美しくあるために   作:ゲボ

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チアの美学

 今日も髪の毛はバッチリ!

 特別な日だから、服は特にお気に入りのピンクのものを。

 あ(・)の(・)日(・)から私は、メイクの際にカラコンをつけるのをやめていた。ママを目指さないんならわざわざ瞳の色を変える必要はない。それに、この目を綺麗って言ってくれる人がいるなら、隠すのも失礼だしね。

 シリコンバッグだけはまた新しいのを入れたけど……。だって胸で上を膨らませてスカートで下を膨らませないと、腰が細く見えないんだもん。

「チア、来たぞ」

「はーい」

 サブの声を合図に私は一度彼らと離れ、近くの建物の屋上に登った。ここからは景色がよく見える。

 久しぶりの一斉爆破だから、私は1人特等席で見せてもらえることになったのだ。

 白い雪の上にゲン、サブ、バラの3人。そこに大きなアタッシュケースを持った男とその他数人が近付いて行く。

 私達はちょっと前まで金持ちのコレクターに雇われて美術品の警備をしていた。同じく雇われたハンターに爆弾を仕掛けて、雇い主から受け取った報酬を全て頂こうという作戦だ。もちろん金を受け取っても爆破するし、美術品も盗むけど……ね。

 男の1人がゲンにアタッシュケースを手渡した。

 お、確認してるしてる……。

 そしてゲンはケースを閉じるとサブとバラを呼んだ。男達がドキドキした様子でそれを見守るのが分かる……。でも大丈夫、ゲンが言うように、これで恐怖から解放されるのだから。一握りの火薬(リトルフラワー)で攻撃される方が、死にきれなくてよっぽど辛いだろう。

 3人が向かい合って手を伸ばす……。ああ、もうすぐだ。その親指が合わさって、「解放(リリース)」と口が動いた瞬間!

「おお……」

 凄まじい爆発音と共に肉が飛び散る。赤い血、内臓、衣類に髪の毛ーーぐっちゃぐちゃだ。白い雪にそれらが染み渡り、赤い模様を描いている。グリードアイランドじゃ死体はすぐ消えちゃってたからなあ、こういう光景は見れなかった。

 眺めていると、ゲンが私を手招きする。そろそろ次いかないとだもんね。

 少し低い建物の屋上を経由しつつ、地面に飛び降りる。ギュッと踏み固められた雪の上を走って彼らの元に向かった。

「凄かったよ! 爆弾の威力上がったんじゃない?」

「マジ? 多少は成果出てんのかな」

 バラが嬉しそうに笑う。私達はあの敗北を機にーーまあ元から修行は怠ってなかったけどーー前より意識して修行の時間を多く取っていた。でも、やっぱり修行の成果はすぐに出るもんじゃない。

 それでも少しずつだけど、前より成長しているのは分かる。天才じゃないなら努力するだけだ。今までもずっとそうしてきた……そして、彼らも。

「おい、人集まってくるぞ」

「そうだね。次行っちゃおっか!」

 ゲンに言われて、私達がつい昨日まで警備していた屋敷に向かう。雇い主は全然姿を見せなくて直接金をぶん取れないから、美術品の方を盗んで売っぱらうしかないのだ、

「わざわざ高額で警備雇ってまでコレクションを展示するってのも変な話だよな」

 サブが訝しげに言う。そうだろうか? 私は結構納得だけどな。

「承認欲求でしょ。同好の士に自慢するだけじゃ物足りなくなって、もっと大勢に見られたかったんじゃない?」

「そんな所だろうな。奴はチケットの売り上げよりも数を気にしてた」

 そう言うゲンはちょっとご機嫌な様子。アタッシュケースから感じる金の重みが心地良いのだろう。

「見えてきたぞ」

「相変わらずシュミわりーよな」

 門の前には雇い主お抱えの美少女使用人(ある程度の戦闘能力はあるらしいけど本当だろうか)。大きな屋敷は雇い主の別荘だそうで、明日になれば使用人が美術品を全て雇い主の元に戻すのだ。だから決行するのは今日!

「まあでも、その趣味のおかげで私を雇ってくれたんだし? 男嫌いでもないんだからいいんじゃないの」

「いや〜絶対金渡されてヤってるってアレ。せいぜい20代ぐらいだろ!? 金以外の目的でこんな仕事就くか普通」

「バラ、聞こえるぞ」

 サブが嗜める。私達はきょとんとしている使用人に近付きーー警戒されないように、私が前に出た。

「こんにちは、昨日ぶりですね」

「チア様……と、ゲンスルー様、サブ様、バラ様。どうされました?」

 彼女達は非常に腰が低く、私達のことも客人のように扱いもてなしてくれた。私達でコレなんだから、ご主人様への対応は……考えたくもない。

「忘れ物をしちゃったのかもしれないんです。これ、覚えていますか?」

「失礼致しま……」

 携帯の画面を覗き込んだその首を軽く打つ。それだけで彼女はドサッと倒れ込んだ。

「どうする、殺す?」

「万が一雇い主に報告されたら厄介だからな……殺しておこう。俺がやる」

「別にそれぐらい私がやるのに」

「それ気に入ってる服なんだろ?」

 ゲンがしゃがみ込み、一握りの火薬(リトルフラワー)で彼女の首を爆破した。この人達は本当に優しい……もちろん身内と認めた人間にだけだけど、私的にはそっちの方がずっと納得できる。私もそうだしね。

 というか他人にまで情けをかける人の思考回路の方が理解できない。

「ゲン、鍵は?」

 サブが聞くも、ゲンが門を押すとそれはあっけなく開いた。

「ここにはかかってないな。地雷が仕掛けられてる可能性もあるから、お前ら前通ったとこ以外歩くなよ」

「ああ、分かってるよ」

「そんなのいつものことだろ?」

 そう言って屋敷に足を踏み入れるーー今日もきっと、楽しい一日になりそうだ。

 

 

「かんぱーい!」

 キッチンにあった缶ビールを拝借して、4人で乾杯!

 私達は部屋の隅にソファを引きずってきて、そこに座っていた。

「お疲れ様〜。やっぱり皆弱かったね!」

「ああ、結局ご主人様はセクハラエロジジイだったしな!」

 バラが笑いながら酒を煽る。最初に使用人達を全員始末しておこうということで屋敷内を探索していると、キッチンで彼女達の話し声が聞こえたのだ。内容は、雇い主とのセックスが気持ち悪いだとか下手だとか、それでも金をもらえるからやめたくないだとか……。バラの予想通りだったってわけだ。

「強制されてない時点であいつらも似たようなもんだろ? 念が使えたのは驚いたがな」

「でも弱すぎ。ちゃんと鍛えてたらもうちょいマシだったんだろうけど、どうせ一般人相手専用だろ? それも生身の」

 調子乗ってんだろ、とサブが言う。確かに、彼女達はホント〜に弱かった。

 使用人が寝泊まりする部屋には、宝石があしらわれたアクセサリーやブランド物のバッグ、高いコスメに洋服などがたくさんーーきっと皆稼いだ金をすぐ使ってしまうタイプだったのだろう。ま、それも私が頂戴するけどね。

 ビールの喉越しが心地良い。さほど大きな仕事じゃなかったけど、複数人を一気に始末するのは久しぶりだったからなんだか気分が良いのだ。それはきっと彼らも同じ。

「数は多くないし、アレは一旦俺らの家持ってくか。チアは欲しいもんの目星ついてるのか?」

 ゲンが言う。もちろん、と笑ってみせた。

「コスメは他人の使用済み使いたくないからナシだけど〜、やっぱりバッグは欲しいよね。たまにフォーマルな格好する時もあるし、大人っぽいのも必要でしょ? あとはアクセサリー類を全部♡」

「全然わかんねー」

「他人の使用済みを使いたくないってとこぐらいしか共感できないな」

 サブとバラが酒を飲みながら笑う。彼らにとっては私の服装も、「なんかフリフリの服」ぐらいでしかなく……特にファッションは意識していないようだ。私としては、口出されるよりよっぽどマシだから全然構わないんだけど。

「にしても今日のは壮観だったな! 冬はあまり好きじゃないが……これなら悪くない」

「人数の割に派手だったもんね」

 ゲンは計画の成功と酒で随分楽しそうだ。私もなんだか気分が浮ついてきた。

「……今度さー、このお金でみんなでどっか行こ。修行はタダでできるんだし、楽しいことにお金使いたいな」

 もう整形に金を使う必要も、貯める必要もない。次はどこをどう弄るか鏡を見ながら延々考える必要もない。腕のいい医者を探す必要もない。

 この3人といるだけで、とっても楽しくて……ようやくちゃんと私(・)として生きられているような気がするのだ。

「冬が明けたら海にでも行くか?」

 サブが言う。

「いいね〜海。水着買わないと!」

「持ってるだろ」

「もっとフリフリで可愛いのがいいの〜」

 私が新しい缶を開けるとバラが、

「そういやチア、前より酒飲むようになったよな」

「……うん、そんなにずっと気を張らなくてもいいかなって」

「んじゃもっと飲め。あ、ゲンも新しいの開けてるし! ちょっと俺にも渡せよサブ」

「へいへい」

 サブが雑に缶を投げた。バラがそれをキャッチして、雑だとか何だとか怒っている。

「なあ、冬が明けたらと言わず、冬のうちにどっか行かないか? たまには遠出もありだろ」

 ゲンが口を開いた。……遠出かあ、逃亡以外ではあんまりしたことないかも。

「え〜! いいね、どこ行く?」

「旅館とかどうだ? 前話してただろ」

 サブの提案にバラが、

「温泉があるってやつか。いいなー、チアだけ別になっちまうけど」

「いや、もちろんそれが大半だが……水着を着ることが条件で混浴できる所もあるぞ」

「そうなの? じゃあ夏待たなくても水着着れるんだ!」

 一つ屋根の下で暮らしているんだから今更羞恥心とかはないけど(特に私はこんな生い立ちなので、むしろ彼らの方が気を遣ってくれている)仲良く一緒にお風呂なんてことができる歳でもない。大浴場で一緒に入れるなら楽しそうだな。

 ふと、一つだけその場で取ってきたエメラルドグリーンの宝石を眺める。……そういえばビスケはストーンハンターだったっけ。

 私は、あの人達みたいにいわゆる善の生き方をするつもりはない。私にとっては私の生き方が正しいんだから。

 盗みも、騙しも、殺人も、全部自分で決めてやりたくてやってることだ。……でも、そのままの私でも好きでいてくれて、一緒にいてくれる人ができて。ようやく寂しくなくなった気がした。誰にクズって言われても命を狙われてもどうだっていい。

「チアはなんかリクエストあるか?」

 ぼーっとしていた私にサブが話しかける。やば、全然話聞いてなかった。

「ん〜……ないかな。みんなで行ったらどこでも楽しいし」

 私が言うと、急に3人が固まった。え、なに、なんかまずいこと言った!?

「お前……最近ホント恥ずいこと言うようになったよな」

 ゲンが苦笑する。サブとバラも、

「まあ俺もそう思ってるし……嬉しいけど」

「あんま言葉に出して言わないもんな」

 ……なんだ。そんなことか、ビビって損した。

「事実は言った方がいいって!」

「はいはい」

「酔ってると思ってるでしょ〜!」

 ゲンもサブもバラも私をあしらう雰囲気だ。実際酔ってるし……今まで1人だった分舞い上がってるのもあるけど。

 このままずっと4人でいたい。きっと、本当の笑顔でいる方が私も可愛いと思うから。もうママの真似は卒業だ。私が私のまま、美しくあるために。




はいチーズ!

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