角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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終幕の後にも歴史は進む 2

「共和王冠国の戴冠者と議会と臣民に忠誠を、そして彼らと、彼らの一人である私に栄光があらんことを!」

 

シェプルスキアのよく通る声が議会に響き、彼女は拍手に包まれた。刺繍紐で飾られた乗馬服に身を纏い、髪を後ろにまとめた彼女は、数少ない女性議員であり、同時に数少ない女性軍人でもあった。とはいえ、彼女はそれ以上にイヴェリャン団の団長として、そして南の守護を任されたイウェラ連隊の連隊長として知られていた。

 

彼女の経歴は、ある程度の議員に知られていた。西方の学院の卒業生ともなれば、あらゆる分野に使うことができる人員となる。しかし彼女は明確に特定人物の派閥に属していた。

 

王冠教育委員会議長、シュビツク卿である。

 

「よく成した、シェプルスキア連隊長」

 

「いいえシュビツク卿、あなたの準備のおかげです」

 

戻ってから急いで叩き込んだ共和王冠国語で彼女は言う。議会は終わり、彼女は自分を学院に推薦した人物の小さな執務室に招かれていた。

 

「さて、君の書いた学院の卒業論文を読んだ。短いが、良いものだった」

 

「……ありがとうございます」

 

それは、シェプルスキアから見ればひどい出来の代物だった。もしテレナが書いていれば、より根拠と論理を持って構築できていただろう。しかしシェプルスキアは、今の自分の能力と発想の記録としてそれを残すことを望んだ。

 

「必要なのは将校学校ではない、と言われるとは思わなかったがね」

 

「必要なのはもう少し下です。兵卒より上、将校より下。熟練の兵や、若いけれども聡明な兵。そういった人物が文字を読み、自分で考え、必要であれば将校にさえ意見ができるようにしなければなりません」

 

それは軍隊に存在する明確な境界を破ろうとするものだった。兵は兵、指揮官は指揮官である。もちろんかつて兵であった、成り上がりの指揮官の話はあった。しかしそれはあくまで例外的なものであった。

 

「……ヴィンサートの改革はそれで失敗したのだぞ」

 

「共和王冠国の軍は組織的反抗を行える状態にありません。支援された反乱者がいれば、個別の敵対者を丁寧に懐柔し、排除し、あるいは良き助言者とすることができるでしょう」

 

シェプルスキアの言葉にシュビツクは声を出して笑った。彼が得意としている交渉は、彼女にとっては戦場なのだ。そして彼女はその戦場を、戦士として越えてきていた。

 

「よろしい。王冠軍務委員会および王冠教育委員会の合同計画を私の名前で始める。君の権限は広範なものとなるだろう」

 

「……金とか兵とかの量は確かに嬉しいですけど、それなりの人がいないと軍隊も、たぶん組織も回りませんよ。若い将校には老兵が、良い指揮官には参謀が、そして私には、熟練の官僚が必要です」

 

「教官学校から優秀な卒業生をつける。同時に、各地の教会で教育をしていた人たちも。必要とするのは聡明な兵となることのできる人物の育成だ」

 

「……それができる人物を、戦場に送り込むと?」

 

「それを多くの人ができるようにすれば、価値は下がる」

 

シュビツクの言葉の意味を、シェプルスキアは理解できてしまった。それはろくでもない理論だ。有能な人材が戦場に出ることが損失なのであれば、彼らが有能と言えないほどにありふれた存在にしてしまえばいい。

 

「……そのための税は、許されるんですね」

 

「かなり無茶を言って枠を作らせたし、おかげで直接的な軍事増強はしばらく遅れるだろう。なのでそのあたりの交渉も君の役目だ、シェプルスキア女卿」

 

「……あたしは軍人ですが」

 

「総権国では軍人と外交官と貴族が同義語だと言うではないか」

 

「あたしは議員で教師で地主で軍人であと外交官までやるんですか?」

 

「それができる人がいないんだよ……」

 

そう言ってシュビツクは息を吐いた。彼は学院の卒業者ではなかったが、彼らから学んだことがあった。そしてその上で、学院という制度がいかに馬鹿らしいかを知っていた。

 

それは表面上は、広く知識を共有する場所である。しかしその入学に必要なものを考えれば、かなり欺瞞に満ちた場所だと言えた。だからこそ、その欺瞞を使ってでも彼はシェプルスキアをそこに送り込んだのだ。

 

そして四年後、彼女はどこに置いても使える万能の駒として帰ってきた。本人の指し手としての才能は悪いものではないが、おそらく彼女は駒として暴れさせたほうが有用だとシュビツクは考えていた。

 

「……やりますよ」

 

「助かる。それと、大君侯国との同盟って何だ?」

 

「うーん、あのあたりは馬に乗ってるやつらのやり方ですし、ほとんどエルガーツ翁がやったので領主としてのあたしは反対するわけではないんですがきちんと理解できているかというと怪しいんですよね……」

 

そう言ってシェプルスキアは帰ってすぐの参謀天幕で聞かされた内容を思い出していた。今の時点で、シェプルスキアが治める共和王冠国のツィノドと、メラドゥが将軍として力を持っている大君侯国のコバルカは複数の盟約を結んでいた。

 

互いに通行税を取らないこと。相互の犯罪者のやり取りに関する規則。定期的な共同の軍事演習。それらは辺境の領主としてのシェプルスキアに与えられていた権限の範疇であったが、共和王冠国の議会からすれば少し疑わしいものであった。

 

「まあ、あの議会での演説でしばらくは黙ってくれるだろう。税収も取れるようになっているというじゃないか」

 

「あたしが学院にいなかったときにみんながやってくれただけです」

 

そう言うシェプルスキアを見ながら、シュビツクは笑みを浮かべていた。最上の領主というのは、領地に居ずして領地を治めることができる。議会のために領地を空けねばならない地主が多い議会において、背後を気にすることなく動けるということの利点は大きいのだ。

 

もちろん、それでは都市民が一方的に有利となる。そうならないよう、貴族は同時に兵の召集義務も課されていた。それを満たすことのできない都市民の意見は小さくならざるを得ないのである。これは平等な一票と勢力の均衡を同時に果たす奇妙な方法であったが、いまのところ共和王冠国で成り立っているものだった。

 

「そうか。今後は忙しくなるだろうし、馬に乗ることも多くなるだろう。その乗馬服は大切にしたまえよ」

 

「狙われやすいから本当は脱いでおきたいんだけど……威厳って大事ですからね」

 

シェプルスキアはそう言いながら、自分が別の戦場に、そしてかつて親友が立っていた場所にいることを少しだけ実感した。

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