秋津洲国における魔種族、魔獣報告   作:koe1

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触れてはいけない扉に触れてしまった軍人さんの葛藤です。


秋津洲国における魔種族、魔獣報告 -番外編その3-

尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。

 

こちら秋津洲はようやく寒さも雪も退散し、春が近くなってきました。

更に先日にはオルクセン公使館のコボルト書記官より手紙が届き、春には秋津洲に戻ってくるとのことでした。

彼が戻ってきましたら先日ハナブサ氏とタシロ氏から教えて頂いた秋津洲での最後の魔種族と人間族の武力衝突について私が纏めた資料をお渡ししようか迷っています。

ヴァイス少佐殿は先日来、秋津洲における魔種族と人間族、もしくは魔種族同士、更に魔獣との戦闘についての史料を熱心に集め始め、ご自身でも公使閣下の許可の元で3名の秋津洲人の学生を私費で雇い、彼らに時間の半分でキャメロット語を教えつつ、それらの史料のキャメロット語への翻訳並び研究にいそしんでいます。

私も父と祖父が軍人だったため、最低限度の軍事知識を有しいると判断され、その研究に、元海軍軍人だった公使閣下共々時折つきあわされています。

そしてその少佐殿はコボルト書記官に私が纏めた秋津洲の魔種族魔獣の資料をお渡しするのについて相談したところ、『少し考えさせて欲しい』との回答でした。

 

 

      ---以下略---

 

 

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発 秋津洲国駐箚キャメロット公使館駐在武官

  ヘンリー・ヴァイス陸軍少佐

 

宛 キャメロット王国戦争省大臣閣下

 

 

秋津洲国駐箚キャメロット公使館駐在武官より戦争大臣へ可能な限り早急に対処すべき問題を伝達。

 

小官は秋津洲政府に対し我が国が生産する兵器類の輸入促進を図るために政府要人と接触する中、駐在武官の本来の任務である駐箚国の先進軍事情報については、秋津洲は科学軍事経済、その全てにおいて後進国のためにそのようなものはないと前任駐在武官も報告し、小官も当初は同意していたものの、星欧にはない人間族と魔種族が共存している秋津洲においては、過去において驚異的といえる軍事的事象があり、それを報告します。

 

まず大前提として、星欧と違いこの秋津洲においては魔種族と人間種が種族同士の全面大規模衝突を起こした事例や一方的殺戮がおこなわれたという事例は共に少なく、あったとしても伝説もしくはそれに近い伝承のみとなっています。

しかしその中でも約200年々ほど前に当時の秋津洲在住魔種族の№2とみなされていたコボルトの暗殺をきっかけとして発生した、最後の人間族と魔種族(コボルト族と巨狼族の連合軍)の軍事衝突では、電信が存在しないにもかかわらず、彼らが有する魔術による意思疎通のみをもって、非常備状態の兵力を動員令発令からわずか2日程で、最終的な総数は2群合わせて1000頭前後を動員。

さらに最長移動距離が365マイルのも距離を僅か8日で、途中で魔術により意思疎通で依頼を受けた複数箇所の魔種族の拠点が武器と食料を集め、進軍する魔種族軍は各拠点にて武器と食糧補給を受けつつ、魔種族が持つ人間を圧倒する体力で駆け抜け、深夜の奇襲攻撃かつ前々近代的な城とはいえ、火力無しに水堀と塀という防御設備がある城を短時間で陥落させ、捕虜を一切とらず全ての兵士を殺戮したという恐ろしい事例があります。

現在の電信、鉄道、動力船舶を有する我が国においても、極論までいえば、11日間で緊急動員した予備役のみで4個中隊規模の部隊を編制し、更にこの部隊を円滑に300マイル以上も離れた地に移動させ、戦闘に投入するのは困難ではないかと愚考いたします。

 

他にも現在も秋津洲にて時折出没する魔獣に対する戦術ですが、魔獣の中にはどのような原理かは全く不明ですが、種類によっては周りの風景とほぼ同化する能力を持つ魔獣が存在するとのこと。

そのような魔獣が出現した場合、秋津洲側の対処方法としては部隊を、それぞれに魔術による意思伝達と探知が可能な魔種族を最低でも1頭ずつ配した2~4隊に分散し、各隊が魔術による意思伝達をもって常に連絡を取りつつ一定の間隔をとって前進し、魔獣の気配を探知した際は、各隊が探知した方向へ向けて一斉射撃を繰り返しながら前進するという戦術があります。

これは秋津洲側は明瞭に認識していない模様ですが、三角測量を利用した敵位置把握に当たるものではないかと推測いたします。

実際、秋津洲の一部の対魔獣戦闘教本には『視認できない魔獣が相手かつ、魔術による意思疎通が出来る魔種族が2頭以上いない、いたとしても部隊を2つに分離することができる戦力、もしくは火力がない場合は一時後退して警戒監視にとどめ、増援を待つべし』とあるそうです。

つまり、これは我が軍が魔術による意思疎通並びに探知能力を持つ敵軍と対峙した場合、森林地帯に待機している場合や悪天候や夜間で明瞭に視認できない場合でも魔術による探知によって発見かつ正確な位置を把握され、魔術による意思疎通によって統制のとれた一斉射撃か一斉砲撃、もしくはその両方を加えられ、一方的な損害を被る可能性が大であると愚考いたします。

 

現在、星欧において魔種族が生存する国家は、我が国の友好国といえるエルフィンド王国とオルクセン王国の2国のみであり、我が国がこれらと開戦する可能性は現時点では非常に低いと思われますが、もし不幸なことに開戦してしまった場合、少なくとも戦場単位においては、秋津洲同様に魔術により意思伝達、探知を駆使しているであろう両国軍に対し、我が軍は一時的とはいえ苦戦を強いられる可能性は大きいのではないかと愚考いたします。

そして水上戦闘においても、素人考えではありますが、濃霧で敵艦発見が困難な状態でも、魔術により探知を駆使されれば、一方的な攻撃を受ける可能性もあるのではないかと愚考いたします。

さらには我が国の仮想敵国であるグロワール帝国やロヴァルナ帝国が個人の魔種族を傭兵として招きいれ、彼らを使い同様の戦術を採用する可能性もあると愚考いたします。

エルフィンド王国とオルクセン王国のみが相手だとしても、彼らがもつ、奇跡の万能薬『エリクシル剤』による早期回復による、負傷兵の前線復帰の驚異的速さ。

体型は殆ど私達と変わらず、女性しか存在しないにもかかわらず、人間族の成年男子よりも体力筋力等に勝る白エルフ族。

そして言うまでもない頑強この上ない肉体をもつオーク族。

そんな彼らが我が国の兵器とほぼ同等といえる兵器を持ち、不幸が重なって我が国と開戦に至った場合、我が国は敗北はしないまでも、大きな損害を被るのではないかと愚考いたします。

 

よって我が国としてはエルフィンド、オルクセン両国に対する軍事情報の入手、特に科学技術以外により一層積極的になるべきであると小官は強く確信いたしております。

もしくはこの2カ国を凌駕する科学技術を有することが絶対であると愚考いたします。

 

戦争省大臣閣下におかれましては何卒ご検討をされることを望みます。

 

 

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