角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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雪道を分けて一行は進む 3

「また無茶をしたわね」

 

ヨルワは教授室に呼び出したテレナにしっかりと封をされた上等な封筒を渡した。よくある便箋の一枚で包んで蝋で止めたものではなく、専用の上等な白紙を用いたものだ。

 

署名はすぐに読み取れた。エアーク・ファルティクとだけあるということは、あくまで友人に宛てて送ったということなのだろう。

 

「中については、あらましは私の方への手紙に書いてあったわ」

 

「一般的な儀礼を破った形になりますからね、送り返していただいただけありがたいものです」

 

一領主が別の領主に手紙を送ることは一般的であったが、そこには様々な暗黙裡の規則があった。テレナはそれを不慣れな東方の領主の代筆人という形で無理を通したのである。

 

もちろん、テワドレーム公爵がそのような話を理解していないわけがなかった。そしてテレナが受け取った手紙の中では代筆人に対しての説教がくどくどと述べられていた。どれもこれも正当なものであるので、テレナは読みながらどうやって返すかなと考えていた。

 

「学院への迎えの馬車と並行して、一台の馬車を走らせる。最小限の護衛だが、追加で二人乗せるぐらいはできるって」

 

「ありがたいことですが……この話し相手になってほしいという同乗者は誰なんですか?」

 

馬車は少し寄り道をして同君地域の中央付近にまで行く。そこからは別の方法でティロまで向かうことになるが、そこからはシェプルスキア率いるイウェラ連隊の精鋭たちが護衛をしてくれる計画が並行して進んでいた。

 

実際のところはティロの見学と同君地域の偵察、そして市場調査であることは言うまでもない。そして同時に、彼らは一族の、あるいは団の英雄である女傑に会うことのできる幸運な人達なのであった。

 

「私も噂でしか知らないのだけれどもね、この口ぶりからすると……愛人ね」

 

「捨てるのでしょうか?」

 

「おそらく成功してしまったから逃げ帰る、とかのほうが近いわね」

 

「ああ、そういう武器として使ったのですか」

 

「よくあること、になるのよ。男性だって女性だって、その魅力を使うことは珍しいものではない」

 

ヨルワが語るように、政略結婚では得られない真の愛、という物語は広く受け入れられていた。もちろんそれを戒めるような聖職者の言葉はあったが、彼らの言葉も禁断の関係という要素を足すのに留まっていた。

 

「まあ、そのあたりは弱点にもなるので私はあまり好まないのですが……しかし、成功したらしたらで面倒なのですね」

 

「まあ、色々ね。そして彼女は故郷に戻ることになる。付き添いも少ない状態だから、追加の女中をつけるようなことになるのでしょう」

 

「今年の冬もそういうことですか」

 

テレナは去年の冬の学院を思い出しながら言った。

 

「……ところで、本当に行くの?」

 

ヨルワが言うと、テレナは頷いた。

 

「今しかありません。来年以降では間に合わない」

 

「今年の冬の学院を欠席することは、あなたの力を大きく削ることになる可能性もあるわよ」

 

「そもそも力なんて欲しくはないんですよ、私は単なる小娘、平凡な令嬢にして夫人であればよかったのです」

 

テレナはそう言ったが、あまり正しくないことは自覚していた。問題を見つければ自分から飛び込んでいく性格は言い逃れできないものだったし、そのせいで苦労してもなおその性格は代えられなかった。

 

「難儀なものね、テレナ嬢も」

 

「一応フュルシーア嬢とレイルグ君がいれば、冬の学院は去年と同じように楽しくなるでしょう」

 

「二人とも貴族ではないのよね、それがまた面倒なのだけれども……」

 

「やはりそうですか?」

 

テレナが言うと、ヨルワは頷いた。統合王国が文化の中心地であることは誰も疑うもののない事実であるし、統合王国の制度が国王を頂点とする階層的構造に依存している以上、爵位を持つかどうか、あるいは貴族の血であるかによって対応を変えざるを得なくなるのだ。

 

「もちろん、統合王国でさえ血は重要ではなくなってきている。二代目の貴族が勃興しているし、本来は禁止されていた子供への継承も金さえ払えば良くなった」

 

「冷海同盟よろしく、金を王の上に据えればよろしいのでは?」

 

「似たような事をやっている例を学びに行くのでしょう?口はしっかりと閉じておくべきよ」

 

ヨルワは共和王冠国の制度に詳しいわけではなかったが、その王冠をかぶる人物が複雑な形で選ばれることは知っていた。一時期は統合王国の国王がその戴冠者だった時期さえあるのだ。とはいえこれは外交上の微妙な問題を乗り切るために干渉が困難な人物に名誉を押し付ける、という側面が大きかったのだが。

 

「……とはいえ、統合王国の制度が疲弊しているのは事実です。それを現状維持のまま修復するにしろ、あるいは全て作り直すにしろ、うまく動いている他の例があるなら参考にするべきです」

 

「議場学。私の知っているものとレイルグ君の語るものには差があるのだけれども……テレナ嬢はどう思う?」

 

「もう少し実学寄りというか、実際の統治者の学問だったと記憶しています。比較して分析するようなものではなかったかと」

 

「そのあたりについても調べてもらいたい。もし可能であれば、学院に興味がある人を見つけてくれれば助かるのだけれども」

 

「招聘、ですか」

 

ヨルワは頷いた。学院の教授の人選は複雑であるが、関係者からある程度の同意が得られれば素直に通すことも可能である。もし今後北側世界が混乱するのであれば、その分析の視点を持っている人物を招くべきだとするのは当然だった。

 

「急ぎとは言わない。けれども、もし興味がある人がいるなら手紙ぐらいは運んでくれてもいいのよ」

 

「郵便配達人への報酬は?」

 

「学院と私の名前を好きに使っていいわ」

 

「……正気ですか?」

 

それを許可するということは、テレナの旅を学院が公式に支えることになることを意味する。ティロの大学においてさえ、その力を発揮できるだろう。あるいは、北側世界のどこにでもいる学院の卒業生に協力を依頼できるということでもある。

 

「少女一人に私達が託しているものの大きさを考えれば、それに見合った力が与えられるべきでしょう?」

 

「欲しいわけではないのですが、受け取ったものを捨てることができるほどの気前の良さはないのですよ」

 

そう言ってテレナはヨルワを少し睨むようにしたが、社交界仕込みの笑顔が返ってくるだけだった。

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