角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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異境の学びは痛切に感ず 8

総権国に、ある将軍がいた。地方貴族であり、ある意味では義理堅い男であった。自分や友、配下の力を削ぎ、全てを意のままにしようとする余所者の女を嫌っていた。

 

女総権者は既に玉座に着いていた。しかしそれは、古くからの貴族である将軍には認められないものであった。微妙な対立は拡大し、そして将軍は反女総権者としての立場を固めた。

 

そして彼は、共和王冠国に対しての戦争に赴いた。敵は弱い寄せ集めの兵であった。ただ、そこには傭兵団がいた。

 

イヴェリャン団。各地を転々とした遊牧民を中核とする連隊規模の集団でありながら、騎兵、砲兵、そして歩兵を揃えている組織であった。

 

しかし彼も、成果もなしに将軍を名乗っているわけではない。彼の軍は突撃を選び、砲兵の横をすり抜け、騎兵に打撃を与え、歩兵を蹴散らし、そして指揮官を討ち取った。

 

しかし、指揮官が討たれてもなおイヴェリャン団は組織として機能した。アズドは死しても、むしろ死したからこそ傭兵団の統率を維持した。彼らは確実に退却し、被害を抑えることに成功した。

 

「……よくある、戦争の一幕ね」

 

テレナはシェプルスキアの話を聞いて言う。

 

「そう。よくある話だった。あたしたちは団長なしにしばらくはなんとかなったけど、次を選ぶ必要があった。ひとまずは総参謀のエルガーツがその役を担ったけど、彼はあくまで総参謀だった」

 

「指揮官ではない、と」

 

「そういうこと。候補になる人は何人かいたけど、あたしはそのなかではあまり期待されていなかった。正直戦場にいるほうが気が楽だったし、誰かに命令するのも苦手だったから。……女性っていうのも、あったけどさ」

 

「まあ、あるわよね」

 

テレナは男性と女性の違いを、様々な形で味わっていた。男女の差は身分の差よりは小さかったかもしれないが、それでも覆すのが難しいものだ。だが逆に言えば、明白な理由さえあれば一般的に男性のものとされる役を女性が演じるのは許容された。

 

「……将軍を殺したのはあたしだけど、アズドを、父さんを殺したのは将軍じゃなくて将軍の率いた兵士。いや確かに結構近くまで将軍は来てたけれども」

 

「一般的な指揮を考えたら将軍ほどの地位のある人間が突撃はしないと思うんだけど」

 

「将軍って言っても兵は少なかったよ、二連隊か三連隊ぐらい」

 

テレナにも、それが一般的に将軍が率いる軍勢としてはあまり多くないことはわかった。それは逆に言えば彼が必要な時に先頭に立つ理由にはなるかもしれないが、それでも彼のもっと上の人物が何か関与していることは示唆されていた。

 

「……女総権者のせい?」

 

「たぶんね、ここで勝てても構わないし、死んだら助かるぐらいだったんじゃないかな」

 

「……待って、じゃあシェプルスキアのやったことって」

 

「総権国と裏で合意を取っての将軍暗殺と、それを英雄たちの一騎打ちにすり替えたこと」

 

そう言って、テレナはシェプルスキアを見た。少しだけの怯えと、緊張と、それ以上の安堵があった。

 

「……大丈夫。私は、多分それを見抜けない」

 

テレナはその裏で動いたであろう力を、ある程度ではあるが読めていた。最小限の真実を知る人。その周囲にいる、噂を理解している人。そして彼らにとって、警備不全による暗殺と名誉を賭けた戦いにおける敗北ではどちらがより痛みが少ないかを読めるだけの理解。

 

テレナはシェプルスキアの仇討ちの話を聞いても、東方ではそうなのだなと考える以上のことはできなかっただろう。もし十分な東方における戦争の肌感覚と組織構造への理解、あるいは総権国内部の人間関係を知っていれば違ったかもしれないが、それはテレナにはなく、シェプルスキアが持っているものだった。

 

「ううん、あたしでもわかるんだからテレナにはすぐだよ」

 

「そうね、私も十年かもう少し馬に乗って、草原を駆けて、弓と銃を扱っていればできるようになったかも」

 

それは天性の才能ではなかった。経験という、一人の人間がその人生の少なくない割合を捧げなければ手に入らないものだった。それに対して敬意を払うことは、テレナがかつて家庭教師から学んだことの一つだった。

 

「……ともかく、あたしが将軍を殺したのは本当。馬に乗っているところを、少し離れたところから。あれは、少しだけ落ち着いた」

 

「……仇討ちが、できたから?」

 

「それもあるんだろうけど、なんていうのか……それができたら、あたしはイヴェリャン団の中でもう少しだけ、認めてもらえるんじゃないかって思えて。認められすぎたんだけどね」

 

明るい声を出そうとするシェプルスキアに、テレナは無理を感じた。

 

「細かいことはエルガーツ総参謀がやってくれたよ。あとの話はあまり必要ないでしょ?総権国の将軍は決闘で負け、共和王冠国から来ないかと言われて、その後に学院に来た。あたしだってまだそんなに実感があるわけじゃないよ。領主としてツィノドにいた期間よりも、学院にいるほうが長いわけだから。それでも、こっちに来て仲間たちに会って、あいつらがちゃんとツィノドでやれてるんだなって思って……」

 

そう長く言って、シェプルスキアは言葉を探して見つけられなかった。テレナであれば、何か気の利いた一節を引用できたのかもしれない。けれども、シェプルスキアはそうではなかった。

 

「頑張らなきゃね」

 

「……うん。まあテレナの護衛は安心して。あたしでもそれなりにはなんとかなるから」

 

「そこは普通に信頼してるよ、急いで逃げるようにする」

 

そう言いながら、テレナは改めてシェプルスキアを見た。彼女は間違いなくテレナの考える貴族としての魂を持っている人物であった。ただ、それは今や西側では失われつつあるものだった。

 

それが悪とは言わない。個人がどのような意思を持とうが、それが舞台裏での噂話であれば許容されるべきだろう。そうでもしなければ、劇場はいつか崩壊する。

 

けれども、舞台を燃やそうとする人がいるのも事実だった。それを止め、腐った床板を張替え、新しい役者を登場させることができるかどうかが問題になっていた。

 

その答えが統合王国から言わせれば実質的に東側の街、ティロにあるというのはどことなくテレナには皮肉に思えたし、それがある種の真理を持っているのだという直感もあった。

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