ある日、私は友人の岩崎から「家に黒電話が届いた」との連絡を受けた。スマートフォンの普及したこの時代に黒電話? そう不思議に思った私は岩崎宅へ向かうことにした。

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初めて書いたホラーで初投稿です。
よろしくお願いいたします。


単話

 ある夏の暑い日、私がソファに寝転がりダラダラと夏季休暇を謳歌していると、携帯に一件の不思議なメッセージが届いた。仕事の連絡だったら嫌だなと思いつつ、そのメッセージの送り主を確認する。

 すると、そこにあった名前は岩崎だった。岩崎は大学時代の友人で、在学中に私、岩崎、青澤の三人でよく遊んだものだ。肝心のメッセージの内容というのが、家に謎の黒電話が届いたから見にこいというものだった。

 今や小学生でもスマートフォンを持っているようなこの時代に黒電話……? 私はその少し不可解な送り物に興味をそそられ、岩崎の住むアパートへと向かうことにした。

 岩崎の自宅へ到着し、ピンポンとチャイムを鳴らす。すると、相変わらず元気そうな岩崎が私を出迎えてくれた。

 彼に背中を押され、家の中へ入ると、大人数で集まるには少し狭い部屋の片隅にポツンと置かれているちゃぶ台が置かれていた。その上に一般的な見た目の黒電話がちょこんと置かれていて、それを青澤が神妙な面持ちで見つめていた。

「おい、お前もみてくれよ。これ、今朝うちの前に届いててさ。しかも、送り主が書いてねーの」

「は? 送り主が書いてないってどういうことだよ?」

 私がそう言いながら眉を寄せると、岩崎がズボンのポケットからくしゃくしゃの紙を取り出し、それを私に見せてきた。その紙には『イワサキテル様 00880』と殴り書きで記されており、間違いなく岩崎に宛てられたものだった。

「な? なんも書いてねーだろ?」

 確かに、紙にはそれしか書かれていなかった。すると、青澤が神妙な面持ちのまま岩崎に問いかける。

「……00880とはなんの数字なんだ? 岩崎、思い当たる節は?」

「知らね。電話と一緒なんだし、電話番号じゃね? 掛けてみっか」

 そういうと、岩崎は黒電話の受話器を耳に当てると、ダイアルをジーコジーコと回しだした。私と青澤は互いの顔を見つめあい、彼の学の無さに深いため息をつく。

「そんな5桁の電話番号があってたまるか……」

 そう青澤がぽつりと呟いた時だ。

「……はい、そうっす。……え? マジっすか!?」

 なんと、岩崎が受話器に向けて話し出した。俺と青澤が目を見開き、衝撃と興奮のあまり言葉を失っていると、岩崎がいきなりダッと立ち上がり、とても大きな声で叫びだした。

「じゃあ、ほのかヶ丘六丁目、ほのかヶ丘駅前のパチンコ屋で、どの台を打てば勝てるか教えてほしいです!」

 隣の部屋からダンッと壁を叩く音が部屋中に響く。……その瞬間、私たちの興奮は岩崎への激しい怒りに変わっていた。きっと全ては岩崎の自作自演だったのだ。

「……えぇ、マジっすか? っす、失礼しやす」

 そういいながら少し機嫌が悪そうにガチャンと受話器を戻す岩崎。そんな岩崎を私たちはすごい剣幕で睨みつける。

「岩崎てめぇ! こんなくだらねぇドッキリのためにクソ暑ぃ中呼び出しやがって! ふざけんなよ!?」

 私は思わず岩崎に向かって声を荒げた。しかし、当の岩崎はきょとんとしており私の怒りは限界突破しそうだった。

「ドッキリ? 何のことだ?」

「それだよ! その黒電話! 一瞬ガチで繋がったと思ったじゃねぇか!」

 私が大声でまくしたてると、岩崎は口をとがらせ私たちに先程の電話の内容を話した。

 なんと、岩崎曰く先程の電話は本当に繋がったらしい。電話の相手は尋ねたことになんでも答えると言い、パチンコ屋で勝てる台を聞いたらしい。

 すると、この後15時46分に駅前の交差点で交通事故が起きるから、出かけるのは後にしろと言われたそうだ。岩崎はそれを信じていないらしく、今からパチンコ屋へ直行するという。

 正直、私はこの話も岩崎の作り話だと思っていた。ただ、少しだけ嫌な予感がしたので岩崎に少し待てと彼の前に立ちはだかった。

 そんなこんなで私達がそこそこ長い時間組付きあっていると、外からピーポーピーポーと救急車のサイレンやウーウーといったパトカーのサイレンが聞こえてくる。

 何事かと思い、静止した私達に、青澤が弱々しい声で携帯の画面を見せてきた。

「……な、なぁ、これ……」

 その画面にはSNSが映し出されて、一つの投稿がものすごい勢いで拡散されている。その投稿というのが、大物動画配信者が交通事故に巻き込まれたというものだった。

 その大物動画配信者は生放送中にほのかヶ丘駅前の交差点で信号無視の車に轢かれたそうだ。そして、その時刻は15時46分だという。

「……すっげー! マジで当たったじゃんこいつ! ヤバ!」

 何とも言えない空気を破りキャッキャと子供の用に騒ぐ岩崎を見て、私は開いた口が塞がらなかった。

「……お前な、人が亡くなったんだぞ?」

「え? んなの知ってるよ。そんなことより、これ凄くね!?」

 青澤は優しく諭すように岩崎に伝えるも、新しい玩具を眺める子供のような希望に満ち満ちた眼差しで黒電話を見つめる岩崎にその声は届いていなかった。

「……気分悪い。帰ろうぜ」

 そうボソッと呟いた青澤は私の方へ視線を向ける。

「……あぁ。俺も帰るな」

 こうして私と青澤は岩崎宅を後にし、互いに言葉を交わすことなく家へと帰った。我が家に到着すると、先程までパートに出ていた妻も帰ってきており、事故のことを心配された。

 それから少しして、私の夏季休暇は無残にも終わりを告げ、会社詰めの毎日が再び訪れた。私がいつものように会社の歯車として精を出していたある日、昼休みの時間に岩崎からの着信があった。それに出てみると、岩崎は酒が入っているのか、ふにゃふにゃと気が抜ける声で私にとある忠告をしてきた。

「よ~、久しぶり~! いきなりだけどさ~、お前奥さんと別れたほうがいいぜ? あの人浮気してっから」

 この時、私の頭の中は一瞬にして真っ白になった。そして、様々な感情や不安が頭の中には飛び込んでくる。

「……は? え? なんで? お前、その、なんでそんなことを?」

 私はしどろもどろになりながらも、なんとか言葉を絞り出す。

「え~? いやさ、例の電話が……」

 例の電話という言葉を聞いたとき、私の中の不安などはすべて消え去り、何かがプツンと音を立て切れた。

「ふざっけんなよお前!! あんな胡散臭い電話なんか信用できるか!!」

 私は感情の赴くままに叫び、電話を切った。気がつくと、周りの社員たちが一斉にこちらを見ていたので、軽く詫びを入れ午後の業務へと取り掛かった。

 ただ、業務中も上手く集中できず、上司にくだらないミスを何回も指摘された。結局、ミスが多すぎて上司から心配され早く上がって休めと言われてしまった。

 私が家に帰り、リビングに入ると、そこには非情な現実が待ち受けていた。妻と知らない男が裸で抱き合っていたのだ。

 ……もちろんその後すぐに修羅場に発展した。それから2か月程して、弁護士や会社の上司や同僚たちからの支援のかいあって私は日常を取り戻した。受けた心の傷は治ることはないだろうが、私は今も何とか元気にやっている。

 そんなある時、ふと岩崎のことを思い出した。あの時、私は感情の赴くまま彼を罵倒したが、今となっては彼の言うことは正しかった。そう思ったとき、果てしない罪悪感が私を襲った。

 岩崎に謝罪しなければと考えた私は、その日の仕事を早めにかたずけ岩崎の自宅へと向かった。ただ、そこに岩崎はおらず、私は彼の行きつけのパチンコ屋で彼を探すことにした。しかし、そこにも岩崎の姿はなかった。再び岩崎の自宅に向かったがやはり帰っていなかった。

 私は彼のことが少し心配になったので、彼の携帯に電話を掛けてみたが、応答がない。もしや青澤と一緒にいるのではと思い、今度は青澤の携帯に電話を掛ける。

「おう、久しぶり。いきなりどうしたんだ?」

 私は青澤がしっかり電話に出てくれたことに安堵しつつ、本題を持ち掛けることにした。

「久しぶり。悪いんだけどさ、岩崎のこと知らないか? あいつ、家にもパチ屋にもいなくてさ……」

「……岩崎、岩崎か……」

 どうもテンションが低い。もしや仲直りができていないのだろうか? 私がそんなことを考えていると、青澤が重い口を開く。

「なぁ、落ち着いて聞けよ? 岩崎の奴な、行方不明になった」

 青澤の口から唐突に告げられた言葉を聞いて、私は固まった。

「……は? なんで?」

 私が問いかけると青澤は岩崎が失踪した日のことをゆっくりと語りだした。

 青澤は、一か月程前に岩崎の様子を見に行ったらしい。そこには布団にくるまってガタガタ震えている岩崎がいた。青澤は何があったか聞こうとしたら、いきなりあの黒電話がジリリリと鳴りだした。そうしたら、岩崎は発狂しながら部屋を飛び出して行ってしまった。青澤はすぐに追いかけたが、途中で岩崎を見失ってしまい、しぶしぶ岩崎の家に戻った。すると、さっきまでうるさくなってた電話が跡形もなく消え去っていた。

 青澤が言うにはこういう事らしい。その時、私の頭にこれまで抜けていたとある疑問が溢れ出てきた。

 この黒電話の送り主は誰なのだろう、この『00880』という番号は誰につながっていたのだろう、なぜ電話の相手はパチンコで勝てるかや私の妻の不倫を知っていたのだろう、電話の相手は岩崎になにを吹き込んだのだろう。

 ……しかし、こんなことを考えてもらちが明かない。幸い明日は休日だ。なんだか気分が悪くなってきた気がするので、今日はもう家に帰って休むことにした。

 次の日、外は気持ちがいいほどの快晴で、昨日の憂鬱な気分も少しは晴れた気がする。すると、ピンポンと玄関のチャイムが鳴った。私はドアを開け、辺りを見渡したが、人はいない。気のせいだったかと首を傾げると、足元に小さなダンボールに包まれた何かがある。

 それをこの前通販で頼んだものだと思った私は、それを持ったまま部屋に戻ると、その封を開ける。

 ……中身を見た私は言葉を失った。その中には黒電話と『00880』と殴り掛かれた紙が入っていたのだ。

 




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