角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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異境の学びは痛切に感ず 6

部屋に入り、シェプルスキアは外套を壁にある掛けるための出っ張りに近い場所で立っていた一人に投げた。部屋の屈強な男たちの視線がシェプルスキアに刺さったが、そういった注目は彼女にとって懐かしい雰囲気すら覚えさせるものだった。

 

「どうでしたかい、お嬢」

 

ラムズィンが尋ねるが、シェプルスキアは椅子に座るまで口を開かなかった。空気を掴むのは、よく彼女の父のアズドが使っていた方法だった。

 

「テレナは色々と学べそう。あたしらが学べるかは……わかんない」

 

「議場学ってやつでしたな、イヴェリャン団には学のあるやつがいねぇからわからねぇが」

 

「あれは面白いよ。参謀天幕がなんでよその軍隊で使えないのかをすぐに当ててきた。あたしが考えるよりずっと、あの人達は早く分析してくる」

 

「さすがは玄人だ」

 

ラムズィンは、自分たちの強味と弱味を知っていた。そして自分たちを何かで上回ることのできる相手に示すことのできる素直な尊敬と、それでもなお消えない警戒を持つことができた。

 

「逆に言やぁ、共和王冠国のやつらが全軍を俺等みたいに鍛えたいっていうのは無茶だってのを大学の教授さまたちが保証してくれたってことだろ?」

 

そう言った別の男に、シェプルスキアは首を振った。

 

「強い命令ができること、兵がきちんと戦場を理解すること、そして変化を任せることのできる人がいること。これがイヴェリャン団を……というか、参謀天幕を作る条件だって」

 

シェプルスキアはイラニの話を、軽く要約して話した。それはイラニの語るような博学さはなかったが、実際の現場でいかにして使うかという視点が埋め込まれているものだった。

 

「……おいおい、じゃあ」

 

街道整備委員会という所属から共和王冠国の動きを理解しているリベクの言葉に、シェプルスキアは頷いた。

 

「共和王冠国は、参謀天幕を持てるかもしれない」

 

「ちょっと待てお嬢、話が飛びすぎだ。わかってないやつも多い」

 

ラムズィンに言われ、シェプルスキアは息を吐いた。

 

「はいはい、ゆっくりやればいいんだよね?テレナにいつもさせているからその調子はわかるよ」

 

わからないことをきちんと言う事。相手の調子に合わせること。理解を確認すること。そう言った手法をシェプルスキアは半ば感覚的にだが掴んでいた。

 

「まず一つ、あたしの学院への推薦者は?」

 

「王冠教育委員会委員長、シュビツク卿」

 

声を聞いて、シェプルスキアは頷いた。

 

「つまり、あたしは教師になれって言われているんだよ。教師っていうか参謀?」

 

「お嬢が参謀ですか、柄でもない」

 

ラムズィンに言われて、シェプルスキアは小さく笑った。

 

「あたしもそう思うけどさ。でも……できなくはない、と思う」

 

シェプルスキアはテレナの視点を理解していた。それを完全に再現することはできなくとも、形だけの模倣であったとしても十分価値はあるだろう。少なくとも、表面上はエルガーツに並ぶぐらいにまでは伸ばせる可能性があった。

 

「ヴィンサートのやつが騎士団領で上手く行かなかった理由を、共和王冠国は理解できる。そして、兵になりうるやつらが全員命令を文字で読めるとしたら?」

 

「そいつはいい、つまりあれだろ?毎回口で言わなくともそこら辺の天幕の机の上にでも置いとけば打ち合わせが終わるんだろ?」

 

「その通り」

 

良く理解している言葉にシェプルスキアは頷いた。イヴェリャン団は団長から一兵卒までの統率があったが、それは口頭に限られていた。伝言の伝言にならないように参謀天幕が工夫をしていたが、それでも時間がかかるのは避けられなかった。

 

「それでも足りないもんがあるぞ、命令だ。リベクもわかるだろ?共和王冠国はまどろっこしいところがある」

 

そう言ったのはラムズィンだった。

 

「……まあ、面倒なところはあるけどな」

 

リベクの属する街道整備委員会という組織は、自由に動けたわけではない。その行動には常に根拠が必要であり、その根拠は王冠と議会に依存していた。その双方が対立した場合には裁判所が動くことになるが、それには長い時間がかかる。

 

今の時点でリベクの仕事がそのような形で止まったことはなかったが、噂によればそうなりかけたことは何度もあったようだった。ましてや軍の変化などという大きな問題について、シェプルスキアが実権を握る事ができるようなことがあるとは思えなかった。

 

それは、シェプルスキアという人物への信頼の欠如によるものではない。どんな名将であっても、勝つことがまずできない戦というものがある。それに突っ込まないのも、指揮官として求められる技能であった。

 

「でも、エルガーツは条件が欠けていても改革を成し遂げた。別にあたしが改革をするんじゃない。あたしは参謀として、どういう改革をすればいいのかを助言するだけ」

 

「……参謀ってやつは楽じゃないぞ、お嬢」

 

リベクの言葉に、シェプルスキアは頷いた。

 

「わかってる。でもさ、あたしは族長だってできたんだ。学べば参謀ぐらいはやれるよ」

 

それはシェプルスキアなりの強がりでもあった。ただ、それが無理ではない程度にはあと二年あれば学べるだろうという実感があった。学院は、そういう知識を身につけるのにはうってつけの場所だった。

 

「……お嬢はこの後も、テレナ嬢についていって議場学のあれこれをやるのか?」

 

「そのつもり。だってお前ら、テレナの話わかんないだろ?」

 

挑発的な言葉に素直に部屋にいた全員が頷いて笑い声を上げたのを見て、シェプルスキアはちょっと気まずい顔をして足を組み直した。

 

「……むしろ、お嬢はなんで分かるんですか?」

 

「友達だから?」

 

答えになっていない事を言いながら、シェプルスキアは椅子から立ち上がった。

 

「ひとまず今日の話はこんなところ。それ以外になんか言いたいことは?」

 

「あー、買い物についてなんすけど」

 

手を挙げた一人のほうを、シェプルスキアは見た。

 

「なに?」

 

「綺麗な細工を見つけたんで、嫁さんに買ってってやってもいいですか?」

 

ここでどういう態度を示すべきかを、シェプルスキアはよく知っていた。

 

「あたしの財布からそんくらいは出しといてやるから、なんなら妹と娘の分も適当に見繕ってやれ。そういうところの金は気前よく払えっていうところは、西側の貴族から学べるところだね」

 

そう言って、シェプルスキアは外套を受け取って宿の部屋を出た。

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