角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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策謀と共に役者は演じる
策謀と共に役者は演じる 1


「で、誰が行きますか?」

 

第三学年になったレイルグが尋ねる。

 

「アニド卿がいない以上、四人を二手に分けるのが妥当かな」

 

そう言うのはフュルシーア。

 

「フュルシーア先輩は総権国のお嬢様に、レイルグ君はハッヘンヴルトの老人に。学年を考えたら、誰と誰が行くかは明白では?」

 

フュルシーアがいつもの笑顔で語る。

 

「……私個人としてはどちらが先でも問題だから別に構わないのだけれどもね。とはいえ、直接的に私の故郷に関係する人を先にするべきだと思う。異論はない」

 

テレナはため息と共に言葉を吐いた。

 

そうして、四人は二手に分かれる。新入生を歓迎する学生たちの間に混ざるのは、シェプルスキアとフュルシーア。二人とも西側の基準から見れば外れた存在であり、そして新入生であるエレーリヤ・スカヴチナと同じような立場にある人物だ。

 

二人が歩を進めると、学生たちがすっと脇に退く。多くの学生が、この二人を知っていた。

 

「始めまして、エレーリヤ嬢」

 

シェプルスキアが笑顔を浮かべて言う。

 

「ええ、始めまして」

 

エレーリヤの視線がシェプルスキアの首元に一瞬泳ぐのは、よく見ていたシェプルスキアにはわかった。彼女の視線の動きは訓練されたものではない。それを読まれるということを経験していない人のものだ。この時点で、シェプルスキアは警戒を解いていた。

 

もちろん、それすら欺瞞であるという可能性はある。ただ、向こうが見せた弱みである以上、それが罠だと考えるのも妥当だった。だからこそ、ゆっくりと相手の動きを見ながら剣を下ろしていくように、シェプルスキアは観察をしながら他愛もない会話のために頭を回す。

 

「総権国から来たとなると、こちらのほうは少し過ごしにくいのでは?」

 

「いえ、確かに東方の草原と比べると風は違いますけれども、ここの風も嫌いではありませんわ」

 

丁寧な統合王国語。ただ、多くの人が入り交じる場所で育ったフュルシーアにはそこに総権国語の訛りを感じることができた。少なくとも話すことについては深く訓練を受けている。訛りを消すというのは、そう簡単にできることではないのだ。

 

「っと、自己紹介してなかった?」

 

「ああ、そうでしたわね。……さすがに私でも、東方の女傑についてはお名前を聞いたことがあります」

 

「……総権国にとっては、あまり良い噂ではないでしょう」

 

「いいえ。決闘というものは勝者のみならず敗者にも名誉をもたらします。闇夜に紛れ撃たれたなどとあれば、彼の名誉を守るための戦いが起こっていたでしょう」

 

明確すぎるほどの言葉だった。シェプルスキアは久しぶりに、戦える相手を見つけて小さく微笑んだ。

 

「改めまして、ツィノド女領主をしておりますイウェラ家のアズドの娘シェプルスキアです」

 

「始めましてツィノド女伯。エレーリヤ・スカヴチナです」

 

「シェプルスキアで構いませんよ」

 

「それでは、シェプルスキア先輩」

 

そういう会話をしながら、二人は握手を交わす。周囲で見ている新入生が手慣れた社交の様子に感心しているのを、フュルシーアは半ば軽蔑しながら見ていた。

 

実際のところ、フュルシーアは臆病な少女だ。危険な場所にいるよりも、安全な場所で火事を眺めるほうが好きだ。この場所から一歩引きたかったが、彼女にもやらねばならないことがあった。

 

「シェプルスキア先輩」

 

そう言って、フュルシーアは半歩踏み出す。気がついたようにシェプルスキアとエレーリヤが視線を向けた。

 

「あっ紹介するね、こちらフュルシーア・バラエイーシャ・アラクァイーバザ」

 

新入生たちに流れるざわめきと、それにある種の納得を感じさせるような在校生の吐く息。彼女の髪を隠す黒い布は、多くの新入生にとって南方の文化の象徴だった。

 

「メラドゥ将軍には私たち総権国も何度も痛い目を見ました」

 

そう言ってエレーリヤが握手のために手を差し出し、フュルシーアがそれを握る。統合王国の社交に詳しいなら、少し危ないと感じるようなものがそこにはあった。ただ、それは東方流の相手を認める合図でもあった。

 

「学院へようこそ。ここでは色々な人がいるけど、仲良くやりましょうね」

 

そう言ってフュルシーアは手に力を軽く込める。

 

そういう会話をして、二人は新入生たちを見送った。

 

「……どう、フュルーちゃん」

 

「ま、素質はある感じはしますがどこまでやるかはわかんないですね」

 

「そうだよね、見た目だけで相手を測るとたいていろくな事にならないし」

 

「そういう意味だとテレナ先輩とレイルグ君は楽で良さそうですね」

 

「楽かなぁ……」

 

シェプルスキアは呟く。少なくとも、そちらの二人が相手にしなければならないのは同君地域が、あるいはハッヘンヴルト家が統合王国への尖兵として派遣した男だ。油断できる要素はない。

 

「うーんとですね、シェプルスキア先輩。規模がわかっている軍隊とわかっていない軍隊、どっちが怖いですか?」

 

「わかってる軍隊。わざわざこちらに教えているってことだから」

 

「あー疑り深いとそうなるのか……。というかシェプルスキア先輩、もしかしてイウェラ連隊時代にそういうことしてたんですか?」

 

フュルシーアの質問に、シェプルスキアは直接答えるかわりに笑顔を返した。

 

「……総権国で育ったのだとしたら、そうとうな努力をしていますよね」

 

「統合王国語、あたしより上手いでしょ」

 

「宮廷社交界の響きです。アニド先輩がいればもう少し詳しくわかったんですが」

 

「帰ってこれると思う?」

 

シェプルスキアはフュルシーアに尋ねる。

 

「……財政のあれこれの影響で、財務大臣に苦情が集まっているとは聞きます。アニド卿がどうにかできるかはわかりませんが、それに巻き込まれれば帰りがかなり遅くなるのはあると思います」

 

「困るんだよなぁ、テレナがまた夜ふかしする」

 

「最近疲れてそうですものね」

 

フュルシーアの言葉にシェプルスキアは頷いた。

 

「テレナもさ、色々考えすぎなところがあるから。でもなんていうか、少し楽になったんじゃないかな」

 

「どういうことです?」

 

「今までは同君地域と総権国ってどう動くかわからなかったけど、今ならテレナの手の届くところで動くわけ。後悔するにしても、自分が悪いってはっきりと思えるだけいいと思うよ」

 

「それはそれで残酷だと思いますが」

 

フュルシーアはそう呟いて、周囲の流れに合わせつつ大広間の出口の方にシェプルスキアとともに向かった。

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