角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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試合は終り事後を修める 6

鍵のかかった部屋では、今届いたばかりの新聞が回し読みされていた。

 

「初回の代議士長の投票ではルメン・デリロスが一位なるもそれ以外の雑多な候補も多数、か……」

 

アニドが詳しい名簿を確認しながら言う。上位にいる人は確かに統合王国で知られる名士とでも言うべき立場の人物であった。確かに、彼らであればルメン・デリロスと並ぶ知名度を持つとも言えるだろう。

 

「思ったより反教会が多いみたいね、記名式投票なら良かったのに」

 

テレナは呟くが、もちろんそうした場合の問題点もよく理解していた。そうなった場合、裏切りはすぐに明白となる。そうなれば議論をする意味が薄くなってしまう。たとえ宣誓の際に良心と王と神のもとにという宣誓をしたとしても、その宣誓を聞いた他の人がどうするかは別なのだ。

 

「とはいえ、かなりの出席率ですよ。ここまで人をちゃんと集められる議会は珍しいと思います」

 

レイルグはそう言いながら、別刷りの出席者の一覧を見ていた。出御会議において全国民会法は可決され、既に全国民会は始まっているとも言えた。しかし全国民会法自体が形としては王の名によって会議参加者の前に示された以上、儀礼的な合意によって成立したところもあった。

 

「俺が現場にいればもう少し楽しかったんだが、まだ暴発しかねないからな。何かあったときのためには少し火薬から離れておくのが一番だ」

 

「とはいえアニド卿、学院を卒業成されればどこかに入らなくてはならないのでは?」

 

テレナはアニドに尋ねた。

 

「そこなんだよな。特にどこかに入れてくれという話もしていないし、真剣に来てくれという話もない」

 

「怠惰ね」

 

「怠惰だと思うのはテレナ嬢がもとから進み先が決まっているからだろう、俺には嫁ぎ先はないんだぞ」

 

アニドはそう言って恨めしげにテレナを見た。一応アニドが学院に派遣される時に戻ったら結婚相手を斡旋してやることを考えてやらなくもないというように言われていたはずだが、今の統合王国の状態でそれがどこまで可能かは怪しいところだった。

 

たとえ統合王国に議会のような全国民会ができたとしても、血縁が無意味となるわけではない。特にルメン・デリロスが代議士長となった場合、代議士に直接交渉をすることは難しいという大きな問題が発生する。

 

彼の裏にいるのは枢要僧であり、統合王国の関係者ではない。必要があれば彼は聖座から書類を取り寄せてフェルヴァジュ管区における管区大監僧の補佐にでもして事実上統合王国の権威の下に入ることもできるのであるが、多くの人はそのような文字の上での立場というものを詳しく理解するつもりはない。

 

「アニド卿であればうちの娘を、という貴族も少なくないのでは?」

 

「だからだよ、ルメン・デリロスに手を出せない以上血縁者とか関係者で、って考えがないわけがないだろうが」

 

「なるほど、アニド先輩はちょうどいい相手ということですか」

 

名簿を見ながらレイルグが呟いた。彼の言うように、確かにアニドは狙いやすい相手であった。貴族であったとしても庶子とは言え王室の一員であれば許容できる範囲だったし、そうでない層にとっても王室とはいえ庶子であれば狙える範囲だったのだ。

 

「まあ、ラストゥイル公爵あたりに調整は頼むかな」

 

王室との婚姻ということは、どうしても考えなければならないことが多い。アニドは自分の父が自分の母にしたことを過ちだと考えているし、それが巡り巡って統合王国への奇妙な関与を外国人に許したことも理解していた。普通であれば同君地域の田舎伯爵の娘が統合王国の重大案件に係るということはない。ただそれを言ってしまえば王室の庶子もなかなか本来であれば絡みにくいはずのものだった。

 

「いい相手が見つかるといいわね」

 

テレナはアニドに微笑んで言った。それは既に余裕のあるものの表情であった。

 

「お前にはいい婚約者がいるんだろ?」

 

アニドは呆れたような笑顔とともに言う。

 

「ええ。戻ったら少し夫婦二人で旅をして、そのあとに挙式をするつもり。それぐらいの時間的余裕はあるでしょうし」

 

「……目的は何だ?」

 

アニドはそう言いながら旅の目的について考えていた。将来的にテレナの婚約者であるフォリムが戦地に行くときの下見だろうか。あるいはテレナが何らかの目的を持って接触するべき人でもいるのだろうか。

 

「純粋にネア先輩のところに服とか見てもらうのよ。それで、できたら冷海同盟の方とつながりを作っておきたい」

 

「……同君地域の中で頼ると面倒になる、か」

 

「面倒ってほどじゃないけれども、いくら寛容だの何だの言っても私の家はどうせ抗議派。それを変えるのは難しいなら、多少離れていても宗教的な問題が起こらないところと手を組んでおくべきなのよ。そしてそれは私があちらに戻ってからでないとできない」

 

「妻の仕事じゃないものな」

 

「そう。そして故郷も嫁ぎ先も色々と軍事的な準備をしているだろうから、それとぶつからないようにする必要もある。どうしようもなければネア先輩にこっちに来てもらうことになるけど……」

 

テレナは色々と考えなくてはいけないことが増えるのを感じながら息を吐いた。四年間の学院生活の終わりは着実に近づいてきている。そこから逃げることはできそうにない。

 

「ただ旅ってのはいいな、俺もしてみようかね」

 

アニドはそう呟いて、どこに行くべきかを考えていた。色々と見てみたいところはある。そうして統合王国のあちこちを旅して、器量のいい娘とでも出会って、そこで幸せに暮らす、などというおとぎ話を考える余裕がある自分にアニドは思わず笑ってしまった。

 

「……どうしたの」

 

いきなり変な声を出したアニドにテレナは聞いた。

 

「いやなに、ただの妄想さ。実際に考えると具体的にどこかに立つというのは厄介だろうし、どこかの大臣の顧問になるか、あるいはラストゥイル公爵にでも匿ってもらうのがいいんだろうな」

 

「アニド先輩は長い手の指にでもなるんですか?」

 

「そんなところだなレイルグ君。幸い俺の顔は宮廷の外ではあまり知られていないし、だからこそ動きやすい。それに王室や他の派閥とは口を利きにくいが俺なら話をしてもいい、みたいなやつもいる。別に使われるのが性にあっているわけじゃないが、自分で動けると思うほど自惚れているわけじゃないってことだ」

 

そうアニドは言いながら、どこで働くとしても大変な仕事になるだろうし、今の時代にのんびりと暮らすというのは夢物語なのだろうなと少し悲しくなっていた。

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