角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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革命は去り何者かが語る 4

「よぉお嬢さん、お暇?」

 

かつて蔦の館と呼ばれた建物で、そして今はその多くが美術館として解放されている施設の庭で、男性は椅子に腰掛けた女性に声をかけた。

 

「歴史学会でくたびれている女性に掛ける言葉じゃないでしょう」

 

「あんたの発表、聞かせてもらったぜ」

 

「……どうせ私のは、過去の歴史研究を踏襲していない想像の産物ですよ」

 

「ま、それは否定しないがね。俺ももう少し上手くできたと思うぜ、使う資料のあたりとか」

 

「……今後の研究の参考とさせてもらいます」

 

そう言って頭を下げる彼女の専門は第一民主政時代の全国民会の成立過程であった。彼女はそれをルメン・デリロスという英雄によって作られたものではなく、より多くの官僚の成果であると考えていた。その根拠としたのが、全国民会法における議場学の影響である。

 

「例えばルメン・デリロスは学院出身者だろ?当時の授業の記録を見れば彼が議場学を学んでいたかどうか分かるはずだ」

 

「……はい、そうです」

 

「確か時代的にはぎりぎりだろ、議場学は確かに革命混乱期を通して体系化されたとされるが、それ以前からティロにはそれを研究する学部があった。そのあたりについて調査は」

 

「……していません」

 

「……ただ、本当に方針自体は面白かった。調べなくちゃいけないものが多くなるだろうし、その多くはまだ誰も調べていないはずだ。それを突き詰めればきっと今までの歴史の見方すら変えられるぞ」

 

「……ありがとうございます」

 

そう言った彼女は相手が差し出してくる手がどういう意味かわからず少し悩んだが、気がついた後にためらいがちに握手をした。

 

「ああ、あと俺はこういうもので」

 

そう言って彼は彼女の手に小さな紙片を握らせた。

 

「……ああ、民庶(テルツ)領域の大学の方でしたか」

 

「俺の統合民主国語もそれなりだろ?」

 

「……ええ」

 

彼女はその言葉に頷いて言った。事実、彼の訛りは統合民主国の地方出身者である彼女よりも首都のものに近いと言っていいほどだった。

 

「さて、俺の専門なんだがちょうどその学院とルメン・デリロスなんだよ。もちろんそれだけじゃないが、俺が気にしているのはルメン・デリロスが全国民会で代議士になる直前に学院に行っていたんじゃないかってことだ」

 

「その頃には彼は教会でリュクバーン枢要僧と共に計画を練っていたとされています」

 

「そう。だがその根拠は確かないんだよな。デリロス帝の伝記には書かれているが、当時の冬の学院の記録には統合王国から僧たちが来たという話がある」

 

彼は口角を挙げて、相手を見た。

 

「……合理性がありません。たしかに冬の学院は多くの事前交渉が行われていました。しかし次の代議士長となりうる人物がそこまでする価値があるでしょうか?それよりも国内の社交界で知見を広めるなり、後の蔓草党の人々と計画を立てるべきです」

 

「俺もそう思うんだがな、実は一つ狂った仮説がある」

 

「狂った、ですか」

 

その言葉に彼は頷いた。

 

「……エフナチェルカ一世については知っているか?」

 

「革命混乱期を扱う歴史学の学生がエフナチェルカ一世を知らずに大学に入れますかね?」

 

「フェルヴァジュ史しかやっていないと稀にあるんだよ、特に革命混乱期においては統合王国と総権国の関係は必ずしも強いものではなかったんだが、彼の国は統合王国が統合民主国になっても何事もなかったかのように外交官を派遣し、承認をしている」

 

「……同君地域が大荒れになったものを、総権国は落ち着いてみていられたと?」

 

「その通り。そしてデリロス帝はエフナチェルカ一世のことを『伯母』のような人物だと語っている」

 

「……ええと、具体的な日付は忘れましたが彼女は統合王国時代に一回来てますよね?」

 

「ああ。しかしそこで行われた会話は二人が初対面ではなく、ある程度互いを知っているかのように思える」

 

「……根拠がなければ、想像ですよ」

 

「そこはあんたの研究の方法を使えばいい。いつ何が起きたじゃなくて、誰がどう考えるようになったかを見るればいいだろう?」

 

「一旦整理しましょうか、話が散らかってきました」

 

彼女の言葉に彼は首を縦に振った。

 

「いいぜ、まずルメン・デリロスは代議士長になる直前に冬の学院に行った」

 

「そこにエフナチェルカ一世が来る……とまでは言わなくとも、その代理人が来訪している可能性はありそうですね、それなら彼が権力を握った後に総権国が慌てなかった理由はわかる」

 

「そのあたりは総権国の専門家に調べてもらっているんだがな、どうやらその年の女総権者はあまり社交に熱心ではなかったらしい。病であるとか、地方での旅だとか言われているらしい」

 

「……まさか、本人が?」

 

「その可能性はある。そしてもっと面白い話があるぞ」

 

「歴史作家の妄想みたいな話に追加で?」

 

「ああ。テレナ・ノイーズ・イルデネという人物がいる」

 

名前を聞いた彼女は、小さく首を横に振る。

 

「誰?」

 

「統合民主国と同君地域の間の緩衝地域として作られた連邦で色々とやった女性なんだが、彼女が学院時代にアニド卿の手伝いをしていた可能性がある」

 

「アニド卿、最近流行よね。でもあれも結局実はルメン・デリロスではなく別の人が影で動いていた、という話ではなくて?」

 

「その手紙の代筆人の筆跡の話は知ってるだろ、そのうちのいくつかがそのテレナ・ノイーズ・イルデネのものではないかという話があってな」

 

「その人は学院の卒業生?」

 

「ルメン・デリロスの三つ下、アニドと同年代。まあそのあたりの世代には結構有名な人がいるからな」

 

「ええと、教会改革のテアリア姉はたしかそのあたりよね」

 

「東方だとシェプルスキア将軍もいる。まあ歴史研究者以外は聞いたことがないような名前だと思うが」

 

「流石に私でもシェプルスキア将軍は知ってるわよ」

 

彼女は不満そうに口を尖らせた。

 

「そういう人達が何かを成し遂げたのかもしれん。それは一人の英雄を見ていてはわからないだろうし、おそらく彼らは明確な証拠を残していない」

 

「学生の立場を使って統合王国に介入し、結果として革命混乱期を引き起こすきっかけになるというのは彼らにとって隠したい事実だったと?」

 

「おそらくは。そのあたりを調べても面白いんじゃないか?一緒に仕事をしたければその宛先に電報をくれ」

 

「……今ここでやりましょう、という提案をするのは?」

 

「素晴らしい、じゃあ他の奴らも招くか。ここにはちょうど彼らが揃っている」

 

彼はそう言って、立ち上がろうとする彼女の手を取った。

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