角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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棋駒は集いて盤上に並ぶ 7

二人の会話を見て、シェプルスキアはやはりエフナチェルカは強いなと感じていた。ルメン・デリロスとて決して劣っているわけではない。今のシェプルスキアがここまでうまく話すの無理だろう。

 

「それで、君の計画を聞かせてもらおうか。批評ぐらいはしてやるぞ」

 

そう言ってエフナチェルカは脚を組み、身体を少し前に倒す。儀礼を無視した、しかしそれを成している人物がこの場で一番儀礼的に上位であるならば許される行為。こういった一つ一つは、本来であれば総権国の格式を崩すはずのものだ。

 

しかし、エフナチェルカはそれを堂々とやっていた。どこまでが規範であり、どこまでが演出であり、どこまでが嫌悪となるかを彼女は深く理解していた。だからこそ、その微妙な場所を選ぶことができた。

 

「まずは僕を英雄にします」

 

「墜ちる灯火、か。どこであれを作らせた?」

 

「宮廷で出会った人たちと、手紙のやり取りをしていました。僕の決断を告げると、それに合わせて動くと言われたので、それを待った」

 

「よくまあ信用できるものだ」

 

「そこが失敗すれば、何も起きません」

 

「……賭けがすぎるな。君が投じたのはなにか、理解できているのかね?」

 

「僕を好いてくれた乙女と、彼女の一族と、統合王国の半身を」

 

ルメン・デリロスはそう言いながら、今は統合王国の教会で地方派の取りまとめに動いているのだろう修女について考えていた。

 

彼はファーネスタ・イリイダを好いていた。

 

愛していたわけではないだろう。彼女の悪い面を知ってもいた。それでも、彼は少なくともしばらくは、彼女と結ばれ、統合王国を真に統合させる礎となり、緊張し、探り合いながらも関係を築く未来を考えていた。しかし、そのような個人的な問題は、彼の立場が許すものではなかった。

 

少なくとも、ルメン・デリロスは自分が与えられた運命を信じていた。それは知ってしまった自分以外にはできないことであり、そして貴族として、王族として、そして一人の市民として、果たさなければならない義務だった。

 

「おや、彼女は君を好いていたのか。裏切られた乙女の恐ろしさを知らなかったのか?」

 

エフナチェルカは軽く言ったが、その裏には彼女の経験があった。

 

直接短刀を振るったわけではない。計画はしていたが、想像より早く夫が死んでしまったのは事実だ。彼女はただ、総権者に対する誰かの謀略がうまくいくように少しだけ案内をしたにすぎない。

 

薬師でさえ、ここまで急に薬が回るとは思っていなかったようだった、とエフナチェルカは信頼できる女官の一人から聞いていた。

 

「乙女に何ができましょう。王子ですら派手な手を使わなければ動かせない。……しかし、そうですね。僕は彼女に復讐でもされるぐらい、彼女を自由にしたかったという気持ちがないと言えば嘘になります」

 

「その気持ちに従って、いくら臣民を殺すつもりだったのかね?」

 

「そうでなければ別の方法で死に続けただけです。飢えて死ぬのと、尊厳を守って、戦って死ぬのとではどちらが彼らにとっていいでしょうか?」

 

「そう言われれば、私は反論できないな。よろしい」

 

そう言ってエフナチェルカは頷いた。

 

「……フェナテリア女卿が成したことは多く聞いています。今や、統合王国でさえ総権国を無視できない。もちろん、遠征してくるとすればそれは大戦争の時になるでしょう。しかしそれを見越して敵とするか味方とするか、あるいは他の勢力に向けさせるかと、宮廷では真剣に議論されるほどになりました。僕が生まれた時には、そうではなかった」

 

「もうそんなに経つものか。時の流れというのは恐ろしいものだ」

 

アニドにそう返しながら、エフナチェルカは息を吐く。今の時点で、エフナチェルカは相手をある程度見極めていた。

 

彼は甘い。しかし、悩むことはない。多くの死者が出るような戦略のうちどちらを選ぶかというとき、ルメン・デリロスは悩まないだろう。たとえ後からそれが誤っていたとわかったとしても、彼はそれを正しい判断だったと信じることができる。

 

それは、エフナチェルカが失った強さだった。彼女は決して強靭な魂を持っていたわけではない。自分の立場を固めながら、かつて学院で夢想というほどに考えていた理想の領地を作っているだけだ。そしてそれは完全に成功しているわけではなかった。

 

彼女は地位を維持するために、様々なことをしなければならなかった。反乱勢力を敵だと宣言するためには、それなりの正当性が必要になる。実力を認められたと感じている輩下が、統治の改善を恩義と受け取る兵が、そして彼らを必要な戦地まで運ぶ道と、戦場を有利に選ぶための知恵が必要だった。

 

ルメン・デリロスはそうではない。彼は折れない理想主義者だ。そのためであれば許嫁を捨てることができるのだ。

 

「……とはいえ、これは一人の僧が、一人の女官に言えることです」

 

「ああ、それぐらいはわかっているとも。ここで聞き耳を立てている皆様がたもそうだろう?」

 

そう言って、エフナチェルカは周囲を見渡した。明るいわけではない部屋の中には、黙って立っている人達がいる。

 

そして、エフナチェルカはこの中にもう一人、学院で会いたい人物がいると考えていた。ルメン・デリロスの最初の計画はずさんと言ってもいい。もちろん、それが実行されればある程度形にはなっただろう。問題を熱狂で覆い隠しているうちに修正を重ね、そしてそれでも解決できなければ、それ自体を熱狂への薪として投じる。

 

それは、エフナチェルカが選べなかった方法だった。統合王国の人々は、文字を読むことができる。本があれば、噂以上のものを作り出せる。長い地下出版と警察の争いは、危ない本を読んでいることを教養と見なすような少し歪んだ価値観を作ることができた。

 

「そうだな、そして一人の女官と言わせてもらえば、相当の混乱の後に持ち直すことはできただろう。ある程度の運も絡んでくるだろうが。ただ、それは外側を考えなかった場合だ。同君地域や冷海同盟をどう抑えるつもりだった?それに、もし君が私から学んだのであれば、私はそれを理解して、もっと先に行くとは思わなかったのかね?」

 

事実、エフナチェルカはそのための準備をしていた。必要であれば、ちょうどいい場所に暴徒のための武器を用意するつもりでもあった。もちろんそれは別の暴徒が軍の施設や市民の側についた連隊の倉庫から持ち出したものにするはずだったが、それでも最初の数挺であれば少し古いものではあるが統合王国で使われているものを総権国の毛皮売りたちは持っていたのだ。

 

「……それについては、確かに考えが及んでいませんでした。ですから、ここではそれをさらに進めた人を紹介しようと思います」

 

そう言って、ルメン・デリロスは従弟であるアニドを見た。しかし彼は首を横に振り、静かに椅子を引いた。

 

そこに座ったのは、テレナ・ノイーズ・イルデネであった。

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