タイトルまんまな話。
一話完結、5500文字ぐらい。

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カナちゃんとたこ焼き食べる話

 

「俺はこの女と結婚しない」

 

 思わぬ台詞に耳を疑った。

 

 ちょっと前にハマって読みまくった某サイトの小説群の冒頭に漏れなくある台詞ではないか。

 ワンパターンだと分かっていても、読み始めると止まらなくなるアレ。

 ひとつ読み終わっても、もっともっとと摂取したくなるあの中毒性は何なのか。人って、誰かがバカやって自業自得になるいわゆる『ざまぁ』を、根底で求める生き物なんだろな、きっと。

 

 まぁ世知辛い現実と違って、純創作は安心安全だ。完結済みを選んで読めば、必ずざまぁが叶って婚約破棄男は廃嫡になり性悪女は社交界を追われて、しっかりカタルシスを味わえる。

 

 だからこそ、現実世界でそんな()フラグな台詞を吐く人間がいるとは思わなかった。

 誰よ、その面白い男、顔を見に行ってやろう……

 

 

 ――あれ?

 

 ――っていうか、ここ、どこ?

 

 

 えっと?

 記憶が曖昧だ……

 酔ってるのかな?

 お酒飲んでないよ?

 落ち着いて。

 

 友達の結婚披露宴に招待された……OK

 奮発してちょっといいドレスをレンタルした……OK

 友達と待ち合わせた……OK

 ホテルに来て、皆で花嫁にお祝いを言いに行った……OK

 花嫁のデザイナーズドレスが似合ってなさ過ぎてちょっと笑った……OK

 

 ご祝儀袋を家に置いてきた事に気付いた。皆に呆れられながらお金を引き出しにホテルを出た。ATMがなかなか見付からなくて、知らない街をちょっとさ迷った。やっとお金を引き出してホテルへ走って帰った。

 息を切らしながら受付をして、会場に飛び込んで………………

 

 

 ――やばっ、会場間違えた?

 

 周囲は立食パーティーの雰囲気だし、壇上の横断幕には誰それの誕生日パーティーとある。

 完全に間違えてるっ!

 受付で事情を話してご祝儀を返却して貰って、早く戻らなきゃ。

 

 でも……

 このシンと静まってしまった会場に、ちょっと興味が沸いちゃったのよね。

 だってリアル婚約破棄だよ?

 

 どうせ披露宴の前半はエラいさんの長々しい演説だ。

 ちょっと、ちょっとだけ、こっちを見てから……ゴメンネ、友よ。

 でもよく考えたらあの子、大学時代に、私のオタク趣味を散々鼻で笑ってたわよね。今日だってどうせ頭数合わせの御祝儀目的だろうし ……うん、やっぱ、こっちを堪能してから行こっと!

 

 空気の凍った会場で、ソロリソロリと前へ行く。

 壇上の雛席でマイクを持つのは、多分さっきの台詞を吐いた男。

 見たところ高校生……ぐらい? まあまあイケメンではある。

 あんなデカいナリでお誕生日会とかたまったモンじゃないだろうが、上級市民の親達にしたら、子供の誕生パーティーにかこつけて顔繋ぎしたりあれこれあるんだろうね。お金持ちは大変だ。

 

 そんで、そのお誕生日男の隣、凍り付いた空気の中、本当に凍っているのかと思える程微動だにしないで座っているのが、多分婚約破棄を言い渡されたご令嬢かな?

 浮気相手の性悪令嬢は……居ないパターンか、珍しいな。

 

 でもあの娘(こ)めっちゃ可愛いな。可愛いっていうか、キレイ。そんなに派手なドレスは着てないのにさ。

 さっき会った見栄っぱりのデザイナーズドレスの友より百倍キレイ。エレベーターの中とかで一緒になっちゃえばいいのにゲヘヘ。

 

 なんて下らない妄想を頭の中で巡らせている間に、お誕生日男が次の台詞を吐いた。

 

「二人がガキの頃、親が勝手に決めた事だ」

 

 え、婚約の事ですか?

 そりゃそうじゃない? 君らどう見ても高校生ぐらいだよね。むしろ親が決める以外でどうやって婚約するの?

 そして、それ、わざわざ言う? 元凶みたいに? 

 いやいや、お金持ちの親のお陰で多分今まで色々享受して生きて来たよね?

 まだ正直に「俺が結婚をイヤになった」ぐらいの方がいいわ、よくないけど。

 

 段の横では芸人みたいな司会者が慌てている。

 顔を知らないから売れない芸人なんだろうけど、ホントお金持ちなんだな。

 

「そんなご冗談っ(汗)」

 

 そうだよね、マニュアルにないと困るよね、でもプロなんだから頑張れ。

 

「男が命懸けで闘おうとしている前だ。嘘が言えるか」

 

 

 ――ぇ?

 

 

 ここで私の近くの、肌色の露出の多い女の子集団がささやく。

「そうよね、これから世界バンタム級のタイトルマッチだもの。こんな所で親の決めた婚約者なんかに構っている場合じゃないわよね」

 

 

 ――は?

 

 

 思わず、その子に聞いてしまう。

「あの、タイトルマッチってボクシングとかの?」

 

「他の何だっていうの?」

 その子と周囲数人にギギッと睨まれた。よく見ると、お揃いの文字入りタンクトップを着ている。KE……ナントカ……ガールズ?

 

「ごめんなさい、私、親に連れられて来ただけで事情に疎くて。あの方がボクシングの選手で、これからタイトルマッチ……なんですか?」

 

「そうよ、そんな事も知らないでここにいるの?」

 今度は蔑んだ目で眺められた。

 

 いや、これからボクシングのタイトルマッチをやろうって人間がホテルでお誕生パーティーやってる方がおかしいだろ。本人はともかく(未成年みたいだし)、周りの大人は何考えてんだ?

 それに何の異も感じないでシレッと集ってる参加者もどうかしている。

 

 でもやっぱり、あの隣でじっと黙っている子が、一番可哀想だ……

 

「ねえ、あの隣のお嬢様、何か不備があったの? 大勢の前であんな事を言われてしまうなんてお気の毒じゃ……」

 

「知らないわ。っていうか、この会場のほとんどの人が今日初めて見たんじゃない? 深窓の令嬢だったようだし」

 

「…………」

 

「そんな事より、未来の王者が立ち上がられたわ。いよいよこれから試合会場に向かわれるのね!」

 

 興奮した女の子達は、黄色い声を発しながら前の方へ走って行った。

 他の客も、興味がタイトルマッチへシフトし始めている。ボクシング脳率が高い会場みたいだ。

 

 でも……令嬢は、まだ、目を閉じたまま凍り付いている……

 

 

 立ち上がったお誕生日男は、令嬢に一瞥もくれないまま、去り際にまたマイクを取った。

 

「俺が結婚したいと考える女はこの世でただ一人、高嶺菊。

 俺の本当の敵を倒したあと結婚する!」

 

 

 結局『パターンノーマル:真実の愛』じゃねぇかよ!

 

 

 ***

 

 

 会場の方では主役不在でビンゴゲームなどが催されている。心底どうかしている連中だ

 

 そして私は今、受け付け前。

 

「戻せないってどういう事よ、私は間違って入っちゃったのよ!」

 

「そうは申されましても、こちらの祝儀袋がお客様の物だという証明が……」

 確かにそうだ。そんな要求にホイホイ応じていたら祝儀ドロなんかやりたい放題だ。

 

「だって私のは結婚お祝いで結び切り熨斗(のし)で……ぅぁ!?」

 何と私ったら、コンビニで慌てて買った祝儀袋がただのお祝いの蝶結びだったわ、ガハハ。いやそうじゃなくて、このタイミングで何たるドジ! ホントに大人か? 私!

「じゃあ袋に書いてある名前、名前を証明する物……あった、銀行のカード!」

 

「佐藤様……はあ……」

 

 そうですよね、日本で一番多い名前ですよね、こういう場所で名乗れば祝儀袋一枚ぐらいはヒットする、詐欺の常套手段だわ、ちくしょう!

 

「わ、分かったわ、じゃあ主催のケンザキさんって人に話を通して!」

 責任感の強い受け付けさんを責めても埒が開かない。主催者に泣き付こう。

 お金持ち様と違って、しがない事務員の私には三万円は血の涙なのよ!

 

「あの、そもそも貴女様はどちらから?」

「だから私は、友達の結婚式会場と間違えて……」

「はい、そうおっしゃいますが、本日このホテルは剣崎家の貸し切りになっておりまして、他の会場は使われていない筈なのですが」

「!!」

 

 ってことは、私、ホテルまで間違えていたの? うあああ、そんなドジ、やるっ?? もう大人失格だわバブゥ。

 

 

「どうしたのですか?」

 

 鈴を振るうような声がして、関係者オンリーの控え室の方から、SDドールのようなシルエットが歩いて来た。

 

(さっきの氷のお嬢様!)

 何そのスタイル、顔だけじゃなく何でそんなプロポーションまで兼ね備えているのよ、神サマのエコヒイキっ!

 

「あの、こちらのお客様が……」

 こんな庶民レベルのトラブルを、ウンウンと真摯に聞いて下さるお嬢様。

 透けるような頬、尊い。

 

「そうなの、お困りですのね。ここは私が立て替えいたしましょう」

 

 えっ! いいんですか? 

 でも貴女、主催者側じゃなくて、エスコートされるべき身で、……しかも今エライ目に遭わされて来た所じゃ……

 

 その時

 

「カナコお嬢様!」

 

 ヒステリックな声が響いて、廊下の奥からロッテンマイヤーさんみたいな人が走って来た。あの提灯袖(ちょうちんそで)のメイド服、コスプレ以外で着てる人初めて見た。

 

「勝手に出歩かないで下さいまし! それでなくとも世間様に後ろ指をさされる身となってしまわれたのに。ああもう、私までが旦那様に責められてしまう!」

 

 何よそれ、この子何も悪くないじゃない。

 糾弾されるべきは男の方なのに、あっちはこれからスポットライトの下で歓声を浴びるって?

 

 令嬢は悲しそうな顔をして、それでも連れ去られる前に私にお金をくれようとハンドバッグを探っている。

 そのかいなに、私はギュッと腕を絡めた。

 

「残念でした! カナちゃんは私とこれからヌンチャの約束してるんだから!」

 

「は? ぬんちゃ……?」

 

 ロッテンマイヤーさんと受け付けの二人は虚を突かれて止まった。

 

「ね、カナちゃん!」

 ビスクドールみたいな顔を覗き込む。ふっさりした睫毛の奥の大きな瞳に星が幾つもキラキラ瞬いて、まるで小宇宙(コスモ)。何この子、人類!?

 

「はい、お姉さん」

 カナちゃん、乗ってくれた。しかも笑顔が神!

 

「じゃあね!」

 白魚のような綺麗な……でも冷たい手をギュッと握って、私は素早く駆け出す。

 令嬢もヒールにめげずしっかり着いて来てくれた。

 

 ロッテンマイヤーさんと他数人が、我に返って追い掛けて来た時には、私達はもうエレベーターの中だった。

 

 

 ***

 

 

 ホテルを飛び出し、裏通りに入って幾つか角を曲がった。

 二人ともパーティードレスだから目立ってしまう。早くどこかのお店に隠れよう。

 

「あの、ヌンチャって?」

 後ろから透き通るような声。

 

「アフタヌーンティーの事だよ、さっきこの辺でお店を見た気がするんだけどなあ」

「アフタ……」

「甘い物は最強だからね。元気出る」

「元気……」

「私、通りすがりの縁もゆかりも無い赤の他人なんだけどさ、貴女に対する婚約者の態度とか、周りのお客の反応とか、もう色々許せなくて。っていうか、何なん? あの連中!」

「…………」

「適当なサ店でいいか、……どうしたの?」

 

 手を繋いでいた令嬢がよろめいている。見ると、ヒールのかかとに靴擦れが出来ていた。

「ごめんなさい、慣れていなくて」

「こ、こちらこそごめんっ。座るトコ、座るトコ…… あっ、とりあえずあそこにっ」

 

 幸い小さな公園があって、令嬢をベンチに座らせる事が出来た。

 バッグから絆創膏を出してかかとの手当てをする。

 

「ありがとう」

「私もよくやるからね。痛いよね、靴擦れ」

「靴擦れっていうんですか、こういうの」

「…………」

「あの、甘い物じゃないんだけれど、私、あれが食べたいです」

 

 令嬢が指さす先には……

『銀』の文字の輝くたこ焼きの屋台。

 

「えっ、あれでいいの?」

「一度食べてみたかったんです」

「分かった!」

 

 ダッシュで買いに行く。ついでにラムネも。

 

「はい、熱いから気を付けて」

「ありがとう」

「あっ、そんな一気に」

「はふっ、ホンホウにアフイ」

「ああもう、ほら、ラムネ」

 

 路地裏の三角公園で、銀だこ食べてるパーティードレスの二人。

 

「さっきのあれですが……婚約者の剣崎様。おそらく、自分が悪者になれば、私の身上に傷が付かないと思って、ああいう態度を取ったんだと思います」

 

「ええっ、そんな訳ないじゃん。さっきのロッテンマイヤーさんだって怒ってたし。何もお誕生会の席上で衆目の中やらんでも、身内だけで内々の時にとか…………まぁ、子供だもんなぁ……高校生ぐらいでしょ、貴女達」

 

「はい」

 

「子供に振り回されてる大人もどうかと思うけど、何にしても貴女はもっと大事にされるべきだと思う!」

 

「大事に……されているつもりですが……」

「あんな場面で、貴女みたいな子供が晒し者にされて、誰も寄り添いに来てくれないって異常だよ? あの会場にいた全員おかしい! もっと怒っていいよ、怒り狂っていいよ!」

 

「ふふ」

 令嬢はとろけるように笑った。

「お姉さんが代わりに怒ってくれて、何だか救われたような気がします」

 

「本当? 自分でも怒らなきゃダメだよ、親とかにもちゃんと怒りを伝えなよ。カナちゃん何も悪くないんだからね」

「はい。誰かが自分の心に寄り添ってくれるって、こんなに元気が出る物なんですね。甘いお菓子よりよっぽど効いている気がします」

「そ、そうかな」

「お姉さんはきっと、神様が今日の私に送り込んでくださった御使いさんですね」

「いや、あはは、それ持ち上げ過ぎ!」

 

 令嬢はその後、バッグから懐紙に包んだ祝儀のお金を渡してくれた(たこ焼きを買いに行っている間に用意したらしい。上品だ)。

 そうして、迎えに来たロッテンマイヤーさん達に伴われて、手を振って去って行った。

 

 私は通行人に道を聞き、また迷った末ホテルに着いた。

 披露宴は半分しか参加出来なかったが、フルコースはしっかり食べた。

 

 

 ***

 

 

「そういえばさ、あんたどうしちゃったの? この間のご祝儀」

「へ? ちゃんと結び切り熨斗で三万円包んだんだけど……何かヘマやったかな?」

「ほら、結婚のご祝儀は渋沢栄一じゃない方がいいとか、変なマナーが流れてたから、私らは念のため諭吉で包んだんだけど」

「うん」

「あんただけ()()()()って、何これウケ狙い? って笑われてたよ」

「…………」

 

 

 

    ~Fin~

 

 

 







そして剣崎家には、偽札にしては無駄に精巧な、謎の渋沢栄一が・・・




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