尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。
とうとう秋津洲も完全な冬となりました。
私が滞在する首都では積雪は現時点ではありませんが、秋津洲の北方では6フィート以上も雪が積もる場所もあるとかで、にわかに信じがたいものがあります。
そして私は現在は秋津洲で出版された魔種族、魔獣について記されている古典の内、歴史的事実が記されているものを中心に、通訳氏や学生2人とキャメロット語にまとめています。
その中で私が痛感したのが、キャメロット語にそもそも魔種族、魔獣に関する語彙が少なすぎるということです。
キャメロットにおける…いや星欧における魔種族、魔獣研究の第一人者にして、著作を沢山出版されている、我が尊敬する師であるサー・マーティン・ジョージ・アストンに対する言葉としては無礼極まる言葉であるとは重々承知の上ですが、秋津洲語をキャメロット語に翻訳する際、適切な語彙や単語がないか、存在はしているが若輩の私ではその適切な語彙や単語たどり着けず、不自然な直訳に近い翻訳となっていしまっています。
先生ならば間違いなく、適切なキャメロット語に翻訳できると確信しており、先生の弟子として情けない限りです。
正直、先生の著作を楽しみながら読んでいるときには思いもしませんでした…。
話を元に戻しますが、古典の調査ですが、現在は龍に関して力を入れております。
そのような中、身近に龍…水生の龍、秋津洲語で『スイリュウ』と呼ばれている龍と遭遇していた方がいました。
その遭遇した身近な人物は今まで出会った秋津洲人や魔種族ではなく、なんと我が秋津洲国駐箚キャメロット公使、サー・ジョージ・キュナード閣下です。
閣下より先生へ、自身の『スイリュウ』との遭遇について直接お伝えしたいとのことで、閣下からのその件を記した手紙を別に封をしたうえでこの手紙に同封させて頂きます。
閣下の恐ろしい体験を先生がどう判断されるか、閣下には失礼ながらも大変興味があります。
それでは先生、失礼いたします。
************************************************
尊敬する偉大なる魔種族、魔獣研究家、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。
初めまして。
国王陛下より秋津洲国駐箚公使任の勅命を受けております、サー・ジョージ・キュナードと申します。
オルクセン駐箚公使の任についているアストン卿とはご同輩と言えます。
ちなみにですが、あなたの弟子であり私の部下である、大変優秀ながらも少々ずれている感性を持つ若い彼ですが、アストン卿が未だにオルクセン駐箚公使の任についていることを知りません。
彼が着任する前に到着した赴任関係書類に付属していた文章に『新任書記官に対し、サー・マーティン・ジョージ・アストンがオルクセン駐箚公使であることを秘匿するように要請する』と記してあったときは、アストン卿の直弟子が、卿がオルクセン駐箚公使であることを知らないはずがないのになぜだ?と思いましたが、少々ずれている感性を持つ彼は、公使館職員の間で時々話していますが、未だに卿がオルクセン駐箚公使であるのを知らないのはキャメロット史上で最大の謎ではないかと思っております。
ただ外交書類にわざわざ付属文章を添付するほど…おそらく卿が何らかの職権を行使したからなのでしょうから、何らかの意図があるのは理解しております。
しかし私…いや私達は『離任した後に話して彼をびっくりさせよう!』と『卿がオルクセンにいると知ったら、全てを投げ捨てて夢の地であるオルクセンに駆けつけるからではないか?』で意見が分かれております。
なお私は前者ではないかと考えております。
前書きが長々と続きましたが、そろそろ本題であるドラゴンについて記します。
私は外務省にその籍を置く前は、長年にわたり王立海軍に奉職しておりました。
そして思い出すのも未だに恐怖で身が震える、10年前の星暦863年の8月。
私は秋津洲西方の公国に対する、秋津洲の港町、館浜近隣で発生した死傷事件に対する懲罰行動のために、計9隻の艦隊を編成する1隻の軍艦に艦長として指揮を執っておりました。
卿ならご存じかと思いますが、無辜な善良なキャメロット人が一方的に公国の騎士達によって殺傷された…
後に野蛮な冒険商人たちが引き起こした、たとえ殺傷自体は条約違反とはいえ、言葉が通じないながらも大きな声や身振り手振りで静止したものの、それらをすべて無視して公王の隊列に騎乗のまま入り込み、まるで公王を暗殺しようとするかのように公王へ接近しつづけたために、公王の騎士たちが己が忠誠を捧げる公王を守るために致し方なくその剣を振るった事件でした。
後にキャメロットの恥を星欧に晒した事件でしたが、詳細が判明するのが遅れた、当時の公使が強硬だった、条約違反は変わらない等の不幸が重なった結果による懲罰行動でした。
私が艦長として指揮を執っていたのは、星暦860年に就航した排水量が約890トンの蒸気スクリューのスループ『レイパメント』号でした。
他の8隻と共に公国のある秋津洲の西のはずれ、火山がある湾内に侵入しました。
そして数日の交渉の後、嵐の中で懲罰行動を開始しました。
我々は公国に対してかなりの損害を与えましたが公国側の戦意は全く衰えず、抵抗は激しいままで、艦隊旗艦ですら損傷し、艦長等が戦死する事態となりました。
そして夜になり私達の艦隊の悲劇が始まりました。
艦隊は安全と思われる場所に一時的に移動し、徹底した灯火管制を指示した上で錨を下ろして停泊しました。
至近距離にいる私達同士ですら僚艦をうっすらとしか確認できないにも関わらず、どのようなな魔法を使ったのか…あなたの弟子のおかげで本当に魔法…魔術による探知だったとようやく知ることができましたが、嵐を避けるためにも岸に近かったこともあり、私達の火砲よりずっと旧式で射程も短い筈の公国の火砲の正確な砲撃に突如として晒されました。
艦隊はどこから砲撃されているかすら把握できないまま、各艦は慌てて錨を切り、命中弾が出る中でもしっかりと統制が取れたまま沖に向けて移動し、公国の…おそらく4ポンド砲程度と思われる小口径火砲の射程外に出ましたが、9隻いたはずの僚艦が8隻になっていました。
しかし艦隊も誰もが炎上しているもを目撃していないのです。
この暗闇では沈没するのを目撃できないのは致し方ありません。
ですが戦闘で沈没の前にはある程度の炎上するのが常なのですが、それですら誰も、マストにいた見張り員ですら火災を目撃していないというのです。
当初ははぐれただけと判断していたのですが、明るくなり、嵐も収まっても僚艦はいませんでした。
司令官は再度の砲撃を…敗北したわけではないと主張するための短時間の砲撃を公国の首府に対して行った後に、館浜に帰投することを決意しましたが、誰もが疲労の極にありながらも首府へ向かい移動を始めた瞬間、艦隊最後尾につけていたに私の船が襲われました。
そうです、ドラゴンに襲われたのです。
突如として海の中から巨大な蛇が現れましたのです!
舷側にいた水兵が1人頭から噛まれ、その蛇の巨大な口からは不幸な水兵の下半身だけが…足だけが激しく動いているのが見えたまま、そのまま海中に引きずり込まれました。
私達は誰もが何が起きたのか理解できませんでした。
隣にいた副長が『神よ…』と呟いた瞬間、今度は反対舷から先ほどよりさらに巨大に見えた蛇が現れ、艦に噛みつきました!
おそらく水兵か海兵の誰かが『シーサーペントだ!!』と叫びました。
私はその叫び声で我に返り、『海兵!銃撃で追い払え!!』と命令を下すと、海兵隊長の復唱が聞こえ、10名ほど乗船していた海兵たちが隊列を組む余裕もないままにライフルを巨大な蛇に向かって構えようとしたその時、またもう1匹の巨大な蛇が現れて同じ側の舷に噛みつき、2匹の力で艦を傾斜させたのです!!
艦が一気に傾斜したせいで海兵たちはライフルを撃つこともできず、数名の水兵と海兵が艦から転落しました。
それでも890トンある艦は、私の『レイパメント』号は転覆しませんでした。
蛇達の力が足りなかったのです。
ですがさらに!さらにもう1匹の蛇があらわれ、私の船に上がり込んだのです!!
そして初めて見ることができたその全身は蛇では…シーサーペントではなく、蛇のような頭と首が300トンほどの船の船体ほどもある胴体から伸びて、海亀のようなヒレが生えている生物でした。
そしてそいつは、私の方を見て笑ったのです!
確かに笑ったのです!!
私がこの船の艦長であると理解した上で私を見て笑ったのです!
あれは知性がない魔獣ではありません!!
間違いなく知性がある魔種族です!!
あのドラゴンは魔種族です!!
そして次の瞬間に私の船は転覆し、私も海に落ちました。
私は海に落ちたときに、行方不明になった僚艦も奴らに沈められたと理解しました。
我が艦隊は私の船がドラゴン達に襲われて沈むのを見て撤退しましたが、幸いなことに私をはじめとする多くの乗組員は公国側の船に救助され、後日入港してきたオルクセンの民間船に引き渡されました。
ちなみに艦隊はその後に公国側の機雷で被害を受けましたが、館浜までの撤退に成功しました。
しかし中世ならばともかく、この現代において船が、しかも武装した軍艦が魔獣…海軍上層部は私の報告をあり得ないとし無視し、あれを魔種族だはなく魔獣だとし、そんなものに沈められたと知れ渡るのは王立海軍の恥とし、今回の懲罰作戦は7隻で行ったとし、沈んだ2隻は別な作戦や嵐で沈んだことにし、私や艦隊司令の報告を葬り去ったのです。
そして私は、最後まで偽の報告書へのサインを拒んだ私は海軍を追い出されました。
ただ口止め料かそれともまだ少しの良識が海軍上層部にあったのか、それとも両方かは分かりませんが、私は強制退役直前に昇進し、年金も増額されました。
ただこの件に興味を持った元海軍軍人の議員数名の勧めで、同じく興味を持っていた外務省に入省し、数年の外交官見習いとして励んだ後に華国の副公使に任じられ、続いて望んでいたこの秋津洲の公使となりました。
さらに魔種族と魔獣について積極的な情報収集をも指示されました。
私はこの一件からアストン卿の著作を買い集め、拝読させて頂いております。
私は魔種族のことを、魔獣のことを、あのドラゴンのことを知りたいのです!!
秋津洲に赴任した後は積極的に秋津洲政府に接触し、魔種族のことを、魔獣のことを、あのドラゴンのことを知ろうとしてきましたが、彼ら秋津洲人達も実はあまり彼らのことを詳しくないと知り、衝撃を受けました。
そのようなときにあなたの弟子が偶然にもこの秋津洲にやってきたのです。
私はこれを天啓かと思ったほどです。
これからも一個人として、指示を受けている一外交官として、あなたの弟子に対して魔種族と魔獣について積極的な情報収集を指示し、可能な限りの支援したいと考えています。
最後に偉大なる魔種族、魔獣研究家であるサー・マーティン・ジョージ・アストンに直接手紙を出せることを喜びとしつつ、ペンを置かせて頂きます。
ありがとうございました。
追伸
先日彼が自費で大量に注文した写真立てに関しては、公使指示の情報収集の必要経費とし、公使館側で清算しました。
以後の魔種族、魔獣調査に関わる撮影費用も公使館側で負担する予定です。
キャメロット公使が書記官の魔種族、魔獣調査に協力的な理由でした。