ある日、何時ものようにコースで担当達のトレーニングを見ていた俺は。ポケットの携帯が震えるのに気づいた。
「もしもし?」
「あーもすもすトレちゃん?」
「トランか。どうした。」
「いやーごめん伝え忘れてたんだけどさ。」
「おう?なんかあったか?」
「そろそろ女の子の日だから休むね。」
「・・・・・・。」
「それだけ。じゃね。」
「・・・・・・おう。」
電話が切れる。そして俺の心にひびが入った。
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俺は一応担当達に言ってある。そういうので休む時は一言言ってくれと。だがそれはぼかして体調悪いから休むねと伝えて欲しいのであり、直球でその日だから休むわと言われると非常に良くない。俺は男なんだぞ。
「はぁ・・・・・・」
「なんだか大変そうだねトレーナー君。」
「ルドルフか・・・・・・?お前今日のトレーニングこんな早く終わる予定だっけ?体調悪いのか?」
「ああ、いや、えと・・・・・・その、だね。」
ルドルフは少し顔を赤らめて俺の近くに来る。そして耳元にまで近寄られた。
「今日は女の子のそういう日なんだよ・・・・・・」
「・・・・・・。」
「トレーナー君!?」
俺は机に頭を大きく打ち付けた。少し机が凹んだ気がするが俺の心は修復不可能なくらいに凹んだ。
「なんで、なんでお前らは・・・・・・」
「え?・・・・・・え?」
最初はこうじゃなかった。みんな控え目だったし、直接言うなんてもってのほかで、ごまかしてた。いつからだろうか、なんか嬉しそうにその報告をするようになったのは。本当に、本当に勘弁して欲しい。
「と、トレーナー君!!額から血が出てるぞ!!」
「ルドルフ・・・・・・」
「な、なんだい?」
「正座しろ。そこに。」
「え、なん・・・・・・」
「早くしろ。」
「はい・・・・・・」
そして俺はこんこんと説教した。ルドルフが正座したのを見て一緒にいたクロノジェネシスとダンツフレームが覗いてるが。
「わかったか馬鹿野郎。」
「はい・・・・・・すみません・・・・・・」
「お前。デリカシーは女のためだけの言葉じゃねーんだかんな。」
「はい・・・・・・」
しくしく項垂れるルドルフを見て、ルドルフはなんとかなったがこれは一人ずつ説教してったらいつ終わるかわかんねーぞと戦慄する。どうすればいい。
「しかしまいったな。」
「そうだ。トレーナー君。」
「なんだ。お前はまだ正座してろ。」
「いや、その、サブトレーナーを入れればいいんじゃないか?」
「・・・・・・サブトレーナー。」
「詰まるところ人間の部活のマネージャーのような物だ。出退を管理してもらえばトレーナー君はトレーニングに専念出来る。良い案だと思わないかい?」
「・・・・・・なるほど。良いアイディアだ!」
良いアイディアだった。女性のサブトレーナーを入れて。出欠スケジュール管理。俺はトレーニングに集中出来る。すごい。なんで思いつかなかったんだこのアイディア。
「早速たづなさんのとこ行ってくるわ。」
「じゃあ正座は・・・・・・」
「ダメ。クロ。ルドルフ見張ってて。」
「えええ!?!?」
「はーい。」
俺は勇み足でたづなさんのところに向かった。これで楽になりたい。
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「というわけなんですよ。」
「・・・・・・ううーん。」
俺は理事長室に行きたづなさん、及び理事長に直談判した。デリカシーの無さ過ぎるウマ娘達に困ってますよ女性のサブトレーナーかマネージャー入れてくださいと。
「正直、厳しいですよトレーナーさん。」
「難しいですか・・・・・・まぁ時期も時期だし、ずっと入れるわけじゃないですからね。」
「それもそうなんですが・・・・・・別な問題です。」
「?」
たづなさんは困ったようにお茶のおかわりを淹れてくれた。そして口火を切った。
「まず、です。女性のトレーナーさんというのが少なすぎるんです。」
「はぁ。」
「わかりますか?女性のなりたくない職業1位はトレーナーなんですよ?」
「それまたどうして・・・・・・?」
「人間の女性というのはウマ娘から見たら同性で気兼ねなく使い潰せる駒なんですよ。」
「嘘でしょ。」
「まぁ・・・・・・言葉は強すぎたかと思いますが大凡合っています。ウマ娘は種として人間の女性に成り代わって繁栄しようとしてる種なんです。そんなの、人間の女性なんて邪魔だと思うのは理にかなってませんか?」
「いや、それは言い過ぎなのでは・・・・・・いや、でも・・・・・・」
「なんとなく、思い当たるんじゃないですか?」
「まぁ・・・・・・」
「ウマ娘側からしたら嫌いとまではいかないでしょうけど、将来的に排除しなきゃならない存在と一緒にいるということがどういうことかわかりますか?」
「ええ・・・・・・」
「そこを大規模チームのサブトレーナーなんていう地獄に入ってくる女性なんてものはいません。狂人ですら避けて通るものなんですよトレーナーさんのチームは。」
「・・・・・・。」
「なので、私から言えることはと言いますと・・・・・・担当の誰かからマネージャー業務を頼むしかありませんね。そういう方向でお願いします。」
「はい・・・・・・」
そして俺は立ち上がろうとした、が。待てと理事長から声が掛かった。
「おほん。トレーナー君。一つ、補足しておこうと思う。座りたまえ。」
「は、はぁ。」
「トレーナー君はもうこっちに来てしばらく立つと思う。どうだこっちの社会は。」
「・・・・・・率直な感想を言って良いですか?」
「良いとも。」
襟を正し、理事長に向き直る。
「異常です。」
「それはどうしてだ?」
「ウマ娘という存在がまるでわかりません。」
「そうなのか?」
「はい。嫌われているかに思ったら・・・・・・とても好かれていて。社会的地位を力で奪える位置にいながら、わざわざ下にいる。どういう種族なんですかウマ娘って。」
「そうか、そうか。大分理解が進んだなトレーナー君。」
「いやいや何もわからないんですけど。」
「それで結構。」
理事長はバッと扇子を開き、そよそよと扇いでいる。
「この世界はウマ尊男卑除外女だ。」
「えらい世界ですね。」
「だがこれがこの世界の真実だ。異世界人から見ると毎日なにかしらの事件を起こしているウマ娘が。トゥインクルシリーズで熱狂をもたらしている。これだけでこの世界が異常だと気付く。何をしてもウマ娘が優遇され、その伴侶となる男が囲われて、ヒトの女が放り出されている。社会構造としては歪も歪。トレーナー君のヒト優先の社会を見てみたいものだよ。」
「まぁ、それは・・・・・・」
「だが!!!」
ぴしゃりと扇子が閉じられ俺に向けられる。理事長の目はしっかりと俺を見据え、いつぞやの面接の時に見せた見定める目をしていた。
「もっと異常なのは君だ。」
「俺?」
「ああ。」
理事長がお茶を飲む。
「君は、なんだ?」
「何って・・・・・・」
「私も所謂名家と呼ばれる家の女だ。いろいろなものを見て、いろいろなものを知っている。だが君は初めてみた。」
「え?」
「こちらに来た異世界人というのはな。見目麗しいウマ娘を見て憧れるものだ。だがそれはすぐに冷める。トレーナーになった者も多く出るが。必ず一度数年以内に辞めたいと揉める。」
「そうなんですか?」
「そうだ。100パーセントだ。揉める。ウマ娘の怖さを知るからだな。そしてその頃には囲い込まれているため辞められない。嫌々落とし所を見つけて続ける、というのが普通なのだ。だが君にはそれが無い。」
「あー・・・・・・」
「君は、なんだ?ただの恐れ知らずじゃない。何かウマ娘に見えている。何を見ている?」
「俺は、ですね。」
ポケットからお守り代わりにしているスマホを出す。一応充電はしてある。それを取り出し、とあるアプリを起動する。
\ウマムスメプリティーダービー!/
「それは?」
「ゲームです。」
「ゲーム・・・・・・」
「前に話しましたよね?このゲームをしてたらこっちに来たって。」
「そうだな。それが?」
「俺はこのゲームでウマ娘の良いとこを知ったんです。そして救われた。」
「・・・・・・。」
「このゲームがあったから生きてこれた。ウマ娘があったから戦えた。」
「・・・・・・そうか。」
「まぁ何を言うかと言うと。俺はウマ娘が好きなんです。実態はどんなに恐れられるものだろうとウマ娘が好きなんですよ。だからトレーナーになったんです。」
「君の好きと・・・・・・我々の好きは違うな。」
「それはそうでしょう。」
俺はお茶を一気飲みして立ち上がった。
「だってここは異世界なんですから。」
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結局。サブトレーナーは諦め、マネージャー業を担当達に任せることにした。
「ひぃん!!!!とれーなーさぁん!!ここいくらリスケしても被りが直りませぇん!!!」
「ドトウさんそこはこうすればいいんですよ。」
「うう〜フラッシュさんありがとうございますぅ。」
「フジ先輩残ったやつこっち回してください。」
「キングもう終わったの?じゃ追加を頼むよ。」
なんとかスケジューリングは回っている。だが・・・・・・
「世の中は、上手くいかねぇなぁ。」
ウマ尊男卑除外女。ディストピア感半端ないが、現実はそうなってない。理事長が語ったのも一面に過ぎないだろう。
「夢のウマ娘の世界・・・・・・ってものじゃなかったな。」
異種族との共存共栄、一応は、成り立ってるから。良いのか。
「本当ならウマ娘に隷属してるはずだしな。」
難しいこと考えるのは辞めよう。それよりも、この子達の未来を考えた方がよっぽど有意義だな。
「ひぃぃ〜ん!三人休んで二人遅刻でまた三人早退で一人公欠ですぅ!全部で何人なんですかぁ〜!」
「ドトウさん落ち着いてください。順番にやりましょう。」
「キング、ここミス。一人合わないよ。修正しとくね。」
「あ、すみません。フジ先輩これも確認いいですか?」
「まかせて!」
とりあえず、このマネージャー業務が機能して俺に直接デリケートな日を伝えることが少なくなるのを願おう。