尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。
こちら秋津洲の冬は完全に終わり、あちこちでキャメロットでは見たことがない、もしくは似ている可憐な花達が咲き始めております。
肝心の魔種族魔獣研究ですが、先日ハナブサ氏とタシロ氏のご尽力により、この秋津洲で魔種族を管轄している官庁・・・正確に言うのならば2つある土着宗教の内、この秋津洲発祥の宗教を管轄している『ジンギカン』に招いて頂き、色々な驚きと共に有意義なお話を色々と頂戴することが出来ました。
その時の様子を、私の恥ずかしい姿と共に記させて頂きます。
ジンギカンの庁舎は他の官庁庁舎と違い皇帝の居城内にあり、私は我が公使館所有の馬車にて、1人で向かいました。
今まで公使閣下や先任書記官の共で乗ったことはありますが、私がたった1人でこの公使館所有の、しかも本来ならば公使閣下がお乗りになり最上級の馬車に乗ったのは初めてだったので興奮してしまいました。
本来ならばもう少し格が下の馬車に乗る予定だったのですが、ジンギカン庁舎が皇帝居城内にあるというので、急遽公使閣下の指示で最上級の馬車に変更となりました。
私はいつもの3人の警官と通訳氏が騎乗して護衛と誘導をしてくれる中、先日のヒドラ見学の際に通った門から居城内に入りました。
先日はサブのゲートから通ったのですが今日は当然メインのゲートから中に入りました。
門が開くのを止まって待つ際、守衛達は先日の守衛達であると気がついたので、マナー違反でしょうが、ドアを開けて彼らに向かって帽子を取りつつ『ありがとう。今日はこちらから通させて頂くよ』とキャメロット語で声をかけると、驚くことに守衛の内1人から、かなり訛ってはいましたがキャメロット語で『どうぞお通りください』と、我が国王陛下の近衛兵でもつとまる美しい敬礼と共に返事をされました。
居城内に入って少しの間、馬車に乗って進んでいきましたが、すぐに目的地であるジンギカンの庁舎に到着しました。
庁舎と言っても、今この秋津洲の首都各地で盛んにあちこちで建てられている星欧の建築様式を模したものではなく、まるでジンジャのような建物でした。
馬車を降りますと、建物の入口両脇に巨狼族が1頭ずつ、合わせて2頭いました。
馬を馬丁に預けてから小走りで私の隣に来てくれた通訳氏曰く、ジンギカンの守衛だそうです。
私は彼ら2頭に対して帽子を取ってからお辞儀をすると、彼らも頭を下げて返事をしてくれました。
そうしていると建物の中から、ハナブサ氏から教えて頂いていたものの、まだ見たことがなかった狐系のコボルトが現れたのです!!
その体高は目算で約5フィート前後で、犬系コボルト族とさして変わりはありませんでした。
私は大変興奮して駆け出しそうになってしまいましたが、鋼の心で耐え抜き、キャメロット語にて挨拶と訪問の許可を得たことの感謝を伝えると、なんと彼も訛ってはいましたがキャメロット語にて『ようこそお越しになりました。両国の友好のためには、まずお互いを知るのが一番。本日は我が国の民である魔種族について可能な限り、ジンギカン官長が自らお答えいたします』と返事があり、私がびっくりしていると『私は元々、我が国の西の果てにあるシーマズ公国に仕えておりました。過去、キャメロットとシーマズ様は不幸な衝突がございました。その際、武人としては残念でしょうが、シーマズ様の客人となってしまったキャメロットの方が沢山いらっしゃいました。その際に前政権より派遣されていた通訳やキャメロットの皆様方に短い間でしたが教えて頂きました』とのことで、公使館に戻り、このことを公使閣下に報告すると、呟くように『確かに公国側の人員に魔種族が何人かいたが・・・キャメロット語を教えることはしていなかったはずだ・・・』と仰っていました。
挨拶の後はその狐系コボルト氏の先導で建物内を進んでいきました。
通訳氏や護衛の警官3人も一緒でした。
大きな部屋に通されると、中央近くにあるテーブルの前に角が2本頭から生えている大変大柄な、ジンジャでみたことがある神官の服を着ている美しい女性が座っていました。
肌の色は私達キャメロット人同様に薄く、『アオオニ』と言われている魔種族だと気がつきました。
そして同時に私は、外交官の本能でこの方がこのジンギカンのトップであると感じました。
私はテーブルの近くで立ち止まり、挨拶と名乗り、そしてこの様な時間を作ってくださったことの感謝を述べました。
通訳氏がそれを訳してそのオニ族の女性を伝えると、意味は全く理解できないものの、大変美しい発音で返事があり、それを通訳氏が訳してくれました。
彼女は『西の大国よりようこそいらっしゃいました。私も本日の時間を楽しみにしておりました。よろしくお願いいたします』と言ってくれたそうです。
そして次の瞬間、驚きのことが起きました。
なんとそのオニ族の女性がキャメロット語で、大変美しいキャメロット語で『どうぞお座りください』と言ったのです!
私は何が起こったのか理解できず、通訳氏の方を向いてしまいました。
おそらく私がしているのと同じであろう驚いた顔をしている通訳氏はそれだけで理解してくれ、首を軽く振りました。
続いて私は通訳氏の反対側にいる狐系コボルト氏の方を向くと、彼は軽いため息と共に私にもわかるようにでしょうか、訛っているキャメロット語で『姫様、お戯れはおやめくださいませ。お客人が驚いていらっしゃいます』と言いました。
オニ族の女性は上品に笑った後『お姉様に教えて頂いた言葉、大変久しぶりに発することが出来ました。西の大国の人を驚かすことが出来て嬉しいです』とこれまた美しい以外表現が出来ない笑顔で、やはり間違いようのない、大変美しい発音のキャメロット語で仰いました。
私は正直、何が起きているのか理解できませんでした。
その喋り方は一夕一朝で身につくようなものではなかったからです!
発音が美しいだけでなく、その文法や語句の選択が、かなり古風ではありますが我が国の王族の方々や上級貴族の方々のような喋り方なのです!
私は驚いたまま、それでもキャメロット貴族の末席にいる者として、キャメロット国の外交官の意地として、せめて姿勢だけはと直立不動のままでいると、再度女性より『どうぞお座りください』と先ほど同様、美しいキャメロット語で語りかけられ、続いて狐系コボルト氏より訛のあるキャメロット語・・・今の私には心の清涼剤であるとすら感じるキャメロット語で『お客人、ご遠慮なくお座りください』と促されたので、私は助けを求めるが如く通訳氏の方を向くと彼が頷いたので、それに勇気づけられ『ありがとうございます』と述べつつ、彼女の対面の席に着きました。
それに続く形で通訳氏は私から見てテーブル右側の椅子に座り、狐系コボルト氏は左側に用意されていた別の小さいテーブルに着き、ノートを広げました。
どうやら狐系コボルト氏は速記官も兼ねているようでした。
私は席に着くと改めて挨拶と自己紹介、そしてお礼を述べると、やはり彼女は美しいキャメロット語で話しかけてきたのです!
『ご挨拶が逆になりまして申し訳ございません。初めまして。皇帝陛下のお御心により、このジンギカンの長を勤めていますリョウコ・ツノダと申します。本日は西の大国であるキャメロットの御仁が、この秋津洲に住まう私達魔種族、そして巣くう魔獣についてお尋ねしたいことがあるとのことで御一席設けさせて頂きました』。
私は再び救いを求めて通訳氏の方をみると、彼は私と違い既に落ち着いたらしく、まるでキャメロット人のように肩をすくめました。
私はそれに勇気づけられ、三度目のお礼と、彼女のキャメロット語が大変美しいことを褒めました。
そして冗談交じりに『これだけキャメロット語にご堪能であるのならば、本日に限れば、私の心強い守護天使である通訳氏は必要ないですね』と言いますと、彼女は『私のキャメロット語は、私が幼子だったときにお姉様から、タマモノマエお姉様から習ったもの。この国が異国に開いてから賄いましたキャメロット国の書物にて改めて習いなおしましたが、私の言葉は古いかと思われます。なので今のキャメロット語と秋津洲語両方に通じている彼がいなければ、お互いの会話に齟齬が生じる恐れがあります。よって彼は私にとっても守護天使であるといえます』と冗談交じりに返してきました。
わたしはそれに対して確かにそうですねと返した後、急に彼女が『タマモノマエにキャメロット語を習ったと口にしたこと』にようやく気がつきました。
タマモノマエ。
その名は確かハナブサ氏が教えてくれた7~800年ほど前に失脚し、討たれたという白エルフである可能性がかなり高い女性の名前と同じということにです!!
そして同時に、もしそのタマモノマエと同一人物にキャメロット語を習ったのだとしたら、目の前にいるオニ族の女性は一体何歳なんだ?
とも思ってしまいました。
そして私はこの時に大きな失敗してしまったのです、先生。
女性が、この星に住まう人間族、魔種族全ての女性が私達男より遙かに勘が良いこと完全に失念していたのです。
彼女は、どこからとなく・・・後ほど通訳氏に確認をとると椅子の後ろから取り出したとのことですが、少しばかり小ぶりなカナボウを取り出してその先端を床に叩きつけ、美しい微笑みのまま『女性に年齢を聞くのはいけません。私はまだ未婚です』といいました。
私はその言葉を聞きながら『秋津洲の建築物は丈夫なんだな・・・』と、護衛の警官3人が私を庇う位置にいつの間にか移動しているのをみつつ、現実逃避から見当違いなことを考えていましたが、通訳氏と狐系コボルト氏の両人が咳払いをすると我に返りました。
わたしは慌てて謝罪をすると同時に、それでも魔種族魔獣研究家の雛としての意地で、ただ意地だけで恐怖を我慢して改めて『大変失礼ではありますが、そのタマモノマエという方は7~800年ほど前に亡くなられた方でしょうか?』と尋ね返すと、彼女はいつの間にか出されていたお茶のを口にしてからこう言いました。
『はい、その通りです。長い時をかけて西の果ての半島より、今私が口にしている言葉を使う西の果ての島や他の沢山の場所を通り、この秋津洲にたった1人でいらっしゃった突耳と真珠の如く白い肌、そして知性と勇気と美しさと好奇心、さらに強い魔術力をもったタマモノマエお姉様です』と回答してくれました。
この回答内容が正しければという前提ですが、やはりタマモノマエなる魔種族は白エルフ族で間違いなさそうです。
これも先生もご存じの通り、遙か昔、現在のエルフィンドのあるべレリアント半島に住まう白エルフ達は艱難辛苦の上で我が国のある島に移住しました。
そのような苦労をしてやってきたにも関わらず、比較的短期間でなぜかまたあの半島に戻っていってしまいました。
これはエルフィンドに伝わる伝承並びに我が国の伝承、そして考古学上の発掘結果からほぼ間違いのない事実であることです。
それを考えますと私は最初、その時キャメロットに渡ってきた白エルフより分派し、各地を放浪しながら秋津洲ににやってきたかと思いましたが、そうなると明らかに今彼女が口にしている少々古風な、ここ10年前後である程度は矯正したと推測できるキャメロット語が異常となるわけです。
先生ならご存じの通り、最低でも3000年以上前と推測されている白エルフ達がキャメロットに渡ってきたとき、現在のキャメロットに当たる地域の言葉は現在のキャメロット語と全く違う語系と推測されているからです。
となると、タマモノマエなる白エルフはその時に分派したのではなく、それより遙か後にべレリアント半島を旅立ち、現在の語系に近い時期のキャメロットに立ち寄り、さらに他所に立ち寄りつつ、今から最低でも1200年ほど前の秋津洲にたどり着いたことになるのではないかと考えます。
ただこの件について、彼女が話すキャメロット語の研究も含め、更なる研究を要する事案であるかと思われます。
話を戻しますが、その後も私と彼女の会話は時折、通訳氏が適切なキャメロット語や秋津洲語に訂正してくれつつ、大変有意義な時間を過ごすことが出来ました。
その時教えて頂いたことを以下に記します。
・翼竜は魔獣。現在も2種ほど秋津洲には生息しているが、内1種は凶暴。オニ族の一部ではその凶暴の方を『話の通じない奴』と呼んでいる。喋れないだけといっていいぐらい頭は良い。
・水龍も魔獣。複数種類がおり、大人しいのもいれば凶暴なのもいる。喋れないだけといっていいぐらい頭が良い。シーマズ公は代々何頭か飼い慣らしていたはず。
・おとぎ話で翼竜や水龍が人間族と会話しているというのは、翼竜や水龍に似た絶滅した魔種族がいたというわけではなく、大人しい種が何かの拍子に人間になついた個体の話を元にしているのではないか。
・コボルト族は犬系、狐系、タヌキ系の他にも猫系の者がいる。
・秋津洲の地には遙か過去には沢山の魔種族がいたが、魔種族同士の抗争でその種類と数はだいぶ減った。
・現在生き延びている魔種族は、魔力等をもって人間族に、皇帝に庇護を求めたので生き延びれたといっても過言ではない。
・魔獣共はこの前の内乱のせいで討伐が止まってしまったために最近は数を増やしてしまった。
・600年程前の華国による侵攻の際、魔力に大変優れていた魔種族が沢山亡くなってしまった。
・現在いる魔種族の中でも最強といえる私達オニ族だか、伝承によれば、他の滅んだ魔種族に比べるのならば、強い種族ではなかったとのこと。
・現在の魔術力は伝承に比べるとかなり弱まっている。実際、コボルト族の中には感じ取ることはできても、魔術力を使うことが出来ない者がそれなりにいる。
・秋津洲の魔種族が全て皇帝に仕えているというのは事実。ただし皇帝に対する反乱や異国からの攻撃、魔獣からの防衛以外、つまり国内での人間族同士の戦闘には魔種族全体や各種族毎には絶対に荷担しない。ただし個人としては別である。
・人間族同士の戦闘、内乱には魔種族全体や各種族毎には荷担しないが、警察活動は別である。依頼があり、皇帝の許可があれが警察活動には協力する。
・最近の内乱では我々はどちらにも荷担しなかったが、前政権に依頼された警察活動の件もあり、それを根に持っている現在の政権の者が少なからずいる。
・私で記録がある限り14代目の魔種族の代表。
・現時点で220年ほど勤めている。かなり永い方である。
・代表の交代は、基本的には死去か辞任のどちらか。
・辞任した後に、数代後に再度就任した場合もあった。
・どの種族の誰が代表になるかを明瞭に定めた法はない。
・代表は何となく、その時勢いがあるというか目立っていて、更に運のない者が押しつけられる。私と先代、そしてお姉様がそうだった。
・後任になるはずだったキラの爺が暗殺されてしまったので、適任者が200年たっても見当たらない。
・アコウの莫迦共許すまじ!寄親も容赦なく滅ぼすべきだった!
・給金は確かに良いが、気が休まらない。
・早く辞めたい。政権の人間族に嫌われているのに辞めさせてもらえない。いいかげんにしてほしい。嫌っているのなら人間族で後継を選んで欲しい。結婚したい。辞めたい。お願い辞めさせて。結婚したい。
正直、最後の方は単なる愚痴を延々と聞かされ続けましたが、色々と貴重な話を沢山聞かせて頂けました。
中には秋津洲の歴史家からすると垂涎ものではないかという話もあったのではと考えています。
この今日聞いたことはしっかりと纏め、ハナブサ氏やタシロ氏と情報交換をおこない帰任後には秋津洲の魔種族魔術について纏めた1冊の本にしたいと思っています。
もちろん真っ先に先生へ寄贈させて頂きます。
それでは先生、失礼いたします。