第五話はゲストキャラ視点を貫くために、ツバサ視点はあえて省きました。
けど、せっかくだから書いたので載せます。
ツバサがどうやって恭一たちを見つけたのか、という種明かしですね。
多分察しているかと思いますが、今回の話の時系列は第一話~第四話の一年後の話です。時々時系列をバラバラにした一話完結ものも書こうかなと思うので、所々で話を入れていきます(話数調整なのは内緒)
*
恭一と美琴が遭難したあの時、恭一の機転によってメッセージがツバサたちに伝わり、ことなきを得た。
だが、それはただメッセージを送っただけでは成し遂げることは出来なかった。
それを成功させることが出来たのは、ツバサたちの機転と、そしてここでもあのライチョウの命懸けの決死行のおかげに他ならなかった。
*
TPCの極東本部であるアンダーグラウンドへ続く専用道路を二台のオートスタッガーⅡが走行していた。
時速は約八十キロ。メトロポリス内のパトロールを終えて、バイクはそのまま本部へ直行していた。
オートスタッガーⅡに搭乗しているのは、若きS‐GUTS隊員の二人。
エンジョウ・ツバサとイチカ・マリナの二名。
二人が本部への専用道路に入った時に、通信が入った。
「こちらエンジョウ」
『こちらフドウ。これから俺たちが先行して北岳に出現した怪獣の掃討にあたる。お前らはバックアップを頼むぞ』
いつも聞く隊長――フドウの声だ。
「ということは、ゴッドアイズの画像に写っていた怪獣のようですね」
『ああ。十中八九そうだろう。特徴が酷似している。これから俺とシンジョウ、ヒロキの三人で当たる。もし何か有力な情報があったら随時連絡してくれ』
フドウの命令にツバサは、了解、と返した。
「やっぱり、あんたとアイラさんの仮説が正しかったわけだ」
マリナが言った。
「というより、ほぼアイラさんのおかげだけどね。僕はただ揃っている情報を整理しただけだし」
ツバサの謙虚な態度に、マリナはふーん、と何か企んだような顔になった。
「とか何とか言っちゃって、結構アイラさんに助言やらなんやらしてたじゃない」
「確認事項を問われてただけだ。ただ、答えるだけだし、何もやっていない」
それに、とツバサは言った。
「マリナ隊員のとっさの一言のおかげで仮説が証明されたんだから、どちらかといえばそっちの御手柄なんだけどね」
唐突なツバサの褒め言葉にマリナは思わず赤面した。
「何よ、いきなり……」
ははは、とツバサは笑う。
「まあ、今回は隊長たちに任せればいいかもな。怪獣の特徴からその正体も大体分かってきたし、後は適切に対処してくれるだろ」
そうね、とマリナは言う。
「まあ今回はツバサはいらなかったかなー。ティガの力は借りたかったけど、隊長たちで対処できるならしょうがないし」
また、お決まりの皮肉だ。ツバサもさすがに慣れていた。
ツバサは、はいはい、と言いながら速度を速めた。
本部まではほぼ目と鼻の先というところだった。
「……ツバサ!」
マリナが叫んだ。
ツバサも『それ』に気づく。
二人はバイクをスライドさせてその場で止まった。
「ねえ、これって……」
「……ああ」
ツバサとマリナはそれぞれバイクから降りて、ガッツブラスターを構えた。
目の前に、北岳で観測された靄が現れたのだ。
「どういうことだ。こんなところにまで靄がやってくるなんて……」
「向こうの動物たちがこんな遠くまでルートを作り出すほど危機的状況に陥っているってこと?」
「いや、もしくは……」
怪獣をこっちに移動させてきたのか……、とツバサはガッツブラスターを靄の中にめがけて撃った。
怪獣の鳴き声がした。
手ごたえはあった。
「やっぱりそこにいるか」
ツバサとマリナはもう一度構えて、次に備える。
だが、靄はツバサたちが予想していた状況とは違ってすぐに消えた。
「……何だかいきなり消えちゃったわね」
どういうことなのだろう、とツバサは思った。
「てっきり怪獣を山から引き離すつもりでこっちにやったのかと思ったが……」
だが、代わりに別のものが落ちていた。
大きな布――ハンカチだろうか、それにくるまれた何かと、それを嘴で加えて倒れている一羽の傷だらけの鳥。
ツバサたちはそれに駆けよった。
「何これ。ひどいけがじゃない」
ツバサは鳥を慎重に調べる。
「……大丈夫だ。まだ息はある。でも、すぐに手当てしないと」
マリナはガッツブラスターを腰のベルトに戻す。
「どうするのよ。ここから動物病院行ったどころで間に合わないわよ」
「医務局に動物専門がいるなんて聞いたことないしなあ……。シンジョウ参謀なら何か知っているかな?」
「そんな暇ないわよ。今にでも死にそうなのに」
だとするなら、方法は一つしかない。
「……仕方ない。僕たちで手当てしよう。幸い、僕の部屋に獣医用の教科書があるからそれを見てやってみよう」
「本当に何でも読むのね。一体どこまで知識を詰め込むのやら」
「まあね。何て言ったってビリッチ博士の獣医医学書だからね。読まなきゃ損だ」
「……聞いてないわよ」
ツバサは、鳥と布にくるんだ何かを懐に優しく仕舞う。
ツバサとマリナは再びオートスタッガーⅡに乗り込み、目の前の基地――アンダーグラウンドへ走り出した。
本部に戻る前に、ツバサは自室に立ち寄り、獣医医学書を持ち出した。
そして、そのまま本部へと急ぎ足で進む。
本部の扉が開く。
「あー、おかえりなさーい」
エミがそう言った。
S‐GUTSのオペレーターであるエミは、前線にいる隊長たちとTPCとの中継役と各部署への連絡係として大抵のことがない限りは本部に待機しているのが殆どだ。
そんなエミと一緒に、一人だけ本部には似つかわしくない服装をした人が一人いた。
白衣を着た女性だった。そういった服を着ている人は大抵研究や開発職に就いている人が多い。しかもS‐GUTS本部に来るということは珍しいことだ。
だが、ツバサはその後ろ姿で察した。
「ああ、お久しぶりですね、アイラさん」
ツバサの声に反応してアイラが振り向いた。
「どうも、お邪魔してます」
「アイラさん! 昨日ぶりですね!」
マリナが小さく手を振ってそう言った。アイラもそれに応えて手を振って返す。
昨日? とツバサは不思議そうにつぶやく。すると、エミが、昨日ご飯食べていて何か意気投合しちゃったらしいよ、と答えた。
そうなんだ、とあまりツバサは気にしない。
「しかし、どうしたんですか? 確か今日は遺伝子工学研究所の方にいたはずでは?」
「そうだったんですけど……教授のお使いが早く終わったんで、こっちに挨拶に伺ってみたんです。そうしたら、隊長さんとお会いしまして……」
ああ、とツバサは納得した。
「今回の北岳の件でまたアドバイスを欲しいと頼まれたんですね」
そうなんです、とアイラは答えた。
「隊長たちは先に行ってるけど、ツバサたちはどうする?」
エミが聞いた。
「その前にやらなきゃならないことがある」
ツバサは懐から例のものを取り出した。
エミとアイラが驚く。
「どうしたんですか、ツバサさん……! その鳥は……!」
「本部の手前で倒れていたんです。例の靄の中から出てきたことを考えると……」
「例の靄? もしかして、あの靄が県外から来たんですか?」
そうです、とツバサは頷いた。
ツバサは、鳥の翼を優しく広げた。
「やはりとう骨があるあたりに傷がありますね。とにかく処置をしないと……」
ツバサは、医療用の道具を取り出してすぐに処置にかかった。
「それって……もしかして、ライチョウですか?」
アイラが尋ねた。
「もしかするとでもなく、間違いなくそうでしょうね」
ツバサは作業を進めながら会話を続ける。
「そんな……地上に降りたら、病気や地上の気温に耐え切れずに死ぬはずなのに……」
もしかして……、とアイラはツバサの思惑に気づいた。
「え? 何? どういうこと?」
マリナが仲間外れになっているのに気づく。
ツバサはわざとらしく溜息を吐いて言った。
「つまり、こいつがあの靄を作り出していたんだよ」
ええ!? とマリナは天地がひっくり返ったような表情で驚いた。
「こいつが? こんな鳥があんな天変地異並みの現象を作り出していたっていうの?」
マリナは信じられないようだったが、ツバサとアイラはこの事実に大きな自信があった。
「ライチョウは本来高山などの高い所かつ低温に生きる留鳥の一つ……」
「家族構成は一夫多妻もしくは一夫一妻制……オスが見張りをしてメスが子供を守る……」
ツバサとアイラは互いに現状上がっている説を挙げていく。
「だけど、これはメスのライチョウだ」
「だとすると、一種の突然変異があるとすれば、それはメスにも防衛機能が発達した……発達した能力こそこの靄」
二人はさらに説を並べていく。マリナは完全に取り残されたようだった。
またか、と内心ツバサと対等に話せない悔しさを滲ませながら、二人のやり取りを聞いていた。だが、それでも負けじと二人の間に入っていく。
「じゃあ、これは何? この鳥が持っていた布とこの石は」
ツバサは、丁度ライチョウの治療を終えてマリナの話題に食いついた。
「中に石が入ってるな……」
ツバサはアイラに包帯を任せて、石を取り上げて眺めた。
「石灰石の一つだな。でも、その割には表面は普通よりも滑らかにされている。多分人工的にそうなっているんだろう」
ツバサは石をひっくり返す。
すると、そこに文字が書かれていた。
「それは?」
マリナが聞いた。
「これは……見るからに携帯端末のシリアルナンバーと……」
マリナとアイラはツバサの左右から石を眺めた。
救援求ム
「これは……SOS信号?」
アイラが言った。
どうやらそのようだ。
「しかも、ご丁寧なことに表面に火で炙った石灰を塗りたくってコーティングしてある。一種のフレスコ画だな。表面に石灰を壁に塗ることで絵具や文字が落ちにくくなる一種の漆の役割をしてある。これを考えた人はよほどの皮肉れ者だろうね」
ツバサがそう言うと、後ろでマリナが、誰かさんみたいね、とにやにやしながら言った。
ツバサは無視しながら、
「とにかく調べてみよう。エミ。この端末が最後に確認できた場所を特定してくれ」
と、頼んだ。
エミは、敬礼のポーズをしながら、了解ー、と穏やかな声で返す。だが、PC端末を操る速度はその穏やかさとは打って変わって早かった。
「出たよー」
僅か十秒足らずといったところでエミが調べたことを大画面のモニターに映し出した。
「これは……北岳だな」
ツバサが言った。
映し出されたのは北岳だった。
端末のGPS信号の最終観測地は北岳の中腹付近で終わっている。その後は、不思議なことに一切確認されていない。
「この様子だと下山したっていうのは考えづらいな。だとすると、何かトラブルに巻き込まれた……つまりは遭難した、と考えていいだろう」
しかも、隊長の通信のことを考えると、十中八九これが原因だな、とツバサは断言した。
となると、救援を求めているこの人物はまだ北岳で立ち往生している状態にあるということだ。
そう考えると、事態は一刻を争う。
「じゃあ、どうしてGPSの信号が出ないのよ。もしかして落として壊したとか?」
マリナが予想するが、それはすぐに否定された。
「いや、仮に端末が壊れているなら、端末のシリアルナンバーを書くのはおかしい」
「壊れていないということを考えると、何らかの原因でGPS信号を妨害されているか、キャッチすることが出来ない場所にいるかということになりますね」
アイラが言った。
二人の会話が続く。マリナは一応の納得はしているが、ついていくのがやっとだった。
エミは二人の会話を聞いて、あることを提案した。
「じゃあ、そう考えると、出てくる仮説は一つだね」
ツバサとアイラは頷く。
「あの靄の中にいるということだ」
マリナがようやく納得した。
いかなる電波をも通さない靄の中にいるのなら、GPS信号が届かない中で助けを呼ぶために何をするか……。
靄が別の場所に繋がる異次元空間になっているのなら、メッセージを書いてその靄の中に送ればいい。
つまり、救難信号を送った人物は、それを実践したのだ。幸いなことにライチョウがそれを加えてツバサたちの元までメッセージを届けることに成功していた。
「でも、それでもGPS信号が捕まらないんじゃ意味がないじゃない。どうやって探し出すっていうのよ」
マリナの質問は最もだった。
だがマリナを除いて全員には、その方法が分かっていた。
「言っただろ? これを送った人物は皮肉れ者だ。向こうが考えていることはもう分かっている」
ツバサはそう言って、エミに頼んだ。
「エミ。最後のGPS信号の観測時間を先頭に、靄が発生した場所と時間帯を重ね合わせて時間をスクロール出来ないか?」
エミはふふん、と得意げに言った。
「任せて。そう言うと思ってもうやってあるよー」
「えっと……どういうこと?」
マリナが分からないような声で聞いた。
アイラが説明する。
「えっと……さっき言ったように救難信号を送った人が、靄の中で遭難しているということは分かりますよね?」
はい、とマリナは頷く。
「靄の中の構造のおおよそはもう解明されているのも分かりますね?」
「ええ。ツバサとあなたでかなり解明出来たのは目の当たりにしてますから。あの時の二人の喜びようと言ったら……」
嬉しさ半分、複雑が半分と、マリナは言おうとしたが、それはかろうじて喉にひっこめた。何故、そんなことを言おうとしたのかは分からないが。
「ですから、最後のGPS信号が発せられた後の靄の発生した時間を確認して時間を進めます。そして靄のルートを予測します。すると……」
アイラの結論を言う前にマリナは気づいた。
「そうか。ルートが予想できるのなら、GPS信号が途絶えた後に遭難者が靄の中に入ったのなら、その後の時間帯に靄の状況を見れば、どこに行ってしまったのかをある程度予測出来る」
その通りです、とアイラは答えた。
「GPS信号を観測できなくて人を探せないのなら、観測できない場所を探して人を見つけ出せばいい……とんだ逆転の発想ね」
マリナは得意げに言った。
「まあ、ここまで説明しなきゃ分からないマリナにはちょっと難しい話だったかな?」
ツバサは仕返しだ、と言わんばかりに笑いながら皮肉を返した。
ツバサ……コロス……と、ツバサの背後で何か怨念めいた呪詛のような声が聞こえたが、きっと気のせいだろう、とツバサは流す。
そんなくだらない会話の中で、エミはにやにやしながらも手を休めていない。
画面には、靄の位置の映像と遭難者のいる予想地点が随時更新されていた。靄が移動する度に遭難者のいる場所が少しずつ変わっていく。
だが、ツバサとアイラの幾度にも及ぶ観測と予想によって、相対性理論によるGPS信号が修正されるように、機器による観測不可能な場所にいる人物の特定地点の誤差修正も、徐々に改善されていったのだ。
まさに人間の可能性が無限にあることを目の前の少年と少女(?)がやってのけたのだ。
そして、それから数分して。
「誤差をぎりぎりまで修正完了。遭難者のいるところは大体ここかなー」
モニターには、遭難者を示す赤い点が北岳を覆い尽くすように表れた。だが、それから誤差修正を加えていくと、赤い点がかなりの速度で一つ一つ消えていった。そして、ある場所に一つだけ点が残ったのだ。
「ここは……北岳バットレスのあたりだな」
ツバサが言った。
「確かここは、かつてはクライミングに使われて、崩落が起きた後は立ち入りが禁止されてたはずの場所ですよね?」
アイラが聞いた。
「ええ。ここいらは石灰岩で覆われている場所で、元々はクライミングのクラシックコースとして人気があった場所ですが、先ほど言った崩落の所為でかなり危険な場所になっているはずです」
ツバサの説明に、マリナが補足する。
「ということは、崩落した瓦礫の中に閉じ込められたり、それによって出来た空洞とかにいたりする可能性が高いわね。ここで動けないということは、もしかしたら怪我をしたか立ち往生したかそのどちらかかも」
だとすると…、と全員が同じ結論にたどり着く。
「すぐに助けにいかなきゃ拙い……ということだ」
ツバサとマリナはS‐GUTSメットを手に取る。
ツバサは、本部の通信機でフドウらに連絡する。
「こちらエンジョウ」
『どうした?』
「北岳東側に遭難者の救援信号をキャッチしました。ただちに救助に行かなければならないようで」
『そうか……。残念だが、俺たちは動けない。怪獣が思いの外、厄介だ。お前らで救助出来るか?』
そうだろうと思った、とツバサは思う。
「了解。こちらで救助します」
そう言って通信を切る。
「言った通りだ。これから僕とマリナで遭難者の救援に向かう。エミはこのままバックアップを頼む」
エミは、了解、と親指を立てる。
「アイラさんは、危険だからここに……」
アイラはツバサが言っている間に入って提案した。
「あの、わたしも連れて行ってくれませんか?」
ツバサとマリナは、アイラを見つめた。
「足手まといなのは分かっているんですが……一応生物に関しては、それなりに自信はあります。怪獣の姿を見れば、何かしらの弱点や対策が立てやすくなると思うんです。だから……」
お願いします、連れて行ってください! とアイラは深々と頭を下げた。
ツバサとマリナは顔を合わせた。事態は一刻を争う。そんな危険な状況にアイラを巻き込むのはあまりにも酷だ。
だが、二人は迷わなかった。
「いいでしょう。危険ですが、アイラさんにはアドバイザーとして一緒に来ていただきます」
ツバサがそう言うと、アイラは花が開いたように笑顔になっていった。
「有難うございます!」
「大丈夫ですよ。あたしがアイラさんをお守りしますから。盾だってあるし、アイラさんには指一本触れさせないから」
その盾とはいったい誰の事なんだろうな、とツバサは睨みながらマリナに言うが、マリナは、サアー? イッタイダレナンデショーネー? と棒読みで返した。
「全く……。とにかく急ぎましょう。確か訓練用のスペリオルが一機待機しているはずです」
ツバサがそう言うと、三人は駆け足で本部から出て行く。
ふう、とエミが溜息を吐くと、テーブルの上で手当てをして安静に寝ていたライチョウが突如目を覚ました。
そして、包帯だらけの翼を広げて、飛び出した。
本部の扉が閉まり切るまでにライチョウはそのまま出て行ってしまった。
「あー! どこに行くのよ!」
エミは慌てて駆け出した。
ここに待機して通信などのフォローに入らなければならないが、そんなことを考えている暇もなかった。
エミは、少ない体力でライチョウの後ろ姿をかろうじて捉えてながら基地内を走っていた。
最終的にたどり着いたのは、アンダーグラウンド唯一の屋外スペースであるテラスだった。
外からは、迷彩加工によって見えないが、中からは外の景色が見える。攻撃においては防弾壁が一瞬にして展開されるようになっている。
どうしてあのライチョウが屋外スペースの場所が分かったのか分からない。動物の勘なのだろう――そのままライチョウは外へ飛び立って行ってしまった。
エミは慌ててW.I.T.を開いて通信を入れた。
「こちらエミ。ツバサ。聞こえる?」
一秒ほど間が空いてツバサから返信が来た。
『こちらエンジョウ。どうしたんだ、エミ?』
あのね……、とエミはライチョウが飛んでいった方角を見ながら言った。
「あのライチョウ……外に出て行っちゃったの……」
はあ!? とツバサが返す。
『どこか行った? そんな馬鹿な。あれはまだ怪我をしてまともに飛べないはずだ』
「うん、そうなんだけど……」
『ライチョウはどこに行ったんだ?』
それが……とエミはどもりながら言った。
「どうやって見つけたかは分からないけど……アンダーグラウンドの屋外スペースからそのまま外に飛んで行っちゃって……」
そうか……、とツバサは内心諦めたような口調で言った。
「今は人命が最優先だ。ライチョウには悪いが構っていられない」
それが正しい選択だ。動物一匹の命と人間の命――救えるものなら全て救いたい。だが、常に人の命が優先されてしまうのはどうしようもない。
エミも半ば諦めかけていたが、ふと、あることを思い出した。
「あ、待って。あのライチョウが飛んでいった方角なんだけど……」
方角? とツバサは聞き返した。
「日本アルプスの方角なんだよねー」
通信の向こうでツバサは黙った。エミは、もしもーし、と通信を返す。
十秒ほどしてツバサが何か閃いたように答えを返した。
『でかしたぞ! そうだよ。あの救難信号を持ってきたのがあのライチョウなら、遭難した人とライチョウは繋がっていると断定出来る!』
「じゃあ、あのライチョウは……」
『遭難者と何らかの関係がある可能性が高い。となると、ライチョウの行った方角が分かるんなら、もしかしたら見つけらるかも……ああ、いた!』
通信をしている間にツバサはライチョウを見つけたようだ。
『あの怪我でよく飛べるな……。何か慌てているようにも見えるけど、一体何があれを駆り立てるんだろうな』
エミは、ツバサの言葉を聞いて、ああ、と納得した顔になった。
エミは、そのままフェンスにもたれてライチョウが飛んでいった方角を見た。
もう鳥は見えない。
だが、もし自分があの鳥ならどういう思いで飛んでいるのだろう、と想像した時、エミは少しだけ微笑みながら小さく呟いた。
「どんなになろうとも、その人の元に、傍にいたいのは当たり前よ……大好きな人なら尚更……ね……」
*
そして、ツバサたちは遭難者を見つけ出す。
怪獣がこちらへ向かっていることをフドウからのシステムνを通した通信で伝えられると、ツバサはマリナらと別行動をとることにした。
他に避難し遅れた人がいないか探してみるよ、とツバサは言って、マリナたちとは逆の方向へ駆ける。
そこは、電波をも一切通さないライチョウの防衛機能――あの靄の中へツバサは駆けて行った。
辺りは靄に包まれている。
靄の中で一瞬光が放たれた。
靄の奥から、ウルトラマンティガが一回転して着地した。
ティガの眼前には、怪獣と突然変異で巨大化したあのライチョウだろう――鳥の怪獣が倒れていた。
ティガは両腕をカラータイマー手前で交差した。
力を溜める。ティガの外周を白い光が包み込んだ。
ティガが両腕を広げた。
その刹那、辺りの靄が一斉に勢いよく払われていく。辺りが靄だったのが、一瞬にして山肌や青空がポラロイド写真の現像のように姿を現していった。
怪獣と巨大な鳥を庇いながら怪獣に構えるティガの姿がそこにはあった。
こっちもこっちでリア充かあ……。
爆発しろよ。