本当にお疲れ様でした!
次回こそは……次回こそは短く……するぞ!(遠い目)
7.
*
光が柱のように、地上に立つ。
その姿は、見るもの全てが目を見張るほどだった。
ツバサに、ここにいろと言われたエミは、シェルターに入ることなく、シェルターの入口でツバサが戻ってくるのではないか、と待っていた。
だが、その直後、光の柱が立つのが見えた。
眩い光にエミは、目を細める。
そして、その光の先に――。
ウルトラマンティガが、そこにいた。
それはまるで、神が降臨したかのようだった。神々しい光を放ち、見たものを魅了した。
「光の……巨人……」
エミは、思わずつぶやいた。
ティガは、空に浮かぶ『方舟』を見上げていた。ティガが戦うべき敵をティガ自身が知っていた。
ティガは、降りしきる豪雨の中、『方舟』に向かって飛んでいった。
*
「くそ! 全然シールドが壊れない!」
ヒロキが、傷すら入らない『方舟』のシールドを見て、怒鳴りちらした。
『方舟』は、電撃の攻撃をやめず、その傍ら、大気を流れる風をかまいたちのような斬撃に変化させて、戦闘機に襲い掛かった。
何機かの戦闘機がその所為で撃墜されていった。
完全に攻めあぐねていた。距離を取って、遠距離からミサイルを撃ち込むが、『方舟』のシールドは、一切傷一つつかない。
「まさか、ここまでの力を持っているとは……。一体どこの異星人が作ったっていうんだ?」
フドウが歯ぎしりを噛んだ。
このままでは、メトロポリスはおろか、全世界にまで被害が来る。
天候や自然災害までをも操ることの出来る船――科学で対処出来るものではない。
どうすればいい。ツバサ君ならこの後どう考える? フドウは頭を回転させる。
だが、その直後。
α号の真横を一つの巨体が飛び去った。
フドウは、急いでそれに目を追う。
ウルトラマンティガだった。
「ティガ……来てくれたのか」
ティガの姿は他の隊員にも見えていた。
この状況を打開できるのは、もう、ティガしかいない。
全て、ティガに任せることしか出来なかった。
ティガは、『方舟』の電撃が届かないぎりぎりの所で静止した。
体勢を整え、船を見上げる。
そして、ゆっくりとした動きで、渾身の力を込めた――。
ゼペリオン光線を『方舟』に向かって放つ。
光線はシールドに直撃する。だが、それでもシールドを破ることは出来ない。
シールドは、光線のエネルギーを分散していった。だが、完全に分散は出来ていない。ティガの光線は確かに効いている。
だが、足りない。
ティガは、休むことなく光線を放ち続けた。あとどれくらい持つか、エネルギーはどれだけあるか、それはティガ――ツバサが知る由もない。
風の斬撃が襲い掛かる。ティガに何度も直撃するが、ティガは体勢を崩しつつも、何とか体勢を立て直して、光線が途切れるのを防いだ。
いつタイマーが点滅するか分からない。とにかく時間との勝負なのだ。
戻ることは出来ない。ここまで来たら、後は信じるだけだった。ティガは、光線の威力を上げる。
エネルギーはさらに消費するが、そんなもの気にしてられない。
勝たなくては――それがティガの――ツバサの思いなのだから。
『駄目だ……ティガの必殺技でもあのシールドを破れない』
シンイチの通信だ。
「ティガが駄目だったら、一体どうしろっていうんですか! 誰もあの船には敵わないっていうんですか!」
ヒロキが叫ぶ。
「弱音を吐かないでください、ヒロキ先輩。ここで諦めたら、地球を守るものはなくなってしまうんですよ!」
マリナが、叱咤する。だが、ヒロキは、だけど! と、反論した。
マリナの声が震えていた。多分、マリナもまだ諦めてはいないだろう。だが、もしかしたら駄目かもしれない、とも思っているのだろう。
確かにあの光景を見たら、誰もが諦めるだろうな、とフドウは思った。ティガの必殺技――以前の怪獣を一閃した光線も、シールドには無意味のようだ。貫くことも出来なければ、壊すことも出来ていない。
本当に駄目かもしれないな……フドウも諦めかけていた。
だが、フドウは、ここでおかしなことに気づいた。
確かにティガの光線はシールドを破れていない。それは見ればわかる。
だが、どうして、ティガは光線を止めようとはしないのだろうか?
今もまだ打ち続けている。その一点に、ただひたすら、自分のエネルギーが切れるかもしれない状況にも関わらず、ティガは、光線をやめようとしない。
フドウは、目を凝らして見た。
シールドは光線を受けて発光している。その発行が、四方八方に流れていっていた。だが、その流れが遅い。所々で流れが止まっていた。所にはそこで止まって、発光部分がさらに白くなっていた。
その瞬間、見える。
シールドの所々に、まるでタイルの継ぎ目のような溝らしきものが。
活路が見えた、フドウはそう思った。
頭の中の考えが鮮明になる。一瞬にして次の作戦が浮かび上がった。
「各機に指令! 全員、残った火力をティガが攻撃している場所に一点集中させろ!」
突然の指令に、隊員達はフドウの意図がつかめなかった。
「隊長! 一体どういうことですか?」
ヒロキが聞いた。
「もしかしたら、あのシールドを破ることが出来るかもしれない」
「そんな! だってティガを見てくださいよ! ティガの光線でも破れていないじゃないですか!」
ヒロキが叫んだ。
確かにそれは正しい。正しい疑問だった。
だが、だからこそ、そこに見落としがあるのだ。
「だったら聞くぞ。どうしてティガは、今も光線を放ち続けている?」
フドウが聞くと、全員が気づいた。
「確かにおかしいですね。負けると分かっているなら、あんな行動には出ない」
シンイチが言う。
「ということは……ティガにはシールドを破るための方法を知っている?」
マリナが言った。
フドウは頷く。
「ああ。だが、それにはティガ一人の力じゃ足りないんだ」
フドウは、自分の考えを述べた。
「あのシールドは一つの大きなシールドじゃない。何枚もの小さなシールドを並べたものなんだ」
「何枚ものシールドを並べた?」
ヒロキが聞く。
「ああ。タイルのようにな。その証拠に見ろ。ティガの光線が直撃している部分だ。シールドの周りに溝のようなものが一瞬だが見えるだろ」
全員がフドウの言った部分を見た。
「……確かに見えます」
マリナが一番に言った。
「シールドには種類によってその特徴が違う。俺たちが思っていたのは一枚の大きなシールドだ。これは、耐久力は強いが、そのダメージを分散する機能がなく、攻撃を受ければ受けるほど、ダメージが溜まり、やがて瓦解する」
だが……、とフドウは続ける。
「これはもう一つのタイプだ。小さなシールドを並べて覆う形だ。一つ一つの耐久度は低いが、受けたエネルギーをシールドとシールドの溝から外へ流す性質がある」
「つまり、このシールドは後者だと?」
マリナが聞いた。
「そうだ。受けたダメージは全て溝から外へ流される。ましてや、三方向からの波状攻撃は、このシールドにとっては相性が良すぎたんだ。分散された攻撃だから威力も低い。受けたダメージはそのまま外へ流される。無傷なのは当たり前だ」
だが、しかし、とフドウは結論する。
「弱点はある。あれは耐久度が低い。つまり、ダメージを受け流すのにも限度があるんだ」
フドウがそう言うと、全員が、その意味を知った。
「そうか。ただ無闇に攻撃するのは相手の思うつぼだ。ということは……」
シンイチが言い、そしてマリナが締める。
「目標を決めて、その一点に集中して攻撃すれば……」
シールドは壊れる。
そして、それにうってつけなのが、ティガが攻撃している場所なのだ。
「そういうことだ。ティガは、そのことを俺たちに伝えようとしていたんだ」
自分一人では倒せない。だが、全員の力を合わせれば、敵わない敵なんていない。
ティガはそう言いたかったのだ。
「ツバサ君が諦めずに俺たちに答えをくれたように、今度は俺たちが答える番だ。今度は、俺たちの――いや、人類の意地を見せてやるぞ!」
フドウの鼓舞が、各機の通信から流れる。
それは、正に反撃の狼煙だった。
隊員たちは一斉に、ラジャー、と叫び、ティガの周辺へ戦闘機を静止させていった。
「待たせたな、ティガ」
ヒロキが言う。
「これでやっと一緒に戦えるな」
シンイチが言う。
「もう二度と、負けないために……!」
マリナが言う。
そして、地上で、祈るように空を見上げるエミが言う。
「お願い……届いて!」
最後にフドウが、叫んだ。
「撃てえ!」
それぞれの戦闘機に残った火力が一気に放たれた。
ティガの放つ場所に、一気に攻撃が直撃していく。
爆炎が吹き荒れる。煙で、シールドがどうなったか、肉眼では確認できない。
だが、それでも攻撃の手をやめない。
「全弾撃ちまくれ! その後のことは後で考えるんだ!」
フドウが攻撃しながら叫んだ。無論、誰もが同じ気持ちだ。
ティガは、ちらとフドウを見た。一瞬だが頷いたように見えた。
ティガはもう一度船に顔を向け、そして、残ったエネルギーをぶつけた。
どれくらい放ったか分からない。
だが、確かに音が聞こえた。
何かに亀裂が入る音。
それと同時に、一気に亀裂が入る音が大きくなっていき、そして――
ガラスが割れるような高い音が、爆音の中から響いてきた。
ティガは、それと同時に、光線を打つのをやめた。
ティガの動きが止まったと同時に、フドウは、
「撃ち方やめ!」
と、中止命令を下した。
煙が晴れていく。
この先に今までの結果がある。
もし、それが報わなければ……。
人類は敗北したも同然なのだ。
煙が晴れていった。
そして――。
シールドの一枚が、完全に壊れていた。
「よっしゃあ!」
ヒロキが叫んだ。
「やった! やったわ!」
マリナが叫ぶ。
フドウは頷いた。
良かった。ツバサの立てた仮説は、少し予想外の結果を招いたが、それでも彼は正しかった。
一人の少年の頭が、この結果を生み出したのだ。
だが、喜ぶのもつかの間だった。
壊れたシールドに変化があった。
『隊長! シールドに異変です』
他の防衛隊員からの通信だった。
フドウは、防衛隊員から送られたシールドの望遠映像を見た。
「なんだこれは……」
フドウは、目を疑った。
マリナたちにもその映像が送られてきた。
それは、壊れたシールドの映像だった。
壊れてしまった部分が、少しずつだが、元に戻っていっていた。
「もしかして、修復機能があるのか?」
フドウが言った。
「……チートかよ。汚いなあ」
ヒロキが言った。
「だけど、少し変。何ていうか……気持ち悪い」
マリナが言った。
マリナが言うのも無理はなかった。
修復されていく部分は、ただ綺麗に元に戻ろうとしているのではなく、ぼこぼこと、肉塊が膨らんで割れていくような現象を見せていたからだ。修復部分だけ、色が赤く、まるで本当の肉塊のようだった。
到底、シールド、というのは言えない代物だった。
それは「修復」ではない。傷ついた体を「再生」させている、と言い換えた方が正しいのかもしれない。
まるで肉の壁――ただ、船を守るためだけに存在する謎の生命体のようだった。
*
ティガは、シールドが壊れた瞬間を見逃さなかった。
すぐさま、ティガは、力を振り絞って船にめがけて飛んでいく。
だが、シールドが壊れたからといって『方舟』の攻撃が終わったわけではない。
『方舟』はすぐさま、攻撃をティガに向かって放つ。
だが、それはもう遅かった。
ティガの額のクリスタルが光る。そして、ボディの色を紫に変化させた。
ティガの持っている三フォームのうちの一つ。打撃や光線能力を抑え、速度に特化したスピード型のタイプ――スカイタイプだ。
そして、ティガは自身の体を光に変え、一気に船に突入した。
シールドはティガの身長よりも小さい。だが、身長をコントロールし、尚且つ自身を光にすることが出来るティガには、シールドの大きさなど無意味だ。ティガは、壊れたシールドから、船の内部に突入することに成功した。
その直後、『方舟』はシールドが修復を完了させた。
*
シールドを突破と同時に、ティガは自身の体を形成する。身長は、人間の平均とほぼ変わらない。相手に悟られないようにするためだ。
シールドを突破すると、そこには『方舟』があった。シールドの内部では攻撃はこない。恐らく、あのシールドは攻撃機能も備わっているのだろう。
船は、完全な木造船だった。
ティガは、『方舟』の入口らしき大きな一枚の板を見つけた。聖書通りなら、跳ね橋のように開く仕組みのはずだ。
だが、正しく乗船する気など、ティガにはさらさらない。ティガはハンドスラッシュで、入口部分に穴をあけた。
木ゆえに、簡単に壊れた。外のシールドが強固なのは、恐らく船そのものに防御する力がないからなのだろう。
ティガは、空いた穴から『方舟』の内部に潜入した。
そして、それと同時に変身を解き、ツバサに戻る。
エネルギーは残り少ない。切り札として、ティガの力は温存しなければならない、とツバサは考えたのだ。
だが、それでもツバサは丸腰の状態だ。ポーチには、ヨウ素液などの薬品が入った容器があるが、それが牽制になるかどうか分からない。内部に潜入したと同時に、敵の襲撃も覚悟していたが、幸い誰もいなかった。
むしろ無人だった。人の気配がツバサのいる場所からは感じられない。
敵がいるとすれば、どこだろうか?
決まっている。操縦室があるはずだ。
ツバサは、洪水神話の内容を思い出す。
洪水神話――ギルガメシュ叙事詩やシュメルの洪水神話、そして旧約聖書の中でも大体が共通の話だ。
ただ、ギルガメシュ叙事詩と旧約聖書では、方舟の構造が違っているのだ。
ツバサは、上を見上げた。
階段はある。ツバサは、階段から上を見た。
三階からさらに続いているようだ。
となると、この船は、ギルガメシュ叙事詩を元にして作られていることになる。
だが、それだと高さが足りない気がする。洪水神話では雄雌の全ての動物を入れた。そこにはそれぞれを仕切る部屋がある。
旧約聖書では内部は三階ある。だが、叙事詩では七階あるのだ。
そうなると、一部屋の高さを考えると足りない気がするのだ。
だが、相手は人類の予想をはるかに超えた科学力を持っている。もしかしたら、概観と内部では高さが違うように見せているのかもしれない。実際はもっと高さがある、と考えた方がいいだろう。
七階建てだとすれば、操縦席があるのは、中央の四階かもしくは最上階かのどちらかだろう。
ツバサは階段をゆっくりと登り始めた。
各解に、小部屋があり、それぞれが扉で閉ざされていた。
ツバサは、足音を立てないように扉前まで歩き、気づかれないようにゆっくりと扉を開ける。
何かの気配は感じない。ツバサは、ゆっくりと扉を開けた。
誰もいない。ツバサは胸を撫で下ろした。
もしかしたら、敵が来るかもしれない、と思い、ツバサは部屋の中に入った。扉を閉める。どうやらロックはないようだ。
しかし……、とツバサは思った。
船の構造が叙事詩に記されている通りなのは驚いた。
物語でしか出てこないものを実際に再現したものを見ると、文章で伝えている以上に迫力がある。
全て再現されているのなら、小部屋は動物や人のための部屋のはずだ。だが、目の前にあるのは生き物ではなく、何かの機械だった。
木製の歯車、木製のパイプ、木製の箱型の制御装置だろうか、全て木製で作られた部品が複雑に構成されていた。
木の割には、動きは滑らかで、一体何のための装置かは分からない。
いや、むしろその前に、このような前時代的なものが、『方舟』の機能をもたらしているというのだろうか?
地球にあるもので、人類の科学では不可能なことを可能に出来るのだろうか。
「……現実的に考えて無理だ」
ましてや木製の機械だ。それで、宙に浮かせたり、天候を操ったり、本体を迷彩で隠したり、投影したりするなど現実的に不可能だ。
もしかしたら、外部が木製なだけで、外部が未知の技術なのだろうか。
ツバサは、機械に近づいて調べてみる。
だが、どう見ても、全て木製でしか作られていないものだ。
仕組みが分からない。木だけで、どうしてここまで想像をはるかに超える代物が作れるのだろうか。
ツバサは、周囲を注意しながら部屋を出て、次の部屋に向かう。
結局、全ての部屋には、似たような木製の機械があった。配列は違うものの、それぞれが正常に起動していた。
四階には操縦室らしいものはなかった。
だとすると、やはり最上階にあるのだろう。ツバサは、六階から七階へ上る。
すると、今まで全てが木造だと思っていたところに、たった一つだけ違う部屋があった。
船の前方部分にあたる場所――恐らくあそこが操縦室だろう。そこの扉だけが銀色の扉だった。
ツバサは、一気に扉の前まで近づく。
耳を澄ませる。それほど分厚い扉ではないようだった。
中から何かの音が聞こえた。そして、何かの気配も感じた。
ここだ。確かにここに何かがいる、とツバサは確信した。
耳を澄ませて聞いてみると、時々だが、ぐちゃり、と重い質量の液体――例えるならスライムが地面に零れたような音が聞こえた。あまりに鮮明に聞こえたためか、ツバサは一瞬だけ鳥肌を感じる。音や時々聞こえる地面をこする音から、人間の形をしていない――いや、むしろ、実体がつかめない。形の定まらない個体が体を変形させながら動いているようだった――まるでアメーバのように。
だが、相手が誰であろうと、ここで蹴りをつける。
扉が開いた時が勝負だ。
ツバサは、息を整える。チャンスは一回だけ。絶対に外せない――九回裏、ツーアウト満塁のチャンス。
この一球で、この一回で全てを決める。
ツバサは覚悟を決めた。
意を決し、扉を蹴りでぶち破る!
そして、それと同時にスパークレンスを胸元に持っていき、トーチ部分を開く!
眩い光が、操縦室を照らす。
相手にとって目くらましになったかは分からない。だが、それでいい。ここから先は自分の番だ。
ツバサがティガに変身した。
ティガにはエネルギーが僅かしか残っていなかった。変身をしたにも関わらず、カラータイマーが点滅していたからだ。
だが、それでも構わず、ティガは操縦室に入っていく。
そこには、得体のしれない生物がいた。
イソギンチャクのような、細かな触手で覆われた全長が五十センチメートルほどの生物だった。触手のうち、二本が他のより長く、それが手の役割をしていた。
足はなく、転がるように移動していく。その生命体が通った跡は、青白くぼおっと薄ぼんやりと光っていた。
それが、目測で六、七体見えた。
謎の生命体は、ティガの存在に気付いたと同時に、体から青白い液体をティガに振り撒いた。
ティガは、顔を覆う。その液体は顔にかかることは無かったが、体中にかかった。
何かの毒か、もしくは何かを支配する薬なのかもしれない。人間ならば、何らかの症状が現れるかもしれない、得体のしれない液体だろう。
だが、ティガの皮膚はそれすらも通さない。
ティガは、両腕を胸で交差させた。その瞬間、ティガの体が白く輝き、シルエットのようになった。体中に光を溜めたのだ。
ティガは溜めた光を一気に放出した。体中に付いた液体が、光の放出と共に、部屋の壁の至る所にはじけ飛んだ。
そして、ティガは反撃に出た。相手に第二波の余裕も与えない。
両腕から、ハンドスラッシュを一気に謎の生命体に放つ。
正確に狙った攻撃は、一つも外すことなく、生命体に直撃した。
生命体は、耐えることが出来なかった。第二波を出そうにも、ティガの想像を超えるダメージの攻撃を食らった所為か、青白い液体を飛ばすことが出来ずに、ただ、生命体の体から漏れ出す程度だった。
触手が意味もなく細やかに動く。だが、それは時間が経つと同時にのろくなっていった。
弱弱しく、地面を這い、何かを訴えるかのような小さな奇声を発した。
そして、全ての生命体は、その動きを止めた。
直後、生命体の体は、溶けていく。最後には、地面に青白い液体が地面の至る所に流れているだけだった。
ティガ――ツバサは操縦室の中央にある機械に近寄った。
木製のものではない。明らかに金属の部品で作られた機械だった。
だが、地球のものではない。見た目も構造も、ツバサが見てきたものにも該当するものは一切ない。まさに未知の領域だった。
無闇に壊せば、『方舟』は、そのままメトロポリス中心地に墜落して爆発するだろう。そうなれば、建物の被害はおろか、地下シェルターへの被害もあり得るかもしれない。
ならどうするか、と機械を見つめる。
そして、そこでティガ――ツバサは気づいた。
――なんだ、そこにシールドの切り離しのスイッチがあるじゃないか。
ティガ――ツバサはすかさず、そのスイッチを押す。
――船の操縦桿はこれか。壊れていないようだ。これなら動かせる。
ティガ――ツバサは、操縦桿を握り、展開している機能を全て解除させた。スイッチの配置はかなりシンプルで作られているから、初心者でも分かりやすい。
あとは、これを湾の空いている場所に着陸させればいい。そして、シールドとなっている生命体を破壊するだけだ。
シールドとなっている生命体は、『方舟』の機能に連動している。『方舟』が機能を停止させると、その耐久力もエネルギーを受け流す能力も無くなる。
言うなれば、ただの生きている肉塊になってしまうのだ。
後は、宇宙空間に持っていき、破壊するだけだ。
ティガ――ツバサは、操縦桿の横に取り付けてある自動操縦機能を展開させる。場所はメトロポリス湾だ。
前方に移るモニターに、外の映像が見える。敵は、ここから人類を塵屑のように眺めていたのだろう。
そう思うと、腹が立つ。人類をなめているように思えてならない。
だが、敵は負けた。
大体がティガの功績だが、人類が力を貸してくれなければ、この結果はなかった。
だから、誇らしい。
そして、船が湾内に近づいてきたのが分かった。
もう、後は自動で何とかなるだろう。これ以上いれば、正体がばれるかもしれない。
ティガは、上を見上げる。シールドと化していた生命体は上にいる。
*
『隊長! 船に異変です』
シンイチからの通信だ。
フドウも肉眼で確認する。
「船が動いている……」
船が今まで以上にない速度で動いているのが分かった。とはいえ、それでも時速は二十キロといったところだろうか。だが、巨体が動くというのが一瞬でも分かるほど、その速度が変わっているのが分かった。
ティガが内部に潜入してからまだ数分だ。あれが動いたということは、何かの進展があった可能性が高い。
ついさっき雨が止み、雲も引いた。それだけを考えるなら、船がその機能を止めたと推測できるが……。
ティガは勝ったのか、負けたのか。それが重要だ。それ以外の報告は意味がない。
「船を監視する。船の行き先を予測できるか?」
フドウが船を見上げながら言った。
「エミに頼りたいところですが……本部は崩壊、エミはツバサ君と避難しましたから……」
シンイチが呟く。後部座席でヒロキが小型端末でデータを入力している。エミほどではないが、ヒロキはパソコンが得意だ。
「どうだ、ヒロキ。分かりそうか?」
「待ってくださいよ、シンジョウさん。もう少しですから……」
ヒロキは、エミとツバサが集めたデータから『方舟』の移動場所を索敵していた。二人のデータはかなりの情報量で、ヒロキでも索敵が早い。
「……どうやら湾内の方へ向かっているようですね……」
ヒロキの通信が各機に入る。
「湾内か。あそこは今日何かあるのか?」
「特になかったはずです。次の閣僚会議は三か月後ですから……」
フドウの問いにマリナが答えた。
「とにかく警戒を怠るなよ。ティガが出てくるか出てこないかで全て決まるようなものだからな」
ラジャー、とフドウの通信機から流れてくる。
ティガが船の内部に潜入したのは理由があるはずだ。内部の敵を一掃するのは当然として、その後、船をどうするかが問題なのだ。
それまでは、傍観をする。それしか、今できることはない。
フドウは、船を見つめながらそう思った。
その時だった。
光が船から飛び出した。
「なんだ?」
フドウが呟く。
光が船から飛び出し、一気に空へ駆けあがるように登っていく。
そして、光が、その姿を現した。
「ティガ!」
マリナが叫んだ。
隊員たちが一斉に見つめる。
ああ、確かにティガだ! その姿は、確かにあの光の巨人だった。
ティガが出てきた――ということは、勝った、という結果だ。ティガは、『方舟』の脅威から人々を救ったのだ。
だが、船は依然として湾へ向かっている。
そして、ティガは両手に肉塊を抱えていた。
ティガが両手で持つのを考えると、その大きさは、五メートルから十メートルほどの肉塊だろう。
あれが、どういうものかは分からない。だが、フドウは、肉塊の正体がシールドのそれではないかという予測は出来ていた。
だが、どうであれ、全てクリアできたはずだ。
フドウは、一斉に指令を出す。
「シンジョウとヒロキ! 二人は他の隊員をつれて、船を監視しろ。ティガが出てきて安心したとはいえ、まだ分からないぞ」
フドウの通信を受けたシンイチとヒロキは、返事をした。
「マリナは俺と来い。ティガがもしものことがあった時を考えて、俺たちがサポートする」
「ラジャー」
マリナが答えた。
β号は、残った戦闘機に指示を出した。β号を中心に隊列が組まれ、船の周囲に固まる。
攻撃はこない。船はただ浮かんでいるだけのようだった。フドウはそれを確認した。
そして、α号とγ号は、一気に上空へ飛翔する。
ティガには追いつけないが、目で追える距離は保てた。
ティガのカラータイマーはかなりの早さで点滅していた。また、エネルギーが残り少ないのだ。
点滅が終われば、以前のように消える――フドウはそのことを思い出していた。
ティガは、成層圏に出る直前で止まった。そして、肉塊をさらに上へ投げ飛ばす。
肉塊は、ゆっくりと上がっていく。不気味な赤い肉の塊は、時々、ぼこぼこと蠢いていたが、その動きは弱弱しかった。
そして、ティガは、再び、両手を前に持っていき交差させた。その後、両腕を横に伸ばし、光の線を作る。
そして、ゼベリオン光線を肉塊にめがけて放った。
直撃と同時に、肉塊は大きな爆発音と爆風によって細胞ひとつ残らずに消え去った。
「終わったか……」
フドウが呟いた。
マリナは、ティガを見つめながら頷く。その姿はフドウには見えない。だが、見えなくとも、フドウにも伝わっていた。
ティガは、一瞬フドウたちに振り向いた。
何かを伝えたいのだろうか、ゆっくりと頷いた。
フドウたちは、それを見て、咄嗟に拳を握り、親指を立てて、答えた。いつもの合図だが、きっと伝わる筈だ、フドウは思ったのだ。
ティガは、また頷いた。
そして、ティガは飛ぶ。今度は、消えはしない。ティガはそのまま空の彼方へ飛び去って行った。
「やっぱりティガはすごいな……」
フドウは、また呟く。
「ええ……」
マリナは同意した。
肉塊が消え、そしてティガが飛び去ったその空には、戦いの終焉を告げるかのように、大きな虹が掛かっていた。
雨が上がったからなのか、敵が滅んだからなのか分からない。
だが、その虹はまるで、約束のように思えた。神が人類を二度と滅ぼさないと宣誓した――人類と神の制約のように。
8.
『方舟』事件が終結してから二日経った。
ツバサは、あれからエミの所へ一旦顔をだし、家族の傍にいる、と言い残してその場を去った。
あれから、ツバサは自宅でテレビやコスモネットを通じて『方舟』事件のその後を辿った。
あれから『方舟』は、ツバサが指定した通り、メトロポリス湾の港に着水した。
それからすぐにTPCの職員たちによって内部調査が始まったが、それから後は分からない。何か手がかりを得たという情報も一向に入ってこなかった。
まあ、あの技術は多分誰も解明出来ずに攻めあぐねているのだろう、とツバサは予想していた。
ただ、操縦室であの謎の生命体を片付けた後に、そのままにしてしまったことは一つの後悔だった。
あれはあまり見せられる光景ではない。多分、職員の何人かは堪え切れずに吐いてしまったかもしれない。
それに関しても特に何もなかったから、気にはしなかった。
だが、それでも、ツバサには一つだけ心残りがあった。
戦いには勝った。勝ったが、それも強引だ。正しいやり方で勝ったとは言い難いものだった。
だが、それが仕方のないことだとはいえ、あの事だけは、どうしても忘れることが出来ない。
自室のベッドで横になって、物思いにふけっていると、ノックの音がした。
「お兄ちゃん。今、いい?」
ホノカの声だった。
ツバサは、ベッドから立ち上がって、扉を開けた。
「どうしたんだ?」
「あのね、何か、TPCの人がお兄ちゃんに会いたいって言って、今来ているんだけど」
TPCが? 一体何の用だ?
ツバサは、一瞬疑問に思ったが、すぐにいくつか心当たりを思い出した。
「……分かった。行くよ」
「客間にいるから」
ツバサが階段を降りる。後ろからホノカの声が聞こえた。ツバサは、手を上げて、分かったと合図した。
客間の前に両親がいた。母は、今日は会社を休んだのだ。
「中で待っているわよ」
カノコが呟く。
ツバサは、頷いて中に入った。
そこには、女性が一人正座で座っていた。母が出したのだろうか、テーブルには湯呑が置かれていた。
赤紫のベスト。そこにTPCと書かれている。
だが、ツバサが驚いたのは、その容姿だった。
髪の色や服装を除けば、瓜二つだったのだ。
ツバサは、思わず呟いてしまいそうになった。
(……ユザレ!)
だが、女性が、待って、と一言。ツバサは、出そうになった言葉をまた、喉奥に押し込んだ。
女性は、ぴっ、と何かのスイッチを押した。小型の黒い箱のような機械だった。
「時間がないから、手短にお話ししましょう――ウルトラマンティガ」
ツバサは、体に電流が走るような感覚を覚えた。ツバサは思わず身構えた。
「あなたは、一体……」
身構えるツバサに女性は宥めるように言った。
「ああ、そう怯えないで。大丈夫。私はあなたの味方よ。あなたと同じく、ユザレから予言を受け取っている人間よ」
女性の口から「ユザレ」と言葉が漏れた瞬間、ツバサは警戒心を解いた。ツバサは、女性と向き合うように座った。
「あなたもユザレから?」
「ええ。彼女から、あなたの正体と、あなた自身を守るようにと言われたわ」
ツバサはユザレの言葉を思い出す。味方が近くにいる、とは彼女のことなのだろう。
「つまり、僕がティガであることを知っているのは、僕とあなただけということですか?」
「そういうことになるわね。そして、ユザレもそう……」
同じだ、とツバサは感じた。
声も、仕草も――目の前にユザレがいるようで、不思議でならなかった。
「あの船を湾に移動させたのもあなたなのね?」
イルマは尋ねた。
ツバサは、周りを警戒しながら答えた。
「はい。そうです」
そう、とイルマは言う。
「現実、科学局があの船について一切調べられないと言って困っていたわ。あなたは、どうしてあの船を動かせたか思い出せる?」
ツバサは顔をしかめる。
「実際、分からないんです。あれを見たのは初めてでした……。でも、理屈抜きで分かったんです。あれはとてもシンプルに作られた操縦機能で、僕でも動かせる、と」
不思議ですけど、それが事実です、とツバサが言うと、イルマは、分かったわ、と言った。それ以上は、何も聞かなかった。
ツバサは思っていた疑問を吐き出した。
「でも、いいんですか? こんな大事な話をして……もしかしたら、盗聴や、僕の両親に聞かれてしまった可能性があるかもしれないですが……」
「最もな意見ね。でもその心配はないわ」
女性は、手元にさっきの小型の黒い箱型の機械を置いた。
「それは?」
「今、この部屋に特殊なフィールドを発生しているわ。詳しく説明すれば、この機械が作動している間、特殊な電波を発し、盗聴している相手はおろか、部屋の外からこの部屋の会話を聞いたとしても、外部からは全く違う会話が聞こえるようになる仕組みなのよ」
女性の説明は少し難しかったが、ツバサは確認で聞いた。
「つまり、僕らの今の会話は聞こえずに、外部からは全く違う会話が聞こえるということですか?」
女性は頷く。
「ええ。一応今回は『方舟』事件に手を貸してくれて有難う、というような会話が外には聞こえているはずよ」
なるほど、それは便利だ、とツバサは思った。
「でも、まだこれは試作段階だから、会話パターンがまだ少ししかないの。パターンが一周すると、また同じ会話が流れてしまうから、その前に話を終わらせたいのよ」
でも、もう確認することは終わったからいいわ、と女性は言った。
「その機械は、一体誰が?」
ツバサが尋ねた。機械の仕組みを聞いた途端に興味が湧いたのだ。これだけのものを作れる人は相当の天才に違いない。
だが、女性はそれをはぐらかした。
「ちょっとつてがあってね。頼んで急いで作ってもらったの。今は、言うことは出来ないけど、いずれツバサ君には教えるつもりよ」
女性はそう言った。ツバサは、そうですか、と答える。そんなことを言われたら、もう聞くことは出来ない。
女性は、機械のスイッチを切った。
「さて、ここからはご家族の人にも聞いてもらいたい話があるから。一緒に聞いてもらえるかしら?」
女性が、ツバサに面と向かって言った。ツバサは、はい、と言われるがままに、両親とホノカを呼んだ。
ツバサの後ろに両親とホノカが正座した。テーブルを挟んで向こう側に女性がいる。
既に女性が使った機械はない。ここからは盗聴されても惜しくない話なのだろう。
女性は、頭を下げた。
「重ねてお礼を言います。息子さんのお力添えで今回の事件を解決することが出来ました。本当にありがとうございます」
ヒロアキとカノコが頭を下げた。
「ああ、いえいえ。こちらこそ。すみません。先ほどのお話を聞いてしまいまして……」
「いえ、構いません。彼個人にお礼を言いたかったものですので」
女性とヒロアキが微笑している。どうやら、両親には先ほどの会話の内容が、機械で偽造されたものが聞こえていたようだ。
襖一枚向こう側にも関わらず、会話を変えられるなんて、物凄いと、改めてツバサは思った。
女性は、改めて自分の名前を語った。
「申し遅れました。私は、TPC情報局参謀のイルマ・メグミと申します。この度は、TPCを代表して、お礼を言いに来ました」
イルマ、と女性は名乗った。TPCのそれぞれの局の参謀――しかも情報局のトップがわざわざツバサに礼を言いにきたのだ。
ヒロアキは、イルマの顔を見るなり、思い出した。
「ああ、あなたは……確かあの時の人ですね」
イルマは、目を丸くする。
それもそのはずだ。イルマはヒロアキとは何ら面識がないのだ。
「あなたのことはよく覚えていますよ。十五、六年くらい前だったかな――『天使』と呼ばれていた悪魔の事件です」
天使、という言葉で、イルマは思い出した。
「ああ、あの時の」
「お父さん、どういうこと?」
ホノカが尋ねる。
「ああ、まだお父さんが少年だったころだ。ウルトラマンティガは悪魔で、自分達が天使の使いだ、といって人々を誑かしていた変な宗教家がいてね。殆どの人間が信じちゃったんだけど、この人がテレビで説得したんだ。ティガに光を与えてくれって」
ふーん、とホノカは言う。
「そのおかげでティガが悪魔に勝ったんだ。あの時、テレビで説得していたのが、この人だったんだ。よく覚えているよ。確かあの頃は、GUTSに所属していたんですよね? 以前もテレビで拝見したことがあります」
イルマは、若干照れた様子で言った。
「あの頃は、少し無茶が過ぎました。必死だったもので……」
ヒロアキとイルマは、ツバサたちが知らない昔話に花を咲かせた。
イルマは、話を元に戻す。
ツバサに一枚の書類を渡した。
「あなたがキサヌキ隊員に解析を頼んだ、例の雨水についての結果が出ました」
ああ、そういえば、頼んでいたな、とツバサは思い出した。あまりに咄嗟だったため、自分で解析することが出来なかったのだ。
ツバサは書類を覗き込んだ。
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「どうなっているんですか……これ……」
それはあの雨水の化学式だった。
一部分はしっかりと表記されているが、所々が正しく表記されていない。
「キサヌキ隊員が先陣を切って、本格的に雨水を分析したのだけど、何度やってもその回答しか得られなかったわ」
信じられない。だが、エミが何度もやってくれてこの結果ということは、受け入れるしかない。
「これだけやっても正しく表記されないというと、これは……」
ツバサは、その予想を呟く。
――正しく表記されていない部分は、地球外の物質であるということ。
「ええ。私たちもそう考えているわ」
炭素、水素、窒素、そして酸素。それらは正しく出ているが、それ以外が表記されない――つまり、周期表に書かれていないものになる。
「大気に存在する水素、窒素、そして酸素の分子構造を無理矢理変えた可能性がありますね。ただ、大気にない炭素はどこから……」
ツバサは、ぶつぶつと呟く。そして、答えに気づく。
「そうか。『方舟』は木製だ。つまり、どこかで船の一部を燃やして炭素を作っていた?」
その通りよ、とイルマは言った。
「科学局のチームが、船の内部で黒こげになった部屋を見つけたわ。多分、そこで木を燃やしていたのでしょう。それも、大量の木があそこにストックされていたと考えられるわ」
ツバサは、その部屋を認識していなかった。流れるように素早く確認していたから分からなかったのだ。
「ツバサ君は、この結果からどう考える?」
イルマがツバサに尋ねた。
今までの出来事から、ツバサは考える。
この結果からも、どういうものかは何となく理解できる。だが、今までの出来事を考えれば、ツバサの予想が正しいと言い切れるものになる。
「少なくとも、この分子構造から、この雨水は人体に良いものとは思えません。間違いなく、人体をゆるやかに破壊していく力があると思います」
そして――、とツバサは結論づける。
「この成分を雨として降らせ、人々の体に入れることが『方舟』の本当の目的だった」
「投影や天候の支配――そしてツバサ君の仮説に基づいた攻撃とティガの攻撃による勝利――それらを全て敵は予測していた。全ては、雨の存在に気づかせないために――」
イルマは、補足していった。ツバサは頷いた。
それが、ツバサが最後に導いた答えだった。全てが掌の上だった。必死にやってきたことが敵にとって、お遊びを鑑賞していたようなものだったのだ。
敵の目論見は成功した。今、メトロポリスに雨は降り注がれた――それはつまり、多くの人の体にこの雨水が染み込んだということだ。
「僕やエミ、そして一部の隊員が正気だったのは、恐らく、この液体は一定以上の量を浴びることで人間を支配できるという効能だったのでしょう」
そう考えると、エミが何とも無かったことも納得できる。他の職員とは違って、エミは、作戦開始日以外は、総合本部から外に出ていなかった――つまり、雨を浴びていなかったからなのだ。
彼らが暴れたことで、ツバサはこの雨水の危険性に気づくことが出来た。すでに人々の体内にあるこの液体で、また人々が暴れだすかもしれない、という可能性は充分に考えられる。
そうね、とイルマが言った。
「私もそう思うわ。もしかしたら、また同じことが起きるかもしれない。だけど、そうならないように避難をもっと流動的にするようにシステムを作り直すわ」
「この雨水が地球上にあるものとの関連性は無いのですか?」
「こちらで検索を入れたところ、これは、二十世紀頃の産物を改良したものの可能性が高いと考えているわ」
「二十世紀ごろの産物?」
「言うなれば、『麻薬』ね」
麻薬……とツバサは呟いた。ホノカは眼をきょとんとさせている。
どういうものなの、とホノカは尋ねるが、カノコは、知らなくてもいいものよ、と小さく言った。
「この件は科学局に任せています。今はこれよりも考えなくてはならないことがあるわ」
イルマは、話を変えた。どうやら、ここからが本題らしい。
「単刀直入に言います。我々TPCは、あなたを必要としています」
直球だった。ツバサを除いた全員が、驚いた。
文字通りのスカウトだ。
「今回の『方舟』事件で、あなたの仮説と、適格な指示はTPC、特にS‐GUTSの隊員から絶賛されています。私自身こうした人材は伸ばした方がいいと考えています」
イルマは、賞賛してくれるが、だが、ホノカは意義を呈した。
「待ってください! いくら何でも急すぎます!」
ホノカは息が荒い。何かに慌てているようだった。今まで見たことないホノカの姿にツバサも両親も驚いていた。
「確かに、兄の能力はすごいです。並外れた知識を持っていますし、確かにその手の人たちには是非とも欲しい人材だとは思います。だけど……!」
ホノカは、息を整えて、叫ぶ。
「まだ十五ですよ! これから自分の道を見つけていく年齢なのに、いきなりここで道を強引に決めてしまうのはあまりに横暴だと思います!」
ツバサは、慌てているホノカを宥める。彼女がここまで必死になって、自分を引きとめたいという思い――ツバサは身に染みるほど理解していた。
イルマは、特に反論することもなく、微笑みながら言った。
「大好きなのね。あなたのお兄さんのこと」
イルマの言葉に、ホノカは顔を赤らめて反論した。
「ち……違いますよ! ただ、家族として、ツバサの将来を案じて……!」
せっかく落ち着かせたのに、またホノカは慌てだした。ツバサは、その真意は読み取れていなかったが、とにかくうれしいという気持ちは本物だった。
でも、とイルマは自分の見解を言う。
「もうご存じだとは思いますが、今、人類は再び、大いなる敵の脅威に晒されようとしています。一か月前の謎の声明文での人類に対する脅迫、そして今回の『方舟』事件。今まで十数年もの間、安寧の日々が続いていましたが、それはもう終わりを迎えたのです」
イルマは説明を続ける。
「守護神であるウルトラマンが現れたことは、同時に怪獣や未知の敵も現れるということです。これから、いつ、どこで敵が現れてもおかしくない。もしかしたら、今も虎視眈々と人類を狙っているかもしれない。もしかしたら、この住宅街に潜んでいるかもしれない」
まさか、とホノカは呟く。
「そう。ツバサ君やあなたたちは、怪獣や異星人の脅威に怯えていた時代を知らない。でも、分かったはずよ。今回の『方舟』事件で、嫌というほどに」
ホノカは、うう……、と唸って頭を下げた。
「ツバサ君の力は、人類を守るためには必要な力なんです。我々としても、彼の知識をこれからの投資だとは思っていません。今から起こりうる人類の存続をかけた戦いへの最後の手段としてツバサ君の力を貸してほしいのです」
それは、途轍もない重圧だ、とノリアキは呟いた。
確かにそうかもしれない。十五の少年には、あまりにも重すぎる過酷な試練だ。
だが、もうツバサはその試練を受けて立つと誓った。ティガとして、人類の最後の砦として戦うことを誓ってしまったのだ。
イルマがTPCにツバサを引き入れたいというのは、ユザレの言葉に従っての事だろう。イルマは、ユザレからツバサを守るようにと言われた。ということは、TPCに――自分の目の届くところに自分を置くことで、情報局参謀という肩書で、ツバサを権力の圧力からも守ろうという考えなのだろう。
ホノカは、家族として、そんな危険な場所で戦うことをしてほしくないのが願いだった。
「どうかな、ツバサ君」
イルマはツバサに尋ねた。
選択の時だ。ここで自分の行く先が決まる。
「ツバサ……!」
ホノカが無意識にツバサを呼び捨てにした。もう、立場やら何やらを考えている余裕はなかったのだろう。
「もちろん、受けるか受けないかはあなたの意思に任せます。ここに留まるなら、時々、我々に協力してもらうことはあるだろうけど、普通の日常は保証します」
だが、受ければ、これからTPCで寝泊まりだろう。休みはあるだろうが、滅多にこの家には帰ってこれない。
ツバサの覚悟は、当の昔に決まっている。もう戻れることは出来ないから。
ツバサは、顔を上げて、イルマに面と向かって言った。
「受けます」
その言葉を聞いた後、イルマは、そう、と言って肩を撫で下ろす。ほっとしたのだろう。
だが、その一方、ホノカは開いた口が閉まらないくらい、驚愕していた。
「どうしてよ! どうして受けちゃうのよ! この家が嫌いなの? わたしたちが嫌いなの? 自分がお父さんとお母さんの本当の……」
「違うんだ!」
ツバサは一喝する。ホノカは、びくっとして、言葉を止めた。
ツバサは怒っていない。ただ、もうこれからの自分の行く末を決めていたのだ。反対されるのは承知の上でだ。
「感謝しているんだ。ホノカが言ったように、それに悩んでいることもあったけど、今はもう何でもないんだ。それにこの家だって父さんや母さん、ホノカにも感謝しているんだ」
「だったらどうして……」
ツバサは、自分の手のひらを見つめた。
「もう……戻れないんだ。僕は、もう見てしまったから……戻ることは出来ない――」
――人の死をこの目で見てしまった以上は。
ツバサは、話す。
「ホノカが轢かれそうになった時、あの車に乗っていた人は一体どういう人だったと思う?」
どうって……とホノカは呟いて、その後口を噤んだ。
「知らないだろう? でも、僕は少しだけ調べたんだ。あの車に乗っていた人のことを」
ツバサは、自分が調べたことを語った。
「メトロポリスにある中堅企業の社員で、奥さんと二人の子供がいたんだ。愛嬌もよくて、周りからは仲良し家族とか言われて、見ている側からも幸せを分けてもらった、と思えるくらいの人だったんだ」
ツバサは続ける。
「いつも決まった時間に、車で出勤して、退勤時刻になると、会社の人と折り合いをつけながら付き合いに参加したりして、夜は遅くならないように帰る」
あの時だって、そうだ、とツバサは言った。
「ホノカが轢かれそうになった時もそうだ。いつものように家を出て、いつもの決まった道を通っていただけだった」
でも、と言ってツバサは頭を下げた。
「もう彼はどこにもいないんだ! 死んでしまったんだよ。電柱にぶつかった瞬間、その場で、家族と最後に別れの言葉も言うことも出来ずに……!」
ツバサの声が震えていた。どれだけ無念だったか、言葉を通して分かった。
「事故も、犯罪も、何一つ無縁のいい人だったんだ。死ぬことなんて、一切無縁の――天寿を全うして、幸せに逝ける人生がふさわしいはずの人が、事故で亡くなったんだ! ただ、いつもの場所を、あの時間に通ったというだけで!」
ツバサ……とノリアキがツバサの肩に手をやった。
「僕は奇跡的に生き延びて、彼は死んだ! 口から血と泡を吹いて、何が起こったのか自分でも分からないまま、そのまま車の中で息絶えていたんだ! 不幸だと周りは言うけど……あんなのは不幸でも何でもない。『方舟』が現れなければ、彼は、あそこで『不幸』にあうことは無かった!」
ツバサは眼に涙をためていた。初めて見てしまった死に、自分が目指しているものが果たして正しいのか、分からなくなっていたのだ。
そう、とイルマは言った。
「人は、常に選択している。朝起きて、ご飯を食べて、仕事に行って……人の行動全てが選択肢なのよ。そして、同時に、それらは人生の分かれ道になっている」
人生の分かれ道……? とホノカは呟いた。
「ええ。行動を選択するときは、必ずそこには死へと向かう選択肢が混ざっている。一日に何を食べたいかを決めて、それらを食べる――だけど、食べたものの組み合わせが悪いせいで命を落としたり、どこに何時に行くか、を決めて行ってみたら、その時間にその場所にいたから事件に巻き込まれて命を落としてしまったり……常に死に近づく確率のある選択が私たちの行動にはある」
常に選択し、だが、その中に死ぬ可能性がある選択。何百、何千万の正解の中に一つだけ死に近づく選択肢がある。人間は常にその選択を迫られている。
だが――。
「敵は、人にそれらを選択する権利すら奪い取る。正しい選択をしてもしなくても敵はその人を殺す」
イルマは真剣に言った。
「私たちは、その権利を奪い取る奴らから、人類を――あなたたちを守りたいの」
人が、常に自分の人生の選択を出来るように――、とイルマは言った。
ヒロアキは、一瞬目を閉じて、そしてツバサの方に目をやった。
「元から、こうなることをツバサは望んでいたんだね」
ホノカは再びツバサに目をやった。ツバサは、ただ頷いた。
「……僕は、ツバサに言うことは何一つないよ。それがツバサの願った道なら、僕は影から応援するだけだ」
なあ、母さん、とノリアキはカノコに言う。カノコも同じ気持ちだった。
「ええ。わたしからも言うことは何もないわ。イルマさんの言葉を借りるなら、きっと、ツバサはこうなるように選択したのよ」
「母さん……」
ツバサはカノコに目をやる。
「あなたがここに来て、一緒にいて、そしてホノカを守って、みんなに協力して戦って、そして、人の死に涙することも――全部全部、あなたが選択したことなのでしょう?」
ツバサは優しいから、とカノコは優しく言った。
ツバサは、有難う、と言った。
ツバサは、ホノカの方へ顔を向ける。
反対しているホノカだが、ツバサの覚悟を読み取ったのか、はあ、とため息を吐いた。
「分かったわ。お兄ちゃんが決めているのなら、もう止めることなんて出来ないじゃない」
ごめんな、とツバサは謝る。
「いいわよ。その変わり、休みになったら必ず家に戻ってくること!」
ホノカはそう言って、部屋を飛び出した。
ノリアキとカノコは互いに目配りをして、部屋から出ていこうとする。
「さてと、娘を宥めに行きますかな」
「そうね。どこの誰かさんの所為で泣いちゃった娘を慰めないとね」
二人はそのまま部屋を出ていった。
ツバサは、どういう意味か分からなかったが、少なくとも、これがホノカにとって最良の選択ではなかったことは分かった。
「ご家族には、申し訳ないことをしたわね」
イルマが微笑みながら言った。
「でも……誰もが納得する答えは無かったと思います。ましてや、僕は最初から決めていたことですから」
そうね、とイルマは呟く。
「これから先、あなたとあなたの家族を含めて私が――TPCが全力で守るわ。もし、聞きたいことや頼みごとがあったら私に言って。自分が出来る最大限の協力はするから」
イルマは言った。
ツバサは、それなら……、と口を開こうとしたが、すぐにやめた。
今、これを聞くべきではない、ツバサはそう思ったのだ。
僕の無くなった記憶について、何か知っているか――。
ツバサはそれを聞こうと思ったのだ。
ユザレに予言を与えられたということは、少なくとも、ティガであるツバサがどういう人間であったのかを教えられているはずだ。
そして、その予想は正しい。
イルマは、ツバサが、マドカ・ダイゴの息子であり、光を継ぐものとして、ティガとなって戦う運命にある少年であることを知っている。
だが、互いに、それを聞くことも、言うこともしなかった。
彼らはそうする選択をしたのだ。
これから先、この選択がどういう結果になるかは分からないが――少なくとも、こうすることが正しいと、二人は確信していたのだ。
いつか来る、災厄に立ち向かうための最善の選択であると信じて――。
*
アンダーグラウンドの作戦司令室にS‐GUTSの隊員たちは、『方舟』事件の後、一般業務に戻り、平穏な日常に戻っていた。
メトロポリス湾に着水した船は、現在科学局などで調査がなされているようで、あの後、S‐GUTSも中を除いたが、エミですら全く仕組みを理解することが出来ずに、ただ圧巻されるだけであった。
そして、今は『方舟』の情報を待っているという状態になってしまっていた。
「パトロールからただいま戻りました」
司令室の扉が開く。ヒロキとマリナが戻ってきた。
「おう。お疲れ。どうだった?」
フドウが尋ねる。
「何も異常はありませんでした。市民も『方舟』のことはもう興味の対象でもないようですし」
マリナが言う。
「まあ、後のことはこっちに任せるってメディアに言ったんだからねえ。結果が来るまで、彼らも干渉しないってことなのだろうな」
シンイチが言う。
「ああ、そうそう。『方舟』は本部の地下ドックに近々運び込まれるそうだぞ。やはり、湾の漁業組合が、邪魔だと言って抗議してきたらしい」
シンイチは思い出したように続けて言った。
「まあ、さすがにあそこで何日も調査するわけにはいきませんからね」
ヒロキは言った。
「でも、本部にあれだけの大きさの船を収容する場所なんてあったっけ?」
マリナが聞いた。
「ああ、何でも、地下五十階層のドックに入れられるらしい。そうなれば、後は情報が来るまで待つって感じだな」
「地下五十階層? 例の極秘プロジェクトをやっている場所ですか」
シンイチの証言に、ヒロキが尋ねた。
地下五十階層――アンダーグラウンドは地下施設があり、その全貌はTPC職員でもごくわずかの人間しか知らない。
S‐GUTSを含めた一般の職員は地下四十九階までに入る権限はあるものの、それより下の階層は入れない。また、それより下がどれくらいの階層まであるのかも知られていない。
特定の職員しか入れない地下の階層を全て総称して、地下五十階層と呼んでいるのだ。
そして、現在、ヒビキ総監が主導となってある極秘プロジェクトを実行中であることが公表されていた。
総監曰く、万が一のために備えて、人類が、自らの力で地球を守るためのプロジェクトらしく、完成された暁にはメディアにも伝える、と公言していたのだ。
「船は、人類の科学を超えているからな。もし、それらが解明されればプロジェクトがさらに捗ると考えているんだろうな。まあ、そう簡単に解明できるとは思えないが」
シンイチが言った。マリナは、ですよね、と言って椅子に座る。
「でも、彼だったら、船について何か分かっちゃうかもしれないですねー」
エミは、端末の入力をやめて、フドウたちの方へ椅子を回した。
「彼って?」
マリナが疑問に思って聞いた。
「ツバサ君よー」
エミは、軽快に答えた。
フドウやシンイチは、ほう、と納得した表情で言った。だが、マリナは、一人だけ嫌そうな顔をした。
「何でよ! 何でよりによってあんな奴のことを話すのよ」
「だって、『方舟』事件を解決したのって、結局のところ、彼じゃない。彼に聞けば、もしかしたら科学局も舌を巻くほどの大発見をするかもしれないわよ」
エミが言うと、フドウは笑いながら言った。
「確かにな。彼は俺たちとは違う視点で物事を見つめているから、もしかしたら船の内部の正体にも迫れるかもしれないな!」
「隊長! 冗談言わないでください! 何であんな奴の肩を持つんですか!」
マリナは反論する。どうやら心底気に入らないようだ。
「事件を解決したのはティガです! 民間人の、しかもただの科学オタクの子供が口出ししたんですよ! いくら事件を解決したからと言って、本来なら私たちの行動を妨害した――いわば公務執行妨害と言ってもいいくらいなんですよ! それくらいは自覚してください」
でもなあ、とフドウは言う。
シンイチも笑いながら、マリナをからかった。
「何だ何だ? どうやらイチカ隊員は随分と、彼のことが気になるようだ。俺たちの知らないところで口説かれたか?」
「なっ!」
シンイチのありもしない言葉に、マリナは顔を赤らめる。ヒロキやフドウはにやにやとマリナを見つめた。あまり笑わないエミも、マリナを見つめて微笑んでいた。
「何を面白くない冗談を言っているんですか! そんなわけないでしょう! あんな生意気な餓鬼! 大体、あたしよりも、エミの方が彼といい雰囲気だったじゃない!」
マリナは、エミを指さした。
「えー、そうかな?」
「そうよ! 結構仲よさそうに話し合っていたじゃない」
違うよー、とエミは答える。狼狽えているようには見えなかった。
「そりゃ、興味湧くわよ。同じ分野に興味がある者同士、話が弾むのは当たり前でしょ? わたしじゃなくても同じ分野の人なら誰でもツバサ君に興味持って話すと思うなー」
まあ、そうだろうな、とヒロキは言った。フドウとシンイチもうんうん、と頷いた。どうやらマリナの完敗のようだ。
「何よ! みんなであたしを馬鹿にして!」
どっ、と笑いが飛び交う。マリナはただ一人、肩を落として恥ずかしさに身悶えしていた。
その時だった。司令室の扉が開いた。
普段、S‐GUTSの隊員が入る時以外は滅多に開かない扉。それが開いた瞬間、全員の背筋が伸びていた。常日頃からの癖――反射だった。
そこにいたのは、イルマだった。
「これは参謀殿でしたか。お疲れ様です!」
フドウが敬礼して言った。
「ええ、お疲れ様。そんなに固くならなくていいわ。何だか面白い話をしていたようだから、私にお構いなく、続けてもいいわよ」
シンイチは、そういえば、と思い出す。
「参謀が昔、隊長だった時も、結構隊が和気藹々でしたよね。通信からでも何だかそんな感じがありましたし」
「そうね。結構賑やかな部分はあったかもね。隊で花見に行ったこともあったくらいだから」
「花見ですか……いいですな! 今度俺たちも何か似たようなことをやってみようか!」
「もし出来たら、私も誘ってね」
フドウが提案すると、イルマが乗ってきた。フドウが、勿論ですよ、というと、また笑いが溢れた。だが、マリナはまだそれに参加していない。
「そういえば、参謀殿。今日はどのようなご用件で?」
フドウは聞いた。
イルマは、ああ、と言って事情を説明した。
「ちょっと報告があって来たの。抜けてしまったS‐GUTSの二人の隊員の後任なんだけど……一人見つかったからみんなに紹介しようと思ってね」
「早いですね。結構時間がかかると思ったんですけど……」
ヒロキが聞いた。
隊員の選抜は誰でもいいというわけではない。厳しい試験をこなしてきたことも一つだが、それ以外の専門分野においてのエキスパートも選ばれることがある。だが、ただ優秀だから、詳しいからというだけでは選ばれない。隊員としてチームを組んで協力出来る力も問われるのだ。
それ故に、隊員の選抜は時間を有するのだ。
「運良く適任の人が見つかったのよ。あなたたちとなら抜群のチームワークを見せてくれると思うわ」
マリナは、自分を落ち着かせて、ようやくイルマの話に参加した。
「……それは楽しみですね。で、その隊員はいつ来るんですか?」
イルマは、微笑みながら答えた。
「もう来ているわ。……入ってきなさい」
イルマは、大きな声で言う。
すると、扉が再び開いた。扉の前で待機していたのだろう。
だが、その後任者は、フドウ、シンイチ、ヒロキ、そしてエミにとって内心望んでいた適任者であったが、話に参加したばかりのマリナには、さらに自分の気持ちを苛立たせる結果を招いてしまった人間だった。
真新しい隊員服。左にはヘルメットを抱え、彼がいつも持ち歩くポーチも腰に忘れない。
身長は、その年齢なら長身で、ヒロキより少し低いか。だが、マリナやエミには五センチほどの高さがある。
容姿は、二枚目と言ってもおかしくない――十五の少年。
「本日付けで、S‐GUTS科学班兼隊員として、配属されることになりました――科学オタクで生意気な餓鬼のエンジョウ・ツバサと申します」
マリナは、開いた口が塞がらない。
自分の奥底に眠る苛立ちがまるで水が沸騰するように湧き上がってくるのを、マリナは感じた。
「何で、あんたが来るのよ!」
マリナは指をさして怒鳴った。
「だって、スカウトされたんですから、逃さない手はないでしょう?」
「そういう問題じゃないのよ! 試験は? 訓練は? あんた正式な手続きすらしてないんでしょう!」
ツバサは、マリナの言葉を無視して話を進める。
「若干一名を除いて、皆さんとまた一緒になれたことを嬉しく思います。未熟な部分もありますがよろしくお願いします」
「おお、よろしく! これは嬉しいなあ! 是非とも一緒に仕事したいと思っていたところだ! お前が来たことは、隊長として鼻が高い」
「有難うございます、隊長」
「ははは。まあ、こうなるべくしてなったということなのかもね。よろしく、ツバサ君。そして、ようこそ、S‐GUTSへ」
「こちらこそよろしくお願いします、副隊長」
「わー、やったー! また一緒に仕事出来るんだー」
「また頼りになるかもしれないけど、またよろしく頼むよ。エミ」
「いやー。まさか君が来るなんてなあ。君とは色々と話が合いそうだ。その時は一緒に語り合おうな」
「ええ。その時は、是非ご一緒させてください、ミドリカワ隊員」
「ヒロキでいいよ。名字で呼ばれると姉さんだと、周りにイメージされちゃうからな」
「ああ、分かりました。ではヒロキ隊員。よろしくお願いします」
マリナを尻目に、ツバサは他の隊員と仲よくなっていく。
そして、ついにマリナの怒りが火山の如く爆発した!
「いい加減,あたしにもちゃんと挨拶しろーーーーーーーーーーーーーー! 先輩と後輩の間のモラルってもんがあるでしょうが、この生意気後輩があああああああああああああああ!」
マリナはツバサにヘッドロックをかます。
イルマは、遠巻きで、どうかツバサが彼らに守り守られるように、とユザレに、神に祈りながらそのやりとりを見て笑っていた。
お疲れ様でした。これでツバサの地盤固めの話は終わりです。次からはテレビらしい雰囲気を頑張って書いていこうと思います。
登場怪獣:
・古代天空船ウト=ナピシュテム
・超古代暗黒生命体ヴィマール
・超古代暗黒防壁生命体イ=ヴァルメ
次回予告:
某県で怪獣の鳴き声を聞いたとの通報を受けて、ツバサは初任務として、マリナと共に某県に向かう。そこでツバサたちは、「地霊神と地霊魔」の伝説を聞くことになるが……
次回、第三話「地の神、地の悪魔」
参考にした話:
・ウルトラセブン 第一話「姿なき挑戦者」←全部書いていたらこれと似てるなあと思ったので、もうこれを参考にしたと思うことにしました。
参考文献:
聖書(和英対照) 創世記6章第1節から9章第17節(日本聖書協会 2004年発行)
学研版 中学理科辞典(2005年 発行)
ギルガメシュ叙事詩(インターネットでの参考です)