角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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日常の学びは不穏を隠す 9

「シェプルスキア、やってみたまえ」

 

第一学年の学生たちの前に立ったヴィンサートは、実例として自身ではなく自身の信頼する兵士の一人に銃を渡した。彼女の名前を敬称なく呼び捨てにしたのは、侮蔑ではなく尊敬の表れであった。

 

「はい、教授」

 

シェプルスキアの手の中にはよく手入れされた、しかし精度がいいわけではない銃があった。それでも、止まっている的を狙うのは難しくはなかった。

 

その構えはヴィンサートの作った規範からすれば少し外れたものだったが、許容範囲の中と言えた。引き金が絞られ、燧石が鉄を削り、火花が飛び、煙とともに弾丸が発射される。訓練場には弾けるような音と、その後に遅れて独特の匂いが広がった。

 

「……命中です」

 

銃口を決して他の人に向けないように注意しながら、シェプルスキアは銃を下ろした。銃口が向いていた先には、弾丸がめり込んだ土の壁があった。

 

「さて、誤解してほしくはないのだが、彼女の腕は相当なものだ。この中で彼女ほどに銃が上手くなる才能がある人がいるかいないか、というところだろう」

 

可能性を含めてもなお、という意味を読み取ったテレナはシェプルスキアの冷たい目をじっと見ていた。ただ、それでもその道具を知っておくことは重要だ。

 

「実際に学生諸君らには銃を扱ってもらう。一人一ずつ、監視のもとでだ。指示なく銃に触れた場合、私かシェプルスキア連隊長が適切な態度をとるだろう」

 

兵士のような規律は求められないが、集中と警戒を要求されるような場であった。敬礼をする必要はないが、背筋は伸ばさなくてはならない。しかし、その空気を読み取れたものは少なかった。軍人としての道を進むことが予定されてそのような教育を受けた人と、聡い学生だけ。

 

「指の置き場所を間違えれば、あるいは弾丸の装填を誤ればそれは諸君らの顔と指を吹っ飛ばす。それほどに危険なものだ」

 

そう言うヴィンサートを見ながら、シェプルスキアは言い過ぎではないかと考えていた。それは決して複雑な機構ではない。燃やすと一気に膨張する気体を出す粉で、小さな鉛の塊を押し出すだけのものだ。もちろんかつてのシェプルスキアはそれを知らなかったし、化学としての知識はテレナに読んでもらった本にあったのだが。

 

誰も雑談をしなかった。前に立った二人の眼光は、学生たちに本能的な恐怖を思い出させた。もちろんこれで行動するほどの愚かなものは、学院に入ることはできない。その程度の最低限の選抜はされている。

 

やりやすいな、とシェプルスキアは考えていた。彼女の知る強い兵士はもっと血気盛んで、もっと乱暴に銃を扱う。もちろん彼らの顔には傷口に入り込んだ火薬が痕を残し、指には大きな傷がついているかあるいは欠けているのだが、それこそが誉れであった。

 

悪くはない、とヴィンサートは考えていた。彼らを適切に訓練すれば兵として最低限の水準には到達させることができる。もちろん彼らは殴られる苦痛を、飢えの苦しみを、銃創の焼ける痛みを知らない。それは良いことだ。ただ、何かがあった時にそれでは困る。

 

「テレナ嬢、来たまえ」

 

「はい、教授」

 

軍隊風になっているだろうか、と座っていたテレナは立ち上がりながら言った。かつて持ったことがあるような重さと鉄の冷たさがあった。

 

衝撃の大きさは耐えられる程度だとわかっていたが、どうしても緊張はした。隣でシェプルスキアがじっと見ているのに止めないところからすると、どうやらおかしな場所に指を置いているわけではないとは安心できたが、銃が向く先が揺れるのは止められなかった。

 

「発射」

 

静かに、しかし威厳のある声でヴィンサートが言う。必要であれば、かれは整列した千人の前でより大きな声で話すこともできる。しかし、それをするほどの熱狂が必要な場所ではなかった。

 

かなり狙ったのとは外れた場所に弾丸は飛び、小さな土埃が舞った。肩に思いっきり誰かがぶつかったような鈍い衝撃がおさまった後で、テレナは銃を下ろした。

 

「……こういうものね、経験は本に勝る、か」

 

「早く戻れ、テレナ嬢」

 

「はい」

 

返事は簡潔にしつつ、テレナは銃を元あった場所に置いた。

 

そうしてまたしばらく、他の人が撃つのを見ていた。経験があるのだろう男子はやはり上手で、衝撃を上手く殺すことができている。しかしシェプルスキアほどではないな、というのがその印象だった。

 

一人ひとり撃っていれば、時間はすぐに過ぎていく。日はすぐに傾き、解散の時間になった。

 

「あー疲れた。テレナはいいよね、ほとんど座っていたし」

 

「……シェプは、今日の授業が何のためにあったか理解している?」

 

「学生に基本的な銃の扱いを教えるため」

 

「どうしてそんなことを?」

 

「使う以外の理由ってある?」

 

シェプルスキアは平然と、テレナが考えていたことを言った。

 

「……確かに時期としては悪くはないのよ、特別講義もちょうど間が空いていたし、ヴィンサート教授も暇だった。それに、第一学年には銃の扱いに慣れた学生がいる。それでも、よ」

 

「籠城戦で銃を扱える人は重要だよ」

 

「学院が籠城戦を考えているのよ。少なくともヴィンサート教授は」

 

「……それは、あまりないと思うよ」

 

テレナの焦燥を打ち消すように、シェプルスキアは言った。シェプルスキアからすれば、テレナの恐れは間違ってはいないかもしれないが早急すぎるものだった。

 

「どうして?」

 

「それならもっといい教え方がある。あんなゆったりやる必要はない。ヴィンサート教授は、練兵なら誰よりも上なんだよ?」

 

シェプルスキアの堂々とした発言は、経験と知識に基づくものだった。かつてテレナに読んでもらった騎士団領の練兵についての本は、シェプルスキアが考えてもいなかった多くの考えが詰まっていた。その全てを活用できるかは別としても、自らの率いる連隊をもう少し強くすることはできそうなものだった。

 

「……そこまで差し迫ったわけでは、ない?」

 

「でも、何かあった時に最初の衝撃を抑えられるように、ってところかな。あたしが見るに」

 

「……そうね」

 

確かに、テレナは衝撃を受けた。本で読んだのとは別の感触があった。もし次に何かを狙うことがあったら、今回よりは少しは上手く撃てるだろう。そういう機会がないことを特に信じていない神に祈りつつ、テレナは学院の持つ装備をどうやったら調べられるかを考えていた。

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