秋津洲国における魔種族、魔獣報告   作:koe1

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-秋津洲国における魔種族、魔獣報告 十二通目-

尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。

 

2月の半ばというのにこちら秋津洲では雪が降りました。

乾燥しきった冷たい北風はかわりに吹きませんでしたが、雪は雪で辛いものがあります。

 

そんな雪が残る秋津洲ですが、再びハナブサ氏が今度はタシロ氏を連れて公使館を再び訪れてくださいました。

本来ならば私のような者からお邪魔しないといけないのでしょうが、警備上の問題から、秋津洲政府からは難色を示されたようでこの様な形となっています。

どのぐらい難色を示されているかと申しますと、前回のハナブサ氏が訪れてくださった際も今回も、いつもの警官達3人が公使閣下の許可の元で私の護衛についてくれているほどです!

この辺については、先生は『治外法権である公使館内で秋津洲の主権警察が警備をするのはおかしいのではないか?』と思われるでしょうが、秋津洲と我が国との条約で未だに、一部は改正されたそうですが秋津洲領土全体で我が国等の間で治外法権が残っており、そのため『秋津洲人が犯罪を外国人に対しておこなった場合は秋津洲側に、逆に秋津洲人に対して外国人が犯罪をおこなった場合は外国側に裁判権が、一部の例外を除いてあるため』だそうで、過去に発生した秋津洲とキャメロットの不本意な衝突からの反省で、公使閣下の許可の元で秋津洲人の警官を公使館内に私の護衛として入れているそうです。

もちろん、我が公使館の守衛を兼ねている海兵隊兵士も私の護衛としてついてくれていますが。

ただ先生にだけはお伝えしますが、実を言いますと公使閣下共々この様な護衛は必要ないというのは理解しているのですが、外交とは色々と厄介かつ面倒な手間があります。

 

話を元に戻しまして、今日2人がやってきた理由は実は私ではなく、我が公使館の駐在武官であるヘンリー・ヴァイス少佐殿の要望のためでした。

少佐殿がいうには『本来の駐在武官とは赴任国の最新の軍事情報の収集をおこなうのだが、失礼ながらこの秋津洲は後進国であり、収集すべき先進的な軍事情報はない。私の仕事はこの国に我が国の武器を売り込む武器商人さ』とのことですが、私はそう思えません。

今回、少佐殿が私にお願いしてハナブサ氏とタシロ氏を招いたのもそんな少佐殿の素晴らしい姿勢からです。

 

彼が知りたがっていたのは、前に手紙でお伝えした秋津洲における最後の人間族と魔種族に軍事衝突についてでした。

過日、少佐殿と宿舎にて酒を片手に語らったのですが、私がその際に触れたその軍事衝突について、どうしてか並々ならぬ興味を抱いたそうです。

そして私が、通訳氏を介して手紙にてハナブサ氏にその軍事衝突について正確なことを記した書籍はないかと尋ねたところ、ハナブサ氏とタシロ氏両人が沢山の資料と共に訪れてくださり、通訳氏を介して軍事衝突について細かく説明してくれました。

当時から既に秋津洲の各騎士家ではこの襲撃について、軍事的な興味を抱いていたそうで、かなり詳細な研究がされていたそうです。

概略については既に先生への手紙で伝えていますが、詳細となると以下のようになるようです。

 

 

 

1.深夜にコボルト氏暗殺事件発生。

 

2.コボルト氏、死の間際に残った命を全て使い、本来なら時1.5マイルほどしか届かない筈の魔術による意思伝達が4マイルほど届く。

 

3.深夜にもかかわらず、それを感じ取って飛び起きた、各所のジンジャにいた魔種族が直ちにそれを再発信。

 

4.それを受信した各所で再発信を繰り返す。

 

5.遅くとも翌日10時には、首都から約305マイル離れた皇帝所在地にいる魔種族の長へと伝わる。

 

6.既にコボルト氏への子爵家相当騎士家の一方的憎悪の詳細は魔種族の長にも伝わっていたことや、状況を確認した首都在住の魔種族や騎士政権そのものから次々と魔術による意思伝達によって続報が入り、子爵家相当騎士家による暗殺であると断定する。

 

7.同日14時前後には報復を決定。その主力をコボルト族とし、コボルト族の2箇所ある大規模居留地に対し子爵家相当騎士家への報復命令を発する。

 

8.同日夜までにはそれを受信したコボルト族側は直ちにそれを了承。報復準備を開始。

 

9.翌日にはその事実を知った両居留地にて共同生活を送っている巨狼族がコボルト族への全面協力を申し出る。

 

10.コボルト族より報復活動への移動経路上付近にある各ジンジャに対して、魔術による意思伝達で武器、食料の集積と提供、休息地点確保が依頼される。なおその経費については後日、魔種族の長より支払われたとのこと。

 

11.事件発生から3日後には、首都近郊の居留地から先発隊として巨狼族に騎乗したコボルト族が出発。同隊の任務は各ジンジャにて集積される食料と武器、休息地点の確認、本隊への通達。

 

12.事件発生から4日後、首都近郊の居留地からコボルト族、巨狼族の連合軍が出発。携行食糧はわずか2日分のみだったとのこと。

 

13.各所のジンジャで食糧補給、小規模な武器受け取りを繰り返し、子爵家相当騎士家本領へ向けて、魔種族らしい人間を凌駕する体力をもって、人間族からすると考えられない速度で移動していく。

 

14.移動開始から2日目の昼に、首都防衛の山岳地帯の街道沿いの警備拠点をコボルト族と巨狼族が強硬突破する際になってようやく騎士政権が魔種族の報復活動を察知。警備拠点より直ちに伝令が首都と皇帝所在地へ向かう。

 

15.移動開始から3日目の昼、危険を承知で夜通し移動を続けた伝令が騎士政権首都へ到着し、コボルト族と巨狼族の大移動を報告をする。

 

16.騎士政権は状況的に考えて、間違いなく報復活動であると断定。直ちに皇帝所在地へ向けて報復活動の中止命令発令を依頼する伝令が出発する。なお魔術による意思伝達による依頼は、依頼した各ジンジャの魔種族が体調不良のために全て断られる。

 

17.事件発生4日後、首都がある島の中央部付近の半島にあるコボルト族と巨狼族の居留地からコボルト族、巨狼族の連合軍が出発。

 

18.事件発生から9日目、移動開始から6日目。皇帝所在地都市の北方にて2つの軍が合流。魔種族の長から再度の報復の号令が伝えられる。

 

19.皇帝家、この段階で魔種族による子爵家相当騎士家への報復活動を察知。騎士政権への魔術による意思伝達をもって連絡を試みるも、依頼した各魔種族全てが体調不良のため断られる。魔種族の長への報復中止命令も魔種族の長が体調不良のため、参内できないと断ったために発令できず。

致し方なく、騎士政権へ状況を伝える伝令をだす。

同日夕方、山岳地帯の警備拠点からの伝令が皇帝所在地にも到着。

 

20.事件発生から10日目、移動開始から7日目。首都近郊の居留地から数頭ずつ分散して首都へ向けて首都邸宅襲撃部隊が移動を開始する。

 

21.同日。本領襲撃部隊、最後の休憩と武器受け取りを実施する。ここで24時間前後の大休憩をした模様。

 

22.首都邸宅襲撃部隊も拠点としている首都内のジンジャに到着し、武器の補給を受ける。この際、魔種族の報復を察知していたコボルト氏の生き残っていた人間族の家来数人が襲撃部隊に加わる。

 

23.首都邸宅襲撃部隊と本領襲撃部隊間で魔術による意思伝達によって細かい調整をおこない、事件発生から11日後。移動開始から僅か8日目の深夜に同時に襲撃を開始する。

 

24.本領の城は炎上し、首都邸宅にいた子爵相当の騎士は討ち取られる。

 

25.首都邸宅襲撃部隊、首都内をパレードして報復活動の成功を宣伝した後、コボルト氏の遺体が仮収容されていたテラに到着。遺体を前に子爵家相当騎士への報復が成功したことを報告。

 

26.首都邸宅襲撃部隊、魔種族内で一番若年だった者へ魔種族の長への直接報告を指示し、彼がテラを出た後に残った46人全員がその場で『全ての責任は我々にあり』とする遺書と、テラの責任者への伝言を託し自殺する。

 

27.襲撃翌日の昼過ぎになって首都の騎士政権よりの報復命令撤回要請の伝令が皇帝所在地へ到着し、直ちに皇帝へ届けられる。

 

28.同日夕方には皇帝所在地へ、子爵家本領の城が炎上したことが伝わる。

 

29.同時に各所で体調不良を訴えていた魔種族達の体調が回復し、魔術による意志伝達が再開され、首都と皇帝所在地の間でようやく情報が共有される。

 

 

正直、軍事に関しては素人の私からしてみてもあり得ない移動速度だと感じました。

少佐殿も全く同じ意見であるようで呆然としていました。

少佐殿は『電信も鉄道もないのにどうやって、どうやって、魔術による意思疎通というのはわかるが、どうやって食料や武器をここまで円滑に集め、大量の動員をおこない、しかもそれを移動中に配布し、途中で大きなトラブルが一切もおこさずに移動できたんだ・・・』と呟いていました。

その後もハナブサ氏とタシロ氏は細かい事を説明してくださいましたが、興味深いのは本領襲撃を体験してしまった商店を営んでいた市民が書き残した襲撃の様子です。

通訳氏が翻訳してくれたそれを以下に記します。

 

 

****************************************

 

城が燃えた日、深夜に狼の遠吠えが聞こえた。

最初は珍しいと思った。

しかし、どんどんと遠吠えが増えていった。

さらに近づいてきた。

これは異常であると感じ、私はベッドから出て、戸を開けて店の外に出た。

外には武装したコボルト族と巨狼族が、巨狼族が時折遠吠えをしながら城へ向けて行進していた。

周りの他の商店からも人が出てきて、私を含めて全員とても驚いていた。

私はこれは間違いなく異常事態だと感じた。

私は、私同様に目を覚まして不安げにしていた家族や使用人達に声をかけ、直ちに持てる範囲だけで良いので財産をもってすぐに郊外へ避難するように命じた。

私達と同様に、近隣の他の商店も避難を開始した。

 

遠吠えが聞こえ始めてから30分ほどで、城の方からとても大きな音が聞こえた。

同じ音が数度聞こえた。

まばらに悲鳴も聞こえてきた。

その音がやむと同時に、また沢山の遠吠えが聞こえた。

少しすると、城の方からさらに沢山の悲鳴や怒号が聞こえ始めた。

銃声もまばらに聞こえたが、すぐに止んでしまった。

家族や使用人は全て避難していたが、残っていた私は恐ろしくてその場を動けなかった。

私はずっと神への祈りを唱えて震えていた。

 

どのぐらいたったかわからなかったが、外から『城が燃えている!』と声が聞こえた。

私は恐ろしかったが、店の外に出ると城が燃えているのがみえた。

この町にも少しだけいる消防隊が城の方へ向けて駆けていった。

後ほど聞いたことによると、彼らは途中でコボルト族に阻止されて、城には近づけなかったとのこと。

そのうち、城の方から騎士達が何人か逃げてきた。

それを皆、巨狼族が追っていった。

私の目の前で騎士が1人、巨狼族に食いちぎられるのを見た。

私は恐ろしかった。

ただ恐ろしかった。

私はその巨狼族と目が合ってしまった。

私は恐怖のあまり、その場から一歩も動けず、ただひたすらに神への祈りを繰り返し口にしていた。

しかし巨狼族は私に目もくれずに城の方へとまた戻っていった。

 

翌朝、血にまみれたままのコボルト族と巨狼族は再び隊列を組んで、時折遠吠えをしながら町の外へと出て行った。

私達市民は家の中でただ恐怖だけをもって息を殺していた。

私は神に祈り続けた。

どうか襲われませんように、どうか襲われませんように。

私や家族や使用人達が襲われませんように。

 

彼らが町から出て行ってしばらくしてから、私達市民は何カ所かのテラの責任者達と共に、恐る恐るまだ燃えている城の方へと近づいていった。

前はジンジャにいた数人の魔種族達は1年半ほど前に領主様の命令で追い出されて今はいない。

彼らがいてくれたらと、テラの責任者達共々思いながら、怖々と城の方へと近づいていった。

騎士達が住む地域へ入ると、あちこちに騎士達の死体が転がっていた。

騎士達の家は、一軒の例外なく、どこかが破壊されていた。

そして家の中にも騎士達の死体が転がっていた。

同時に、恐怖で動けない女子供達があちこちにいた。

私達は女子供を助けながら城へ更に近づいていった。

城へ近づくと、既に消防隊が城の中へ入って、消火活動をしているのがわかった。

私達はその消防隊に勇気づけられて城の中に入った。

私達は後悔した。

テラの責任者達はずっとずっと神への祈りを口にし続けてた。

中は地獄のようだった。

騎士という騎士が皆死んでいた。

コボルト族や巨狼族の死体はどこにもなかった。

城にいた女子供や雇われていた市民達は皆無事で、既に消防隊が1箇所に集めていたが、皆恐怖で震えたままだった。

 

昼過ぎになり、近隣のダイジンジャの神官である魔種族がやって来た。

彼が言うには、10日ほど前にここの愚かな領主によって1人の魔種族の長老が殺されたとのこと。

これはその報復である。

ただし市民には一切の罪はない。

我ら魔種族が市民を襲うことは絶対にない。

と町中を告げて回りました。

 

私はただ普段は優しい魔種族達が怒った際の恐ろしさに恐怖すると同時に、この騎士家が発行していた紙幣はどうなるのか、それが不安だった。

 

****************************************

 

 

これが商店を営んでいた市民が書き残したものです。

 

私はこれを読んで呆然としました。

魔種族の恐ろしさを今更ながら感じました。

 

さらに2人は城の具体的な攻撃方法を教えてくれました。

コボルト族は少数のみを門に派遣し、丸太で門を破壊しようとする。

その間に巨狼族とコボルト族は周辺の子爵家に仕える陪臣騎士達の邸宅を襲い続ける。

門を破壊した後は魔術による意思伝達をもって部隊を集結させ、巨狼族を先頭に城内へ侵入。

城側も少数が組織だった抵抗を試みるもすぐに粉砕され、後は逃げ惑うばかり。

逃げ惑う騎士達を1人1人着実に殺しながら、女子供や明らかに雇われた市民とわかる者は保護していく。

邸宅から城へ向けて救援に駆けつけようとする騎士達も1人残らずコボルト族の武器や巨狼族の牙の前に倒れていく。

城や付近の邸宅から市民居住地へ向けて逃げ出した騎士は巨狼族が追っていき、一人残らずかみ殺す。

騎士達を狩りつくしたと判断した魔種族側は城に放火。

ただし略奪の類いは一切せず。

魔種族側の死者は無し。

 

 

私は魔種族が持つ軍事力の恐ろしさに無言になってしました。

そして隣にいた少佐殿は呆然として小さい声で、こう言いました。

『これは・・・人間族の事情を知らない、もしくは表面だけをなぞる歴史家から見るのならば、ある日突然・・・まるで魔法を用いて野蛮なコボルト達や凶暴な巨狼族が平和な人間族の領地へ攻め込んだ・・・そんな風に見えてしまうのではないか・・・?』

そして続けて言いました。

『現代の電信や鉄道、船舶輸送があるオルクセンはもっと大規模にもっと素早く、もっと秘密裏にこれと同じようなことが出来てしまうのではないか?』と。

私はただ無言で頷くことしか出来ませんでした。

 

 

先生、正直私は恐怖でペンが鈍ってしまいました。

今まで無邪気に興味のみを持って接していた魔種族がここまで恐ろしい存在なのかと知ってしまいました。

失礼ですが、今回の手紙はこれにて最後とさせて頂きます。

申し訳ございません。

今回の手紙には少佐殿が書き起こしてくださいました、概略を記したイラストも同封いたします。

それでは本国から持ってきたウィスキーを一杯だけ飲み、心を安らげてから寝たいと思います。

お休みなさいませ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




軍人さんのオルクセンに対する危機感が・・・

そして原作の名台詞をオマージュとして使ってしまいました。
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