角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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雪代に流れる言伝を解く 5

「こんな夜に呼び出してくるなんて、情熱的なのね」

 

テレナは小さく笑って呟く。

 

「馬鹿なこと言ってないで情報共有するわよ、ファーネスタ様から色々と届いたから」

 

夜の談話室、角灯の灯りに照らされたテアリアは言う。地方派の伯爵令嬢であり、かつては公爵令嬢ファーネスタの取り巻きだったテアリアは、冬の学院で地方派やフェルヴァジュ管区との繋がりをしっかりと作っていた。

 

「それで、例の悪い枢要僧猊下は?」

 

「本人からちゃんと手紙があなた宛に」

 

言われて受け取りながら、テレナは嫌な予感を抱いていた。少なくとも今まではシェプルスキアの代筆人として枢要僧であるリュクバーンとやり取りができていた。それがわざわざテアリアを経由している。

 

「……これは、聖座の配達人が?」

 

「そうじゃない?詳しくは知らないけど」

 

「わかった」

 

テレナは手紙を観察する。蝋の封は後で確認するとして、まずはそれ以外のところの糊付けを見る。そこから開けられた形跡はなさそうだった。

 

「用心深いのね」

 

「知りたがり屋が多いのよ」

 

そう言ってテレナは包んでいた紙を丁寧に破っていった。

 

「そういう開け方すると読みにくいわよ?」

 

「あとでフュルシーア嬢に見てもらうからこれでいいのよ。彼女はこの手の見極めはそれなりにできるから」

 

「聞いていると彼女もなんか悪いことを色々押し付けられているようだけど……」

 

「彼女自身がレイルグ君に色々押し付けているから、まあそういうこともわるわよ。ふさわしい力にはふさわしい仕事を、ということで」

 

そう言いながら、テレナは目を通していく。

 

「……ええと、つまりこれはリュクバーンの計画の範囲内、と」

 

「監僧総代理のパゼルコの方でも確認できたって。リュクバーンはルメン・デリロスをあえて放置した。その上で統合王国の宮廷という舞台を与えて、彼がどう動くかを試そうとしたらしい」

 

「あの馬鹿が……」

 

テレナは悪態を吐く。淑女らしからぬ行為だったが、テアリアは深く同意の頷きをした。

 

「おかげで地方派の貴族は大変よ。なにせ、あいつが言うところの血をすすっている奴らというのは私の父のような人たちですもの」

 

「私はそのあたりをどうにか徐々に変えようとしていたんだけど……」

 

「今更言い訳しても無駄よ、早く対応しなさい」

 

「やっていますとも」

 

テレナはそう言って息を吐く。

 

「……ごめんなさい」

 

「いや、いいって。実際私も手紙とかそれなりに送っているけど、どうしても噂がこっちに届いてから対応することになるから遅れている。そして私は、立場的にルメン・デリロスを完全に憎むことはできない。むしろ、彼に感謝を述べねばならない場所に立っている」

 

「……植民地軍」

 

テアリアの言葉にテレナは頷いた。

 

「そう。それを解体するために貴族をどうやって動かすのかが私たちの問題だった。時間にはある程度制限がある。もちろん帳簿の上の数字は弄くれるけれども、信用がそれより先にすり減っていく。統合王国の債券が紙切れになるまでの時間はそう長くなかったし、新しい財務大臣であるセラベール卿の改革が上手くいく可能性も怪しかった」

 

セラベールの名のもとで行われる改革は、かなり複雑に入り組んだものだった。その全貌を理解しているのはセラベールを含めて統合王国でも両手の指で数えられるほどしかいないかもしれない。しかし、それは連携して実現されなければ効果が弱まってしまうものだった。

 

もちろん、一つ一つの改革が無意味であるわけではない。しかし、例えば植民地軍を廃止できてもそこにあった椅子の代わりとそこにいた兵たちをどこで引き取るかの交渉が成功しなければ巨大な不満を持った人々が統合王国の海岸に現れることになるだけなのだ。

 

「でも、あいつはそれを進める理由をくれた、ってこと?」

 

「そう。今なら庶民の反乱の可能性をちらつかせて貴族に譲歩を迫ることができる。少なくともフェルヴァジュ管区と王室派はそのような非道を行っていたことに怒りの声を上げて、対応を約束していると新聞は言っている」

 

「……欺瞞よね?」

 

「もちろん。砂糖をたっぷり入れた珈琲を、テアリアさんは飲めた?」

 

「飲んだことないわよ、そもそも南方街なんて行かないし」

 

「新聞を読む人たちも大抵はそうよ。彼らにとっては手を伸ばせば手に入るけど、常には飲めない高級品。それを当然のように嗜む貴族はあまり存在しないし、存在したとしても王室派」

 

「金があるからよね……」

 

テアリアは言う。いくら財政が不均衡だからといっても、払われた以上は誰かが受け取ったはずだった。軍人が、商人が、あるいはその他の見えにくい場所にいる人達は、本人がなんと言おうが多くの下級貴族から見ればまるで物語の中の貴族のような振る舞いをしているのであった。

 

「ま、ルメン・デリロスを持ち上げる計画の方はリュクバーンに丸投げしますか。それをしてもいいでしょうし」

 

「新しい統合王国の不満をあいつに集めるってこと?」

 

「そうでもしないとこの熱狂はおさまらないわよ。今の騒ぎは間違いなく例の『墜ちる灯火』の主人公の皇子とデリロスを重ねて見ているからこそ起こるわけで、そこは利用しないと」

 

「じゃあもし、次にあいつが変なこと言い出したらどうするの?」

 

「それを止めるのはリュクバーン。だから私がやるべきは、統合王国が無茶苦茶になったらフェルヴァジュ管区が困って、その責任をリュクバーンに求めるようにすること。というわけで、今のフェルヴァジュ管区でリュクバーンに立ち向かえるだけの力を持った人、わかる?」

 

テレナの質問にテアリアは少しだけ考え込んだ。

 

「パゼルコ監僧総代理だけど、あの人もリュクバーンと同じ側よね」

 

「そう見ない人も多いんだよ、敵の敵は味方だと思うのさ。あと彼はリュクバーンと話した上でそれに飲み込まれないだけの力を持った珍しい人だから、そこは信頼していいと思う」

 

「……確かに、それはわかる」

 

冬の学院で先輩だったファーネスタの世話をしていたテアリアは、自然とパゼルコの人となりを観察することになっていた。テアリアから見て、彼はファーネスタがなんとか暴走を阻止できている巨大な力であったが、同時に自分が進むべき方向をきちんと理解した上で、それを調節できるファーネスタを信頼しているという奇妙な関係でもあった。

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