角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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終幕の後にも歴史は進む 6

「良い景色だ」

 

馬に乗り、シェプルスキアは草原を見渡した。総権国との国境に広がるこの地域は、決戦が行われるだろう場所として王冠軍務委員会の将軍たちが地図を見て想定している場所であった。

 

「お嬢、どうですかい?」

 

中隊長であるラムズィンがシェプルスキアの隣から声をかける。

 

「総権国の軍隊の規模が見たいんだけど、ちょっと行って確認してくるのは難しいよね」

 

「一人か二人迷い込ませるとしても、帰ってこない可能性もあるとなるとやりたくはないやつですな」

 

「それにそういうのを口実に小競り合い起こされたらこっちの準備に気がつかれるしね」

 

そう言いながら、シェプルスキアは地形を見ていた。それを一度知っておくだけで、後ろにいるときに見えるものが変わってくることをシェプルスキアは知っていた。

 

「で、例の上兵学校はどうですかい?」

 

「まだ準備中。学生たちに教えるのにあたしの威厳が足りるかが少し心配」

 

「……そうですな。お嬢を俺らが尊敬できるのは、お嬢をよく知ってるからだ。そうでなければ小娘と侮っているかもしれないし、娘御が戦場にいるもんじゃないなんて言うかもしれん」

 

「そうして銃で打たれるんだ」

 

「……でしょうな。それは外道ではあるが、効率的だ」

 

イヴェリャン団は積極的に相手の中枢に人を送り込むということをしてこなかった。それをするだけの余裕や経験が流浪を重ねた集団にはなかったというのもあるが、信頼と血縁でまとまっている彼らがそのような形で自分たちの一部を切り捨てるようなことが難しいというのもあった。

 

子供に武器を持たせて油断させて近づいて狙うのは、方法の一つとしてはあった。かつてのシェプルスキアさえ、潜入の時にそういった行動をしたことがある。地方領主の娘として振る舞って、周囲にいた護衛の騎士たちに助けを求めるように振る舞ったのだ。

 

「そういう戦争にしないために、あたしはあそこでさんざん勉強してきたんだ。それを無駄にはしたくない」

 

「……ですがお嬢、必要であれば手放すことも大切なことですぜ」

 

「わかってるよ。でもあたしには未練があるから、その時には手首を切り落としてでも私がそちらに引きずられないようにして」

 

「……痛くなるぞ」

 

「わかってるよ」

 

シェプルスキアは自分にかつてあった熱が薄れている事に気がついていた。怒りに任せながらも冷酷に敵の将軍を追い詰めて狙撃した女傑はもういない。もはやそういう時代ではなくなりつつあるの時代になっていたのだ。

 

「しかし、お嬢が交渉までやるとは驚きましたな」

 

「騎士団領には一緒に学院にいたヤトンもいるからね、話は通じやすいと思うし協力できるところはしていきたい。今のところ総権国が敵ってところは同意できそうだし」

 

「いつまでできますかね、そんな同盟」

 

ラムズィンはこの種の同盟をあまり信用していなかった。そもそも共和王冠国は周辺地域から軽視されている。その軍隊は決して強いとされているわけでもないし、かつての戦争で総権国に土地を切り取られていたことを加味すれば決して共和王冠国を安定しているとは言えなかった。

 

「総権国が続けさせてくれるよ」

 

「どういうことですかい?」

 

「あの地を治めるエフナチェルカ一世を実際に見たけど、あれは全部を敵に回す人だ。それでも勝てると思わせる強さがあるからいいというか、その限界まで状態を持っていくというか」

 

「……相手に隙を見せ、退却しているように思わせていいところまで行ったら引き返して攻撃、なんてのがありますがそれのすごいやつみたいなものですか?」

 

「そうだね。隙を微妙に見せて相手を誘い込むこともやってくると思う。でも今の総権国は相当無茶をしないといけないから、騎士団領と共和王冠国と大君侯国が互いに攻撃し合っているところを突かれなければなんとかなる」

 

「南の方はメラドゥ将軍でどうにかなりそうですしな」

 

「あの爺さんも読みにくいけどね……」

 

シェプルスキアは幼い頃以来に出会った老人と話したことを思い出した。盛大に歓迎され、強敵として認められ、そして盟約を結んだ。それは共和王冠国からシェプルスキアが許されている範囲とは言え、少し逸脱と言われてもおかしくないものだった。

 

ただ、それによってツィノドの財政はなんとかなりつつあった。やはり商業というものは税を取りやすいし、そうやって確保された税をさらなる交易の促進に用いることで南から攻撃される理由を減らすこともできる。そのように一つの行動に複数の意味をもたせるというのは、テレナから見て学んだことであり、シェプルスキアの父のアズドが参謀天幕の支援のもとで日頃からやっていたものでもあった。

 

「あと、二年ですな」

 

「上兵学校で最低限仕込んだやつらが馴染むのにぎりぎりか……」

 

「特に騎兵なんてのは慣れですからな。乗っていなければ覚えられん」

 

「そこなんだよね、確かに速いし派手だし歩兵相手にはかなり強いけど、数がどうしても……」

 

そう言ってシェプルスキアは戦場となるだろう場所を見る。ここが血に染まるのだ。いくらシェプルスキアが良い指揮をして、良い部下を揃えても、血は流れる。もちろん、そうでなくても死ぬ人は出ることは避けられないが、シェプルスキアは部下の死を自分の責任だときちんと正面から受け止めて、それでもなお壊れない魂を持っていた。

 

「ま、今は今できるものを積み重ねていくしかありませんな。アズドもそういう男でした」

 

「今更思うけど、本当にやっていることすごいよね……」

 

「お嬢も大概ですぜ」

 

ラムズィンはそう言って笑顔を浮かべる。

 

「そう?」

 

「普通のやつは異国の言葉で四年間学び続けるなんてことをやったら狂っていまいますぜ、今でも面倒な仕事ばっかりで狂いそうだってのに」

 

「突撃だけしてればいいみたいな馬鹿はうちの連隊にはいらんから、とっとと新しい故郷にでも戻るんだね」

 

「そりゃないですぜお嬢。とはいえ共和王冠国の騎兵の筋はいい。数百年かけてあちこちから寄せ集めただけのことはある」

 

「使いこなせそう?」

 

「練度によって分けてどうにかってところですな。ま、基本的には逃げ回って相手が包囲をしようとしたらそこをさらに包囲して虐めるのが俺等のやり方になるでしょうさ」

 

「……そうだね」

 

シェプルスキアは頭の中に地図を広げた。この草原を抜けられれば、その先には共和王冠国の都市がいくつかあるのだった。

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