角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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因縁を撚りて議場は開く 3

「地方民会の議員選び、大変そうですね」

 

レイルグが鍵のかかる部屋で手紙を仕分けながら呟く。

 

「冬いっぱいを地方民会に費やして、出御会議で地方民会の選んだ代表者によって全国民会の設立を宣言、その場で来場者を第一回の全国民会の議員として基本的な法整備を通し、夏には終わりたい……という計画だ」

 

アニドが目を閉じて言う。具体的な内容が決まるのは、案外早かった。なぜなら具体的な内容に口を挟める立場の人が大抵は妥協閥に属していたし、そうではない人も地方民会の準備で忙しかったからだ。

 

「意外だけど、地方民会をまたやりますって言うのは別にすぐできるんだ」

 

シェプルスキアの言葉にアニドは頷く。

 

「もともと地方民会自体が国王が招集するかどうかみたいなところがあるからな。廃止といっても、その王の治世でやらないという意思を表明した以上のものにはならん」

 

「……とはいえ、方針を今更変えるのって国王としてどうなの?」

 

シェプルスキアの言葉に、アニドとレイルグは唸った。

 

「とはいえもう即位して十年ちょっとは経ってるからなぁ……」

 

アニドの難しそうな顔にレイルグも頷く。

 

「そうなんですよシェプルスキア先輩。人によってそれぞれですけど、それでも十年あれば人間は昔のことだったと思うらしいです。僕達はそんなに長く生きていないですし、十年前のこともよく覚えていませんし」

 

「……あれ、シェプルスキア嬢は何歳だ?」

 

「二十一……二十二かも」

 

「うわ、大人のお姉様だ……」

 

アニドは今更ながらにシェプルスキアが自分より二つ歳上出会ったことを思い出す。学院の標準的な入学年齢は十六なので、普通なら十九か二十歳となるのだ。これは成人年齢を超えることも多いが、いくつかの地域で成人年齢と実際に統治や指揮のような実務ができるとされる年齢が違うことを踏まえると卒業後にすぐ働ける年齢、という点ではちょうどいいものだった。

 

「別にそんな変わらないって。あと一年遅れて入るのは別に珍しいことじゃないよ。あたしの他にもいるし」

 

「まあそうかもしれんが、あまり年齢は気にしないからな……。ああでも一部の儀礼とかだと年長者優先とかあるからそのあたりは気を使う必要があるな」

 

アニドは色々な式典のやり方を思い出しながら言う。明確に序列を意識しないときは、年齢が上のものをより高い位として扱うという例があったはずだった。

 

「そういうのって、色々大変そうだね」

 

「そうなんですよ。選挙人の名簿の順番とか、最初に立候補した人から書いていくか、文字順にするか、あるいは年齢とかくじとかにするかで揉めるんです。人間はたいてい億劫で上の方にあった名前を参考にするんですよ」

 

「……わからなくは、ないかな」

 

シェプルスキアの父のアズドが生きていた頃に、参謀二人の言い争いを仲裁したことがあった。その時に、彼は何回かに分けて二人の話を聞いた後に、改めて他の参謀も招いて議論を行わせた。それは時間の余裕があり、かつ言い争っていた二人の参謀が団長の判断には逆らわないという点で合意が取れていたからだった。

 

今回は違う。どのような方法を選んでもある程度は文句を言われるだろうし、それでもなお行わなければならない。この熱狂が残るうちに全国民会を形にしておかないといけない、という焦りはアニドやテレナからシェプルスキアに伝わってきていた。

 

「とはいえ統合王国の人たちはさすがですね、そのあたりの微妙なところはかなりよくやっています」

 

レイルグが言う。

 

「序列をどうにかするのは貴族の得意分野だからな」

 

アニドも笑いながら言った。

 

「……それでさ、今の問題ってなんなの?」

 

「ない」

 

シェプルスキアの言葉にアニドは返す。

 

「……本当?」

 

「いや、あるにはあるんだがもう俺達がどうにかできる枠じゃないんだよな。もちろんできるだけじっと見張るが、全国民会の設立はもう既定路線だ。法案は一度色々異論を言われて、それを修正した案を通すということになっている」

 

「……本当は?」

 

「おおかた長い手あたりが手を貸したんだろうな。あいつらは民衆がどう動くかはやってみないとわからんってことをよく理解している」

 

「凄いことするね、理屈はわかるけど」

 

「俺もやられたのを見れば理解はできるが、やれる気はしないな。ラストゥイル公爵か、はたまた彼の下の誰かか。ともかく恐ろしいやつが固守閥についてはいるんだが……」

 

そう言いながら、アニドはさっきまで読んでいた新聞を手に取る。日付は三日前。首都で発行された、今のところ一番売れているものだった。古くからやっている新聞であり、色々と読んだアニドからするとどの派閥からも微妙に嫌われているという中立性が売りとなっていた。そしてそれはある意味では、どの派閥の悪口も書かれているということだ。このあたりも売れ行きの原因なのかもしれないな、と思いながらアニドは読んでいた記事を探す。

 

「破壊閥もそれなりに動いているようだ」

 

開いたところにある記事には「蔦の館」で起きた暴動が書かれていた。暴動と言うには静かな、そして統制の取れたものだったが、それらが公的に王室とは異なる勢力に占領されたことが公開されたのは事実だ。とはいえ、それはもとからのことであるのでなかなか説明が難しい。

 

「……これ、前にアニド君とテレナが行ったところだよね。勝手にみんな住んでるっていう」

 

「そう。だからここには嘘は一切書いてないわけだ。この手の文章はたぶんあれだな、王認学術協会の人が書いている」

 

「わかるの?」

 

「科学及び技術の分類体系ってやつがあってな、その最初の最初に書かれている文章の感じとどこか似てるんだよ。同じ人が書いたかどうかまではわからないが、同じようなやつが書いた感じがするって言えばわかるか?」

 

「あー、陣形とか掛け声とか、そんな感じか」

 

「……そうだな」

 

いつもの戦場に喩えるシェプルスキアらしい言葉を聞いて、アニドは長椅子に体重を預ける。こうやって安全な場所にいられる時期は限られている。卒業してしまえば、アニドは統合王国に戻らねばならない。その時に適切な場所に立っていなければ、混乱の時に巻き込まれてしまう。落ち着くまで何処かに亡命するのも悪い方法ではなかったが、既に妥協閥と関わりを持ちすぎている以上抜けることでどういう問題が起こるかも読みきれなかった。

 

「……なあ、シェプルスキア嬢」

 

アニドが口を開く。

 

「なに?」

 

「テレナ嬢って、すごいんだな」

 

「でしょう?」

 

何故か自慢げなシェプルスキアに、アニドは呆れたように笑った。

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