これは少年と少女の愛と奇跡の物語。

これは嫉妬に狂ったダンジョンマスターが歩んだ軌跡が生んだ物語。

これは観客気取り、上位者気取りのダンジョンマスターが称賛した物語。

※ダンジョンマスター専用息抜き掲示板第五話の内容となってます。
ただし、序盤を削ってる。


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ダンジョンマスター息抜き掲示板 episode lust of last

1:ヤバいくらい娯楽に飢えし者

娯楽が乏しい!

 

2:名も無き娯楽に飢えし者

おお、そうか?

 

3:名も無き娯楽に飢えし者

ダンジョンコアの機能扱いきれていないだけって可能性もあるで?

実際、俺もダンジョンコアの機能全然知らなくて暇だなって思ってたし

 

4:ヤバいくらい娯楽に飢えし者

言うても娯楽の代わりなんてこの掲示板くらいじゃないか?

 

5:名も無き娯楽に飢えし者

>>4

いや、最近動画投稿機能も追加されたぞ!

しかもこの機能使ってダンジョンマスターランキング第6位の絡繰りの開拓船のダンジョンマスターが映画作ってる。

 

6:名も無き娯楽に飢えし者

あ、それ俺も見た!

 

7:名も無き娯楽に飢えし者

良かったよな!色欲の渦のダンジョンマスターがコメント欄で発狂してたけど…

 

8:名も無き娯楽に飢えし者

見なきゃいいのに…

 

9:名も無き娯楽に飢えし者

>>8

あの映画の…ネタバレになるから詳細は伏せるけど一人が色欲の渦のインキュバスとのハーフらしいぞ。それとあの映画ダンジョンマスターもガッツリ出てるぞ?

 

10:名も無き娯楽に飢えし者

そうだったんだ!まだ見てないから知らんかった。ありがと

 

11:名も無き娯楽に飢えし者

それを知った上で見るとまた泣けるで

 

12:名も無き娯楽に飢えし者

完全に恋愛映画だよな。

ああいう大恋愛と言うか、人間の絆を見せられるとこの世界もまだまだ捨てたもんじゃないって思えるわ

 

13:ヤバいくらい娯楽に飢えし者

へぇ、恋愛ものなんだ。

因みに地球の映画も入れていいけど☆いくつ?

 

14:名も無き娯楽に飢えし者

う~む、地球産も込みか~。

そうなると、ちょっと難しいよな…☆3つかな?

 

15:名も無き娯楽に飢えし者

俺は3.5くらいかな?

 

16:名も無き娯楽に飢えし者

今考えると地球産良すぎた…☆2

 

17:名も無き娯楽に飢えし者

☆1

 

18:名も無き娯楽に飢えし者

☆0

 

19:名も無き娯楽に飢えし者

俺は☆4くらいあっても良いかなって感じかな?

 

20:名も無き娯楽に飢えし者

地球はガチで娯楽で溢れてたし、上澄みの高さが異常だからなぁ

正直、☆2かな?

 

21:名も無き娯楽に飢えし者

暫く地球産の映画とか見てなかったからかもしれないけど、☆3くらいあっても良い気がするけどなぁ…

 

22:名も無き娯楽に飢えし者

まぁ、娯楽が少なかった俺らからすれば十分楽しめるし、一回見てみな。

 

23:ヤバいくらい娯楽に飢えし者

せやな!どうせ趣味も無いしな!

それじゃあ、少し早いけどみんなありがとうな!

 

24:名も無き娯楽に飢えし者

おお!

 

25:名も無き娯楽に飢えし者

困った時はお互い様よ!

 

26:名も無き娯楽に飢えし者

そいじゃな

 

 

※※

 

剣を振る。剣を振る。剣を振る。

仕事の無い日はいつもそうして一日が過ぎる。

今日だってそうだ。

夕飯時、夕日が沈み辺りは暗くなる。

それでも少しずつ家屋にオレンジ色の明かりが灯りこの街に住む人々の一日がまだ終わっていないことを言外に主張してくる。

 

「兄ちゃん!そろそろご飯だよ!」

 

そしてそれは俺も同じだ。

剣を下ろして額を伝う汗を拭うと、俺の正面に声の主が移動してくる。その瞳には俺への憧れなど微塵も無く、むしろ鍛錬をしていた俺に対する呆れが如実に表れていた。

まぁ、それもそうなのかもしれない。何故ならこの少年は同じ孤児院で育った俺の弟だ。

…これが街の子供なら、俺を見かけると尊敬の目を向けてくれるんだが…

 

「兄ちゃんがずっと剣なんか振ってるから姉ちゃんの機嫌今めっちゃ悪いんだよ!早くいってフォローしてくれよな!」

 

そう言ってテヴィンは手を大きく振りながらも小走りに去っていく。

俺もそれに手を振り返しておくが、折角呼びに来てくれたんだからそのまま一緒に帰ってくれても良いんじゃないかと思ってしまう。

いや、前にこの話をしたときは『兄ちゃんのとばっちりを受けて俺まで怒られるかもしれないだろ!』って言っていたか…。

強かな子に育ったから社会に出た後は心配なさそうだが、家族なんだから少しくらい兄ちゃんに寄り添ってくれても良くないか?

というか、ミア怒ってるのか、帰りたくないな…

 

そんなことを考えながら俺は孤児院に一人とぼとぼと帰っていった。

 

※※

 

「おっそーい!!!!!!」

 

そう言いながらミアはお玉の先をこちらに向けてくる。

眉間に皺を寄せ、声に怒気を乗せながら睨んでいる姿に思わず髪が逆立っているような錯覚まで起こしてしまう。

美人が怒ると怖いとは正にこのことだ。俺は体を出来るだけ縮こまらせながら項垂れることしか出来ない。

 

「ねぇ?一体何してたらこんなに遅くなるの?ううん、イーノが冒険者としてこの孤児院にお金を入れてくれてるから今こうして私たちが暖かいご飯を食べられてるもんね。

だから、休日くらいは好きに過ごすべきだよね。だけど!今日は!今日は一緒に過ごそうって言ってくれたじゃない!」

 

…確かにそう言った。

 

「だ、だけど、少し素振りしてくるとも言ったよな?」

 

俺の苦し紛れの良い訳がミアの堪忍袋の緒を切ってしまったのか、ミアの顔から一瞬表情が抜け落ち、真顔になる。

そして、心なしか温度が下がったような瞳でこちらを見上げる。

こてっと首の骨が消えたのではという様な動きで首を傾げる。

 

「イーノの少しは夕飯までって意味なの?それじゃあ…少しじゃない素振りをする時は何時に帰るのかな?深夜の0時かな?

皆寝静まるまで剣を振るうのかな?」

 

その鋭い反論にぐうの音も出ない。

確かに少しと言って出て行ったくせに夕飯時まで帰ってこないのは遅すぎる。

せめて、夕飯の支度をしている時に帰って来ていればと思わずにはいられない。

だが、これにも訳が、訳があるのだ。

 

「こ、これも、お前を守るために必要なことなんだ。」

「ふ~ん、一体何から私を守ってくれるっていうの?ドラゴンだって討伐したイーノがこんな遅くまで素振りしないといけない相手って誰なの?

他国の兵士さん?魔族の将軍?

私、お姫様でも聖女様でもないけど?只の町娘を守るのに随分と周到に準備するんだね。

だけど、それなら忙殺されそうな程多い孤児院の家事から私を守って欲しかったな」

 

今度こそ俺は口を閉ざすしかなかった。

孤児院の仕事量は知っているつもりだ。その大変さも。それをミアに押し付けてしまったことに対する罪悪感がじわじわと俺の心に染みわたる。

特に、今は俺とミアが最年長だ。俺たちの代に世話をしてくれた神父様はもういない。

 

それなのに俺はミアに全ての家事を押し付けてしまっている。特に今日のような何もない休日すら彼女の為に働くことはしていない。

ごめん、俺はその言葉を紡ごうと口を開く。しかし

 

「それに…そんな怪我で剣なんて振ったら傷が開いちゃうよ」

 

ミアは俺に近寄ると肩から脇腹にかけて巻かれている包帯に優しく触れ、上目遣いで訴えてくる。

弱弱しい声と潤んだ瞳。

それは…ズルいだろう。

 

俺は不器用にもミアの頭を撫でることしか出来ない。それも恥ずかしさから顔を背けた上で…。

それに対し、ミアは両手で俺の顔を正面、自身の方へと向ける。

 

「イーノ、自分の体を大事にするって約束、忘れてないよね?」

「あ、ああ、当たり前だろ?」

 

ミアのオレンジ色の綺麗な瞳と目の下に散らばったそばかす、鼻筋の通った高い鼻、そして桜色の唇、それらがドアップに移り俺は思わずたじろいでしまう。

家族同然に育ったとはいえ、俺達は正確には血の繋がりは無いのだが、ミアはそのことをあまり深く考えていない。

いや、深く考えている俺が気持ち悪いだけだ。

消え去れ!俺の心に掬う煩悩!!

 

「本当に分かってる?イーノ別のこと考えているように見えたけど」

 

その言葉にドキリと心臓が跳ねる。

俺がミアに抱いた邪な気持ちまではバレていない筈なのに、全てバレてしまったのではないかと言う懸念が一瞬だけ脳裏を掠める。

好きな人に軽蔑されるのではという恐怖と家族に対して変な気持ちを抱いてしまった自分に対しての自己嫌悪がいっそう強くなる。

 

そんな俺をジッと見ているミアはと言うと目元を緩め、溜息を吐く。

 

「イーノお願い、約束して…。怪我をしたときは安静にするって…。

お金が必要ならそれこそ私だって働きに出るわ。テヴィン達だって弟や妹の世話とか家事の手伝いをしてくれているし、私が孤児院を開けていても問題ないわ」

 

確かに、最近のテヴィン達はしっかりしてきていると思う。それこそ、同年代の子たちと比べたら格段に。それが良いことなのか悪い事なのかは俺には分からないけれど、自分たちが只守られて愛されるだけの存在じゃないと知っている。

世界が無償の愛を自身に与えてくれるほど優しくできていないと知っている。

何かを得るには何かを差し出さなければいけないと、例えそれが愛情であっても同じであると子供ながらに理解しているのだ。

勿論、俺達は出来るだけのことをしてあげたいと考えてはいるが、それも一生じゃない。いずれは彼らは彼ら自身の力でこの世界を生きていかなければいけないのだ。

俺達は成長した彼らよりも弱く脆いまだ見ぬ子供達に手を差し伸べなければいけないのだから。

 

とはいえ、今それを良しとしていいかはまた別問題だ。

特に俺はこの孤児院の大黒柱なのだから余計にそうだ。

 

「悪いけど、その頼みに対してうんと頷くことは出来ない。

マナが仕事に出た後、テヴィン達が代わりにこの孤児院を守ってくれるかもしれないが、それはテヴィン達の貴重な時間を浪費しているってことだ。

彼らの学ぶ機会とこの先をどう歩いていくか悩み考え、躊躇うための時間を奪うということだ。

親代わりである俺達がそれを良しとする訳にはいかない。俺たちだけはそれを良しとするわけにはいかない。分かるだろ?」

「それはッ…そうだね。ごめんなさい」

 

マナは眉尻を下げた後頭を深く下げてくる。

そこまで落ち込まないで欲しい。別に怒っているわけでは無いのだから。

 

頭を下げているせいで今のマナがどんな表情をしているか分からない。けれど、その二房のおさげが重力によるものだけが理由では無いと錯覚させるほど深く垂れさがっていた。

どうしたものか…。

マナとの付き合いはそれこそ物心つく前からのものではあるが、いつも俺が一方的に怒らせているため、こういう時になんて声をかけていいか分からない。

神父様がいた時は神秘様が取りなしてくれていたしな。

 

昔のことを思い返しながら、言葉を選んでは口に出す前に消し、新たな言葉を探し、また消しを繰り返していると意外な人物が助け舟を出してくれる。

 

「なぁ、話終わった?もうご飯にしようぜ。ガキ達の中には泣き出しそうなやつもいるしさ」

 

その声に反応し、声の方に視線を向けるとポケットに手を突っ込んだ状態のテヴィンが立っていた。

更に後ろに目を向ければ配膳も既に終わっている。

今もミアがお玉を持っているため態々新しいお玉を出して配膳してくれたのだろう。

洗い物を増やしてしまったな…せめて洗い物だけでも手伝わないと。

 

俺はミアに声をかける。今度の言葉は躊躇うことも迷うことも無く、スッと口から出てきてくれた。

 

「取り敢えず、ご飯にしようか。

あと、さっきの言葉は別にそこまで気にしなくても良いと思う…っていうのは難しいけど、俺のことをミアが考えてくれていたのは分かったし、嬉しかった。

それと、怪我の件なんだけど、ほら、もう殆ど直ってるんだ。」

 

包帯を取り、ミアに傷を見せる。ミアは一瞬それを手で止めようとしたけど、それよりも俺が包帯を解く方が一歩速かった。

そして露わになるのは傷が殆ど塞がり後少しで完治といって差し支えの無い俺の体だった。

 

「嘘…」

「俺こう見えて傷の直りが速いんだ。だから、あんまり気にしなくても大丈夫だ。この傷だって今日飯食って寝て起きれば完治だろうしな」

「で、でも傷の直りが早いからって無理していい理由には…回復魔法とかポーションを受け付けない体なんでしょ?」

「大丈夫だよ!今までも大丈夫だっただろ?」

 

俺はそう言うと傷のある方の肩を態とぐるぐると回す。

そう、俺とってこの程度の怪我は大した問題にはならない。

 

俺は何か言いたげなミアを敢えて無視して席に着く。

それを見たミアも諦めてくれたのか大人しく席に着くと神に祈りを捧げ、食事に手を付ける。

 

「うん!ミアの飯はやっぱり上手いな!」

「イーノが一杯稼いできてくれているからだよ」

 

そう言うミアの顔には俺を労わるよりも案じる気持ちの方が如実に表れていた。

 

ミアには俺なんかよりも自分や子供達を案じて欲しいと思っているのに、どうしてそれを理解してくれないのだろう。

嬉しさと共に俺の中にそんな身勝手な考えが生まれてしまったことは墓の中まで持っていこうと思った。

 

※※

 

皆が寝静まった頃、一人夜風にあたっていると背後から人の気配を感じ、振り返る。

 

「ミア、どうしたんだ?」

「ん?ぅん…あれイーノこそどうして私の部屋にいるの?」

 

そう言いながら目を擦っているミアに対し苦笑を浮かべる。

 

「ここはお前の部屋じゃないぞ?寝ぼけた状態でトイレまで行こうとしたんだろ。心配だから俺が連れてってやるよ」

「ん~、じゃあお願い」

 

俺はミアの手を取ると一緒に歩き出す。

昔からこいつは危なかっしいから、俺や神父様が目を光らせていたものだ。

特に神父様は自身の死の直前までミアを案じていたものだ。

 

…まぁ俺も神父様には心配されていたから人のことは言えないが。

俺の場合は俺自身を案じているという以外にも別の感情が込められていたしな。

神父様も複雑だったんだろうな。

そんな風に今は無き神父様に思いを馳せているとトイレに着く。

 

「それじゃあ、俺は外で待ってるからな」

「ん~、あいあと~」

 

呂律の回らないながらも俺に感謝を言いながらトイレへと入っていったミアを確認した後、俺は窓から見える夜空を眺める。

空の上から神父様が見守ってくれている気がしたからだ。

 

「神父様、俺が貴方に変わってミアも子供達も守ります」

 

無数に広がる星に神が創りたもうた天上の絨毯に俺を誓う。

 

愛する女性(ひと)も、愛する家族も俺が必ず守る。

 

その瞬間、トイレの方から水の流れる音がする。名誉のために言うと、これはあくまでも孤児院のトイレの水を流した音であってミアのお小水の音ではない。

けれど、一つ言わせてほしい。

ちょっと空気読んでくれないか⁉

 

いや、勝手にそれっぽい雰囲気作って勝手に悦に浸ってただけだよね?って言われたらそれまでだけど、でもさ、あるじゃん、そこはなんかもう少しほら…。

やばい、トイレの水と共にさっきの雰囲気と俺のマインドも一緒にトイレに流されてしまった気がする。

良い言葉全然出てこない。変にカッコつけるなってことなのか?

そんな下らないことに一喜一憂していたら、トイレからミアが出てくる。

 

「ん~どうしたの~」

「いんや、ガラにもなくカッコつけるもんじゃないなって思っただけだ」

「そっか~。確かにイーノはそのまんまが良いと思うよ?」

 

ぽりぽりとトイレのドアノブを持つ手とは逆の手でお尻を掻いているミアはそう言いながら、にひゃりと締まりのない笑みを浮かべる。

そして、来たとき同様俺の手を握って来た。

その様子が堪らなく可愛くて俺の表情筋も思わず緩んでしまう。

 

けど、一つだけ言わせてほしい。

お前…お尻掻いた手で俺の手握るのは止めないか?

勿論、そんなこと本人の前では言えなかった。

傷つけたくないからな。

 

※※

 

翌朝、孤児院の前にはミアと子供達が立っていた。

 

「次はいつ帰ってくるの?」

 

ミアが上目遣いでそんなことを聞いて来る。

俺はリュックに目線を向け、考える。今回の依頼はここから三つ先の街、その周辺の山脈に住むアイスドラゴンの討伐だ。

当然今日明日で終わる依頼ではない。

それどころか命を相手にする訳だから正確な日数なんて分かるわけがない。

けれど、こちらの継戦能力と街までの移動時間を考えれば…。

 

「一週間…長くても二週間くらいだと思う」

「そんなに…無茶…しないでね?」

 

その言葉には昨日同様頷くことが出来ずに曖昧に笑って返す。

そして、テヴィンへと視線を向ける。

昨日あんなことを言った手前本当はこんなことを頼むべきでは無いのだろうが…

 

「ミアと子供たちのことを頼む」

「…善処はするよ。世の中に絶対は無いから確約はしかねるけどね」

 

俺を真っすぐ見ながらそんな生意気なことをいうテヴィンに俺は苦笑する。

けど、言ってることは非常に全うだ。

 

「そうだな。世の中に絶対はない。だから、出来る範囲で頼んだぞ?」

「はいはい」

 

そう言いながら、テヴィンは手で早く行けと責っついてくる。

全く、もう少し別れを惜しんでくれてもいいだろうに…。

俺はミアへと視線を移す。

 

「ミアも子供たちを頼んだ。それとお守りはもってるか?」

「うん、肌身離さず持ってるよ」

 

服の内側に手を突っ込むと俺が渡したお守りを取り出す。頼んだ通り首からかけて肌身離さず持ってくれていたみたいだ。

そのことに安心した俺は皆に手を振って孤児院を後にした。

 

※※

 

ドラゴン討伐に関しては予想よりもずっと順調に進み、丁度一週間で依頼を達成。そして、そこから三日かけて俺は孤児院へと帰って来た。

久しぶりの孤児院、子供達の顔とミアの顔が頭に浮かぶ。ちゃんと土産も買ってきたし、子供達喜ぶだろうな~。そんな風に少し先の幸せな未来を想像し、俺の表情筋は勝手に口角を上にあげる。

俺は敷地に入ると同時に子供達を見渡す。(うち)は敷地に関してはかなり広く子供達が遊びまわるのに十分な広さがある。

けれど、今日に限っては子供達が見当たらない。何かあったのだろうか?

俺は帰って早々嫌な胸騒ぎを感じ、建物の中へと入る。

 

「お~い!帰ったぞ~」

 

中にはちゃんと子供達が揃っており、俺の掛け声に反応してこちらを振り返る。

けれど、その顔は一様に暗い。小さい子どもたちに関しては目を赤く腫れあがらせて眠っている。

只事ではない。それが事情の分かっていない俺にも伝わって来た。

そして、俺が事情を聞こうとミアを探しているとテヴィンが俺の前へとやってくる。

 

「どうしたんだ?テヴィン」

「…っんなさい。」

 

俯きながら、何かを言ってくる。

その顔は血の気の失せた蒼白でそれだけ追い詰められているということが分かった。

いつもしっかりもののテヴィンがここまで…。

俺が思っている以上に事態が深刻なような気がしてならない。

けれど、その不安を俺が表に出すわけにもいかない。

 

「大丈夫だテヴィン。落ち着いて兄ちゃんに事情を話してくれ」

「ッごめんなさい。姉ちゃんがいなくなった!俺気づいて止めようとしたんだけど…止められなくてッそれで…子供達も守らないとだからッ!」

 

なる…ほど、自分がマナを止められなかったこと、それなのに手を尽くすことが出来なかったことへの罪悪感。

やりたいこととやらなくちゃいけないことの間で板挟みになってしまったのか…。

けれど、だからこそ俺が言ってやらなくちゃいけない。

 

「テヴィン良くマナや俺がいない間子供達を守ってくれたな。大丈夫兄ちゃんに任せろ」

 

俺自身、マナが消えたということに動揺をしていない訳ではない。聞かされた時は目の前が真っ暗になった。

ただ、長男なのだから俺が感情に任せて動くわけにはいかない。

それは自身の感情を押し殺しここまで気丈に振る舞ってくれていたテヴィンへの裏切りだ。

 

「テヴィン、マナがいなくなったのは何時だ?」

「えっと、昨日…だけど、なんか姉ちゃん様子が変で…俺の声が届いていないように見えた。俺が止めようと手を握ったら振り解かれて、そのまま凄い速さで走って行って何処かに行っちゃったんだ」

「…そうか、ありがとう」

 

昨日ならそこまで遠くには行っていないと思いたいが、どうも望み薄だな。

俺は風変りなコンパスを取り出し、マナに渡している魔道具発信片の位置を探る。

距離は10キロ。方位は南南西。

 

…ダンジョンか。

 

俺は最低限の荷物と剣だけ持つと建物を出ていく。

 

「兄ちゃん⁉今から行く気か⁉」

「ああ、全力で走れば10分もかからずにつくからな」

「ッでも兄ちゃん仕事から帰って来たばかりでしょ!」

 

確かに疲労が抜けきっているかと言われたら残念ながらそんなことはない。

けれど、これで休んでマナに万が一があったらと考えたら休むことだってままならない。

それに奥の手が無い訳じゃないしな。

 

俺はテヴィンの説得を試みることはせずにただ頭を撫でる。髪が乱れてしまっているが、それについてテヴィンが怒ることは無かった。

いつもは俺の手を叩き落とすのにその反応が返ってこないというのも何だか悲しいもんだな。

 

それは置いといて俺の気持ちはこれで十分伝わった筈だ。

 

「兄ちゃん…姉ちゃん連れて帰って来てね。…二人がいなくなったら俺たちは路頭に迷うんだから」

「勿論」

 

こんな時でさえ、家族だからと恥ずかしくて言えないテヴィンの内心を察し、俺は僅かにだが頬を緩めた。

 

※※

 

「着いたか」

 

途中モンスターに襲われそうになったりもしたが、全力で走りそれら全てを振り切ったことで大した時間もかからずにダンジョンまでは来ることが出来た。

俺の目の前にあるダンジョンは一見大したことのない極々普通の洞窟型ダンジョンだ。

けれど、それが安心できる材料になりはしない。何故ならここはダンジョンの中でも有益保護ダンジョンでは無く攻略推奨ダンジョンとして冒険者ギルトに登録されているのだ。

つまり人類にとっては利益よりも脅威の方が大きく当然ダンジョン側もこちらに全力で牙を向けてくる。

それにこのダンジョンは他の攻略推奨ダンジョンと比べても異端だ。本来なら年単位の死亡率が60%を超えなければ攻略推奨ダンジョンには登録されないにも関わらず、このダンジョンは死亡率37%で攻略推奨ダンジョンに登録されている。

悪い噂の絶えないダンジョンだ。

 

まぁ、それを理由に足踏みなどしていられない。

俺は臆することなくダンジョンの中へと入る。

 

 

 

 

ダンジョンに入って気が付いたことがある。

非常に静かだった。

前に行ったダンジョンは有益保護ダンジョンだったためこのダンジョンと比べるのもどうかと思うが…それでも、ここよりも遥かにモンスターが多かった。

けれど、このダンジョンにはダンジョンは愚か他の人間の気配すらしない。いや、好き好んで攻略推奨ダンジョンに入るのなんて英雄志望の死にたがりだけかもしれないが。

 

そうして歩いていること暫し、俺はもう三度目になる下の階層へと繋がる階段を見つける。

まるで誘われているみたいだ、と思うのは俺の考えすぎか?

違和感を抱えたままけれど、決定的な答えを見つけることはなく俺は次の階層へと降り立つ。

 

そこで待っていたのはモンスターだった。

 

「ぴぎぃぃ、ぴぎぴぎ!!」

 

キノコ型のモンスター笛を思いっきり吹いた時のような音割れした鳴き声と共に胞子を噴きかけてくる。

毒か⁉と警戒し後ろに下がるが、残念ながら広範囲に広がった胞子に逃げ道はない。

けれど、俺は下がると同時に剣を抜き放ち、抜刀の風圧で胞子を吹き飛ばす。

 

少しは胞子を浴びてしまったと思ったが、体に違和感はない。

無事、防ぎきったということだろう。そう思い、小さく息を吐こうとしたその時、俺のポーチが膨張を始める。

いや違う!これは!

 

俺が咄嗟にポーチを投げ捨てると同時、ポーチは破け、中からキノコが生えてくる。

更に目を凝らすと、正確にはポーチの中に入っていた携帯食料からキノコが生えていることが分かる。

成程、奴の胞子は食べ物を駄目にするタイプの力だったということか…道理で体に違和感がない訳だ。

 

こういう一点特化型の能力は他への影響は皆無に等しい代わりにその一点に関しては尋常ではない被害を出す。

長期間潜ることを想定していたパーティ、それも既に深層まで潜っていた場合は阿鼻叫喚だろう。

けれど俺からすればこいつは好都合だ。

何故なら、本来剣士と胞子系のモンスターは相性が悪いが、あくまで食料をダメにすることに特化しているのなら斬るのを躊躇う必要もない。

俺は一歩で奴との距離を詰めると一刀の下に斬り伏せる。

 

しかし、ここに来て急にモンスターが現れだした。

ダンジョン側も本気を出して来たということだろうか?

そう思っていると気配を感じ、ダンジョンの暗闇を睨む。

新たなモンスターだろう。

そう思っていたが…

 

「イーノ!良かった無事だったんだね」

 

そう言いながら心から安心したというようにマナがこちらに駆け寄ってくる。

 

「マナ…」

 

 

「じゃないな」

 

俺はそのマナに扮した何者かの首を斬り落とす。

すると、何者かは姿を変じ、黒い靄になる。

 

これはドッペルゲンガーか…。

俺は偽物とは言えマナを斬ってしまった後味の悪さから顔を顰めながら剣を鞘にしまう。

 

それにしても、随分と悪趣味なダンジョンだな。

敵を殺そうというよりも人間の精神を追い詰めようというダンジョンマスターの考えが透けて見える。

やはり、今日ここに来て良かった。

一秒でも早く助け出さないとマナがどんなに目に遭うか分かったものでは無い。

 

俺はポーチに入っていたポーションをベルトの間に挟むと警戒は怠らずにけれど先ほどよりもペースを上げてダンジョンを進む。

 

怖い程に罠なども無く順調に下へ下へと降りていく。

モンスターも時折見るキノコ型のモンスターだけだ。

 

そして俺は深層へと辿り着き、そこで祭壇のような場所に寝かされるマナの姿を見つける。

彼女は眠っているようで瞼を閉ざしている。

けれど、胸は上下に動いており生きているのは分かった。

近づくと彼女の甘い香りが鼻を擽る。

 

俺は彼女へと近づき、剣を胸に突きさす。

 

 

「また、偽物か…」

 

落胆と共に剣を引き抜く。

そして、魔力の気配を辿り、その場所に向かって剣を振るう。

 

「モンスターとは言え女性を前に立たすのは頂けないな?」

 

俺の剣が通った場所から血しぶきが上がる。

そして姿を現したのはミストオーク。

肉から出る特殊な煙を操り、姿を偽る魔物だ。

この煙で自身を風景に、そして祭壇に横たわっていたサキュバスをミアに擬態させていたのだろう。

 

俺はもう一度剣を振るい血を落とす。

落として直ぐに剣を構えた。

 

気配いや、足音がした。

そして、祭壇の奥、というよりも背後から誰かが姿を現す。

いや誰かなんて言い方はよそう。

少し奇抜な格好をしているし、そばかすが消え、お下げを解いてはいるが、それはれっきとしたマナだった。

今度は偽物なんかじゃない本物のマナがそこにいた。

 

「マナ!!」

 

俺は剣を鞘に納め走り出す。

良かった…。本当に良かった…。

怪我などはなさそうだ。何かされた形跡もない。

 

服は…もう少し大人しめの服にした方が良いとは思うけど…。

でも、本当に…。

 

俺とマナの距離が零になる寸前。背後から殺気を感じ、剣を振るう。

 

火花を散らし、鍔迫り合いの様相を呈する。

 

背後から、拍手の音が聞える。

 

「本当は()()も偽物だと踏んで斬ってくれるのが理想だったんですけど、そう上手くはいかないですねぇ…」

 

俺が竜の爪を受け止めていると背後から眼鏡をかけた白い服の男が現れた。

確かワイシャツという名の服だったと思う。

 

「お前何者だ⁉」

「薄々勘づいているんじゃないですか?」

 

男は一度眼鏡を指で押し上げると両手を広げて、笑う。嘲笑う。

 

「ようこそ!我が色欲の渦へ!!僕は何度でも恋する男性女性、勇者に聖女まで歓迎しましょう!

…そして何度でも君たちに絶望を与えよう。君たちの心が折れて自ら絶滅を望むまで」

 

その言葉と共に、竜の尾が飛んで来た。

今、爪を受け止めている竜とは違う。もう一頭この場には竜がいるのだ。

いや、今はそんなことよりもマナは!マナは無事か⁉そう思い辺りを確認すると何時の間にかあの男の隣に移動していた。

良かった。取り敢えずは無事みたいだ。

俺は追撃が来る前に立ち上がると剣を構え直す。

 

「そう言えば祭壇の演出はどうでしたか?」

「最低最悪の演出だった」

 

こちらはドラゴンの攻撃を捌いている最中だというのに向こうは呑気に話しかけてくる。

これもこちらの集中を削ぐ作戦なのか、それとも素であれをやっているとでも言うのか…。

どちらにせよ目の前のドラゴンもあの男も倒すしかない。

 

…だというのに

 

「ッチィ」

 

剣士には防ぐ方法の無いブレスに、二体のドラゴンの爪や牙、尾の連撃。

攻撃する暇がない。

ブレスは避けるしかなく。けれど避けた先にはもう一頭のドラゴンが待ち受けている。

せめて戦う場所がここじゃなければ、仲間がいれば、そう思ってももう遅い。

 

俺は開始一分と立たずしてボロ雑巾と化す。

 

「おいおい、もうちょっと粘ってくれよ王子様?これじゃあ高いコスト払ってサンダードラゴンとウィンドドラゴンを召喚した意味が無いって」

 

上の方で半分笑いながらそんなことを言ってくるダンジョンマスター。奴は俺の髪を引っ張り強制的に自身の方へと向かせる。

 

「それと、君を絶望させてしまう情報をもう一つ教えてあげましょう。一生懸命助けようとした彼女、ミアは実は半分モンスターなんですよ

それもインキュバス。今まで随分清楚気取ってたみたいですけど、その本質は淫乱も淫乱、ど淫乱!さてさて、この後はあれをサキュバスと同じように運用…いや!折角だし、オークとまぐわらせて見ますか!

知ってますか!って知ってるかミストオークを見てますもんね。いやぁ、()()()()()のは個人的に否定派だったんですけど、パートナーの姿をしたオークと、というのは中々悪くない案だと思って採用したんですけど、こんな所で活きるとは…。いやはや、三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったものです。彼女を正気に戻した後試してみましょう」

「っざけるな」

「うん?何か言いましたか?」

「ふざけるなって言ったんだ!ミアのことを好き買って言ってんじゃねぇ!!」

 

俺はダンジョンマスターの手を払いのけるとベルトに挟んでいたポーションを飲み干す。

それを見ているダンジョンマスターはキョトンとこちらを見ているだけで止める気配も無い。それどころか、心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

「大丈夫ですか?もう勝敗は決したと思いますけど…別に僕は命までは取ろうと思っていませんし、彼女も本来は僕の所有物な訳ですよ。

あるべき場所にあるべき物が収まっただけ、彼女の事は忘れて地上で楽しく生きたらどうです?」

 

そんなこと出来るわけない。

ミアの笑顔を忘れることなんてできない。あの日々を思い出を捨てることなんてできない。

ミアの隣にいるこの幸運を手放すことなんて出来ない。

 

それともう一つ、彼女はお前の物なんかじゃない。

ミアの()()はミア自身のものだ。

 

更にもう一つ

 

「お前にいわれる前からミアの事情は知ってんだよ俺はその上でミアの隣にいたいと思ったんだ。

 

ミアの隣にいるためなら、人間だって辞めてやる」

 

※※

 

それはまだ神父様が活きていた時の出来事

夜遅く俺がトイレに起きると、神父様が短剣を持って、ミアの部屋の前に行くのを見た。

俺は神父様が何をしようとしているのか、具体的には分からなかったが、それでもミアを害そうとしているのは子供ながらに分かって神父様の服の裾を引っ張った。

 

「神父様!ミアを苛めないで!」

 

そう言うと、神父様は驚きながらも短剣を収め、俺を自身の寝室へと連れて行った。

そして、俺を椅子に座らせ、自身はベットに腰かけると、ミアについて語りだした。

 

「良いか、イーノ、あの子は…ミアは人間ではない。儂には分かる。あの子にはモンスターの血が流れている。

…お前に分かりやすく言うのであれば人に擬態した怪物なのだ。

故に育ちきる前に殺さなくてはいけない。」

 

人間じゃないと言われても当時の俺には人間とモンスターの線引きなんて出来なかったし、何よりも既にミアに家族の情が移っていたから俺は神父様の言葉に猛反対した。

 

「そんなのおかしいよ!神父様言ってたじゃないか!この孤児院にいる子は皆家族だって!何でミアだけ違うんだよ!」

「イーノ…。人間ではミアと一緒に暮らすことは出来ないんじゃ」

 

その言葉に俺は売り言葉に買い言葉で、いや、違うな、確かに当時は覚悟を持って言った訳では無かったが、それでも確かにミアを守りたいという意思の下に出た言葉だった。

 

「それなら俺は人間じゃなくたっていい!ミアと一緒にいられないなら人間じゃなくてもいい!」

「イーノ…。分かった。もしその言葉を成長した後も胸を張って言えるのであればこれを読み勉強しなさい」

 

そう言い、渡してきたのはとある研究資料だった。

当時の俺にはなんて書いているのか分からなかったが、そこには『モンスターの能力移植実験に関する報告書』と書かれていた。

 

「イーノ、儂は、いや教会とて清廉潔白ではない。権威を得るために、保持するために神より与えられた回復魔法を用いて非道な実験をしていたこともある。

けれど、もしそれがお前のような真っすぐな子供の力になったのなら…いや、これを言う権利は儂には無いな。儂は…この汚れた手でお前とミアの幸せを祈るとしよう」

 

そう言った神父様の手は神父様がいう様に汚れているようには見えなかったが、今ならそれがそう言った直接的な意味では無いと分かる。

 

そして、月日は流れ、俺は冒険者をやる傍らで得たモンスターの素材を自らの体に移植していった。

移植の際には苦痛を伴うものの日常生活を送るうえで不便はないし、何よりも平常時でも身体能力が格段に上がった。

強いて、デメリットを挙げるなら、回復魔法や、ポーションを使うと体の中のモンスターの因子が回復し活性化してしまうため使うことが出来ないという程度だ。

 

※※

 

「ミアの隣にいるためなら、人間だって辞めてやる」

 

その言葉と共に俺の体が変異する。

両腕は肩から掌にかけてまで、びっしりとした赤い鱗が生え、腕も通常時よりも膨れ上がる。更に爪は白銀に輝く鋭い刃物のように形状に換わる。

背中には複数の触手が生え、その先端には鋭い刃が生えていた。

足は逆間接の鱗の生えたものに。

尾てい骨から鱗のある尻尾も生えてくる。

更に目の下には小さい複眼が左右に4つ浮き上がる。頭頂部は植物のような緑色に変わり、花の匂いが鼻腔を擽る。

胴体部は毛皮と黒い靄で覆われたものになる。

 

「な、っんだその姿は!?」

 

驚愕し、後ろに二歩後退したダンジョンマスターに触手を飛ばす。

けれど、それは二頭のドラゴンに止められてしまう。

 

遅い

 

あまりに遅い。

 

 

 

ドラゴンたちの動きが止まって見えた。

 

俺は初めに触手を床に刺して自身の体を持ち上げ、地を蹴ってウィンドドラゴンに一太刀浴びせる。

けれど、その人たちでウィンドドラゴンはその巨体を横たえて、いや、文字通り真っ二つになったことで生命活動を停止した。

 

それを見ていたサンダードラゴンはこちらにブレスを放ってくる。

 

 

「擬態・風竜」

 

しかし、それよりも早く俺はパーフェクト・ドッペルゲンガーの力を使い、自身の腕を変化させる。

それにより、右腕の鱗は緑色へと変わり、風を自在に操る力を得る。

 

その力を使い、剣に風を纏わせると、そのまま刺突を放つ。

風を味方につけた今の俺の刺突によりサンダードラゴンの体には大きい風穴が出来、こちらも生命活動を停止させた。

 

後は、ダンジョンマスターだけだ。

俺は勝利を確信しながらもダンジョンマスターに剣を突きつける。

 

「ミアを解放して貰おうか」

「ふ、ふふ、ふははっははははははははは」

 

突如笑い出すダンジョンマスターに困惑しながらも風の刃を飛ばす。

降伏勧告をしたが、別に相手の返事を待ってやる理由はない。俺は王子でも貴族でもないのだからな。

 

しかし、俺の攻撃は何故かダンジョンマスターに届く前に消えてしまう。

 

「不思議そうですねぇ。いいでしょう教えてあげます。

私の力は破壊魔法、あらゆるものを破壊できる。

取り敢えずはあなたの恋心から破壊させて頂きましょうかね。

いい加減、人の物に執着するその腐った根性にもうんざりしてきました。」

「そうか、全部破壊するという割には自分の価値観は破壊できないみたいだな。

後、ずっと思ってたけど話が長い」

「ア゛ッ…殺す」

 

突如、一見不可視の攻撃が俺の方に飛んでくる。

俺の複眼が捉えてくれていなかったら、今頃死んでいたことだろう。

 

けれど、不可視の攻撃は途切れることなく次々とこちらへと飛んでくる。

正面からだけでなく背後や側面、はては足元まで、あらゆる角度から襲ってくる。

喉から超魔音波を出し、相手の魔力を探知しているから何とか避けれているが、それも限界に近い。

触手も何本か破壊されてしまった。

まぁ、直ぐ生えてくるんだが…。

とはいえ、あれが脳天に当たりでもすれば流石に避け切るのは不可能。

こちらも何か動かなければ…。

 

対策はあるか?

 

そこまで考えた所で俺の目にドラゴンが映る。

そうか、その手を試してはいなかったか。

 

「擬態・破壊」

 

俺は破壊による不可視の球体をダンジョンマスターの破壊の球体へと当てる。

破壊する対象は同じ破壊にして。

すると、破壊の球体は互いに破壊しあった。

成程、運よく上手くいったな。

俺は今度は剣の表面ギリギリに破壊魔法を纏う。そして、敵の球体を次々に斬っていく。

 

「これで五分五分だ。」

「たかが同じ魔法を使えるようになっただけ!随分と自己評価が甘いんですねぇ!」

 

そう強がるダンジョンマスター。けれど俺たちの距離は着々と近づいている。

ダンジョンマスターは攻撃を辞めて破壊魔法を自身に行使する。

俺も破壊魔法を扱えるようになったから分かる。あれは自身の限界を破壊しようとしているのだろう。

 

今だ!

 

「擬態・雷竜」

 

俺は擬態先をサンダードラゴンへと変える。

そして、激しい雷光と共に、ダンジョンマスターへと雷が襲い掛かる。

それに対し、咄嗟に破壊魔法で防御する。

防御は半分成功で半分失敗していた。

つまり雷光までは防ぐことが出来ていなかったのだ。

光に目をやられ、一時的に視界を封じられたダンジョンマスター。

 

しかし、流石と言うべきなのか自身を中心に球状の破壊魔法を張っている。

あれでは擬態で破壊魔法を模倣して破ったとしても破られたと気づいた瞬間カウンターを決めてくる可能性がある。

完全に防御にリソースを割いた状態になっているが故に崩しづらい。

 

けれど、俺にも策がある。

 

「くそ」

 

ダンジョンマスターはそう呟き、落ち着かないのか見えもしないのにせわしなく辺りを見回してる。

それから数分、漸く視力が戻って来たのか、ダンジョンマスターは焦点を合わせた状態できょろきょろと辺りを確認する。

 

そして、一点に注目した。

 

「サンダードラゴンの位置が違う」

 

その言葉を受け襲い掛かる。

ダンジョンマスターは面食らったように一瞬硬直したが、直ぐに迎撃する。そしてニヤリと頬を上げるとサンダードラゴンを指さす。

 

「はっ!サンダードラゴンに擬態したんですか!だが無駄でしたね!」

 

勝ち誇った笑みを浮かべるダンジョンマスター。

けれど、その表情は破壊したサンダードラゴン…その下から伸びていた触手を見た瞬間消え失せる。

 

「触手にはこんな使い方もあるんだ」

 

そして、俺はサンダードラゴンがいた方角とは違う場所から姿を現し、ダンジョンマスターに剣を振るう。

既に破壊魔法を剣に纏わせているため、俺の剣はダンジョンマスターの破壊魔法を貫通し、胴体に突き刺さった。

 

「ッく、そ」

 

ダンジョンマスターのその台詞を聞き終えると同時俺は剣を抜く。

いや、抜こうとした。

何故抜けない?

 

俺はそう思い剣が刺さっている部分を見ると、ダンジョンマスターが剣を鍔をがっちりと握っている。

急いで剣から手を離そうとすると、

 

「お前も、道連れだ」

 

そう言いながら鍔を離し腕を強く握ってくる。

更に俺の複眼が破壊魔法の魔力光を認識する。

それも今までの非じゃないレベルのだ。

 

パーフェクトドッペルゲンガーの擬態は完璧だが、俺の擬態は完璧じゃない。あくまでも因子を持っているだけに過ぎないからだ。

だからこそ出力や姿かたちを完璧に模倣することは出来ない。

そのどちらも、本体である俺の能力に左右される。

 

つまり何が言いたいかというと…

 

「防ぎようが無いだろうが…」

「ふ、ふひ、当、然だ」

 

くそ、もう少し…。

 

 

 

 

 

 

華奢な腕が心臓を貫く。

俺のではなくダンジョンマスターのものをだ。

 

一体誰が、とそちらに視線を向けると、ミアが立っていた。

 

「イーノに酷いことするなぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!!!!」

 

驚愕で言葉が出ない。

けれど、俺よりもダンジョンマスターである目の前の男の方が驚愕、いや混乱していた。

 

「馬鹿な…俺は命令を解いてなど…神の気まぐれ?…いや違う。これが人の可能性、なのか。

ふざけるな…ふざけるな!」

 

そう言いながらも、男は倒れる。

俺に頭を預けるように倒れ込む。

 

男はそれでも、倒れながらも最後の力でこちらに顔を向けると血涙を流しながら、言葉を紡ぐ。

 

「どうやら今回、はお前たちの、勝ち、みたいだ。

だが、次が、ある、のなら、今度こ、そ、お前た、ちを絶、望の淵へと叩、き落としてやる。」

 

そうして男は漸くこと切れる。

俺は力が抜けその場に倒れ込む。

すると、ミアが俺に抱き着いて来る。

 

「良かった!本当に良かった。」

「え…と、助けに来たんだけど…助けて下さり誠にありがとうございました?」

「ふふっ、どういたしまして。私の方も、助けてくれてありがとう」

「お、おう」

 

というか、俺、今異形形態じゃないか?

触手も生えてるし、目も複眼だ。

 

「あ、あの、あんまりこの姿見ないでくれないか?恥ずかしいっていうか、こんな姿見られたくないっていうか…」

「そう、かな?私は全然気にならないよ?だってその姿は私の隣に立つためのイーノ覚悟の現われなんでしょ?」

「えっ!聞いてたの!聞こえてたのか!」

「う、うん。ぼんやりとだけど。聞こえてたよ。…私の一方的な片想いじゃなかったんだね」

「…へっ、え、つまり、お前も俺のこと…」

「…う、うん。そうだよ。」

「まじかぁ、おお、まじかぁ」

 

何だろう。嬉しさで言葉が出ないってこういうことを言うんだなって感じだ。

今ならスキップで空まで歩いていけそうだ。

 

「それと、ね。…お願いがあるの」

「ん、なんだ?」

「服貸して?」

 

服…確かに今のマナの格好は痴女と言っても過言ではない。

踊り子でワンチャン通るかもしれないな、と言うレベルだ。

けれど、俺も服なんて今着ている一枚しかないしなぁ。

 

「ごめん、俺も服は今着ているのしか持ち合わせが無いんだ。」

「うん、だから、それ脱いで頂戴って言ってるの」

「え?」

「いいでしょ。イーノが変態扱いされるよりも私が痴女扱いされる方が大変じゃない!」

「いやいやいや!」

「早くして!」

 

結局、俺は服を脱がされ、パンツ一枚で孤児院へと帰ることになった。

そして、この日より俺の二つ名は全裸戦士へと変わったのだった。

 

うん、ミアとのその後だって?

 

幸せだよ。今もな。

 


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