角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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盤面に交じる言葉は惑う 7

「テレナがなんか忙しそう」

 

「フュルー嬢もそうなんですよ」

 

同級生のシェプルスキアと後輩のレイルグの声を聞きながら、テアリアは溜息を吐いて追棋(アファト)の駒を動かした。

 

「はい、終わり」

 

レイルグと、彼の後ろから助言をしていたシェプルスキアは同じような驚いた顔を見合わせた。

 

「えっ終わったの?レイルグ君、わかる?」

 

「いえわかりませんシェプルスキア先輩、ああでもここの駒がああ動けば……」

 

「それでもこっちで……あっでもだめだ、最終的に取られる」

 

話している二人を見ながら、テアリアはなんで巻き込まれているんだろうと考えていた。シェプルスキアが言うには、最近テレナは何やらあの後輩のフュルシーアと手を組んで何かをしているらしい。そして余った二人が娯楽室で暇をしているところに、追棋(アファト)の良さを教えるべくテアリアがやってきたところなのだった。

 

テアリアはちょっと抜けたところのある後輩としてのフュルシーアしか知らなかったが、テレナと組んで何かをするあたりおそらくはあちら側の人間なのだろう、とは把握していた。

 

「そういえば、そろそろ秋期の授業も終わるけど二人とも課題とかは大丈夫そう?」

 

「うっ……」

 

シェプルスキアは辛そうな顔をしていた。今回はテレナをどこまで頼れるのかわからない以上、少しは成長したと思いたい統合王国語を活用してどうにかしなければならないのだった。

 

「あのくらいなら、なんとかなります」

 

そして平然と言うレイルグにシェプルスキアは表情を変えた。

 

「えっとレイルグ君、少しあたしの授業の課題見てほしいんだけど」

 

「なによシェプルスキア、下級生に頼るの?」

 

「えっ能力を持つ人にそれなりの対応をしてもらいたかったら誠意を見せるべきだし、そこに年齢は関係ないよ……?」

 

諭すように言うシェプルスキアに、なるほどテレナの教育がきちんと浸透しているなとテアリアは余計なことを考えていた。ちなみに、シェプルスキアはテレナやテアリアよりも二歳年上である。シェプルスキアが生まれた日をちゃんと覚えていないために計算が面倒だったが、ともかくシェプルスキアは十九歳、そしてテレナとテアリアが十七歳になっていた。

 

「……ええと、これはたぶんもとの詩を見たほうがいいと思います」

 

そしてシェプルスキアに渡された書き込みを見ながら、レイルグは丁寧に説明をしていった。

 

「テレナよりわかりやすいかも」

 

「……そう言われると、僕も難しいのですが」

 

「あっそっか、じゃあごめん忘れて」

 

「はい」

 

振り回されてかわいそうだなとテアリアは考えていたが、レイルグからすればこの程度は悪友とのやり取りに比べればなんともないものだった。なお、その悪友は第二学年の才媛を巻き込んで何やら危ないことをやろうとしているようだったのだが。

 

「……レイルグ君は、どこの出身?」

 

「ティロの大学通り……と言ってわかりますか?」

 

「聞いたことはあるわよ」

 

北側でもそれなりの歴史と地位のある大学の一つ。大宗派戦争において大きな被害を負ったが、それでもなお復興している教育機関がある通りだった。

 

「あそこに住んでいます、両親とも大学の人なので」

 

「……母親も?」

 

テアリアはレイルグに聞き返した。彼女の知る限り、女性が大学の教授職についている例はなかった。あってもおかしくはない時代ではあったが、それでも相当に珍しいはずだった。

 

「助手ですけどね」

 

「そういうことね」

 

「だから、僕は勉強みたいなものは得意なんですよ。なら実際の問題を見てこいといって大学じゃなくてここに送られたんですが」

 

「……それは、よかったわね。学院は学ぶことが多いわよ」

 

テアリアは、それをとても実感していた。かつて彼女は公爵令嬢の取り巻きの一人でしかなかった。しかし今では自分から学び、尊敬する人の力になろうとしている。シェプルスキアはともかく、テレナがその理由だというのは素直に認めたくないところだったが。

 

「……実践的なものを、僕がどこまでできるかがわからないんです」

 

「まあ、仕方がないわね。テレナだって成績は良いけど実際のところはかなり実務寄りだし、勉強ができるけど一番得意な領域ってわけではないはず」

 

「そう考えるとテレナってすごいよね」

 

シェプルスキアが言うと、テアリアは頷いた。

 

「しがらみがなければうちに欲しいぐらいよ」

 

「あたしもそうだよ、どのくらいの地位を保証したらツィノドに来てくれるかな……」

 

二人の会話を聞きながら、ここまで言わせるテレナという人物をよく知らないなとレイルグは考えていた。

 

「……テレナ先輩って、どういう人なんですか?」

 

「自分で自分を管理できない人」

 

「自分から問題に突っ込んでいって苦労している人」

 

先程までとは真逆の冷静な声色で、シェプルスキアとテアリアは言う。二人にとってテレナは政治的なあれこれ以前に、かなり手間のかかる友人であった。そして二人とも、テレナをきちんと友人だと考えていた。

 

「つまり、誰かに面倒を見てもらって、止めてくれる人がいればいいんですよね」

 

「うーん、そうなんじゃないかな」

 

シェプルスキアが言うと、レイルグは溜息を吐いた。

 

「どうしたのレイルグ君」

 

「いやテアリア先輩、今後フュルー嬢と色々やっていくとなるとちゃんと僕も面倒を見て、必要なら止めなくちゃいけないんだなと考えて……」

 

「……頑張ってね」

 

シェプルスキアに言われて、レイルグは色々なものを諦めた顔をした。とはいえ、それが嫌だというわけではなかったが。

 

「別に構わないんですよ。話は面白い人だし、僕でも知らないことをいっぱい知っているし。学院に来て、フュルー嬢に会えて良かったとは思います。けど知らないうちにフュルー嬢がいつの間にか僕を追い越して、どこかへ行ってしまうような気がして……」

 

「うーん、それはないと思うよ」

 

シェプルスキアはレイルグの考えすぎだ、というように口を挟む。

 

「そうですか?」

 

「フュルーちゃんとかテレナみたいな人はね、どこかしら自分の足元が危ないってことをちゃんとわかってるから。その時には戻って来るけど、ふわふわとまた離れようとするからしばらくは留めておいたほうがいいよ」

 

「……参考にします」

 

シェプルスキアの言葉に、ちょっと顔を伏せたレイルグにはそう言うしかできなかった。

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