り込むことは難しい。まさにそのための経路を集中的に狙えるように、すぐ奥の堡塁群が待ち構えているからだ。連合軍が備えた火力密度は、幅員一哩につき重砲だけで十五門に達した。迂回や突破を試みたオーク達は、統制された十字砲火を浴びてたちまち壊乱した。
ならば一個一個潰すしかないと、手近な堡塁一つに兵力を集中すれば、必ずその側面を別の堡塁、あるいは稜線と交通壕に隠れて接近する銃兵隊から襲われる。
かくて、戦列の脆い側背を狙われたのはオーク達の方であった。彼らはどこを攻めようとも複数方向から撃たれ、次々に死んでいった。それは火の地獄だった。
しかし、それでも、オーク達は仲間の屍を踏み越え、命を捨てて迫る。ついに肉薄する。そのような時、堡塁内には魔術通信が響く。
「八番堡塁、撤退せよ。西側経路から十八番へ移れ」
オーク達がついに胸壁を踏み越え、中に躍り込んだとき、そこはたいてい空であった。置き捨てられた弾薬と食料があるばかりだ。オーク達は狂喜してその食料を貪った。口をいっぱいにして立ち上がった時、彼らはまた、次なる起伏に築かれた多数の胸壁陣地を目にした。
将兵はほとんど呆然として、渓谷のあちこちで呟かざるをえない。
「まだあるのか……! まだ続くのか。こんな、こんなことが」
一つの堡塁を落とすためだけに百名以上が死に、その倍が負傷した。相互に支援し合う堡塁群をようやく制圧した時には、千六百の歩兵連隊で無傷の者は二百に満たなかった。
部隊は次々に潰走し、叱咤を受けて再編。再び前進するや、また射撃を受けて倒れた。出血は無限に続き、陣地の攻略はまるで進まなかった。だがゴルツ元帥は将兵を励まし、前進を継続させた。
「いいぞ、この調子じゃ。我が軍は押しておる。押しておるんじゃ。敵は次々に拠点を失い、逃げに逃げておるぞ。者ども、かかれ、かかれっ!」
相対するマルリアン少将は、馬を駆って戦場をかけまわりつつ、魔術通信で指揮をとっている。時おり足元まで敵の銃撃が飛んでくる。イヴァメネルが何度目かの進言を行った。
「閣下! 前に出すぎです。今少し、後ろへ」
「兵たちはもっと前にいる。後ろでは何も分からん」
彼女は子飼いの精鋭歩兵を進退させ、味方の撤収を援護させる。
「十五番堡塁が手薄だ。歩兵隊、前へ!」
時にはそうしてオーク達の隙をつき、奪われた堡塁を奪還さえした。
それでも全体としてオルクセン軍はゆっくりと前進し、連合軍は緩やかに後退を続けている。放棄した堡塁が刻々と増えた。間もなく第一層陣地帯から撤退することになるが、それは計画の内だった。
「時間は十分に稼げているな。この分なら、夜まで耐えられる」
激戦を目前に見つつ、マルリアンは多少の安堵を感じていた。ドワーフたちの暴走はあったが、それも囮として活かせた。
何とか、上手くいきそうだ。このまま、何事もなければ。
渓谷南端の連合軍本営では、ドワーフ王が怒りをあらわにしていた。連合軍副将たるクーランディアに掴みかからんばかりである。
「どういうことじゃ。我が兵を、我が息子たちを!」
「陛下、彼らは勇敢に戦い、武名を掲げました。自ら望んで出戦を」
「なぜ見殺しにしたかと言っておる! 腰抜けめが。今も逃げてばかりではないか!」
クーランディアは胃の痛みを感じながら、穏やかな表情を保とうとする。なんとか今日、一日。いや、せめて日没までの半日ほどは、連合を維持しなければならない。
彼女は作戦の正しさを思った。最初に突出して壊滅した予備隊を除いて、ドワーフ兵は各堡塁に散っている。それらへの命令は魔術通信に依存しているから、事実上、ドワーフ兵はあげてエルフたちの指揮系統に組み込まれたようなものだ。ドワーフ王が妙なことを考えたとしても、今更どうしようもない。分散陣地はその意味でも効果的だった。
「陛下、我らは敵を十分に痛めつけております」
「次々に抜かれておるではないか!」
「我らの目的は、敵の撃破ではありませぬ。堡塁を渡すかわりに、敵の血と時間を奪い取っていくのです」
主将自身は、前線に火力を集中して敵を撃破するつもりだった。範としたのは、オルクセン軍がポルスカ軍を倒したワーレンシュタット会戦である。敵が不利を承知で攻撃せざるを得ない状況を作り、地形を生かした防御射撃で撃破する。アルブレヒト二世の成功に学んだ彼女は、それを場所と立場を変えて再演するつもりだった。不利を悟った敵が前進を止めれば、連合軍は籠って守り、オーク達の飢えを待つだけである。
しかし、マルリアンは別の意見を出した。一挙に勝負を決めようとすれば、恐らく力負けする。ゆえに撃破ではなく、ゆっくりと減殺するべきだ。そのため陣地には縦の深さが必要だ――という構想である。
具申を受けて、彼女はその斬新さに戸惑った。しかし、マルリアンは「正面対決を避ける」という主将の全般構想を、一戦場に適用しただけだと説いた。クーランディアの構想を、彼女自身が思う以上に具体化してみせたのである。
そんなマルリアンを、彼女は全面的に信任した。今も、そうしている。連合軍副将たる彼女の、さらなる副将に過ぎないマルリアンが、事実上は全軍を指揮できるようにしてしまった。彼女自身は僅かな予備隊を率いるのみで、ドワーフ王が余計なことをしないよう宥める役に終始している。
――それでいい。もし私が動くとすれば、負け戦の時だけだ。
もし負けるとしても、マルリアンだけは生きて帰し、再戦に備えさせねばならない。マルリアンこそ、オーク王を斃し得る唯一の指揮官だ。クーランディアはそう確信し、己の役割に徹している。
今のところ、全ての策が図に当たっている。オルクセン軍は第二層陣地で力を使い果たすか、あるいは日没を迎えるかだ。時間は連合軍に味方している。
恐らく、負けはない。このまま、何事もなければ。
「来たか、シュヴェーリン。供をせよ」
大王はそう言って、すぐさま馬に飛び乗った。シュヴェーリンは声をかける暇もない。大王は彼とわずかな武官だけを伴って、放胆にも前線に向かった。坂を登り、陥落した敵の堡塁に乗り込む。
「陛下、敵の重砲に狙われかねません!」
アンハルト中佐がそう言って諫めるが、大王は怒鳴り返した。
「兵たちはもっと前にいる。後ろでは何も分からぬ!」
そう言うと馬を降り、胸壁を踏んで堡塁内に降りた。シュヴェーリンたちも続く。侍従武官たちは王の周りをやや離れて囲むように立った。
王は望遠鏡を構え、しきりと前方を観察した。シュヴェーリンもそれに倣う。
「やはり戦列がない。あれをどう見る」
王の言葉に、シュヴェーリンは目を細めた。敵陣地の一つ一つが、伝説の火吹き竜のように火と煙を絶え間なく吐いている。あたかも火竜の巣のようであった。
「射撃はもとより、重砲も効かぬように見えます」
一つ一つの陣地が胸壁を備え、ほとんどの射撃を無効化している。歩兵砲すら弾くようだ。ゴルツ元帥は重砲を前線に押し出しているが、あまり効果はあがっていない。敵陣地はたいてい坂の上の稜線部分にあり、砲は下から撃ちあげる形になるから、平射砲の弾はあたりづらいのだろう。
まるで――と、シュヴェーリンは連想のままに言った。
「まるで城塞です。いっそ攻城用の榴弾砲か、迫撃砲でもあれば……」
それは完全な思い付きだった。仰角をつけて撃ちあげ、上から弾を降らせる曲射砲であれば、陣地内に砲弾を落とせるだろう、という。しかし、進軍を急いだ彼らは攻城砲をほとんど置き捨てていた。もし投入できたとしても、攻城砲の精度では、城郭よりはるかに小さい堡塁に当てるのは困難だったろう。
しかし、大王は望遠鏡を離し、シュヴェーリンに尋ねた。
「城塞だと?」
シュヴェーリンは愚かな提案を恥じながら、自分の連想を語った。
「この遮蔽、城の胸壁のようです。あの陣地も、城の塔から射撃しておるようで……」
「それかっ!」
その瞬間、大王は独り、エルフ達の作戦を看破した。『野戦築城』、『火力戦』といった後代の用語はないが、しかし当時に存在した最も適切な語彙で、彼は敵の本質を言い当てた。
「あれは、城だ。塔や城郭、城壁の連なりだ! 彼奴らは野戦を籠城戦に変えた。戦列を捨てて....いや、あれは小分けにした戦列なのだ。魔術の力であろう」
その思考に追随できず、シュヴェーリンは戸惑った。しかし王は構わず、新たな指令を下した。王は既に、対策まで立てていた。
「ならば、野戦にあらず。我らも城攻めをするぞ」
敵は城。要塞と思えば、複数の防御施設が支援し合うのが当たり前だ。それならば、攻城砲はなくとも、オルクセン軍には対要塞に使える装備が他にあった。専門の編成もである。
大王は侍従武官どもに命じた。
「全歩兵連隊から擲弾兵中隊を出せ! 中軍だけでなく、後軍からもだ。側防の擲弾兵大隊も使う。この戦に横の守りはいらぬ」
擲弾兵。彼らが持つ擲弾とは、中空の鉄球に火薬を詰め、導火線を挿す手投げ爆弾である。マスケット銃の普及前からある古い装備で、銃の入手が難しかった時代のオーク達が愛用した。しかし戦闘中に着火し、狙った場所に投擲するのは難しい。その割に威力は砲より低いから、現代の野戦ではめったに使われない。高度な技量もつ歩兵部隊の象徴的装備になっている。
そのわずかな出番は、要塞戦において防御施設を攻める時だ。突撃に先んじて投げ入れれば、密閉空間で炸裂した擲弾は、恐るべき威力を発揮する。
「残らず投入するのだ。投擲位置まで擲弾兵を寄せれば、獲れる」
シュヴェーリンは王の顔を仰ぐような思いで見た。今の彼は王の戦術をほぼ正確に理解できるようになっており、それに自分の経験を加えた応用すら為せる、オルクセン軍で唯一の将である。しかし、全く新しい戦争を前にしての創意では、大王の天稟には全く及ばなかった。
しかし、彼は即座に異論を挟んだ。王がそれを必要としていると、そう分かったからだ。
「工夫がいりますな。あの猛射の中を近寄るとすると」
「敵はあらゆる方向から撃っておる。狙いを絞ってくる」
「擲弾兵を守らねばなりません。しかし、隠れる地形もほとんど無いとすると……」
そこまで言って、シュヴェーリンは絶句した。一案が浮かんでいる。敵は、どうやってか分からないが、巧みに射撃をとりまとめている。ならばこそ、恐らくは上手くいくだろう案が。彼と同時に大王も、それに到達したのだと分かった。
「他の歩兵部隊は、全て囮にする。銃を撃たせず、ひたすら突撃させよ。全面で一斉にだ。擲弾兵は歩兵が撃たれてから急進するのだ。急ぎ、ゴルツに伝えよ!」
彼に無く、大王にあったのは、それを断行する勇気だった。それが王者の器なのかもしれないと、シュヴェーリンは思った。
この策で、兵たちは今よりも更に死ぬ。己の肉体を盾と為し、弾に変えて進む。そして死ぬ。しかし、勝利のために。
こうして戦況は一変し、惨劇は激しさを増した。
(次話「死すべき時は今」に続く)
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