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「グリードアイランド2の大型アップデートって今更なんなのかな?」
「ジンが帰って来たらしいからその対応じゃないか? 本人かはともかくとして暗黒大陸に対するフィードバックだろうよ。ことによったら、新世代以降で対策する為の訓練ツールなのかもな」
グリードアイランド2は親切設計な代わりに物足りないとされていた。
俺たち旧ユーザーが抗議文代わりに魔神を送りつけた結果、2の製作自体は決まっていたわけだが……良識派の連中が対応したために『お子様仕様』と罵られる辛口評価であった。一説によるとジンを始めとして一部のデザイナーが名義貸しだけだったせいとも言われる。ジンが帰って来て意見をぶちまけ、刺激受けたデザイナーが奮起したと思われる。
「ゴン君とかに聞いてみなかったんです?」
「息子とはいえジンが教えているとは思えんな。それになんだ、実地で覚えた方が面白そうじゃないか? とりあえず評判が上がる前に何セットか買えたのは僥倖だな」
ジンの名前は大きく期待感もあってグリードアイランド2は値上がりしている。
一時期は旧作でも接続できるとあって値下がりしていたのだが、ここから高額化しそうだったので幾つか抑えておいた。タップが使えるなら一つか二つで十分なので、残りは暗黒大陸に行っている友人たちに供給する予定である。
「あ、表示が変わった。もう接続できるのかな?」
「んー。違うね。世界観の説明みたい。どうしよっか……これ」
「その勘は大切にした方がいいぞ。多分、この文章に幾つかヒントがあるはずだ。おそらく再生も録画も出来ない仕様でな。保管庫を別分けしといてよかった」
コーヒーを注いでいた嫁さんと画面を見つめていた嫁さん。
二人の声を聴いて俺もモニターを覗きにいった。いきなり転移させられても問題無いようにするためだが、念のために家の電源をセーフモードに移管しておく。新大陸では電気の確保も難しいため、逆説的に実験的な電化住宅などが用意されていた。もちろん消えかかった前世の知識も動員して、覚えている限りの提言は行ってはいる。
『1と9と9と9の年に世界は滅びる。その予言は外れたかに見えた』
『それは解釈違いである。1+9+9+9=28。2028年に滅びるという説がある』
『今のところその兆候は見えない。だが未来予測装置での試験は暗いものだった』
『君たちはその危機に備えてもよいし備えなくてもよい。ただ世界を愉しむといい』
それは実に意味深な言葉であった。おおよそジンが行うハッタリでもない。
もちろんゲームとしてはアリなのだが、突如としてここで入れるだろうか? 何らかの関連性があるのだと……ジンを知る者としては伺えた。もしかしたら最後の『世界を愉しむといい』だけがジンの言葉で、他の言葉は外連味のあるデザイナーが付け加えた物である可能性もあり得るがね。
「これってどういう意味でしょうか? 意味深ですよね」
「単純に考えるとグリードアイランド2が予測装置。それともゲーム内ゲーム?」
「最初の一文はNGLに投入されたキメラアントのことかもしれないな。二年から三年を掛けてパリストンやビヨンド・ネテロが準備した禍だが、それは無事に退治されたという考えだ。つまり強大な災厄であっても対処すれば人類は乗り越えられるという証左。そして乗り越えても爪痕はあるから、探して調べることは出来るという話かもしれない。まあ、あの一件やジンのことを知っている俺の妄想かもしれない」
序文はこれまで何も知らなかった人に向けた人類危機の足跡だろうか?
これまでも世界の危機は無数にあったが、きちんと対処すれば何とか出来る。調べればそれを自分の目で確認することもできるということかもしれない。もしゲーム内に『蟻人間のコルトだよ。ボクは悪い人間じゃないよ』というNPCでも居たら、彼らから情報を得ることも出来るだろうし、グリードアイランド2が『人を食わないと決めたキメラアント』の居住区になっている可能性もあり得た。
「じゃあ二つ目と三つ目の情報が、新しい陰謀とその対策に向けた場所ってこと?」
「このゲームで遊べば念能力を鍛えられるから、知らなくても問題ないのかも」
「深堀りするなら過去を想定した実験場もあって、三つのワールドがあるということかもな。どのエリアでも入手できるアイテムがあって、それぞれのアイテムがないと強くなれない。トレードや金でも入手可能だが、実際に行った方が体験が出来るとかな。その上で、『命の危険があるエリア』と『完全に安全なエリア』を用意しておけば、後はプレイヤーの自己責任というあたりかもしれん」
俺は双子の意見を元に、前世の記憶を足して幾つかの推論を立ててみた。
グリードアイランド2は安全に配慮してあるが、ハンターの活動は本来そういうものではない。だから基本ワールド=『お子様な安全エリア』としてしまい、新しい天下三分の計を提唱する流れではないだろうか? 今までの世界は一面に過ぎず、ちょっとした危険エリアと、入り浸るだけでも危険なエリアを用意して自己責任に委ねる。そしてソレを導くのは大きなリターンであり、それすら暗黒大陸に比べたら温いという考えである。
「あ! それ! それありそうです! すごく! ちょっとずつ見れるところとか」
「新大陸でもヤバかったもんね。入り口ですらあれなのに、暗黒大陸なんて無理!」
「だから少しずつ慣らしていこうという考えなんじゃないか? 怪しい理論が暗黒大陸で成り立ったとして、『これはあくまでゲームでの知識』と銘打てば、勝手にこちらで検証できる。その上で『本物はもっと恐ろしい上位互換かもしれない』と勇み足を止められるだろうからな。検証と言えばジンたちが考案した新装備なり、新しい能力形式もあるかもしれん」
俺たちは新世界に渡って海外資産を巻き揚げられたが、良い生活をしている。
それは別にチョウライ大統領の紐付きで生活しているわけではなく、新大陸が普通に大変な場所だからだ。念を使える奴はハンターではなくとも有用だし、才能を認めさせることができれば害獣駆除から始まって、良く分からない謎の事象を帰結したりと仕事は幾らでもあったからだ。
『はい。こちらゼロ係』
「俺だ。予定通りグリードアイランド2に潜る。暗黒大陸の情報もあるかもしれん」
『承知しました。顧問たちにお願いする案件はありませんが、お早い連絡をお待ちしております』
アップデートが先行きに期待できそうだったので、スケジュールを調整した。
新大陸大統領の顧問ではあるが、俺の役目は念能力であったりハンター関連なので政治的な柵はない。あくまで特殊な案件であったり、王族に類する者としての個人的な相談をされる程度だ。しかし、それはそれとして急に案件が舞い込みかねないので、グリードアイランド2から簡単に戻れない可能性を踏まえて、予め『暫くいないぞ』と予定を伝えたのである。
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「ホームページと掲示板に専用チャットだけ? ……ええと『1999年に侵入した禍は、肉を喰らって情報を取り込む外来種であった。そのために情報のみでやり取りを行う』、と書かれてますね」
「わっ。専用チャットは全部の部屋が鍵付きばっかり。掲示板で相手指名かあ」
「キメラアントの話を上手く取り込んで……待てよ、少しアナログ過ぎないか?」
「「あ」」
グリードアイランド2に入ってしばらくは、以前のままの形式だった。
しかし随所にコンピューター端末が追加されており、そこへ近づく過程でバインダーが輝き始める。本を開くとそこに情報が追加され、『1999年』と『2025年』に関するページが追加されていたのだ。そして今は嫁さん達と共に、1999年に関する情報を読み込んでいるところである。
「隠しボタンがあるよ~! 詳しい資料が出た!」
「聞いていた情報より少し少ないですけど、追加形式……増えていくんですね」
「なるほど1999年をイメージした造りにすることで、あえて情報を絞って予断を少なくしたのか。ということは2025年から2027年のエリアは、逆に未来感を出した感じかもしれないな」
この時には気が付かなかったのだが、1999年は情報交換ゾーンだった。
必要最低限の情報を入れ、場合によってはその情報も部分的な編纂を行うことで、確定情報のみの伝達を行うエリアだ。それこそバインダーだけで済むレベルで移動の必要はあまりなく、むしろ信用のおける情報交換相手を『リアル』で探し出して、『虚偽の無い情報』『悪影響をのない情報』を共有するために存在している様だった。それが分かったのは、『2025年エリア』で行動を始めてからである。
「思った通り2025年はヴァーチャル形式だな。これを操作して……うん?」
「勝手に動いたね? 触ってないよね?」
「こっちからも見てるけど、触って無いよ」
「念獣みたいに思念で動かせるのか」
次に2025年のページに移ると、その光景が変化した。
3D画像がゆっくりと変化していく感じを思い出せばよいだろう。動きは鈍く妙な変化もないので、特に3D酔いは起こらない。あくまで説明用というのもあるだろうが、限られた情報だからこそ、この段階で得られる情報もあるわけだ。
『このページを開いたということは、2027年の予想に興味があるのだろう』
『ここから先は文字による伝達は存在しない。何故ならば問題があるからだ』
『2025年以降、情報侵食を行うビブリオ・ハザードが巻き起こった影響による』
『情報は相互に侵食し紙幣ですら信用できなくなった。自分の目と耳で確かめろ』
暫くして音声が流れ出て、咄嗟に止めるためのボタンを探したが存在しない。
ならばと一時停止を念じてみても無駄だった。おそらくはゴンに対してジンが残したテープの様に、不可逆な情報伝達となるように設計されているのだろう。
「「「……」」」
俺たちは視線を交わし、咄嗟に沈黙を合図し合った。
ジンからの手紙に似た仕掛けは今までのグリードアイランド2にもあったし、基本的には重要な情報だから聞き逃すと大変だからだ。そのことを理解できる程度の沈黙の後、再び音声が流れ始める。
『これから2025年で行動するつもりであれば次のモノを用意しなければならない』
『他者の情報に影響されない能力と、他者影響を調整する能力の二つになる』
『我々はそれらの技術を開発したが、一人一人に配布するには手が足りない』
『欲するならば自分で集めて作り上げるがいい。そのヒントは用意してある』
断片的な情報と、理解を待つ時間を交互に用意して誘導を図る。
おそらくはその仕掛けがこの説明にはあると思う。話を聞いているだけで、説明書を読んだだけでは得られない没入感があるからだ。『自分ならばこうしたり、あるいは気を付けよう』そんな思惑が自分達三人に宿っているのを感じた。
『運用に際して色々考えられるが、概ね二つの方法を用意してある』
『一つ目は自分の代わりに動く存在。自分は動けないが、タイムラグもなく強力だ』
『二つ目は相棒として指示を聞いて動く存在。指示待ちでやや弱いが自分も動ける』
『もちろん両方用意できるが、そうなればリソースをどうするかの問題が生じる』
念能力と違って、運営もある程度は初期情報をくれているようだ。
一つ目は要するに全感覚投入型で、本体は何処かに隠れて運用するものと思われた。自分の意思で動かせるし、余分な機能も無いので強くできるのだろう。逆に指示を出すタイプは勝手に動いてくれるが、それだけに行動が遅く余分な機能がある分だけ弱いと思われた。そしてその両方を備えれば、それだけリソースも問題になるだろう。それこそ俺たち三人が自分たちの素材を揃えるだけでも苦労するだろうし、そこから念獣もどきを作るとなると大変な筈だ。三人が三人とも同じことをやれば、多少は被ったリソースを分け合うことも可能だろうが、逆に言えば熱意と資金を費やすことになる。
『2025年に置いて活動するための体を破壊されても本人は死なない』
『だが累積した経験や、相棒との絆が戻ることは永遠にない』
『侵食問題もあるため、2025年の体を破壊することは罪ではない』
『以上、これが基本的な内容になる。後は自分の目で確認するといい』
最後の最後にぶっこんでいったが、2025年モードはPK許容エリアだそうだ。
殺人も器物損壊も事情があっての行為とみなされる。そこで得られた全てを守るのは己であり、そのためのパーティープレイなり相互協約なのだろう。それこそ俺たち三人が裏切ることは無いが、侵食されたり偽者がまじったり、それを見せかけて仮初の体を破壊し合うことは十分にあり得た。
「これで終わりみたいだね。もう何も聞こえないし、動かないや」
「どうします? コンテンツである以上、無視できませんけど」
「とりあえず2025年の体を作るためのリソースを探しに行くか。俺たちは三人居るから協力し合えるが、その分だけ消費も多い。もし能力属性とかでパーツが違うなら、組み合わせを変えて分担する必要もあるかもな。逆に言えばそれを覚悟するなら直ぐにでも入れそうな気がする」
アップデート情報は以上だが、リアルスペースに色々用意してあるはずだ。
おそらくは最低限動ける体と、それをカスタマイズする最低ランクのパーツだけを用意していると思われた。あとは各地でミッションをこなして手に入れるか、危険を承知で2025年エリアで手に入れるしかあるまい。
「ねえねえ。それなら一度戻ってセンリツ先生やクラピカさんに声かけない? あの二人って体を悪くして、いまリハビリ中らしいじゃない。こっちで体動かしながら、メインは2025年で活動してもらえばいいと思うんだけどな」
「でも、それならゴン君たちの方がよくないかな。仲のいい兄弟もいるって」
「せっかくだ。両方やって損は無いだろう。先陣を切る役目を譲ってもいい」
奥さんたちもこの頃は立派に動けるハンターになっている。
いままで俺の出した意見を精査して、その調整をするくらいであったが、今では自分なりのアイデアを出して俺が修正することもあった。今回で言えば三人でパーツを集めるよりも、七・八人で十人分のパーツを用意すれば、好きな能力を得られるだろうという目論見である。俺はそこに『先行者利益を得るファーストペンギンの利益を、ゴンとキルに譲って誘う』ことで特殊な情報を得つつ、危険から逃れるという案で補正したのである。
「それじゃあ、手分けして連絡しよ~」
「うん。それにしても凄いね、もう暗黒大陸の対策し始めるだなんて」
「それもゲームにすることで、行く気のないみんなも巻き込んでな。これがジン・フリークスって男の手腕なんだろうよ。ひとまず、今は彼の集めた情報をいただくことにしよう」
こうしてジンは温ゲーと言われ始めたグリードアイランドに阿鼻叫喚を復活させた。それと同時に暗黒大陸でもたくましく生きている先輩ハンターたちの背中を見て、俺たちもまたこの世界を楽しく生きていくのだった。
後日談です。
不評だったゲームがジンが戻った瞬間にアップデート!
ただそれだけなのに世界中のハンターが注目しちゃうとかいうネタですね。
その上で原作登場人物が生きているという話を混ぜただけですが、
何も決めてない何も進んでない話ではありますが、後日談として……。
災厄が起きておらず、主人公とお嫁さん達が愉快にやっているという内容にしております。暗黒大陸の話よりも、ゴンキルが色々ワチャワチャやって、強くなって情報も得てから「オレも行く!」という話の方がらしいと思ったからでもあります。
●グリードアイランド2内のワールド
『2003年エリア』いわゆるリアル
『1999年エリア』情報交換場所。安全な会話スペースでもある。
『2025年エリア』ヴァーチャルな場所で、侵食その他の暗黒大陸のヤバサを教えつつ、ここでそういう部類の能力対策を磨くための場所。もちろんゲームとして遊べる。PK問題がない場所で、リアルエリアでのPK許容場所(決闘場)などの情報もやりとりしている。
とりあえずこんな感じですかね。
もちろん適当にでっちあげた話なので、このゲームはデータ化しませんし、この後の話も特にありません。ゲームの他に、『ナニカ誘拐事件』とかヤバそうな事件が起きたり、それをみんなで解決したりするのでしょう。
みなさま、最後までお読みくださりありがとうございました。