東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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なんでも出来るとは限らない!?

 

 

 

 底が霧雨を置いて、練習場に赴くと、博麗が退屈そうに立っていた。底が博麗のいる場所に着いたと同時に、底の後ろから走った霧雨が来る。

「遅いわよ。ミイラになるかと思ったわ」

 ジト目で冗談混じりに言う。

「いや、暑いのにすまん」

 底が謝った。

「まあいいわ、魔理沙、始めるわよ」

 霧雨に向き直り、聞く。それに霧雨が、おう。とだけ応えて、底をその場で座らした。

「いい? 私が霊力を送るから、集中してそれを辿って」

 胡座をかいて座っている底の背後に立ち、左右の肩に両手を置いた。薄く、淡く光る青いオーラが博麗の両手を伝い、底を包む。

 目を瞑り、集中する。青い霊力の光りは、閉じた闇に染まった視界でも窺えた。これが霊力の光りなのか。暖かいな――霊力を感じながらも、意識を深く潜り込ませる。霊力が感じられる場所。それは――――心臓付近。血を通す管。血を巡らせるポンプ。心臓。脳裏になにか、文字がかすめたが、今はそれを見る暇はない。早く探すんだ。と自分を説得させ、意識を心臓付近に再び向けて、探す。心臓に隠れたようにある『皮袋』なぜかこれだと確信した底は、想像した。袋を開ける動作を。

 開けた瞬間、溢れだす青い光り。博麗が喜びの声をあげた。

 その声を聞いて、底が目を開け、手を見る。博麗の腕はもう肩から離れている。しかし、青い光りが底を包んでいる。ごく僅かだが、確かに包んでいた。

 これが俺の霊力なのか……。と、他人事のようだが、自覚はあるみたいだ。

「これで終わりか? なんだか、拍子抜けだな」

 腰をあげ、ズボンを叩く。砂埃が落ちた。

「いや、こっちはびっくりしてるわよ。普通はこんなすぐに解放出来ないんだから」

 さっきまで喜んでいたが、今は苦笑している。

「そうなのか? まあいいや。霧雨、魔法を使いたい。なにか俺でもできる魔法ってないか?」

 博麗の後ろで嘆声をあげていた霧雨に問いかけた。

「そうだなぁ。……、まずは魔力をみないとなんとも……」

 底に目を合わさないで、頬を掻いた。

「なに恥ずかしそうにしてんのよ」

 呆れた口ぶりな博麗。

「いや、教えるっていうのが初めてでさ……。あ、あはは」

「霧雨。よろしく頼む」

「なあ、その霧雨ってぇのやめてくれないか? むず痒いからさ」

「わかった、魔理沙」

「ん。よし」

 手を叩き、もう一度底を座らせ、その肩に手を置いた。後ろで博麗が欠伸をしている。霧雨は目を瞑り深呼吸した。恐らく、魔力の最大量を調べてるのだろう。底は期待に満ちた風に見えるが、その目はやはり濁っていた。霧雨のような見た目『魔法使い』な者がいるだけで、なにかの儀式に見える。帽子で顔に影がさしていることもそう感じさせる要因だろうか。

 霧雨がなにかぶつぶつと呟いてから、頷き一つ、沈黙を破った。底が立ち、霧雨を黙視したのを確認して「残念だが、あまり魔力はないな。言ってしまえば『簡単な魔法を使っただけでも』底をつくぞ」底だけに。ププッ。霧雨がニヤリとした口をおさえる。空気が凍った。沈黙がこの場を制す。霧雨が咳払いしてから慌てたようにフォローし出す。

「まあ、魔力は増えていくから大丈夫だ。安心しろ」

「あんた。ぶっ飛ばすわよ」

 博麗が拳を作り、青筋を立てた。

 霧雨が焦りぎみに手を左右に振って言う。

「冗談じゃないか。そう怒るなって!」

「まあまあ。霊夢、良いじゃないか」

 底が博麗を窘める。それを聞いて、漸く拳を下ろした博麗。霧雨のところから『ちぇっ。底の言うことは聞くのかよ』拗ねたような声が聞こえたが、恐らく、気のせいだろう。

「魔理沙。なんかいった?」

 気のせいじゃなかったらしい。博麗が笑顔で霧雨に聞く。しかしながら、その目は笑っていなかった。

「よし、さて。じゃあ、まあ。うん」

 凄くキョドりながら、よくわからない事を発する霧雨。気を取り直し、底に向き直り「初級中の初級から練習しようか。これが出来なかったら魔法の才能はない。と思った方がいい」単刀直入に言った。続けて、説明する。「その魔法は《光》文字通り、ただ光をだすだけだ。手のひらに小さい、光りのボールを想像してみろ」

 底は言われた通り、手のひらを空に向けて、想像してみる。野球ボールくらいの大きさで、太陽のような光を。

 その後、閉じた目でもわかる程の明光は――――出なかった。手のひらにはむなしさとジリジリと焼き付くような陽射しだけが感じられた。

「お、おっとぉ? こ、これは予想してなかったぞ? 私でも一発で出来たのに……」

 底を見て、呆気にとられた霧雨。三人で首を傾げた。「も、もっかいだ! 諦めるな!」

 その言葉に博麗と底が頷き、もう一度試みた。しかし、駄目。結果はさっきと同じだった。

「そ、そんな……。魔法……、使えないのか……?」

 底が珍しく、沈痛に顔を歪ませ、肩を落として悲しみを零した。周りは悲壮感漂っている。博麗も霧雨もどう声をかけてよいものか悩んでいるようだ。どちらもわかっているのだ。『安っぽい言葉をかけると、逆に悲しむ』ということに。故に、悩んでいるのだ。

 三十秒閉口して、博麗が、まあまあ。と切り出す。

「霊力はあるんだから、炎や水を操ることは出来るわよ。魔法と結構似てるからそう悲観的にならないで」

 そして、落としている底の肩を叩いて励ました。

「そうだよ! なにも魔法が使えなきゃ駄目ってわけじゃないんだぜ!」

 同様に、博麗の慰めに賛同する。

「そうだな。いろんなことに手を出して中途半端になったら駄目だもんな。ありがとう、二人とも。元気出た」

 そうは言うものの、悲しいものは悲しいのだろう。底は沈痛な表情をしている。

「じゃあ、まあ、霊夢に霊力の扱い方を教えてもらえよ」

 霧雨が率先して言う。

「うむ、霊夢。よろしく頼む」

 博麗に向き、お願いする底。言い終わり、次に霧雨を見て「霧雨もよかったらなにかアドバイスくれ」頼んだ。

「“あどばいす”ってなんだ?」

 顎に人差し指をあて、首を傾げて質問する霧雨。

 なるほど。そりゃあそうか。この時代? ではアドバイスとかはまだあまり知られてないか。紫なら知ってるだろうけど――と気づく。この幻想郷では――詳しくはわからないが――外国のことを知られていない。ならハイカラなことは知らないも同然ではある。これから気を付けていこう。底は言葉に注意することにした。

「言うなれば助言だよ」

「ほう。わかった。この魔理沙様が――あで!?」

 調子にのる霧雨に、博麗が拳を霧雨の頭に落とした。

 女子らしくない声をあげて、批難の目で博麗を見やる霧雨だったが「調子にのるな」と博麗に叱られる。

「わかった。なにかあれば言ってやる」

 言い直し、これでいいか? とでも言いたげな霧雨の視線に、博麗は納得していないみたいだが『妥協点だ』といった風に何度か細かく頷いた。

「えっと、霊力はさっきの青い奴ね。あれを手のひらに出して、それに火を灯す感じでやってみて」

 身ぶり手振りで漠然と教えた。

 さっきの件で気落ちしているが、底はとりあえずやってみることに。

 底が手を太陽に向けて掲げる。するとその手のひらに薄青色の蜃気楼のようなものが漂っているのが窺えた。底が頭の中で『赤く燃え盛る炎』をイメージする。

『ボッ』っという音と共に燃え盛る炎が出てくる。底が音がしたことに驚きつつも、上を向く。正確には、頭上にある手のひらを注視した。

 遅れて実感する。俺はいま、炎を出してる……! 他でもない自分の力で……!! などと、つい数日前の自分は、こんなことを出来るとは思わなかっただろう。底の胸は早鐘を打ち、心は歓喜と感動に染まっていた。博麗が大きくうなずいて関心する。しかし、霧雨だけは腕を組んで少し悔しそうに眉をしかめ、口を閉じていた。

「出来たぞ! 見てるか!?」

 それぞれな反応をする二人に聞いた。

「見てるわよ。よく出来たわね」

 と褒める。これで後は、と呟いた時、隣にいる難しい顔をした霧雨に気づいた。

「って魔理沙、どうしたの?」

「いや、弟子というかさ、そういうのが出来たぞ! と思って喜んでたのにさ、魔法は出来ないで霊力は扱える。少し残念だ……」

 帽子を前に傾けて、悲しそうなその顔を隠す。

「…………」

 底と博麗共に口を閉ざした。底は魔法を使えなかった自分に申し訳なさを覚える。

 なんで魔理沙の気持ちに気づかなかった、こんなに悲しそうにしているのに、なんで俺は霊力を扱えたことを見せびらかしてしまったんだ。魔理沙からしたら悲しいに決まってる――そんな風に後悔した。しかし、手遅れ。後悔してももう遅い。死ねば戻れるが、戻ったところで魔法を使う術はないのだから、意味がない。

「ごめん……」

 底が霧雨に頭を下げて謝った。謝る必要はないのは底自身理解している。誰も悪くないのだから。だが、霧雨の顔を見ると、何故か謝るしかない。と思い、行動してしまったのだ。

「いや、謝んなよ……。悪くないだろ? ただ――」

 言いさした。その先は口に出してはいけない。と悟ったのだろう。『ただ、魔法の才能がなかっただけ』なんて罵倒を吐けるだろうか? 否。そんな悪口雑言を吐けるはずがない。

「いつまでも辛気くさい空気を漂わせないでよ」

 溜め息を吐いて、博麗一喝。別に。と続けた。「使えなかったからどうこう。だなんてないでしょ? あんたも霊力使うんだから一緒に教えたら良いじゃない。そんなんでへこむ柄じゃないでしょうが」

 最後に。と博麗が底に向き、叱った。

「あんたも謝らないの。誰も悪くないんだから、底が謝ったら余計拗れるでしょ」

 霧雨と底が揃って縮こまり「はい……」と返事する。博麗が、よし。とだけ言った。それを聞いて、一斉に笑いだす。

「なんか、霊夢がお母さんみたいだ!」

 爆笑して、霧雨が博麗に指を差した。

「だな」

 笑顔で同意する底。

「私が言うのもなんだけど、言ってから少しだけ思った……」

 照れたように頬を掻いた博麗。さっきまでの空気はどこへやら。三人は笑いあっている。実に、楽しそうに。

              

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