角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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因縁を撚りて議場は開く 8

新聞。手紙。あるいは書類。馬車から持ち出された木箱に入ったそれらは、明らかに多かった。鍵のかかった部屋にはそういった箱が多くあり、少しずつ作業空間を圧迫していた。

 

「……目を通すのが間に合うかどうかも怪しいわよ」

 

テレナは言う。統合王国では早いところでは学院の冬の休暇の前に既に地方民会が始まっていた。

 

「届いたかどうかだけでもう判断するしかないだろ。民会を運営できるのはどういうやつで、そこの領主はどういう人かを見たほうがいい」

 

手紙を片っ端から開けながら差出人を書き留めるアニドは返す。ひとまず場所と議長などを記録しておけば、後で確かめることができる。例えば今後地域で問題が起きた時にそれを収拾できる人がいるとわかっているのは、あらゆることをする上で重要だった。

 

「まあ、そうね。全てを知るよりも、一部を見て全体の傾向を大まかに捉えるようにするのがよさそう」

 

「……素描みたいだな」

 

アニドは、少し遠くを見て懐かしむように呟いた。

 

「そういえばアニド卿は絵を嗜まれるので?」

 

「下手だよ、人もろくに描けない。その手の才能がないっていうのはアレリアに教わって学んださ」

 

「……一流の教育ね」

 

テレナは以前「蔦の館」で出会った女流画家を思い出していた。彼女はおそらく地方民会と全国民会においてそれなりに動くだろう。

 

「ああ。上手い画家っていうのは、陰影を描くだけで全体を作り出すんだ。とはいえそれはアレリアにとっては基礎も基礎だったらしいがな」

 

「私たちが手紙で読めるのは全体ではなくて特徴的な凹凸だけ、というのは忘れないようにしたいわね」

 

「ほとんどの場所はまだ地方民会で誰が話すかすら決めてないだろ。というかあれだな、ここでむしろすぐに地方民会を開催できた場所は王室に叛意ありと見なすべきかもしれん」

 

「いつでも人を送り込むだけの準備をしていて、それが可能だから?」

 

「そういうことだ。全国民会の代議士を決めるのも、あるいは軍を送るのも、あまり必要とされる人は変わりないだろ」

 

アニドの言葉にテレナは頷く。地方民会が実際に行われているという手紙が届いている地域は、しばしば粗雑な、しかし素早い決断をしていた。それは軍隊を動かすときにも重要なことだ。そしてそこまでの速度で動ける組織は信頼が積み重ねられており、一つや二つの失敗で崩れることもない。

 

「……基本的には納税者名簿に乗っている人、あるいは過去の地方民会を踏まえた人選といったところね」

 

「自由都市民と地主だけ、っていうのは暇と金があるやつを集めたらそうなるだろうってところだ。少なくとも農民反乱の主導者になれるようなやつはこないな」

 

アニドは笑って言う。とはいえ、まともな議論ができるような人を集めればそうなるのは仕方がないと言えた。

 

「……しかし、もしここまで計画に入っているなら恐ろしいわね」

 

「というと?」

 

「出御会議の日程は決まっている。だからこそ各地の地方民会は、それに合わせて代議士を送らなくちゃいけない。そして日程はかなり厳しい」

 

「まあ、冬が始まる前に地方議会に人を集める事ができないばしょもあるだろうな」

 

「過激な人が議会に混じっていれば、代議士を選ぶよりも自分の主張を述べることを選ぶかもしれない。そうすればその地域からは代議士は来ないし、過激な意見もやって来ない」

 

「ああ、そういうことか。意図的だとまでは思えないが、そうなってくれたら嬉しいなぐらいのことは考えているだろうな」

 

「地方派はそれができた?」

 

「ルメン七世の時期を乗り切って、それをきちんと教訓にできたならな。テワドレーム公爵とその下の地域は、ある程度固めてくるだろう。代議士にそっち寄りの人が多くなるはずだ」

 

「……前に言った四つの閥だと、代議士枠で破壊閥が多く来ると考えたのだけど」

 

「来た時にはそうじゃないだろうな。だが、会議っていうのは恐ろしいものだぞ」

 

「あまり出たことがないから知らないのよね、そのあたりは」

 

テレナの故郷であるエルンツィンガー伯爵領では、領主であるルグスト四世のもとに有力者が集まるような形の会議は低規定に行われていた。しかし、そこにいるのは大半が顔見知りで、気兼ねなく話すこともできるような人たちであった。嘆願者として見える人であっても、大抵は誰かの紹介なのだ。

 

「全国民会とかになれば、知らない人が大半なはずだ。社交界では知り合いの多い貴族であっても、地方から来た代議士の全員と繋がれるはずはない。そうなれば、会議は流れで進む」

 

「流れ、ね……」

 

「そして後からなんであんな決定に自分が手を貸したのかがわからなくなるのさ。ルメン七世時代の出御会議ではよくあったことらしい」

 

アニドはその当時の噂をよく聞いていた。その時代を生き抜いた老人たちにとって、アニドはなかなか見どころのある若者だったし、アニドもそうあるようにしてきた。それを語っても公的には罪に問われないほどの昔話であっても、話す相手は選ばれるのだ。

 

「だからだ、テレナ嬢。ルメン・デリロスは選ばれる。そういうふうに仕組んだんだろう?」

 

「全国民会なんて言葉を作った頃にはそこまでは思っていなかったわよ。あと後から探したら普通に全国民会って発想自体はそれなりにあって、昔は提案もされたらしいけど」

 

テレナは統合王国の歴史を遡り、その中で行われた多くの試行錯誤を確認していた。地方民会のようなものを全国で作るというのはないわけではなかったが、そうすると本来の目的である請願の発言車と相手の関係が難しくなってしまう。

 

地方民会は、あくまで地方の声を首都に届けるものであった。この点で、首都と地方がある種の対等な関係になることは首都側の妥協で済む。しかし、全国民会ができたとすれば、それは王とそれ以外との対立となる。それはかつては王の絶対性ゆえに困難であったし、ルメン七世は地方民会すら危険だと考えた。

 

「それにしても奇妙なものになりそうだよな。同君地域の議場とも、共和王冠国の議会とも、あるいは大支配地(イルパティム)諮問院(ノサト)とも異なる。全員が同じ方法で選ばれたわけではなく、かといって全員が一部の代表であるとも言い切れない」

 

「本来は全部代議士にしたものを用意したいのだけれどもね。分割すれば対立するか擦り寄るかで、ならまとめて色々と突っ込んでおいたほうがいいのよ。かわりに権力は微妙に持たせない」

 

「ま、最初の数回は慣れだろうな」

 

アニドはそう言いながら手紙の仕分け作業に戻る。間もなく迫る冬の学院には、彼の知る人はあまり来てくれそうにはなかった。

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