修了式で、学生の多くはその光景を見て目を疑った。
制服を着て、楽しそうに話す二人の少女がいる。細かな飾りの違いは二人の背景を見せているが、それでも学院の中では同じ立場で話すことができる。問題はそこではなかった。
テワドレーム公爵令嬢たる、ファーネスタ・イリイダ。そして聖座からの学生であるエネト。二年前の婚約破棄事件において対立していたはずの二人が、ここで一緒にいる。
それが単なる恋愛問題の解決と友情の形成と見なすような学生は、多数派ではない。学院に来る前に、多くの学生は最低限の政治の手ほどきを親か家庭教師に受けるのだ。
とはいえ、それなりの学生はこれを統合王国の地方派と聖座、あるいはフェルヴァジュ管区の和解であると考えていた。これで婚約破棄事件は終幕となり、統合王国の混乱は抑えられたという見方だ。
そして、実態を知る学生がいた。それはかつてファーネスタ閥と呼ばれているものを構成していた学生たちであり、あるいは様々な勢力と繋がりを持っている学生たちであり、あるいはかつて婚約破棄事件に絡んで動いた経験のある学生だった。
「テレナ嬢は気楽でいいな」
少し遠巻きに二人を見ていたテレナに、アニドが声をかける。
「ええ、社交は苦手なものですから」
テレナは笑う。とはいえ、彼女も既にそれなりの来賓と話していた。特に統合王国改革分野の思想については、アニドではなくテレナのほうがより洗練させているのだ。
「……しかし、こういう形でお披露目になるとはな」
「あれを地方派と聖座が組まないといけない問題が生まれている、と読める人はどれだけいることやら」
テレナが呟くと、アニドは首を振った。アニドを含め、彼らは隠すような表現をしているわけではなかったが大声で触れ回っているわけではなかった。それを理解できるものに伝わればいい、という態度は味方の結束を強めるかもしれないし、外野からの干渉を防ぐ役割はあるが、同時に意見の成長を止めてしまうのだった。
「それを王室派が許容している、というのも入っているがそこまで行くとなると……ヨルワ教授でも怪しいのでは?」
「社交界だけでも、実務だけでもよくないということよね。貴族というのは何でも求められすぎなのよ、そのあたりを分担できるようにしないと」
「役割が分かれると相互の不理解と不信が進むぞ」
「……それはそれで問題ね、対応を組み込めるのであれば組み込まないと」
「民会の復活はそれなりに浸透しているらしい、まあもちろん王の耳に入るほどではないのだが」
「そのあたりは正当化できるの?」
「潰せたんだ、作れもするさ。時間はかかるだろうがな」
統合王国において、かつて存在した地方民会は各地の情報を領主とは別の方面で王室に伝えるための制度だった。ただ、それは同時に指揮を一つにできないことを意味した。軍隊を見ればわかるように、二つの矛盾した報告が部下から上がってくれば混乱が起き、結果として統制が乱れる。
とはいえ、だからといって一つに絞ればその過程で都合の悪い内容が消されやすくなる。地方の貴族を宮廷に集めたことによって、統合王国は末端までの統制が効かないものとなった。
「……色々統合王国の制度を調べると、愚かさと賢さが共存しているのよね」
テレナは鍵のかかる部屋で読み込んだ資料を思い出して言う。
「もっと他のものを読んだほうがいいぞ、どこにでもそれはある」
「それはそうだけど」
そう言って、テレナは息を吐いた。
「そこにいるのは間違いなく有能な人物なのよ。彼らの調整と選択は、後世から見てすら正確と言ってもいい。一方で、それら全体を見ると崩壊に向かって突き進んでいるように見える」
「財政、か」
アニドが言うと、テレナは頷いた。それは統合王国が抱え、多くの人が問題だと認識し、しかし原因と解決策については語りたがらないものだった。そしてテレナやアニドが接触した人の中には、それについて語ることができるが口を閉ざしているもの、あるいは口を開いているがあまり聞かれていない人が入っていた。
「貴族の放蕩などというのはほんの一部に過ぎない。問題は軍事の問題、特に植民地に対しての派遣ね」
「あー……そのあたりは正直なところ統合王国にとっては語りたくない内容だからな」
統合王国にとって、新大陸の植民地は負担が大きいものになっていた。冷海同盟の作った交易都市や、教主国の作った総督府との争いは新大陸からの多くの商品を守るためには不可欠だったが、その負担は大きかった。
一方で、それを享受する貴族にとって新大陸の産物は当然のものだった。それらは庶民の手に入らない嗜好品であったが、生活の彩りには欠かせないものだった。そしてそれらを使った様々な料理は、統合王国の文化的先進性を保証していた。
もちろん、他の新大陸に手を伸ばす地域が嗜好品の算出を行っていたわけではない。しかし冷海同盟は最小限の移住と現地勢力の活用、そして技術提供による木材や魚などの生産に重点を置いていたし、教主国は今なお鉱山産出と、南方ならではの熱帯植物資源の活用を行っていた。
「統制主義の欠点ね。管理によって輸入を減らしたいと考えると、自国内ですべての資源を生産しなくてはいけない。そうすると遠くの植民地を守り、そして周囲にちょっかいを出すために軍を派遣するしかなくなる」
「軍艦っていうのは高いからな、冷海同盟のように船を作る技術が確立されているわけでも、あるいは大内海での歴史がある南側世界とも違うとなれば……」
「費用はかさむ。もちろん、それが統合王国の産業を活性化させているのは否定できないけどやっていることは品物を買って燃やしているようなものよ」
「……その品物が、次の品物に結びつけばいいのか?」
アニドはテレナへの反論をしようとしてその考えに思い至る。
「そう。総権国は上からの投資の形でそれを実現させた。それは再現可能なものかはわからないけど、少なくとも不可能ではない」
「しかし、貴族に砂糖と珈琲とその他のものをやめろと言い、さらに税金まで取るとなると……」
「混乱は起こるでしょうね。でも、それをしなければ……」
テレナが黙ったのを見て、アニドも次の言葉を言うのを止めた。