東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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八意永琳の真の力

 

 

 

 午前二時十五分。無限廊下のからくりがわからず、右往左往していると、地響きが起こった。

 廊下に行ってみると、やはり解けていて、扉に近づくにつれて体調は悪くなる。

「底、辛いならここで待ってて」

「駄目だ。この先、一人で行くとお前は負ける。いや、その前に対策を考えよう」

 脂汗を腕で拭い、壁に凭れる。幾分か楽になってから、情報を教える。

「まず、銀髪の人は八意永琳だ。黒髪の和服は蓬莱山輝夜。八意永琳は戦う前に口の中にある薬で強くなる。二人がかりでも圧倒されるほどだ。だから戦う前に不意打ちで気絶させてくれ」

 頷くのを確認して、更に続ける。

「でも、俺が薬を飲んでもなんともなかったが、念のため、気絶させたら口から薬をとってくれ。蓬莱山輝夜は、瞬間移動かなにかで攻撃が食らわない。弄ばれるだけだった。虚を突いて攻撃を食らわそう」

「了解したわ。隙を見て蝙蝠を二匹位どこかに飛ばしておくわね。ところで、何回死んだの?」

 控えめに、遠慮がちに聞かれたそれに、底は沈黙して、応えた。

「四十くらいか」

 息を呑むレミリア。

 四十という数字は果てしなく遠く、長くて短い。己の弱さを嘆くべきか、こういうものだと割り切るべきか。

 空気が重くなったのを感じた。だから言いたくなかったのに、そう思う反面で、聞いてほしいと思っていた。

 誰も知らない間に、何度も死ぬのは悲しいことだ。それが恋人なら尚の事。『頑張ったね』それだけ言ってくれたら満足なのだ。頑張った甲斐があったと素直に喜べる。

 しかし、やはり空気がどんよりとするのは嫌だ。今のレミリアの心境は、多分『私が底を守れる位強ければ。ごめんね』だろう。それが分かっているからこそ、言いたくない。だが聞いてほしい。なんとも我儘なことか。

「レミリア、お前のせいじゃないから。俺がこの能力を持ってるから悪いんだ」

 そう。この能力を持ってるが故に、毎日死ぬ。世界がそうさせるが如く。それと同時に、感謝もしていた。能力がなければ幻想郷に来れなかっただろうから。

「そんなことないわよ! そんなこと……ない……!」

 俯いて涙を流すレミリアに、底はどう声をかけるべきか悩んだ。

「レミリア」

 沈黙。

 再度呼び掛けると、漸く顔をあげた。ひどい顔だ。涙で横の髪が濡れて、顔に引っ付きいていたり、目が赤くなっていたり。しかし、そんな顔も愛おしいと思える。

「俺は大丈夫だ。お前らが居てくれたら、俺は大丈夫なんだ」

「…………」

「だからさ、これからも一緒に居てくれよ」

「……もちろんよ。絶対に離れないから、あなたも私を離さないで?」

 小さいレミリアを胸に抱き寄せる。すっぽり埋まったレミリアは、安心するように深呼吸した。

 

「開けるぞ。自己紹介した瞬間に黒髪を気絶させてくれ」

「わかったわ」

 扉を開け放つ。変わらない月と、星空、竹林があった。鈴仙達を倒した庭にそっくりだ。二人が現れた。

「侵入者は貴方達ね。大方異変を止めに来た、ってところかしら? 何度もしつこいわね」

 蓬莱山輝夜がおかしなことを言った。一瞬放心してしまう。

「しつこい……?」

 もしかしたら、蓬莱山輝夜にも記憶があるのだろうか、そう思ったとき、蓬莱山輝夜は首を傾げた。

「あら? 私はなにを……まだ呆けるのは早いのに、私ったら」

「姫様、ここは私にお任せください」

「そうね、頼んだわ」

 蓬莱山輝夜が何歩か退がり、代わりに八意永琳が前に出た。

「俺は繰鍛 底だ。異変を止めに来た」

「レミリア・スカーレットよ」

「八意永琳。この月を戻すことは、あまりしたくないわね」

 底が雷を足に付与して駆ける。狙いは鳩尾。掌底を当てると、八意永琳が崩れ落ちた。

 八意永琳の斜め後ろに居た蓬莱山輝夜に視線を向けると、姿がなかった。急いで視線を配る。

 ――レミリアと激しい攻防を繰り広げていた。

 消えてはレミリアが追撃して、消えてはレミリアの背後に回り神々しい剣で斬りつけようとする。またそれを躱し、紅槍を薙ぐ。

 攻防に参加しようと、足を動かすものの、邪魔になりそうで躊躇した。レミリアは全力で戦っている。蓬莱山輝夜だって同様だろう。レミリアの足手まといにならないか。

 悪態をつき、高速で蓬莱山輝夜の背後に、勢いのまま蹴りを繰り出す。

「なかなかやるわね。特にそこの吸血鬼さん」

 離れた位置に瞬間移動して、悠々とした動きで手を叩いた。

 あちらからすると、思った以上に楽しめたらしい。声色が物語っている。

「貴女もね。本当に瞬間移動でもしてるみたい。いえ、まるで“時を止めてる”ようだわ。疲労が見えないものね」

 レミリアの話を聞いて、底は重要なことを思い出した。

「レミリア! 蓬莱山輝夜の能力は『永遠と須臾を操る程度の能力』だ!」

「ちょっと! なんであんたが知ってんのよ!?」

 見るからに狼狽する蓬莱山輝夜をよそに、レミリアは思案顔になった。

「永遠……須臾……。須臾! やっぱり時間を止めてるのね!」

「そうよ。よく知っていたわね。私ったら人気者? でも、わかったとして、打開策があるわけではないのでしょう?」

 確かにない。奇襲、奇策を除いては。

 蓬莱山輝夜は気づいていない。背後に蝙蝠がいることに。

「早く終わらせてお茶したいの。それに、月から追手が来るのよね。だからこの異変を止めるわけにはいかないの。わかったら諦めてよね」

 と続ける蓬莱山輝夜に、蝙蝠が忍び寄る。無音で気配もなく近づくそれに、底は生唾を飲み込んだ。

 もうすぐで蓬莱山輝夜の首筋に牙が刺さる。刺さってからは知らないが、レミリアのことだ。どうするか決めているはず。

 早く終わらせてくれと願うしかなかった。

 ――刺さった。

 それからの行動は早かった。レミリアが全く見えない動きで、蓬莱山輝夜の体を殴り、ゆっくり崩れ落ちる蓬莱山輝夜。思わずガッツポーズをしていた。

 跳び跳ねて、いますぐにでもレミリアと手を合わせたかった。だが、それもまた今度になりそうだ。

 視界の端で寝ていた八意永琳が立ち上がった。

「これだから輝夜は甘いのよ」

「俺達は勝った。異変を止めてくれ」

「勝った? そんなわけないじゃない。貴方、私がわざといままで気絶したふりをしていたのに気づかなかったの?」

 意外な言葉に、底は呆気にとられた。そんな言葉が罷り通るわけがない。

「そんな発言が通るかよ。もう、終わらせてくれ。頼む」

 必死に懇願した。しかし、八意永琳は容易く打ち砕く。

「私は何億と生きてきた。輝夜の従者としてね。主を立てるのは至極当然のことよ」

 底は崩れ、地面に手をついた。

「じゃあ、本気を出していなかったってことかしら?」

「そうよ。そりゃあ、これほどの術をかけるのに、あんな攻撃で気絶するわけないじゃない」

 貶された。あの速さで全力で殴れば死んだかもしれないのに、なんという言い様だ。

 生かしてやった。そんな傲慢な考えは微塵も無いが、少し位は言葉を考えてほしい。

「底、立ち上がって」

 渋々直立する。八意永琳は腕を組んでいた。

「改めて自己紹介を願うわ。私は八意永琳。能力は『あらゆる薬を作る程度の能力』よ」

「レミリア・スカーレット。『運命を見る程度の能力』」

「繰鍛 底。『天才になれる程度の能力』目を治してくれたことは礼を言う。でも、異変なら別だ」

 強がりだ。さっきから、足の震えが止まらない。八意永琳から、とてつもない力を感じている。それも、伊吹萃香よりも強力な。なるほど、扉の先から出ていた強大な力は、八意永琳だったのか。

「私の命に変えても、親友であり、主でもある輝夜を月に帰させない! 私が死んだとき、それが敗北よ!」

 吼えるように叫ぶ八意永琳に、底は何故か、小さく感動した。

 何億の時を一緒に過ごした二人の絆は、一体どれほどのものなのだろう。レミリア達とは、人間からすると長く過ごしたと思える。だが、八意永琳からすると一瞬なのだ。

 しかし、想いなら負けない。

「俺には勝利しか許されない」

「それは私もよ」

 弓を構え、矢を添えていないのに弦を引く。

 同様に、底とレミリアも構えた。

 一歩踏み出す。

 

 気づかぬ内に死んでいた。唖然とするも、とりあえず動こうと、足に雷を付与して駆けた。

 レミリアも宙に浮き、素早く動いていた。

 八意永琳はしっかりと目を合わせて来る。何処に動いても、ぴったりと底を捉えている。底は焦燥して、速度を上げる。

 レミリアが槍を投擲した。しかし、受け止められる。レミリアに驚きが窺えた。

 木製の弓から、レミリアに向かって光輝く矢が射出された。どうやら、霊力で矢をかたどっているようだ。

 レミリアの紅槍と同じ原理だろう。あれも、妖力で作られているのだ。

 わざとやられたことは、嘘ではないらしい。

 底は動きを止め、観察する。

 一気に三本、四本と射て、尚且つ装填も素早い。しかも霊力なので、多少の方向は変えれると来た。普通の矢と違い、速度も上回っている。

 それに、これくらいの異変をおこせるほどに霊力などがあるのだから、手の出しようがない。

 一つの結論が浮かんだ。

 勝てない。それ以前に、勝てる想像すら出来ない。

 戦闘を開始してから、八意永琳は一度も足を前にも後ろにも動かしていない。それに、あの様子ではレミリアのスピードも見えてるだろう。

 不意に八意永琳がこちらに弓を向けてきた。回避は間に合わないと覚ると、底は来るべき衝撃に備え、せめてもの可能性を信じて頭を守る。霊力の矢が、放たれた。                                                        

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