ウルトラマンティガ THE SECOND   作:ヤステル

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これ分量長かったけど上手く起承転結の四構成で纏められるんじゃね?


其の4

   8.

 

   *

 

 メトロポリス郊内にある広場に、TPC及びS‐GUTSの作戦本部の仮設テントがひしめき合っていた。

 テントの一つにイルマとエミがいた。

 本作戦の総司令はイルマだ。

 イルマは、ツバサが指示した通りの配置を隊員たちに指示し、その時が来るのを待っていた。

「参謀、失礼します」

 イルマがいるテントにS‐GUTSメットを抱えたフドウとマリナがやってきた。

「住民の避難、及び全隊員の配置が完了しました。これから自分たちもガッツイーグルに乗り込み、他の隊員たちと連携を図りたいと思います」

「有難う。ご苦労様」

 イルマはフドウたちに労いの言葉をかけた。エミは、マリナに手を振ると、マリナも振返した。

「しかし、キリエル人が再び襲撃してくるとは……失礼ながら、これは確かな情報なのですか?」

 フドウが尋ねた。

 イルマは、両腕を組んで、間違いないわ、と言った。

「一昨日、エンジョウ隊員とマリナ隊員がシステムνの実験を行ったときに、ツバサ隊員が偶然にも映像を録画していたのよ。その中に、キリエル人が借りていた男の姿があったのよ」

 イルマが、そう言うと、マリナは思い出した。

「そういえば、あいつと一緒に何だか変な男がこっちを見上げてながらにやけてたわね。何か知らないけど、すごい気持ち悪かった」

 その男よ、とイルマは言った。

「私にはよく見覚えがある男だった。でも、あくまで映像だけでは何とも言えなかったから、エンジョウ隊員にシステムの実験交渉を兼ねてこの男を調査するように私が依頼していたの」

 イルマは、そう話をでっち上げた。あくまでツバサの無断単独行動ではないというフォローをするためだ。

 エミは一瞬顔を曇らした。だから、ツバサは……、とエミは小さく呟いた。

 その男が、自分の大叔父の助手であったこと――後になってイルマからその正体を伝えられたとき、エミはショックを受けた。信じていた人が自分だけでなく家族を――何より沖津を騙していた、と思うと苦しくなっていたのだ。

 ――そういえば、大叔父さんが亡くなった時も、彼は何一つ言葉も無かった。姿さえ現してくれなかったな……。

 と、エミは悲しい思い出を思い出していた。

 だけど乗り越えよう、とエミは思った。同時に、彼は敵、ということを辛くも噛みしめ、今、戦線に立ったのだ。

「では、ツバサは今……」

「そのままよ。現在、キリエル人が潜伏している可能性のあるアジトに単独で潜入させてるわ」

 フドウの問いにイルマは答えた。

「単独ですか……」

 フドウがあまり納得してない様子だ。

 当然、エミもマリナもだ。

「ずっと一人で抱え込んでいたのに、わたしたちって全く気付かなかったなんて……」

 エミは、ツバサに一番近づいていたのに、それでもツバサの言葉の真意も知ることが出来なかったことを悔やんでいた。

「イルマ参謀。それだと、かなり不利なんじゃないですか? あいつはまだ単独で作戦を成功させるには、まだ力不足だし……」

 と、言いながら、マリナの言葉はイルマからツバサに向けられた。

「っていうか、どうしてわたしたちに相談しないのよ。わたしたちが協力すればすぐにでもとっちめられたのに」

 マリナはそう文句を言う。イルマは、微笑しながら答えた。

「御免なさいね。それも私が指示させたのよ。今回もし、キリエルが何かしらを企んでいたとしたら、集団で調査すると向こうに感づかれる可能性があったのよ。エンジョウ隊員一人ならば、敵に知られる可能性は低いと考えたの。幸い、エンジョウ隊員は射撃や格闘のスキルのデータがかなり向上していたから、単独でも大丈夫だと考えたのよ」

 イルマの言葉にマリナは慌てながら答える。

「ああ、いや。違うんです! そういう意図があるなんて思ってもみなかったので……。ほら、あいつって一人だと何考えてるか分からないし、何しでかすか、先輩としては胸が痛む要因というか……」

 マリナの言葉にエミは思わず、微笑した。

 フドウとイルマは互いに顔を合わせ笑った。

「その気概があるなら大丈夫ね。それでは、どうかご無事で」

 イルマがそう言うと、フドウとマリナは、了解、と声を合わせて言った。そして、二人はテントから出ていった。

 

 さて……、とイルマは考えた。

 ツバサの言う通り、敵が現れるであろうエリアに住む人たちは予め避難させた。

 ティガの援護のためにS‐GUTSを総動員させ、さらにTPC隊員たちも動員させ武装を固めた。

 そのツバサの指示に、イルマの提案を織り交ぜた。

 まず、エミとその他の職員を中心にメトロポリス全域の電力送電システムにハッキングを仕掛け、限界ぎりぎりまで全ての建物の電力を上げる。これは、前回も咄嗟ではあったが逆転する切っ掛けとなった。

 電力会社や政府への許可を待っていては何年かかるか分からない。勝手にやったことへの文句は後で聞けばいい。

 敵が今まで夜を選んできたのは、単なる偶然かと思ったが、それも違うとイルマは思えてきた。

 ティガは、夜だと活動源である光を最大限取り入れることが出来ない。そのため、街のライトなどが、ティガが力を最大活用出来るための重要なものになるのだ。

 ツバサの言うことが正しければ、キリエル人は、ティガにとって全てにおいて不利な状況を作ってくるはずだ。

 だから、こちらもその不利を打ち消す手を講じなければならないのだ。

 だが、もしそれも相手の手の内ならば……。

 イルマは、自分にしかない奥の手がある。今回は、それも使わせてもらう、と既に手を打っていた。

 そして、とイルマは自分の手元にあった一枚の紙を見た。

 エミが直接持ってきてくれた一枚の紙――これが、ツバサが仕掛けた最後の切り札。

 これを使わないことを祈りたい、とツバサは言っていたが、果たしてどうなるか……。

 イルマは、通信機を手に取った。

 

「全隊員に告げます。今回の作戦は、極めて重要なものとなります。今までウルトラマンに幾度となく挑戦し、苦戦を強いられたキリエル人が、再び我々人類に挑戦してこようとしています。

 敵は、幾度の敗戦を糧に、我々への対策を考え、そして我々の完全な敗北のために、今日まで息を潜めていました。

 だけど、決して……決してここで屈してはなりません。人類に光がある限り、奴らの思いにはさせません。

 だからみんなにお願いします……みんな、生きて帰って」

 

 それは全隊員だけではなく、今ここにいない、ツバサに充てての言葉だった。

 イルマの言葉は、全隊員の士気を上げるに相応しい激励となった。全員が、イルマの言葉通り、生きて帰ってくることを目標とし、目の前の敵を完膚なきまでに倒す――と、誓った。

 そして、その言葉の後――。

 

 イルマたちがいるエリアから数キロ離れた都市部中心地に――。

 

 ティガは姿を現した。

 

   *

 

 ティガが大地に立つ。

 だが、周辺には人はおろか生物の気配も感じない。

 それでも、敵は――キリエル人は確かにそこにいた。

「ようやく姿を現したな……君を待っていたよ!」

 イタハシが、ティガと同じ目線まで宙に浮き、ティガを恫喝していた。

 ティガは構える。

「君は、気付いているかね? この世界における矛盾を――君という世界の矛盾点を!」

 

   *

 

「矛盾点?」

 イルマが呟いた。

 イタハシの声は、拡声器がないにも関わらず、イルマがいる所や、戦闘機に乗っているS‐GUTSの隊員たちにも鮮明に届いていた。

 

   *

 

「思い出したまえ。君たちが光の巨人となって戦ってきた年月を。君たちが現れたことで一体何が起こった? 数多の侵略者と怪獣がこの大地に、この星を蹂躙せしめんと幾度の戦いが引き起こされた」

 イタハシは、宙を浮きながらティガの周りをゆっくりと移動している。

「光の巨人たちは己が正義の使者と評してそれらに立ち向かっていった」

 イタハシはティガに指をさした。

「優越に浸れただろう。誰もが君を、君たちを恍惚に見ただろう。敬意を表しただろう。安堵しただろう。心の拠り所を、自分たちを守ってくれる存在が現れたことに、さぞかし興奮し感謝しただろう。いつだって、我々には光の巨人となって守ってくれる戦士たちがいるのだから、と」

 だが、それは間違いなのだよ! と大声で叫んだ。

「それは一種の麻薬なのだ。正義に酔いしれ、戦う者、守られる者の間に快感を生む、驚異の麻薬なのだ。君たちはそれを、人類に教え込んでしまったのだよ!」

 イタハシは、とあるビルの屋上に身を置く。

「我々は、君たちが人類に施した麻薬を取り除かなくてはならないと悟った。本来なら、人類にそういった間違ったものを与えることなく、正しく、真の平和と正しい文明の発展を我々なら与え、導くことが出来たはずなのだ!」

 それを君たちが奪っていったのだ! とイタハシは結論付けた。

 

   *

 

『何を勝手なことを言っているんだ、あいつは? 聞いているだけで反吐が出るぜ』

 ヒロキの乗るα号からの通信がフドウとマリナの乗るβ号に届く。

『言っていることは詭弁だな。正義というものをはき違えているようですな、隊長』

 シンイチの通信も届いた。

 フドウは頷く。

「当然だ。奴の言っていることは、ただの言い掛かりだ。口達者な悪は、言葉の引き出しが多い。ただ、それを披露して、人々にそうだ、と思わせたいんだ」

「ふざけるんじゃないわよ……」 

 マリナが呟いた。

 それは正義ではない、とマリナは断言出来る。自分自身の戦う理由、自分自身の正義――マリナもそれを持っている。ただ、キリエル人のように他人の持つ正義を否定して、自分自身の捻じ曲がった正義の皮を着た悪意を披露しているだけの悪と一緒にしてほしくなかった。

 ツバサなら……あいつは……わたしの考えを肯定してくれた。考えてくれた。それも正しいと思ってくれた……。

 マリナは、はっ、と気づく。無意識とはいえ、何を考えてしまっていたんだが。

 でも、それでもキリエル人の言い分は間違いだと言うことが出来る。

 

   *

 

「だが、その正義という名の麻薬は全て取り除かれた! 十五年前――君たちの同胞が消えていったあの日から、ようやく人類は君と決別することができたのだ。異星人のいない未来を歩むことで、人類は正しい道に戻ることができたのだ」

 しかし、どうだ、とイタハシは叫ぶ。

「君がいなかった十五年間、人々はどう思っただろうか? 君が恋しくなったか? 違う! 人類は初めて気づいたのだ。君がいなくなったことで平和が戻った。君がいるから、人類は数多の危機に直面するのだと」

 ティガは一歩後ずさった。

「君という存在はもはや人類の発展にとって障害でしかないのだよ。もう気づいているはずだ。君が正義と評して、多くの怪獣や異星人と戦う度に、多くの人間が救われていると同時に、その戦いに巻き込まれ、知られることもなく死んでいった人間もいるということに! そんな人々は、果たして君に救いを求めるだろうか? 我々は誰も見捨てることはない。人類を正しく導くために、誰一人として!」

 イタハシがそう断言する。

 

   *

 

『勝手なこと言って……。間違ったものを与えることなく人類を導く? 導き手を気取って……。わたしの家族を騙して、大叔父さんを殺しておいて……』

 エミがうっすらと涙を浮かべながら、悲痛な声で言った。

 その言葉がイルマだけではなく、隊員たち全員に届いた。

 

   *

 

「もう誰も、君を歓迎しない。一時の歓声が上がったことだろうが、それも一瞬だ。今後は君に期待すらかけてもらえないだろう。それを今夜証明して見せよう!」

 イタハシは、両手を天にかざした。

 すると、突然多くのキリエル人が集まり、その周囲に炎のような赤く燃える光が帯びた。そして、イタハシとキリエル人の全てを飲み込んでいき――、

 

 そこに悪魔は現れた。

 

 キリエル人の戦闘形態――炎魔戦士キリエロイド。

 その姿は前回、前々回のものと比較にならなかった。

 表情は、まるで怒りを表しているかのような醜悪な顔だ。

 ティガを研究していたためか、そのフォルムにはティガを意識したパーツがいくつも見受けられた。

 ティガの色の分け目、プロテクター――ティガと比べれば、キリエロイドの体でデザインはぐちゃぐちゃだが、確かにそこにそれがあることは分かる。

 キリエロイドは自分の力にティガを加えることで、その圧倒的な力で捻じ伏せようと考えていたのだ。

 

 ティガとキリエロイドは互いに構えた。

 そして、互いに相対する敵に戦いを挑んだ。

 キリエロイドが前進すると同時に、右足の回し蹴りを繰り出す。ティガは、その攻撃を察知して、両腕から飛び込んでいき回避する。両手が地面についた瞬間に一気に体勢を立て直し、ティガは後ろ蹴りでキリエルの脇腹を捉えた。

 キリエロイドは二、三歩よろけるが、大したダメージにはならない。

 キリエロイドは、再びティガに迫った。

 頭部、そして腹部への正拳がティガに襲い掛かる。

 ティガは、初撃、二撃をそれぞれ払い、カウンターでキリエロイドの顔面に裏突きを食らわす。キリエロイドは一瞬だけ怯む。

 ティガはキリエロイドの右腕を握り、空へ持っていくように上へ掲げた。引っ張られる力が作動し、キリエロイドの体全体が浮いた。

 ティガはそのままキリエロイドの腹部を掴み、そのまま投げ飛ばした。

 キリエロイドは、上空で体勢を立て直し、前転して再び、体をティガに向け構えた。

 もう一度、ティガに向かって走っていった。

 だが、今度はそれと同時にガッツイーグルの三機が援護に入った。それぞれが、連携をとってキリエロイドに攻撃を開始した。

 光線と同時に火花が散る。ダメージとしては軽微だ。だが、一瞬の足が止まった。

 ティガはそのままハンドスラッシュを放った。

 腹部に当たると、キリエロイドは腹部を一瞬抱え、ティガを睨み付けた。だが、すぐに構え直し、ティガと相対する。

 そして、両者は三度激突した。

 

   *

 

 動きに無駄が無くなってきている――イルマはティガのキリエロイドとの最初の絡みでそう判断した。

 まだ、無駄があるが、初めて戦った時から比べれば、その動きは非常に良い。力のペース配分がよくなっていた。

 だが、まだ最初だ。ティガを研究していたことを考えると、キリエロイドはまだ全力ではない可能性がある。

 イルマは横にいるエミと職員たちに促した。

「送電システムの状況は?」

「電力会社のメインシステムのファイアウォールを突破し、ダミーを張りました。後は、送電システムのメイン部分を占拠するだけです」

 エミがそう答えた。

 イルマは、キリエロイドとティガの激突を見ながら思った。

「人類があなたを見捨てることは絶対にしない。絶対に……」

 その言葉と同時に、エミが涙ながらに叫んだ。

「メインシステム掌握完了! ティガのいるP‐4地区の電力を限界まで上げます!」

 

   *

 

 街のビルや街頭の電力が極限まで上がると同時に、灯りが眩しいほどに輝いた。

 キリエロイドは一瞬だが目を覆う。

 ティガは、周辺の光がさらに明るくなったことで、一瞬だがイルマを見た。

 意図は掴んだ。ツバサが考えられなかった手がここにあった。これはイルマの長年ティガを知っていたからこそ出来る芸当だ。

 

 ティガは、キリエロイドに突進していった。

 左足でキリエロイドを蹴る。キリエロイドは前かがみになって蹴られた腹部を抑えた。

 それと同時に、ティガはキリエロイドの両肩を掴み、敵の上体を起こし、そして、左右に二、三回遠心をつけて投げ飛ばした。

 キリエロイドは、転がっていく。

 ティガはさらに追撃をするためにキリエロイドに接近していった。

 だが、キリエロイドは、悶えたふりをして、ティガが迫ってきたと同時に数発の正拳を繰り出した。

 だが、ティガはそれを華麗に交わした。

 一撃目は、一歩下がって避ける。

 二撃目は、左手で捌く。

 そして、三撃目は、キリエロイドの正拳を左に避け、右足の後ろ回し蹴りを食らわした。

 回し蹴りはキリエロイドの右肩に直撃し、前によろけた。

 ティガは、背後からキリエロイドを捉えようとした。

 だが、キリエロイドも負けない。ティガが迫ってくると予想して、そのまま回し蹴りを炸裂させた。

 それでも、今回はティガが優っていた。

 ティガは、キリエロイドの後ろ蹴りを読んでいた。両腕でキリエロイドの右足を掴む。ティガは両腕でキリエロイドの足を抱え、右の脇腹で抑えた。そして、回転をかけるようにキリエロイドを投げた。キリエロイドは、独楽が回るかのように回転しながら地面に落下した。

 キリエロイドは、起き上がり再び構えるも――。

 ティガは既に、次なる体勢に入っていた。

 両腕をティガクリスタルの前で交差させていた。

 クリスタルに赤色の光が灯る。そして、その刹那、ティガの体が赤色に変わった――パワータイプとなって再び肉弾戦を仕掛けた。

 キリエロイドは、飛び前蹴りを放つ。だが、これはティガに楽々と避けられてしまう。

 キリエロイドとティガは互いに背中を見せ合う状態になった。ティガは、すかさず右の裏手をキリエロイドの背中に一発当てる。

 これが次の攻撃への布石となり、道となった。

 キリエロイドはよろけながらもティガに向きよる。

 ティガは、右上段の正拳、そしてその次に左下段の正拳と二発を繰り出した。

 だが、キリエロイドも同じだった。

 左上段の払い手、そして右下段の払い手。ティガの攻撃を受け流そうとした。

 だが、それぞれの攻撃は、それぞれの拳と手が接触した場所で止まった。互いの腕――互いの攻撃が交差した状態で静止した。

 ティガとキリエロイドは、その状態から腕を曲げつつ互いに目と鼻の先まで接近した。

 その間は僅か数秒足らず――。

 仕掛けたのはティガだった。

 交差した両腕を一気に上へ引き延ばす。ティガが両手を上げたと同時にキリエロイドの両腕も釣られるように天を掲げた。

 ティガは、上半身がら空きになったキリエロイドの体に左の手刀を食らわす。

 しかし、それで大したダメージにはならない。

 そこから、ティガは、溜めた力を右拳に宿し、一気に炸裂させた。

 後ろによろけるキリエロイドに、ティガはさらに猛追した。

 連続の正拳。

 一撃。

 二撃。

 三撃。

 四撃。

 そして、最後に右足の足刀蹴りを見舞った。

 渾身の力を込めた蹴り――ましてや肉弾戦を得意としたティガのパワータイプの力を上乗せした蹴りの威力は計り知れない。キリエロイドは、その蹴りをまともに食らい、後ろへ飛んだ。

 キリエロイドの背後には無人のビル。

 今までなら、キリエロイドは体勢を立て直していた。

 だが、今回は違う。

 ティガの流れるような連続攻撃からのこの一打は、キリエロイドに立て直させる機会を与えなかった。キリエロイドは、無残にもビルに直撃した。ビルが倒壊し、その瓦礫と共に、キリエロイドが埋まっていった。

 だが、キリエロイドはすぐに起き上がった。余力はまだまだある。

 ティガはすかさず構えた。灯りが限界まで灯っているこのフィールドは、昼間に戦っているのと同等――ティガの力を最大限に使える場だ。ティガ自身もまだまだ余力は残っている。

 ティガはキリエロイドに駆けていく。

 だが、キリエロイドは次の戦闘の選択肢を変えた。

 キリエロイドは、今度はティガに迫ることはなかった。両腕から橙色の光が灯っていた。エネルギーを溜めていたのだ。

 ティガはそれに気づき、途中で足を止めた。

 キリエロイドは、両腕から獄炎弾と呼ばれる火炎放射を放った。

 ティガは、咄嗟に放たれた獄炎弾に冷静だった。放たれたそれらを華麗に両手でさばいていく。

 キリエロイドはさらに力を溜めた。そして、右手から渾身の獄炎弾が放たれた。

 ティガは、獄炎弾が放たれたと同時にキリエロイドに向かって再び駆けて行っていた。

 目の前に迫る獄炎弾を、空中で飛んで一回転してそれを避けた。

 通り抜けて行った獄炎弾はビルに直撃する。爆発音と噴煙と共に、ビルは爆発四散し、粉々になったビルだった欠片は、その場に溜まり、山となった。

 一回転したティガは、そのまま飛び蹴りをキリエロイドに食らわせた。キリエロイドは、顔面にまともに蹴りを食らい、その場に倒れこんだ。

 ティガは、体勢を立て直すと同時に、倒れたキリエロイドを抱え、そのまま投げ飛ばした。

 キリエロイドは、無情な声を発しながらそのまま地面に叩き付けられた。

 ティガは構える。キリエロイドは、よろめきながらもティガに相対した。

 

   *

 

「すごい! ティガが押してますよ!」

 エミは、モニターに映るティガとキリエロイドの戦いを見てそう言った。

「今までと違って、ティガの動きもすごく軽快です。ガッツイーグルの連携援護しっかりと合っていますし、これなら……」

 エミは、期待に胸を膨らませているようだ。

 だが、果たしてそうなのか、とイルマは思った。

 確かに、ツバサの動きは、以前と比べて良くなった。戦い方も自分の戦い方を見出したのは戦闘を見ればよく分かる。自信もついている。その自信が戦いの中にしっかりとのっている。

 だが、何故だろうか。こんなにも優勢のはずなのに、胸のわだかまりが一切取れないのは。

 一つの方法を晒した。そして上手くいった。

 ――いや、上手くいきすぎなのだ。

 キリエルがティガを研究していたのなら、光がティガの活動源であることは知っているはずだが……。

 それとも気のせいだったのか。

 イルマは、険しい顔をしながらモニターを見つめていた。

「もし、ここまでが向こうの計画通りだとしたら……」

 イルマが呟いたその時だった。

 PC画面上に警告の文字と警告音が流れた。

「どうしたの!」

 イルマが叫んだ。

「送電のメインシステムにウィルスが!」

 職員がそう叫んだ。

「ウィルス……やっぱりそう来たのね……」

 イルマの不安は、現実となって襲い掛かってきた。

 イルマは冷静に気持ちを切り替えて、状況を確認した。

「現在はどうなってるの?」

「P‐4地区の電力を限界まで上げてからすぐです。突然、警告音と共にタイムリミットが表示されたんです」

「タイムは止められないの?」

「無理です! ウィルス対策ソフトがまるで機能しません!」

 イルマは、エミの方へ顔を向ける。

「エミ隊員。あなたはどう?」

 エミは、一心不乱にキーボードを叩いていた。エミは、キーボードを叩きながらもイルマの質問に答えた。

「分かりません。色々対策してるのに、何も通じない! わたしが知っているウィルスとは全く違うんです。効率性があまりに悪いものなのに、でもウィルスとしての効率性はいい……」

 そんな、とイルマは呟いた。

 この手をイルマは予め読んでいた。だが、ウィルス対策はエミを含めたコンピューター関係のスペシャリストで対策出来ると踏んでいた。

 だが、考えが甘かったようだ。キリエル人は、対策されることを予期していたのだ。

「違う……これ、ウィルスじゃない!」

 エミが叫んだ。

「どういうこと?」

 イルマが聞いた。

「システムを乗っ取ったり、データを奪取したりする機能がこれにはないんです! これは……まるで……爆弾!」

 爆弾……そう聞いて、イルマは悟った。

「まさか……やられたわ!」

 イルマはそう言った。

 システムを乗っ取って自由に悪用する、と考えていたイルマの考えは間違っていた。キリエル人が仕掛けたのは、まさしく爆弾だったのだ。

 キリエル人は、システムを掌握するよりも、システムそのものを破壊することを選択したのだ。

 そして、タイムリミットのカウントが0になった。

「システムダウン……! こちらが仕掛けたものが跡形もなく消し飛びました」

「ウィルス対策ソフトも……消えた……」

 職員たちが次々に報告していく。

「電力送電システムそのものが……消滅した……」

 エミはがっくりと肩を落とした。

 その瞬間、街中の電力が落ち、街は完全な夜となった。

 

   *

 

 キリエロイドを投げ飛ばし、再び相対する。

 ツバサは、自分の戦い方に驚きを隠せなかった。

 相手のデータを目測で数値化し、相手の攻撃や防御の速度や威力を予想し、それに沿って自分の力をコントロールして攻撃、防御をする。

 ただそれだけだ。自分のステータスはからっきしだが、これほどまでに強敵と戦える。

 キリエロイドの戦い方は無駄がない。確か、キリュウは、戦闘は不得手と言っていた。となると、相手は戦闘用もいるということだ――相手は戦闘に特化したキリエル人ということだろう。

 だが、相手のステータスは大体頭の中でステータス化出来ている。そこから繰り出される攻撃も、戦闘パターンも今までやりとりで把握は出来た。これならば、奥の手は使う必要はなかったか――。

 そう思っていた時だった。

 

 突如、街灯の光が一瞬にして消えた。

 

 ティガは、一瞬の出来事に驚く。そして、わずかに首を左右に振り、何が起きたのか確認した。

 メトロポリス中の明かりが全て消えている。辺りは闇に近い。真っ暗だ。

 ツバサは一瞬で察した。

 ――電力がゼロに落ちた……。

 だが、だからといって何かが変わるはずがない。光が消えて、確かに常に全力が出来なくなった。

 だが、それだけだ。充電器から外れた端末のようなものだ。今はまだフル充電の状態だ。そうそう倒れることはない。

 と、ツバサは思った時には、もう遅かった。

 

 ツバサはあくまで予測することが出来る。だが、予知は出来ない。どんなにその計算が正解に限りなく近くても、それは本当の「正解」にはならないのだ。

 所詮、人の頭脳は、機械の正確な答えを出すとは違って、個人的見識な答えを優先してしまうのだから。

 

   *

 

 街は暗い。

 周りに何が起こっているのか分からないが、目が徐々に慣れてきた。

 だが、電力送電システムそのものが消えてしまった所為で、どこのプラグを挿し込んでも電気は通らない。PCや機械類はおろか簡易照明すら一切つかなくなってしまっているのだ。

 使えるのは、端末などの光と電池などで使える懐中電灯だけだ。

 だが、TPCはこんなことでは怯まない。

 イルマは、W.I.T.を開けて、TPC本部へ連絡した。

「至急、TPCの予備電力の一部をこっちに回して」

 イルマがそう指示すると、テント周辺の明かりが戻っていった。

 TPCでは、メインコントロールシステムが停止、掌握された時に、サブシステムに切り替えることが出来る。

 そして、新たに基地が移動された時に電力も基地内で発電できるシステムを考案した。だが、それはあくまで電力が落ちた時を見越してだ。

 予備電源とはいえ、TPC内のみでしか使えない程度の電力しか蓄えられないため、街に明かりを灯すことはできない。

 作戦本部で使う電力程度なら使うことが出来るのだ。

「エミ隊員。今のうちに、電力送電システムを何とかすることが出来る?」

「何とかと言われましても……システムそのものが消滅したので、どうすることも……でもやってみます」

 エミは、再びPC作業に戻った。

 イルマは、端末を取り出して、あるところへ電話した。

「もしもし? 今、どこにいる? ええ。やっぱりお願いするわ。こっちに来てくれる? 有難う。大体どれくらい? ……そうよね。でも急いで頂戴」

 そう言って、電話を切った。

「参謀……? 一体誰に電話を?」

 エミが尋ねた。

「ちょっとしたつてよ。この戦いに勝つ方法を持っているかもしれない……私の切り札よ」

 

   *

 

 ティガは、キリエロイドに駆けていった。

 回し蹴りを繰り出すも、キリエロイドは、それを避ける。ティガは、体の向きを一気にキリエロイドの方へ向けて反撃する機会を与えない。

 両者は、距離を保ちながら相対していた。

 距離として、一歩、二歩踏み出せば拳がぶつかる距離だ。

 この時、攻勢に出たのはキリエロイドだった。

 突然、至近距離から獄炎弾を放った。

 距離が距離のせいで、ティガは避けることが出来なかった。

 咄嗟に両腕を交差させて顔を覆う。

 獄炎弾は、ティガの腕と右脇に直撃した。

 わずかだが、ツバサ自身は痛みを感じた。いくら防御力があるとはいえ、小さな痛みもこの先に来る大きな痛みの元だ。食らうのは致し方ないとはいえ、食らっていいものではなかった。

 ガードしている所にキリエロイドが飛びかかってきた。両肩を掴まれ、そのまま膝蹴りを腹部に食らった。

 だが、ティガは掴まれた両肩を振り払い、横蹴りでキリエロイドとの距離を離した。

 キリエロイドは後退する。

 そして、キリエロイドは、今までとは違う動きを見せた。

 両腕を体の前で交差させ、振り下ろす――まるで、ティガがタイプチェンジしているかのように。

 そして――。

 

 キリエロイドの体が変化した。

 

 プロテクターを真似た模様はそのまま残っているが、体が赤黒く変色していった。先ほどまでとは違って、元からあった肉体にさらに上乗せしたかのように体が太くなり、硬化していった。

 赤黒い体には、所々色が変色していない部分があった――ティガのパワータイプの模様に類似しているかのように。

 ティガは一瞬驚いた。

 変化したのは驚いたが、ここまで変化するとは思わなかった。色や体の構成は違うとはいえ、ティガのフォルムに酷似させるとは一体誰が考えようか。

 だが、怯むことは出来ない。

 何かが変わったとはいえ、ここで下がるわけにはいかないのだ。

 ティガは再びキリエロイドに迫撃戦を仕掛けた。キリエロイドも、ティガに対抗するようにティガに向かっていった。

 

   *

 

 姿を変化させたキリエロイド――それは、正に前回の再現のようだった。

 前回も、ティガに対抗するために、それぞれの対応型のフォームへ姿を変えていた。

 だが、今回は、対抗するためだけではない――姿形から、明らかにティガそのものになろうとしている。

 顔や体はキリエロイドのままだが、フォルムやその模様までもをティガに近づけて、ティガに勝とうとしている。

 それは、ティガに対する挑発だ。

 イルマは、外に出て、遠くで微かに見えるキリエロイドを見ながらそう思った。

 だが、はっきり言えることは、前回は、ティガはそのフォーム対応で完全に敗北した。

 ティガに近づけるために、さらなる変化を遂げたキリエロイド。果たして、ダイゴよりも戦闘力が劣るツバサには太刀打ちできるのか?

 結果は、火を見るよりも明らかだ。

 

   *

 

 それは一方的な暴力だった。

 

 互いに駆けて行ったティガとキリエロイドは、まず初手に、右の正拳を繰り出すことを選んだ。

 だが、ティガの正拳が、キリエロイドの正拳と交差し、顔に届く前に、キリエロイドの拳が先にティガの胸部を貫くように炸裂した。

 ティガは――ツバサは、今までで味わったことのない激痛を受けた。

 あまりの衝撃に、ティガは、胸部を抱えて後退する。

 だが、相手の次の一手を読むまでに、キリエロイドの豪快な攻撃は、容赦なくティガに襲い掛かった。

 左の回し蹴りがティガの顔面に炸裂する。ティガは、一気に体ごと右へもっていかれた。

 その後、今度は右足の回し蹴りがティガを襲う。左右に揺さぶられたティガの体は、そのまま倒された。

 キリエロイドは、余裕の足取りで、うつ伏せになってもがいているティガに歩み寄った。

 両肩を掴んで、ティガの体を無理矢理起こすと、今度は掌底で、ティガを押した。

 ティガは、掌底で食らったダメージと同時に、足のバランスを完全に崩した。そして、そのまま仰向けのままで倒れていった。

 ビルが一緒に倒壊する。

 ティガは、起き上がり、膝をつきながらもキリエロイドに構えた。

 キリエロイドは急がず、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 その間に、ティガ――ツバサは次の一手を考えていた。

 パターンは限られている。キリエロイドは自身の勝ちを確信している。その中で次にとってくる行動を考える。

 そして、キリエロイドは右足を高く振り上げた。

 ティガは、次の攻撃を察知して左へ飛びこんだ。

 キリエロイドのかかと落としが襲い掛かる。だが、ティガの判断は間違っていなかった。かかと落としが振り落されると同時に左へ飛んだティガは、強烈な技を回避することが出来た。

 かかと落としが倒壊したビルの破片を破壊するだけになった。

 ティガは、左へ飛んだと同時に、両足で、隙だらけのキリエロイドの左足を挟み、飛び込んだ時の引きの力を利用してキリエロイドを転ばせた。

 その隙にティガは、うつ伏せになったキリエロイドに乗りかかった。

 両手を絡ませ、そのままキリエロイドの背部に叩き付ける。さらに、可能な限りの正拳をキリエロイドへぶつけた。

  だが、キリエロイドは、その状況の中でも冷静だった。

 キリエロイドは、ティガが拳を背中に叩き付けた瞬間に腕を曲げ、手を頭部から肩に円を描くように背後に持っていった。

 ティガの右手首をキリエロイドが捉えた。

 ティガは、キリエロイドの手を振りほどくために、左の手刀を落とした。

 だが、それもキリエロイドは読んでいた。左手首も掴まれ、ティガはほぼ拘束された状態になった。

 キリエロイドは、両腕を地面に叩き付けるように振り下ろす。

 ティガは、そのまま一回転して仰向けになって倒れた。

 ティガが倒れたすぐそこにはうつ伏せになったキリエロイド。そこからのスタートはうつ伏せが有利だ。

 今度は敵の番だった。キリエロイドは、起き上がり仰向けになったティガに乗った。

 キリエロイドは、ティガにやられたように無差別の正拳を連続でティガに襲い掛かった。

 最初の数撃は、ティガでもさばけたものの、次から次へと、威力が衰えることのない猛攻が徐々にティガの体や顔を捉えていった。

 ティガは、咄嗟にキリエロイドの手首を掴んだ。

 計算ではなかった。猛攻を逃れたいという思いが作動した結果だった。反射的にキリエロイドの両手首を掴んで、猛攻を止めた。

 だが、キリエロイドの両腕を完全に止めるには力が全く足りなかった。

 キリエロイドは、そのままティガの首を絞め始めた。

 ティガは苦しみだす。いくら巨人とはいえ、中身はツバサ――人間なのだ。掴まれればひとたまりもない。

 視界がかすんできた。

 気絶するのも時間の問題だ。

 

   *

 

「隊長!」

 マリナが叫んだ。

「分かってる!」

 フドウも同じ考えだった。

「各機、ティガを援護! その後、フォーメーションο(オミクロン)!」

 フドウの通信が各ガッツイーグルに届く。

 全機から、了解! と必死の返答が返ってきた。

 

   *

 

「ああ、ティガが!」

 エミは叫んだ。

 目の前に映る光景に、TPCの職員たちも愕然となっていた。

 ティガがこれほどまでに劣勢を強いられるとは誰が思っていただろうか? 

 灯りが消えたと同時に、キリエロイドは本性を現した。圧倒的な戦闘力と破壊力をもってティガを追撃する。

 イルマは、ツバサが言っていた時からある程度の覚悟はしていた。だが、現実に見せられて、ここまでの差があったとは誰が考えようか。

 ツバサの切り札を使うべきだろうか? 

 いや、まだだ、とイルマは思う。

 ツバサの切り札を使うのは、自分が用意した奥の手を使ってからだ、とイルマは元から考えていた。

 イルマの切り札――そろそろ来るはずだが……。

 

「ああ! 良かった! ここだったか!」

 

 突然、男の声が聞こえた。

 それはイルマにとって一番知っている男の声だった。

 男がテントに入ってくると同時に、TPC職員たちが警戒し武器を構えた。

「だ、誰だお前は!」

 当然の反応だろう。いきなり見た事もない部外者が作戦本部のテントに入ってきたら、誰だって警戒する。もしかしたら、異星人による襲撃かと思われるだろう。

 だが、イルマは、全員を落ち着かせた。

「みんな、落ち着いて。彼は私が呼んだの」

 と、イルマが言うと、参謀が……ですか? と確認を取るように呟いた。職員たちはすぐに手持ちの武器をしまった。

「間に合ってよかったわ」

 イルマが男にそう言う。

「いや、参ったよ。仕事終わりで家の近くまで来ていた時に電話が来るんだから。しかも完全に停電で、必要なものを探すのに苦労したよ。辺りも真っ暗だったからここまで来るのに結構苦労したね」

 男がそう言った。

「とにかく良かった。今は時間がないの」

 イルマが、そう言うと男は、だろうね、と言った。

「戦闘は何となくだが見えたよ。相当やばいね、あれは」

「ええ。だから、あなたになら力になれるかもしれない、と思ったのよ」

 なるほど、と男は言う。

「それじゃ、やりますよ。PC貸してくれない?」

 男が、そう言うと、イルマはエミの隣にあるPCを指さした。

 男は座る。エミに視線を向けて、軽く会釈する。エミも思わず会釈した。

 男は、PCを操るかのように捜査していく。タイピングも早く、エミと同格かそれ以上だ。

「ははあ……こいつは……。跡形もなく吹っ飛んでるな……」

 男は、画面を見るなり言った。

「ええ。もしかしたら新種のウィルスではないかと……」

 職員がそう言った。

「わたしも色々試しているんですけど、何の反応もなくて……」

 エミが言った。

 だが、男は、ふう、と息を吐いて言った。

「まあ、そうだろうな。ウィルスじゃないんだから」

 男がそう言うと、エミやイルマを含め、全員が驚く。

「どういうこと?」

 イルマが聞いた。

 男は、説明した。

「これはウィルスの類じゃないね。文字通りの爆弾なんだよ」

「爆弾?」

 エミが聞いた。

 男は言う。

「これはロジックボムっていう90年代から2000年代前半頃に現れたものだ。まあ、俺が生まれた直前くらいの――今の若者は知らないコンピューター界の過去の遺産だな」

 ロジックボム……とエミが呟いた。

「それは具体的にはどんなものなの?」

 イルマが聞いた。

「これはウィルスではなく、破壊プログラムの一種なんだよ。特定の条件が全て揃うと発動することの出来る爆弾――文字通り、仕掛けたプログラムを跡形もなく破壊する――そこにいたウィルスやワーム諸共全てね」

「ウィルスやワームも破壊する……そんなことが……」

 エミが言った。

「まあ、こういうものは、相手のプログラムを乗っ取って情報を奪って利益を横取りするというよりは、プログラムを破壊して相手の利益を100パーセント損害させるという目的で作られたものだ。自分には、利益はないが、後々になれば自分自身にとって利益になっていくものなんだよ」

「チェルノブイリみたいなものね」

 イルマが言うと、男は、

「そう。それもロジックボムだ。あれは確か二億ドル以上の損害だったっけなあ」

 と、返した。

 エミを含め、誰も「チェルノブイリ」と聞いても、かつて原発事故を起こした事例を思い浮かべるが、どうやら違うようだ。どうやら、今は関係のないものらしい。

 イルマは、ようやく敵の意図を掴んだ。

 キリエル人は、システムを乗っ取るよりも、システムそのものを破壊する手段をえらんだ。

 確かに、乗っ取るよりは破壊した方が断然有利だ。戦いにおいては相手の戦術、戦略兵器を破壊した方が勝率は上がる。

「多分、電力会社の発電システムにハッキングしたら、発動する仕組みだったんだろうな」

 と、男は言った。

 イルマは、それもキリエル人は読んでいた……、と呟いた。

「まあ、だから俺が呼ばれたんだけどな」

 男は、手元にあるバッグを漁っていた。

 エミはえ? と目を丸くした。

「どういうことですか?」

「俺が呼ばれたのは、この壊れたシステムを直すためなんだよ」

 システムを直す――だが、それは、とエミは言った。

「でも、跡形もなく無くなったのに、そんなこと……実際、わたしも何も出来なかったのに」

 

「分かってるよ。だから直すんだ。いや、正確には送電システムをもう一度、一から作り直すってことなんだよ」

 

 一瞬、エミの思考が停止した。

「……え? 作り直す?」

「ああ。一から全部だ」

 ちょっと待ってください! とエミは言う。

「そんなことをしたら、電力会社に作り直されたのがばれるのでは……」

「だから、以前の状態をまた一から作り直すんじゃないか」

「そんなこと……」

 不可能だ。

 送電システムはかなり複雑に作り上げられていたはずだ。それを元のままに作り直すなど、不可能だ。

「どのみち勝手にハッキングしている時点で何か言われるんだろ? だったら、こっちの被害は最小限の方がいいじゃないか」

 それはそうですけど、とエミは不安になった。

「でも、大丈夫なの? 元のままに作り直すということは、システムの構造を覚えているということなのよ? もしかして、設計図とかを入手したの?」

 イルマが聞いた。

 男は、まさか、と言った。どうやら設計図もなしに作るようだ。

「そんな! そんなことが……」

 イルマがそう言いかけた時、男は笑いながら言った。

 

「出来るに決まってるだろ。一体誰が前回の戦いで地区の電力を限界まで引き上げたんだっけ?」

 

 男がそう言うと、イルマは、ようやく思い出した。

 そうだ。前回の戦いで、まだ幼かったこの男が、今エミや職員たちでやっていることをたった一人でやってのけたのだ。

「そうね。無用な心配だったようね」

 イルマが安堵しながら言った。

「そういうこと。だけど、俺一人では、システムを作り直すのにちょっと時間がかかる。そうなっちまうと、ティガが死ぬかもしれない」

 そこでだ、と男はエミの方へ顔を向ける。

「君にもシステム作りを協力してもらう。指示は俺が出すから、手伝ってほしい」

 わたしが? とエミは驚いた。

「手伝うと言われても……システムの土台部分を構築するのにも時間がかかります……」

 エミが言うと、男が笑った。

「おいおい、まさか出来ないっていうのか?」

「出来ます! ただ、時間がかかるというだけで」

 エミはムキになって言った。

 男はまだ笑う。

「おいおい……君は、腐っても木佐貫一族の一人だろう? しかも、PC関係の若き天才であろう君がそんな弱音を吐くなんてらしくないぞ」

 エミは、男の言っていることに驚く。

「何で、わたしのことを……」

 男は、よく知ってるよ、と微笑みながら言った。

 

「何も出来なくて、家業も継ぐこともできない女の子は、努力の末にプログラミングを独学で習得し、個人でソフト販売をするほどまでに成長し、そしてS‐GUTSのオペレーターになり、TPCのシステムの一部をさらに改良した『天才』――TPCの人たちならよく知っているよ」

 

 まあ、俺はTPCの人間じゃないんだけどな、と笑いながら言った。

 男がそう言うと、エミはほんの少しだけ俯いた。何故、自分自身の生い立ちを大ざっぱだが知っているのだろうか。それを知っているのは、大叔父やイルマを含めてごくわずかの人だけだ。

 S‐GUTSの仲間にも……ツバサにだって……。

「君は、その努力でやり遂げたことがたくさんあったはずだ。今回だってそうだ」

 男はバックから一枚のソフトが入っているケースを取り出した。

「君の作ったソフトが、ティガを助ける鍵になるんだから」

 エミは驚いた。

「それは……!」

 そのソフトは、使用者はもちろん、作ったエミが他の誰よりも知っているものだった。

「わたしが作った『初心者でも簡単に出来るシステム構築ソフト』……!」

 そういうこと、と男は言ってソフトをディスクドライブに差し込んだ。

「これは、初心者が経営システムを構築する時に使うものだ。システム構築はPCの上級者でしか一から作れない。だから、ソフトに収録されている様々なシステム構築の形を手順ごとに選択いけば誰だって簡単にシステムが作れる」

「でも、それはあくまで基本の管理システムを構築するためのソフトですよ。送電システムとは形が違うし……」

 そうだな、と男は言うが、ところがそうでもないんだ、と付け足した。

「確かに違うが、実は、これの中を見た時に一つだけ気づいたことがあるんだ」

「気づいたこと?」

 男は言う。

 

「システムの最初の土台が、この中の一つと一緒だったんだよ」

 

「そんな!」

 と、エミは驚いた。

「そんなはずは」

「そうなんだよ。送電システムは、ソフトの中にあるものの一つを土台にして作り上げられていた。最初の土台さえ簡単に構築出来れば、後は簡単だ」

 PC画面にシステムのデスクトップが表示された。

 男は、エミの方へ顔を向けた。

「助けるぞ。ティガを」

 エミは頷いた。

 そして、二人はキーボードを叩く。誰よりも早く、今、苦しんでいるティガを救うために。

「あの……つかぬことをお伺いしますけど……」

 エミは唐突に聞いた。

「あなたは誰なんですか?」

 男は、意外そうな顔で言った。

「あれ? 母さん言ってなかったの?」

 男は、『母さん』と言ってイルマの方へ顔を向けた。

「緊急事態だったから、色々説明出来なかったのよ」

 エミは、イルマと男を両方見ながら言った。

「あの……えっと……もしかしてお二人は……」

 男は、エミの方へ向いて微笑みながら言った。

 

「遅れまして、初めまして、キサヌキ・エミ隊員。俺は、有限会社プレイグミングの唯一の社員にして社長、そして、ここにいるTPC情報局参謀イルマ・メグミの一人息子のミウラ・トモキだ」

 

   *

 

 キリエロイドは目の前のティガしか見えていなかった。

 首を絞めて、ティガの行動を完全に停止させようとしていた。ティガは、キリエロイドの両腕を掴んで何とか振りほどこうとしているが、意識が遠のいて力が出ない。

 瞬間、キリエロイドは両腕の力を弱めた。

 ガッツイーグルの三機がキリエロイドの背後から攻撃を開始したからだ。

 光弾がキリエロイドの背後を捉え、火花が散った。

 力を弱めたキリエロイドは、ほんの一瞬だけティガの首を離した。

 ティガはその隙を見逃さなかった。

 そのまま片腕を掴み、左の足裏をキリエロイドの腹につけた。そして、巴投げの要領でキリエロイドを投げ飛ばした。

 ティガは、立ち上がり再びクリスタルの前で両腕を交差させた。

 そして、今度はスカイタイプに変身した。

 キリエロイドは、倒れたと同時に起き上がる。しかし、ティガは先に仕掛けていた。

 力は劣るが、速度が上がるスカイタイプは、力に特化したキリエロイドに有効なのだ。ダメージが微々たるものでも、この速さならキリエロイドも攻撃を返すことは出来ない。

 ティガは、一回転してキリエロイドの背後を取った。

 回し蹴りを与え、キリエロイドをよろけさせる。そして、未だに背後を取っているキリエロイドに猛攻を加えようとした。

 ティガはキリエロイドの肩を掴み、投げ飛ばそうとした。

 だが、キリエロイドの方が一歩先を行っていた。

 キリエロイドは背後を取られながらもティガの両腕を掴んだ。

 ティガは目の前の現象に驚いた。

 そして、キリエロイドはティガの両腕を掴んだまま両腕を空に掲げた。

 ティガは抵抗出来ないままなされるがままだった。

 ティガは、反転させられる。キリエロイドとティガは、互いに背中を見せ合う形になった。

 キリエロイドは、ティガの両腕を天に掲げたまま吠えた。

 その瞬間、キリエロイドの体がまた変化した。

 赤黒く、がっしりし、硬化した体が変化する。体は、以前より細くなり、色も青黒く変わった。

 キリエロイドは、ティガの片腕を離す。

 その隙に、ティガをまた反転させてからティガの腹部に肘打ちを入れた。そして、その後で、掴んでいたもう片方の腕を、半月を描くように持っていく。

 ティガが宙に浮いた。

 キリエロイドは、ティガを投げ飛ばした。

 投げ飛ばされたティガはすぐに体勢を立て直した。

 地面で前転しながら落下のダメージを抑え、すぐに反転した。そして、すかさずハンドスラッシュを繰り出した。

 だが、キリエロイドは一回転して攻撃を避けた。

 キリエロイドは、飛び蹴りをティガに食らわせた。

 ティガは倒れた。

 ティガが炸裂させた蹴りを今度は食らってしまった。

 再びティガは起き上がる。

 ティガはキリエロイドの背後にガッツイーグルの三機が行動を起こしているのが見えた。

 三機はキリエロイドの背後と横面をそれぞれ三機が迫っていた。

 ティガは駆け出した。

 四方を包囲し、一気に攻撃を仕掛ける。

 どれくらいの効果があるかは分からないが、少なくとも、足を止めて反撃への道筋が掴めるかもしれなかった。

 だが、キリエロイドはその攻撃すら簡単に切り抜けられる。

 

 キリエロイドは、自らの足元に獄炎弾を放った。

 

 爆炎と粉塵がキリエロイドの周囲を覆った。

 一瞬、キリエロイドの姿が見えなくなるほどの煙が舞い上がった。

 だが、敵にとってそれで十分だった。

 煙の中からキリエロイドの足と思われる部分が姿を現す。その足は、半円を描き、三機のガッツイーグルの尾翼を叩き折った。

 そして、煙が薄れ、姿を現した瞬間、キリエロイドの渾身の右足がティガの腹部を貫いた。

 ティガは一気に後ろへ吹っ飛んだ。

 

   *

 

「ティガと四方を囲み、一斉に攻撃する!」

 フドウが叫んだ。

 隊員たちは、通信で合図を送り、ティガの駆け出したタイミングに合わせて速度を変えた。

 人間の意地――食らいやがれ!

 フドウはそう思いながら攻撃ボタンを触れる。

 だが、キリエロイドは一歩早かった。

 突然、キリエロイドの周囲を爆炎が吹き荒れた。その瞬間、煙が立ちこもった。

「何!」

 フドウが言った。

 刹那。

 煙の中から何かが飛び出した。

 それは、ガッツイーグルの尾翼をへし折り、航行システムを壊すほどの威力だった。

『尾翼、及び第一エンジンが損傷!』

 ヒロキの通信だった。

『やられた!』

 シンイチも叫んだ。

「全員不時着しろ! 市内でガッツイーグルを落とされるとたまらん!」

 フドウは操縦桿を強く握りしめる。隣にいるマリナに言った。

「システムがいかれちまったが、サポート頼むぞ」

「了解」

 マリナは前を向く。

 これで終わったなんて、言わせない……! と固く心に誓いながらマリナはフドウのサポートに入った。

 

  *

 

 後ろへ吹っ飛ばされたティガは体勢を立て直すことも出来ずにそのままビルに突っ込んだ。

 起き上がるも、ティガは、迫りくるキリエロイドの攻勢に対処出来なかった。

 手刀を振り下ろしてくるキリエロイド。ティガは、前転してそれを避けて、反撃にでようとするが、キリエロイドの速さについていけなかった。

 振り向いた瞬間に、ティガはキリエロイドの回し蹴りを食らって地面にうつ伏せになって倒れた。

 キリエロイドは、倒れたティガの肩を掴み、無理矢理体を引き起こした。

 そして、キリエロイドの掌がティガを覆った。押しつぶされるような音がこだまする。

 キリエロイドの膝蹴りが再びティガの腹部を抉るように炸裂する。

 その次に縦の肘打ちがティガの背後を襲った。ティガは膝をつく。

 キリエロイドの猛攻は続く。膝をついたティガの顔面をめがけて蹴りを見舞った。ティガは後ろによろめきながら後退していく。

 だが、既に背後にはキリエロイドがいた。ティガのスカイタイプに対応した今の状態は、速度が大幅に飛躍している。ティガの背後に回る速度で移動することなど容易いのだ。

 キリエロイドは、蹴りを入れた。ティガは、今度は前によろめきはじめた。

 さらにキリエロイドは、一瞬でティガの前に立ちはだかり。正拳を入れた。

 それからはその繰り返しだった。

 キリエロイドの速く重い攻撃は、ティガの体力を削っていった。いくらティガの力があるとはいえ、ツバサの能力では、それも限界に近い。

 キリエロイドの猛攻の間に、カラータイマーが点滅を始めた。あまりに大きなダメージを負いすぎたことが原因か、カラータイマーの点滅が通常よりも早かった。

 最後の蹴りを入れられ、ティガは前へ吹っ飛んだ。

 地面に叩き伏せられる――これで一体何度目か分からない。

 ティガは、振り向く。

 キリエロイドは、ティガを見下ろしながら一歩、また一歩と近づいていった。

 ティガは、立ち上がる。

 

 そして、ティガは、再びマルチタイプへと変身した。

 

 あまりに突然の出来事に、キリエロイドも一歩引いたが、瞬時にその意図に気づいた。キリエロイドも、ティガに合わせるように通常の状態へ姿を変えた。

 両者は一定の距離を保っている。

 ティガのカラータイマーが鳴り響く以外は、静寂だ。

 

 ティガは力を振り絞った。

 

 両手を前方に持っていき、交差させる。そして、左右に広げエネルギーを集約させる。そのエネルギーは光の線となってティガの腕に集まる。

 そう。

 ティガの必殺技であるゼペリオン光線――今まさに、それを放とうとしていたのだ。

 対するキリエロイドも構えた。

 両腕を前面で交差させ、左右に広げた。そして、力を右腕に集約させて、それを投げる体勢へ移った。

 まるで、ティガに対抗するかのように、ティガが繰り出す必殺技の動きをも似せたのだ。

 そして――。

 

 ティガは、ゼペリオン光線を放った。

 

 キリエロイドは、特大の獄炎弾を放った。

 

 ――勝負は一瞬だった。

 

 キリエロイドの獄炎弾は、ティガのゼペリオン光線を切り裂くように、光線の中心点を貫いた。

 

 ティガの体を獄炎弾が炸裂する。

 巨大な火花が飛び散る。周囲に巨大な爆炎と粉塵が吹きすさんだ。

 周囲の建物をも巻き込むほどの爆風。その中にティガはいた。

 

 ティガは、崩れ落ちたビルの瓦礫の上に、横たわっていた。

 

 キリエロイドは、勝ちを確信した。

 ティガに近づき、そしてティガの首を両手で掴み――。

 ティガを持ち上げた。

 ティガは人形のようにピクリとも動かない。ただ点滅が早まったカラータイマーが空しく鳴り響くだけだった。

 

   *

 

「一体何が起きたんだ!」

 フドウが叫んだ。

「分かりません。光が激突して、その後で大きな爆発が起きたとしか」

 マリナが答えた。

 二人の乗ったβ号は無事に不時着していた。

 ヒロキもシンイチも、それぞれ別の場所で不時着に成功していることも確認できた。ひとまず隊員は全員無事だ。

 だが、今の爆音は気になる、とフドウは言った。

 W.I.T.の表示では、フドウたちは、現在P‐5地区らしい。ティガがいる地区の隣だ。

 キリエル人の仕掛けたロジックボムの所為で、P‐4地区はおろか、メトロポリス中の電力が全て落ちていた。その所為で、周囲の確認が出来ずにいた。

 突然、S‐GUTSの全隊員のW.I.T.に通信が入ってきた。

 イルマからだった。

『全隊員に告げます。全員直ちにP‐4地区から撤退してください』

 何? とフドウが疑問に思う。

「どうして撤退を……。このままではティガを助けることが出来ないんだぞ!」

 フドウが叫んだ。だが、通信は、イルマからの一方的な通信のため、イルマには届かない。

 イルマの通信は続いた。

『現在の状況は我々が圧倒的に不利です。ティガも苦戦を強いられています』

 それは分かり切っていることだ、とフドウとマリナは思った。

「だから、あたしたちが助けに行くんじゃない!」

 イルマの声が低くなっていった。何かが引っかかっているようだ。

『本当なら、こんな手は使いたくなかった……でも……我々人類がキリエル人に勝つためには、もうこの方法しか残っていません』

 だから――、とイルマは結論付けた。

 

『P‐4地区で作動している電磁波遮断機構の使用権限を一時的にKISANUKIグループから私に移行させます。命令します。私の合図と共にP‐4地区の電磁波を最大まで上昇させてください』

 

   *

 

 イルマは、自室でツバサとのやり取りを思い出していた。

 

「ティガが負ける?」

 はい、とツバサは返した。

「こちらの仮説が正しいのなら、この戦いは相手にとって有利であり、こちらは不利です。ティガの敗北が目に見えています」

 なら、とイルマは問い返した。

「ツバサ君は一体どうするつもりなの? この勝ち目のない戦いに一体どうやって勝つつもりなの?」

 イルマの質問は最もだった。

 勝ち目のない戦いに挑むなんてあまりに愚かだ。負け戦と勝てない戦ならば、退くという選択肢もあるだろうが。

 しかし、光の巨人となったツバサの宿命は「必ず勝たなければならない戦」しかないのだ。

 ティガに勝ち目がないとしたら、一体どうすればいいのだろうか。

 ツバサは、微笑みながら答えた。

「だからこその奥の手なんです。敵の行動を鈍らせ――いや、僕の仮説が正しければ、この奥の手で敵は行動不能になるどころか、もしかしたら倒すことも出来るかもしれません」

 ツバサの言葉にイルマは驚いた。

「それはつまり、キリエル人に直接手を下さずに倒せるということ?」

「かもしれません」 

 と、ツバサは答えた。

 そんな方法があったなんて、今まで知る由もなかった。

 前回、前々回の戦いは、ティガと光の力を以て何とか勝利できた。だが、ツバサは、それよりも簡単な方法があると言う。

「一体どうやって?」

 イルマは聞いた。

「……電磁波遮断機構です」

 ツバサは答えた。

「電磁波遮断機構?」

 イルマが聞いた。

 ツバサは頷いた。

「参謀もご存知かと思いますが、電磁波遮断機構は、人体から機械などから発せられる電磁波を守るための機械です」

 そうね、とイルマは頷いた。

「詳しく言えば、人体に特殊はバリアを張って、電磁波が体内に入るのを防ぐ仕組みですね。沖津教授は、早い段階から、電磁波における人体への影響を懸念していました。電磁波によって体の機能が低下したり、精神に異常をきたしたりと……まあ、それは沖津教授の著書を読むことをお勧めします」

 詳しい話を端折ります、とツバサは言った。

「実は、電磁波遮断機構にはバリアを張っている以外にも機能があります」

 ツバサは、その機能を説明した。

「一つは、バリアを張っていると同時に、外に放出されている電磁波をある程度まで抑えることです。詳しい話は、省きますが、簡単に言えば、機械がある程度の電磁波を吸い取って中に溜めるというものです」

 そして、二つ目は、とツバサは言った。

「溜めた電磁波の周波数を生物の体に影響がある値になるように調節し、一気にそれを放出することです」

 イルマは、ここまで聞いてもツバサの意図が掴めなかった。

「それで、それがどうしてキリエルに通じる切り札になるのかしら?」

 ツバサは説明した。

「まず、僕が説明した後者の機能……これは、中に溜められる電磁波には限界があるため、放出すると時は、一定の時間に周囲に影響がない程度で放出される仕組みです。人体を覆うバリアは完璧なものではありません。バリアの限界値を超える電磁波だと、バリアは崩壊して人体に直撃してしまいます」

 しかし、とツバサは続けて言った。

「電磁波の周波数を上げる――これは、全く意味のないものです。電磁波遮断機構と謳われている機械なのに、電磁波の周波数を上げるというものには矛盾がある」

 ツバサがそう言ってイルマは察した。

 

「つまり、電磁波遮断機構には兵器としての概念があるということ?」

 

 ツバサは頷いた。

「沖津教授だけに留まらず電磁波における人体への影響は早い段階から懸念され、IARCは、発がん性がある可能性を示唆していましたし、NIESは低周波の電磁波における健康リスクの研究も行っていました」

 それだけ電磁波は、注目されていたんです、とツバサは言った。

「機械から発せられる電磁波は、もう消しようがありません。沖津教授が開発したこの機械でさえ、あくまで人体にバリアを張って電磁波を通さないというものです。電磁波を消滅させられるものではなかった」

 しかし、考えてください、とツバサは説明する。

 

「その電磁波遮断機構でさえ、機械だということを」

 

 なるほど、とイルマは理解する。

「それから放出されている電磁波も溜めこんでいるのね」

 ツバサは頷いた。

「電磁波遮断機構が放出している電磁波はそのまま内に溜めこまれます。それと同時に周囲の電磁波をも溜めこむ――その量は途轍もないものだと思います。さっき言った通り、バリアは簡単に壊れます」

 そして、とツバサは続けた。

「電磁波遮断機構の機能する範囲には制限があります。なので、各地区に電磁波遮断機構が存在し、それぞれの地区で電磁波から人々を守っているのですが……」

 これもまた仕組みが変わってきます、とツバサは説明する。

「調節された周波数の電磁波を放出した時、当然隣接する地区にも影響が及びます。そこで、この機能が使われた時、隣接しているそれぞれの電磁波遮断機構は一時的に人々に張っているバリアを解いて、これを地区の周囲に張り巡らす仕組みになっています。バリアを張るために分配されたエネルギーは地区を覆う一つの巨大なバリアに集約されるため、武器として使われた電磁波が地区に入るのを防いでくれます」

「でも、それって武器として使用した場合、その地区の人を避難させなきゃいけないんでしょう?」

 イルマの問いにツバサは頷いた。

「だから、これを使う前に避難は絶対必要なんです。念のために隣接する地区の人々も避難させる必要がありますね。いくらバリアを張っているとはいえ完全に安全とは言い切れませんから」

 なるほど、とイルマは納得した。

「でも、これがどうしてキリエル人に効くと分かったのかしら? 当然根拠はあるのでしょう?」

 ツバサは、はい、と言って頷いた。

「沖津教授の体をスキャンした時、教授の脳が完全に抜き取られていたんです」

「抜き取られていた? 綺麗さっぱりに?」

「はい。脳細胞一つ残らずで」

 脳細胞一つ残らず――確かにキリエルがやったと考えていいわね、とイルマは言った。

「ですが、沖津教授の件を調べていた時に気付いたんです。キリエル人は人の記憶を弄ることが出来る、と」

「弄る?」

「はい。実際、エミは知らぬ間にキリエル人に記憶を弄られていました」

 だけど、それで気付いたんです、とツバサは言った。

「記憶を弄るという高度なことが出来るのに、何故沖津教授の場合は脳を全部持って行ったのでしょうか?」

 何故、と聞かれてイルマは答えた。

「教授には様々な分野の知識があるわ。それも欲しかったんじゃないかしら」

 一理ありますね、とツバサは言うが、すぐに否定した。

「しかし音楽や一般常識など、意味のない知識も含めて奪ったんですか? そんなものまで奪う意味が彼らにあったでしょうか」

 確かに、とイルマは言った。

「キリエル人が欲しかったのはあくまでティガの知識だけです。記憶を弄ることが出来るなら、沖津教授から、それだけを奪うことも出来たはずです」

「でもしなかった……」

 イルマがそう言うと、ツバサは首を横に振った。

「しなかったんじゃないんです。そうすることが出来なかったんです」

 出来なかった? とイルマは言った。

 ツバサは説明した。

「電磁波遮断機構には、中に搭載されているメインコンピューターによって電磁波の吸収、調整、放出を自己判断でやっています。それ以外にPC遠隔による手動による操作もできますが、これはあくまで緊急事態のものです」

 そして、とツバサは言った。

「もう一つ、手動で操作できる方法があります」

 ツバサがそう言うと、イルマはその答えを知った。

「リモコンによる操作」

 ツバサは頷いた。

「電磁波遮断機構には、メインコンピューターの他に独立したサブコンピューターが内蔵されています。これは手動のリモコンによってのみ作動する仕組みで、万が一メインが使えない場合に備えての措置です。しかし、これはあくまで最終手段。一応、電磁波の調整等も出来ますが、当然今までそんなことをやった人はいませんし、今後も誰もいなかったはずだった」

 イルマは、ここまで聞いて、ようやくツバサが何を言いたいのか理解した。

 

「教授は、そのリモコンで電磁波の周波数を調整してキリエル人に対抗したということ?」

 

 ツバサは頷いた。

「沖津教授の自宅には、研究用の電磁波遮断機構がありました。そして、事件の概要が見えてきた時、沖津教授がどういう行動を取ったのか、予想出来たんです」

 

 ツバサの見解はこうだった。

 まず、キリエル人――イタハシ・ミツオが沖津の自宅へやってくる。目的は勿論、沖津の脳に記録されている、そして資料として保管されてあったティガに関する情報を盗むためだった。

 イタハシと沖津は書斎で、恐らくその事に関しての話し合いがあった。

 イタハシの説明で折れた沖津は、メモ帳にそれが保管されているファイルのラベルを書き、それをイタハシに渡し、自分自身で探させるようにした。

 イタハシがファイルを探している隙に、手元にあった電磁波遮断機構のリモコンを手に取り、行動を起こそうとした。

 だが、すぐさまイタハシがその異変に気づき、沖津の体に入り込み沖津を制御しようとした。

 沖津は、リモコンのスイッチを押した。強力な電磁波が沖津と、そしてイタハシに襲い掛かった。

 沖津はもちろん、イタハシもこの電磁波の餌食になってはたまらない。電磁波の影響は、すでに来ていた。時間が無くなったイタハシは、沖津のティガに関する情報だけを奪い取ることが出来ずに、脳を全て――全ての情報を持ち帰るしかなかった。

 そして、沖津は亡くなる。残されたイタハシは、ティガの資料と脳、そして二度と誰も電磁波遮断機構を使えないように、リモコンを持ち去り、そこにあった電磁波遮断機構を衝撃破で破壊した。

 

 そう。

 ツバサが証拠保管室で探していたのは、電磁波遮断機構のリモコンだった。そして、電磁波遮断機構の焦げるはずのない場所が焦げている――これはメインコンピューターではなく、サブコンピューターが焼焦げていたことを意味していた。

 イタハシは、沖津のもう一人の弟子だった。だとするなら、電磁波遮断機構の仕組みを知っていてもおかしくない。イタハシは、サブを壊し、リモコンを持ち去ることで誰も沖津の自宅にあった電磁波遮断機構を使わせないようにしたのだ。

「これらを考えると、キリエル人にも電磁波の影響があると考えていいと思います」

 そういうことだったの……、とイルマはようやくツバサと同じ地点に立つことが出来た。

「でも、そう考えると、キリエル人は、それを私たちが使うことを予測しているはず。もしそうなら、その対処をするはずよ」

 もっともな意見だ。

 電磁波遮断機構の対処なんていくらでもある。その地区にある電磁波遮断機構を破壊したり、コントロールを奪ったりと、対応の仕様がいくらでもあるのだ。

 だが、ツバサは、真剣な表情で答えた。

「いえ。それはないはずです」

「え?」

 イルマが聞き返した。

「それはないって……どういうこと? まさか、キリエルがそれを見落としていると?」

「いえ……僕もそれを考えました。イタハシ・ミツオが沖津教授のもとで弟子として欺いていたのなら、間違いなく自分たちの弱点である電磁波遮断機構に目を付けるでしょう。ですが、今回だけは……それについては大丈夫だと思います」

 ツバサは、あまり自信が無さげに言った。

 イルマは、ツバサが根拠なしに言うことはないと知っている。だが、今のツバサの言葉には、それがない。

「どうしてそう言えるの? もしかして、そうなる確証があるの?」

 ツバサはしどろもどろに言った。

「いえ……確証といいますか……。今回は敵が電磁波遮断機構を知っているけど、目を付けていないと言いますか……。もっと分かりやすく言えば、相手は電磁波遮断機構の構造を知っているけど、電磁波遮断機構の対策を知っていないというところでしょうか?」

 ツバサの言葉には、正確性がなかった。ただ、今回に限って、キリエル人は電磁波遮断機構の対策を行わないのには自信があるらしい。

 イルマはツバサを信じることにした。

「それで、私は何をしたらいいの?」

 ツバサは、答える。

「もうすぐイルマ参謀の元にある権限書が届きます」

「権限書?」

 ツバサは言った。

 

「電磁波遮断機構の一時使用権限書です」

 

 それは……とイルマは呟いた。

「電磁波遮断機構は、全てKISANUKIグループによって一括管理されています。僕がこれからキリエル人と戦うと予測しているエリア一帯での使用権限を参謀に一時的に渡すことを受理してもらえるように母にお願いしておきました」

 ツバサが最初にカノコに会った時に頼んだのがこれだった。

 ツバサは、キリュウから依頼が来た時に、頭の奥底で敵の弱点を予測していた。何通りかある中で一番可能性の低いものに、ツバサは一番の可能性を賭けていた。出る杭はすべて打つ――その成果が現れる時だった。

「本当ならエミに頼んだほうが手っ取り早かったんでしょうが、こういうことはしっかりと順を踏む必要がありますからね」

 と、ツバサは微笑んだ。

「使用するタイミングは参謀に一任します。誰よりもキリエル人を知っているあなたなら、彼らを倒す絶好のタイミングを掴めるはずです」

 

   *

 

 ツバサの言ったことの意味が、ここで為されようとしている。

 イルマは権限書を見つめた。

 今、ティガが――ツバサが死の間際まで来ている。

 ツバサが用意した切り札――これが駄目なら、人類は三度目にしてキリエル人に支配される未来がやってくるのだ。

「隊員たちを急いで撤退させてください! 撤退が終わり次第、電磁波を放出します」

 イルマはティガを見つめた。

 隊員たちも固唾をのんで見守る。

 そして、そんな中、もう一つの切り札が復活を遂げようとしていた。

「よし! システムを構築しなおしたぞ!」

 トモキが叫んだ。

 イルマがトモキに近づいてPC画面を覗いた。

 確かにシステムが構築されていた。

「あー……疲れた」

 エミががっくりと肩を落とした。

「有難う。この短時間でよく全て戻してくれたわ」

「いやいや。キサヌキ隊員の手伝いもあったからさ。それじゃ、まず、送電のテストを行う。一瞬だけ全ての電気がつく。その後で一気にまた電力を限界まで引き上げるぞ。もうウィルスもロジックボムもない」 

 イルマは頷いた。

「電力が回復次第こちらも切り札を使います。これで決着を付けるわ!」

 イルマはそう言って、再び外に出た。

「よし! それじゃ、送電テストやるぞ!」

 テントの奥でトモキの声が聞こえた。

 イルマも準備をする。

 タイミングは、トモキが送電システムの実験をやった後だ。そこで一気に電磁波遮断機構を使う。そして街の電力が戻り、ティガの活動を完全復活させる。

 奥でトモキが叫んだ。

「実験開始だ!」

 それに続いて、イルマが叫んだ。

「電磁波遮断機構電磁波放出機能を行使します!」

 

 街に光が一瞬蘇った。

 隊員たちがその一瞬の光に勝利を見出している。

 突然の出来事に、キリエロイドは反応するのに遅れていた。

 だが、それ以上に――。

 

「……えっ?」

 

 イルマだけが、戦慄していた。

 

   *

 

 甘かった。

 完全に自惚れていた。

 勝てる、と思った自分が馬鹿だった。

 勝てるはずがないのだ。勝敗は、ティガになる前から分かり切っていたことだった。

 圧倒的にキリエル人が有利――それは戦う前から分かり切っていたことじゃないか。何故、自分の戦闘力の向上に我ながら見惚れてしまったのだろうか。

 それが自分の――エンジョウ・ツバサの欠点なのかもしれない。

 相手を数値化する――それは確かに、ツバサの持っている能力を戦闘に活かす最大限の力だ。

 相手の動きを数値化し、自身の動きも数値化し、それに対応して体に命令を与えて動く――確かにそれは強い武器だ。

 

 だが、完全にその数値化された行動をしなければ、いくら計算したところで無意味であることは、分かり切っていたはずだった。

 

 キリエル人の戦闘能力はあまりにも凄まじいものだった。

 正拳、掌底、柔術、蹴術……全ての動きが達人の域だ。数値化が出来たところで、それに対応する動きが、ツバサには全く出来ない――出来るはずがないのだ。

 数値化したところで、素人同然のツバサが、その動きについてこれるはずがないのだ。

 そして、今――。

 ツバサは死を迎えようとしていた。

 首を掴まれ、腕力だけで挙げられているこの状態――。

 手足に力が入らない。敵は隙だらけなのに、指一本たりとも動く力が残っていなかった。

 光が足りないのもそうだが、既にツバサの体力も限界に近かった。

 後は、切り札だけが唯一の勝利への突破口だったが……力が残されていないティガには切り札が使われたところでどうしようもない。

 せめて光があればもう少しだけ動くかもしれない。

 ……無力すぎる。

 あまりに無力すぎる。

 弱い。弱すぎる。

 これが光の巨人の力? 人類にとっての最後の砦?

 笑わせてくれるな。

 こんなのが巨人の力なのではない。巨人の姿をした人間が悪魔に挑むだけのつまらない絵だ。

 誰が巨人の敗北を望むだろうか。誰が苦戦を望むだろうか。

 どうして、自分が巨人となって戦わなければならないのだろうか。

 いるはずだ。この世に、自分よりも光の巨人として戦うに相応しい人間が。

 

 力だ。

 力だ!

 せめて、自分だけが持つ力さえあれば……!

 

 ――ではお前は何者だ?

 

 声が聞こえた。

 聞き覚えのある声――いや、毎日聞いている――。

 自分の……声?

 

 ――お前は光なのか? それとも人なのか? それともどちらもなのか?

 

 不明瞭な問いかけだ。自分が何だったのか? そんなの自分自身が分からないのに答えられるはずもない。

 

 ――では、今から成れ。お前が一体何なのか。巨人として戦ってきたものたちは己が光であるのか、人なのか、その答えを知っていた。その答えを作り上げろ。お前は――。

 

 僕は……

 

 ―――――の巨人 ティガ

 

 両腕が軽くなった気がした。

 ツバサは両手を伸ばした。

 何かを掴んだ。

 柔らかく、握りつぶせばはじけ飛んでしまうほどだ。

 直後にツバサは直感する。

 それが勝利への道だと。切り札が使われたのだと。

 それを確かに握りつぶす。

 刹那、その時だけ、自分自身が何者であったのかを忘れた。

 

   *

 

 肉が握りつぶされ、弾ける音がした。

 キリエロイドは、悲鳴を上げながら、ティガに後退した。

 街の電気が再び灯る。眩い光が辺りを照らし出す。

 よろけるキリエロイドの眼前には、再び構えているティガの姿があった。

 キリエロイドの両腕が消えていた――正確にはティガが、キリエロイドの両腕を掴み、握りつぶしたのだ。その結果、両腕が断裂して地面にころがっていたのだ。

 

 そこから勝負は一気に片が付いた。

 ティガが駆けていった。

 腹部に上膊の拳をぶつける。

 キリエロイドは小さく跳ね上がった。

 ティガは、キリエロイドの両肩を掴んでキリエロイドをそのまま投げ飛ばした。

 キリエロイドに反撃の気配はない。両腕を握りつぶされたことによるダメージは確かに大きいだろう。だが、キリエロイドは、それ以上のダメージを負っていた。

 今度はもう押し負けない。

 ティガはキリエロイドに向かってゼペリオン光線を放った。

 

 キリエロイドの体に赤い炎が噴き出した。そして、地獄の業火に包まれるが如く、キリエロイドは悲鳴を上げながら蒸発していった。

 

 戦いは終わった。

 ティガは空を見上げ、飛ぶ。

 夜空の満天の星空の中に、ティガは消えていった。

 

 ――人類の勝利だ。

 ただ今は、それを祝おう、と隊員たちは活気に満ち溢れる。

 ただ一人、イルマを除いては――。

 




数百文字分多すぎて纏められなかったぜ!
続きます。
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