角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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暗闇に紛れて足音は響く 3

「統合王国の王立工廠の現行型、ハッヘンヴルト家の購入しているもの、そして騎士団領の新型だ」

 

練習場の木製の台の上には、開かれた木箱がいくつか並んでいた。その中から取り出された肩撃ち銃の木屑を払いながら、ヴィンサート教授はシェプルスキアに示すように見せた。

 

「基本的な設計は半世紀変わってない。取り扱いのために銃身の長さが調整されたり、材質が調整されたりしたがな」

 

「教授、持ってもよろしいでしょうか」

 

「もちろんだ」

 

「銃口の中を確認しても?」

 

「ああ」

 

もちろん、シェプルスキアはこのようなことをいちいち確認する必要がないことはわかっていた。しかし、これは規律の問題なのだ。銃というのは危険な代物である。雑に扱って顔を吹っ飛ばした兵士がいる以上、注意して扱うに越したことはない。

 

「学院が用いるなら、どの程度の物が必要になるかと考えていてね」

 

「あたしよりテレナ呼んだほうがいいと思います」

 

シェプルスキアは、どうしても視野が狭かった。傭兵団を名目上率いていた時でさえ、実際に見ることができていたのは参謀天幕の中の人々に過ぎない。

 

「今考えたいのは、百人の平凡な射手ではなく、数人の優秀な狩人なのだよ」

 

「……納得しかねます」

 

そう言いながら、テレナはよくある普通の銃だな、と考えていた。とはいえ道具というのは突き詰めていけばある程度ありきたりなものになるはずである。全て銃身には溝が彫られておらず、精度を高めないかわりに清掃の必要がないようになっていた。逆に言えば、狙いをつけることのできない兵のためのものである。

 

「まあ、理解はする。ただ、学院の巻き込まれる類の戦争においては威嚇以上の意味を弾丸に持たせねばならないからな」

 

そう言いながら、ヴィンサートは校舎である城塞趾を見上げた。包囲にかかる時間を少しでも引き伸ばし、相手の重要人物を狙い、そしてあわよくば講和に持っていく。学院が襲撃された時に、どこまで援軍を頼れるかは不明である以上、そのような手を選ぶしかなかった。

 

「指揮官としての君に質問しよう。学生たちを即席の兵として使うなら、どの銃がいいかね?」

 

「だからそういうのこそテレナに……ああ、運用にあたって、ですか」

 

「そうだ。あまり銃の種類を多くしては混乱になるが、同時に揃えるのも難しくなる。せめて口径だけは揃えたいがね」

 

「できれば微妙な口径差も扱いたいところですけど。無理に詰めないように、大きめの紙薬莢と小さめの紙薬莢を用意しておくんです」

 

「なるほど。となると工作精度からすれば騎士団領の新型か」

 

「そこはあたしにはわからないので。ヴィンサート教授の手に馴染んだものであったほうがいいとは思いますが」

 

「はは、私がかの地を去ってから採用されたものだからな。懐かしさを感じるところはあるが、かつて使っていたものとはどうしても違っていてね」

 

そういうものか、とシェプルスキアは考えていた。シェプルスキアにとって銃とは拾ったものの中で、あるいは買い付けたものの中で最良のものを使うというのが前提であった。同じ銃をまとめて揃えるのは、班単位では可能であってもより大きな編成では不可能だった。

 

「それと、シェプルスキア嬢に贈り物だ。私の教え子の一人が作ったものでね」

 

そう言って、ヴィンサート教授は別の箱を開けた。

 

「……なんですか、これは」

 

「あえて言うのであれば後装式、というものだな。引き金の周りを覆う用心金を回すことで銃身の後ろをまるまる空けるようにして、火薬と弾丸を込めるのさ」

 

そう言って、中に入っていた図の描かれた紙をヴィンサートはシェプルスキアに見せた。銃と見比べれば、その構造はすぐに分かった。ねじ仕掛けになっていて、火薬をちょうどいい量入れることができるようになっているのだ。触った時に指先についたべたべたに塗られた潤滑剤からは、脂と蝋の匂いがした。

 

「……また、採用には向きそうにないものですね」

 

丁寧に作られてはいたが、乱暴な使用には耐えられそうになかった。これに銃剣をつけて突撃したくはないな、というのが銃として扱う側のシェプルスキアの感想だった。

「その通り。騎士団領においてもその作成が難しいとして開発が取りやめになった。なにせ一流の銃職人であれば、これ一つを作る時間で普通の銃を十丁仕上げることができる」

 

シェプルスキアの見る限り、その銃には特別な装飾は施されていなかった。貴族の狩りのためではなく、より実利のために、そしておそらく検証のために設計され、組み上げられたものだ。

 

「かわりに、装填速度と精度は格段に違うものになっている。これを使いこなせるようになってほしい」

 

「……夏の休みの間の、訓練場の使用許可を」

 

「もちろんだとも、シェプルスキア嬢」

 

「それと、テレナをつけてください」

 

「私は将軍ではないよ、シェプルスキア嬢。ただ、必要であれば彼女の授業を免除させるように取り計らおう」

 

「ありがとうございます」

 

狙撃手は孤独なものだ。もし観測のために誰かが隣りにいてくれれば、その仕事は大分楽なものになる。

 

「必要なら望遠鏡も手配しよう」

 

「すごい額になりますね」

 

「常駐の銃兵よりも安いものさ。それと、報告もきちんと頼む」

 

「あたしはそういうの……ああ、テレナにやらせればいいか」

 

「彼女なら問題ないだろう。そこは信頼している」

 

ヴィンサートは同僚のヨルワからこの二人が冬の学院で成したことを聞いていた。第一学年ではなくとも、及第点を与えていい仕事であったという。

 

そして二人は、まだ学ぶことの多い時期なのだ。ヴィンサートが望むのは、ただの優秀な兵ではない。改善を繰り返し、自らが学んだことを誰かに伝えることのできる人物だ。だからこそ、領主としての立場を持ったシェプルスキアに兵としての仕事を頼んだのだ。

 

シェプルスキアも、それは理解していた。同時に、自分が兵として腕を磨けるのは学院にいる時までだろうとも考えていた。領主である以上、領地の問題を解決する時間がどうしても増える。いくら優秀な部下を用意しようとも、常に戦場に出ているわけにはいかない。

 

そしていくら戦場に立とうとも、記憶は薄れ、腕は落ちていくものだということを知っていた。有能な指揮官であれ、叩き上げの補佐がいなければその視座を有効に活かすことはできない。傭兵団であれば多少は階級を無視した動きができたが、連隊ともなればもう銃を取ることもできなくなるだろう。

 

次の新しい銃が生まれた時、それを使いこなせる自信がシェプルスキアにはなかった。それを実際に自分の手で使うにしろ、あるいはその銃を持った兵を率いるにしろ。しかし、自信があろうがなかろうが、シェプルスキアは領主なのだ。それであれば恐怖を殺す助けになるような、鍛錬を今のうちに積んでおくべきなのだ。

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