秋津洲国における魔種族、魔獣報告   作:koe1

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-秋津洲国における魔種族、魔獣報告 一通目-

尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。

 

先生の数多いる弟子の1人である、不肖この私が秋津洲国のキャメロット公使館付書記官として着任し、1ヶ月が過ぎました。

まだ身辺は全く落ち着かない状況ではありますが、この国においての魔種族について、尊敬する先生にとっては既知のことではありましょうが報告したいと思います。

まずこの国に到着してからの1ヶ月で私が体験し、先任の同僚や上司、並びに交流を持った秋津洲人より聴き取ったところ、この国には魔種族の他に、私たちが住まう星洋では絶滅した魔獣が未だ生息しています。

先生は古代より私たち人間種が魔種族やそれに類する者達を『怪物』や『魔物』と一括りにしてきたのを、『人間と意思の疎通がとれる者を魔種族』、『意思の疎通が全くとれない、明らかに生物の摂理に反した特殊能力を有する大型動物を魔獣』と再定義なさいましたが、肝心の魔獣が星洋に生息していないことから、先生の魔獣研究は古典に記されている事例研究が主だとこの不肖の弟子は理解しております。

その魔獣がこの秋津洲では未だに絶滅せず、人間種に対する明瞭な驚異として生息しているのが驚きとなっています。

そのためでしょうが、近年近代化を遂げたこの国では陸軍組織は、ただひたすらに国内防衛を主目的としている『Army Garrison』制、この国の言葉で『Tindai』制を採用しております。

正直、私としてはこの陸軍制度はある意味驚きで、例え目の前で外国勢力の軍隊が揚陸させていたとしても政府からの許可がない限り攻撃は絶対禁止されており、先制攻撃された際の自衛戦闘ですら最小限にするべきと定められています。

これを我が国で例えますと、グロワールやロヴァルナが我が国に対し、宣戦布告も無しに奇襲上陸をおこなっているのを完全武装かつ弾薬も充足している陸軍部隊が目撃したとしても攻撃ができないという恐怖になります。

これを秋津洲駐箚公使館に着いたその日に教えてくれた先任の書記官は『つまりこの国は初動において敵国から隠密かつ全力で軍事行動をされてしまうと与し易い国といえる』と説明してくれました。

 

しかし彼はその後に続けて

『とはいえこの国を一時的に全土を占領できたとしても、征服するのは困難すぎる。なにせこの国には沢山のモンスターが生息していて、為政者が為政者としてあるための絶対条件が、そのモンスターから民衆を守ることなのだ。繰り返すが我が国がこの国を占領するのは容易いだろう。しかしだ、私達にはモンスターを退治するノウハウがない。ノウハウがないなら征服した秋津洲人を使えばいい?そうかもしれない。しかしだ、この国の気質から判断してそれは困難だと私は考えている。おそらくだが、モンスターに対するノウハウを喪失するほど激しい損害を伴う軍事的抵抗をおこなうと思う。そしてこのちっぽけな、夏は暑くジメジメとしていて、冬は乾燥しきって冷たい北風が吹きすさぶこの国を手に入れた私達はモンスターに上手く対抗することができず、為政者とは自分達をモンスターから守るものであると心の底から信じ頼りにしている民衆の信頼あっという間に失い、怒り狂った民衆が各地で反乱を起こし、モンスター達は暴れ回り、この我がキャメロット本国から最も遠く、増援を送るのも苦労するこの地は手がつけられなくなるとなるだろう』と締めました。

 

ちなみに私はこの時、愚かなことに彼が説明した『モンスター』を魔種族と解釈していました。

もちろん、この国に関する資料は外務官として目を通し、更に先生の教えを受けていた頃にはこの道洋に生息しているという魔種族や魔獣に関して記されている、キャメロット語に翻訳されたこの国の書籍には『魔種族が人間と共に暮らしている』、『魔獣が生息していて人間種の脅威となっている』と記されていましたが、私はこれを『未開地が多いであろう、ようやく近代化したこの国は、古典に記されていることを書き写しただけで、実地調査がされていない、現実と異なったことが記されているのだろう』と解釈しており『魔獣なぞ幻想。魔種族がいても極小数で、人間種が生活していない地域に半独立勢力として生息しているのだろう』と考えておりました。

しかし、着任一週間後に彼に誘われ、騎乗で西へ2日ほど進んだ山岳地帯で巨大な蜘蛛の死体・・・この国の首都とその近辺の防衛を担当している鎮台部隊によって倒されたばかりの魔獣をみせられたときの私の心は、恥ずかしさと驚きと喜びとか複雑に混じり合ったものであると同時に、先生の厳しい指導を再度受けることは間違いないという恐怖を強く感じました。

なお同封しているスケッチはその時の巨大な蜘蛛で、5本ほど入れました太いしなやかながらも堅いトゲのようなのはその蜘蛛の脚に生えていた毛です。

もちろん秋津洲政府の許可は得ていますのでご安心ください。

なおその巨大な蜘蛛、秋津洲人が『Tuti-gumo』と読んでいた魔獣のサイズはイラストにも記してありますが、頭胸部~腹部が約45フィート、各脚は約20フィートほどでした。

 

ここで話をこの国の陸軍編成に戻しますが、外国からの侵略には制度上、自主判断による攻撃ができないこの国の陸軍ですが、魔獣の脅威に関しては我が国からしてみればあり得ないほど攻撃的で、各自治体の要請・・・村レベルの要請ですら政府からの許可無しに完全装備での出動が可能で、前述の蜘蛛の魔獣の際も、朝の10時頃に山奥の村から決死の思いで発せられた鐘の音による魔獣襲来の知らせと救難要請を、他の山村が同じく鐘の音によって逓伝していき麓の小さな町に11時頃には伝わり、その小さな町は直ちに、その町にいる警官を全力で・・・とはいえ10名に満たない数だったそうですが、重武装の上で、情報収集も兼ねた先遣隊として鐘の鳴っている方面へ向けて派遣。

更に騎馬警官によって電信が設置されている大きな町へと、未だに詳細が全く不明な状況にもかかわらず逓伝され、その町より発せられた電信を、駐屯地最寄りの電信を有する郵便局からの至急便によって13時頃に、政府より先に受領した首都に駐屯する鎮台は直ちに少数の騎兵によって編成された先遣隊を派遣し、それに続く形で常に即応体制下にあるという小隊単位の歩兵部隊を追送。

さらに15時には歩兵と砲兵による中隊規模の混成部隊も出動したとのことです。

もちろん詳細が入り次第、状況によっては首都駐屯の鎮台兵力を全力で投入する準備もしていたそうです。

そのような状況にも関わらず、鎮台司令部は政府に対し『首都西方山岳地帯にて魔獣出現の報に接し、我が鎮台先遣隊を派遣す』という連絡をしたのみで、政府はそれに対し、事後了解のみという、我が国からしてみると軍に対する政府統制がとてもではないがされていないような対応となっていますが、この国の有様としてはそれが当たり前であり、軍事侵攻を目論む外国よりも国内に出現する魔獣の方がよほど驚異であり、魔獣討伐失敗が政府の威信を揺るがすと認識しているようです。

 

なお私と先任の書記官によるこの魔獣視察ができた理由ですが、この魔獣出現の報を知った先任書記官・・・私が先生の弟子であることを知っていた彼の働きかけにより、現地への部隊に同行しての視察が『生命の保証はしない、護衛もない』という条件で許可され、陸軍先遣部隊から2日後に出動した騎兵部隊・・・実態として乗馬歩兵部隊と共に首都を出発し、麓の小さい町に到着した時点で既に魔獣は討伐されており、その町にその巨大な死体が運び込まれていました。

なお魔獣が討伐されていたにもかかわらず増援の騎兵部隊が派遣された理由ですが、連絡の遅れではなく『他にも魔獣が潜伏している可能性が高い』という理由だそうです。

 

以上にて、不肖の弟子により秋津洲国からの魔種族、魔獣に関する最初の報告を終わりとさせて頂きます。

第二報では、秋津洲の魔種族について報告できるかと思われます。

 

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