なおファーストコンタクトがワーストコンタクトでした。
尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。
先生、私は未だに手が震えています。
恐怖でただ震えています。
もう日が暮れ、ランプを友としないと手紙が書けない時間だというのに未だに手が、いや身体全体が恐怖で震えております。
今まで無邪気に、子供のように、沸き上がる好奇心の命ずるままに魔種族と語り合い、魔獣の死体と触れ、魔種族や魔獣の調査してきましたが、魔獣とは恐ろしい存在であることを思い知らされました。
何故この様に私が恐怖で震えているかといいますと、
この秋津洲の首都に魔獣が出現し、あろう事か首都で、その南端とはいえ首都で暴れ回まったのです!
その時の私が知る限りの様子を下記に記します。
朝、私が宿舎で遅めに目を覚まし、食堂で食事をとっていると遠くから鐘の音が聞こえました。
鐘といっても、星教の教会にあるような荘厳な鐘の音ではなく、金属をただ叩いているような貧相といえる鐘の音です。
この秋津洲ではこのような鐘の音で火災等の緊急事態が発生した際、周辺へ伝達します。
私は最初はまた木で紙で作られている秋津洲の建築物がどこで燃えているのかと思いました。
音がかなり遠くだったこともあり、私が気にせず食事をとり続けていると、私の前に先任書記官が座り『南東の方から鐘が聞こえるが、こんんな鳴らし方は聞いたことがないな』と言いながら食事を取り始めました。
私は先任書記官の言葉で初めて、確かに火災の時のような規則正しい一定の法則がある叩き方ではないなと気がつきました。
今まで数度聞いたときの鐘の音は、鳴らし方は全て違いましたが、一定の法則に基づき叩いているのは確かでした。
しばらくすると、私達公使館の近くの複数箇所でも激しく鐘が叩かれ始まりました。
流石に私は火災にしては様子がおかしいと気がつきました。
正面で食事をとっている先任書記官も異常と感じたらしく、手早く食事を済ませようとしていました。
私は食事どころではなくなりました。
私は不安げに窓の外を眺めている、公使館の警備に当たっている海兵隊員が『非常呼集!!非常呼集!』と叫びながら廊下を走っていきました。
私と先任書記官以外の食事をとっていた者達も、何事かと騒ぎ始めました。
すぐに何人かの、完全武装をした海兵隊員達が公使館の外に向かっていくのがみえました。
『反乱かな?』最後のパンを口に押し込んだ後、立ちあがりながら先任書記官が言いました。
私も、この秋津洲は未だに政情が不安定であるといえると判断しているのでその可能性を、この秋津洲の首都においてクーデターが発生した可能性を考えました。
『官僚集合!官僚集合!全官僚は公使室に集合!』
そんな考えを邪魔するかのように、駐在武官のヴァイス少佐が食堂前の廊下を走りながら叫んでいました。
食堂にいた私と先任書記官は公使室へ急ぎ向かいました。
公使室に到着すると、既に公使閣下はそこにいて、私達に背を向けて窓より外を眺めていました。
ただその姿は外交官であるというより軍人のような姿であると感じました。
私達の後にもあと数人ほどやってきて、副公使格である参事官殿が『公使閣下、官僚全て揃いました』と言いました。
全官僚といっても、この秋津洲駐箚キャメロット公使館にいるのは公使閣下、参事官殿、参事官補殿、駐在武官殿。
そして一等書記官が1名に二等書記官が私と先任書記官の2名、そして三等書記官が4名、駐在武官副官殿が1名のわずか12名です。
なお部屋のソファーには公使閣下夫人も不安げに座っておられました。
公使閣下夫人も当公使館の官僚といえます。
もちろん公使館の維持運営をおこなう友人の若手コック氏のよう調理関係者や警備を担っている勇気ある海兵隊員諸君や下働きの下僕、さらには秋津洲人も雇っており、実人数は当然更に多くなりますが、外交任務に携わる官僚としては公使閣下夫人を含めても13名しかないわけです。
その13人がさして広くない公使閣下の執務室に集まりました。
先ほどの参事官殿の声がけ共に公使閣下は私達の方を振り返りました。
その姿はやはり軍人のように感じました。
そして公使閣下は口を開きました。
『先ほどオルクセン大使館から緊急の伝令が来た。詳細は不明だがオルクセン公使館近辺にて何らかの緊急事態が発生したため、オルクセン公使夫人を一時、当公使館にて保護して頂きたいとのことだ』
そこにいた私たちは隣にいた人達の顔を見つつ『何が起きている?』と口には出さずに目で話し掛け合いました。
更に公使閣下は続けて『正直なところ、緊急事態、それも公使夫人の避難を即断するほどの緊急事態であること以外詳細は不明だ。ただ周辺での秋津洲側の緊急用の鐘が鳴り響いていることからも、重大な事態が発生していることは間違いないと判断している。既に警備の海兵隊員は非常呼集の上で、弾薬も定数支給し完全装備での警備体制に入っている。この首都に居留しているキャメロット人も保護を求めて公使館に来訪する可能性も高い。各員は緊急時教本に従い行動するように』といいました。
何が起きているのか全くわかりませんが、何をすべきかをしっかりと公使閣下が指示したので私達はすぐに行動に移りました。
まず全員で武器庫に行き、普段から拳銃を持っている駐在武官の2人を除いた全員にも拳銃と弾薬が支給されました。
駐在武官の2人には私達以上の弾薬が支給されました。
続いて私は緊急時教本に従い、2人の三等書記官を部下にし、キャメロット公使館が確認しているこの秋津洲首都とその近辺に在留しているキャメロット人名簿の正副2冊を書庫から取り出し、正書の方を他の重要種類と共に防水紙で包み、防水加工が施されているバックに詰め込み、更にゴム引きが施されている牛皮ですっぽりと包み、それを指定されている公使館の庭の位置に埋め、その傍らで居留者名簿の副本と避難者名簿用のノートとインクを準備し、公使館内から適当に持ってきた机と椅子を、公使館正門内側の邪魔にならない位置に設置し、キャメロット人避難者受け入れの準備をおこないました。
その間、先任書記殿は三等書記官1名を部下とし、公使館職員に公使館内に保管している物資量の確認と保存食製造を指揮していました。
そうしている内に、オルクセンのオーク兵6名に護衛されたオルクセン公使閣下夫人とその侍女が馬車にて到着しました。
警備に当たっている海兵隊員がすぐに門を開け、オルクセンの馬車と駆け足でついてきたオルクセン兵達を公使館に招き入れました。
オルクセン公使館側は公使夫人とその侍女、そして彼女たちが乗ってきた馬車とそれを操っていたコボルト族の御者、護衛のオーク兵2人を残し、御者台に同乗していたコボルト族の一等書記官殿とオーク兵の4人は我々が差し出した水とパンを凄い勢いで食べ尽くすと、礼のオルクセン語を口にするとオルクセン公使館へと戻っていきました。
公使夫人とその侍女、護衛のオルクセン兵2人はすぐに公使閣下の元へと案内されていきました。
私をはじめとする門の周辺にいた、警戒に当たっている海兵隊を除いた手空きの者はコボルト御者を囲み、オルクセン語を喋ることが出来る私が代表して御者に話しかけ、何が起きているのかを聞きました。
すると以下のようなことがわかりました。
・夜明け前に警備に当たっていた兵の1人のコボルト族が海の中からゆっくりと何かが、感じたことがない気持ち悪い気配がするものが近づいてきているのを魔術力による探知で察知したと言った。
・当初は『海の中』という言葉から、相手を真剣にしていなヵった。
・理由は、水中の探知は魔術力をもってしても困難だから。
・しかしその内、公使館内にある他のコボルト族で魔術の探知が出来るものも感じ始めた。
・公使閣下が念のために警備兵に非常呼集をかけて警備体制を強化した。
・夜が完全に明けてから少しすると、首都のアラハシ~タテハマを結んでいる線路の海上築堤部分に何かが上陸したのを察知した。
・それとほぼ同時に秋津洲側の警報である鐘が乱打された。
・それを聞いた秋津洲人達が、海の上にいた船も含めて逃げ惑い始めた。
・公使館内より線路上にいるそいつを観察していると、線路上にいたそいつにアラハシ方面からやってきたおもちゃのような機関車に牽引された列車が衝突した。
・そいつはおもちゃのような機関車のような大きさだった。
・衝突した列車は脱線転覆し、機関車と客車、貨車数両が海に落ちた。
・線路の上に残っていた客車から人間達が逃げ出したが、逃げる場所はなくどんどん海に落ちていった。
・線路の上にいたそいつは再び海の中に入り、海に落ちた人間達を食べ始めた。
・それを確認した公使閣下がすぐにこちらに先触れを出し、夫人をこちらに避難させた。
私はそれを聞き、ついに魔獣が現れたと察知しました。
私は周りにいたキャメロット公使館員達に恐ろしい人を食べる魔獣が海の中からオルクセン公使館近くに現れたと伝えました。
それを聞いた他の公使館員達は、理解できないという感じでした。
私は半ば同僚達の反応に呆れつつも、普通の思考では理解できるはずもないとも考えました。
なにせ既に星欧では魔獣なんか存在しないのですから。
おそらくこの公使館で魔獣を生死問わずに見たことがあるのは、公使閣下と公使夫人、私、先任書記官、そして駐在武官のヴァイス少佐殿、そして共であるコック氏の6人だけかと思われます。
まだオルクセン公使館のオーク警備兵同士が酔っ払って大喧嘩を始め、周りに大きな被害が出ているといった方が信じてもらえると感じました。
そうしている内に通訳氏がいつもの警官3人と学生2人を引き連れやってきました。
私の指示で門を開けて彼らを公使館内に入れました。
通訳氏と警官3人は騎乗で4人ともオルクセン製のライフル銃を持っていました。
学生2人は徒歩でしたが秋津洲のサーベルを持っていました。
馬を馬丁に預けるとすぐに私の元にやってきて、オルクセン公使館近くに魔獣が現れたこと、既に軍が出動準備をしていること、現在は警官隊が上陸地点付近で避難誘導と遅滞戦闘をおこなっていることを伝えました。
そして続いて彼が率いてやってきた、通訳氏自身を含む6人がキャメロット公使館の指揮下に入ると宣言しました。
私は直ちに6人を公使閣下の元に案内しました。
海兵が1人立哨している公使執務室に入ると駐在武官のヴァイス少佐と地図を広げて何かを相談していた公使閣下は、私が彼らがキャメロット公使館の指揮下に入ることを宣言していると報告すると、彼らがキャメロット公使館、つまり公使閣下の指揮下に入ることを直ちに了承した上で、私を居留民保護任務から一時的に外し、彼らを私の指揮下に入れてオルクセン公使館への連絡を取るように指示しました。
私はそれを了承しました。
公使閣下の部屋から出た私ですが、恥ずかしい話しですが、最初は『連絡』とは何かと理解できていませんでした。
しかしすぐにヴァイス少佐殿も続けて公使閣下執務室より出てきて、私に対して『連絡とは、伝令としてオルクセン公使館へ赴き、情報の交換ならびに情勢確認をし、再度この公使館へ戻ってそれを公使閣下、もしくはその代行者へ報告することだ』と説明してくれました。
私はそれを理解したことを伝え、キャメロット語をある程度以上話し、記すことが出来るようになった学生2人はこの公使館に通訳として残す事を伝え、公使閣下より居留民保護任務を引き継ぐようにと指示された先任書記官を探し出し、彼に引き継ぎと貴重この上ない通訳としてサーベルで武装した学生2人を引き渡しました。
そして彼に私がこれからオルクセン公使館に向かうことを伝えると『危険を感じたらすぐに戻れ。無理だけはするな』と言ってくれました。
私は騎乗で通訳氏、護衛の警官3人と外に出ました。
私達は皇帝の居城の西側にある公邸を出てから居城沿いを南に進んでいきました。
避難民は既にいましたが、まだ数は少なく落ち着いている感じでした。
騎乗で彼らに逆らって進んでいた私達でしたが、避難民の彼らは私達に道を空けてくれ、そのおかげで徒歩より少し早い程度のスピードですが、問題なく進むことが出来ました。
1時間ほど進むと、人は殆どいなくなり、変わりに銃声がはっきりと聞こえるようになりました。
馬の速度もさらに速めることが出来ました。
途中で私達一行を秋津洲軍の騎兵部隊が抜かしていきました。
あとオルクセン公使館まで1マイルほどのところで警官隊による関門があり、それ以上は危険なので進んではならないと言われました。
通訳氏が交渉しましたが、ダメでした。
致し方なく私達は道を引き返しましたが、護衛の警官の1人が別の道を通ることを通訳氏を介して提案し、狭い道路を通って関門を迂回し、なんとかオルクセン公使館へ到着することが出来ましたが、オルクセン公使館府の東側付近は既に戦場でした。
馬車よりも大きい、6本脚の蜘蛛のような魔獣が暴れていました。
私達は警官隊や騎兵の銃撃をものともせずに暴れ回れる魔獣の恐ろしさに怖じけつき、一旦戻り、また少しだけ迂回して裏門からオルクセン公使館へ入りました。
オルクセン公使館へ入ると、オルクセン公使館は私達を歓迎してくれました。
なんとオルクセン公使閣下自ら出迎えてくださいました。
ここで私達は公使閣下自らオルクセン公使館の置かれている状況を説明して頂き、確認することが出来ました。
・海から現れた魔獣は海に落ちた列車の乗客を数人食べると、いよいよ上陸した。
・周りの建物を破壊しつつ、時折逃げ遅れた人間を襲っていた。
・すぐに警官隊が駆けつけ、私達からすると旧式な銃で猛烈な射撃を浴びせているが効果はないように感じる。
・君たちが到着する前に騎兵隊も到着し、射撃戦に加わっているが、やはり効果はないように感じる。
・時折公使館に近寄ろうとするので、公使館警備に駆けつけた警官隊共々、警備兵も射撃を加えているがやはり効果はないように感じる。
・ただ命中すること自体は嫌がってはいるようで、ある程度命中弾が出ると下がったりはする。
・秋津洲側からは避難を繰り返し勧められている。
・警備兵もさほど多くなく、弾薬も豊富というわけでないので、秋津洲側の勧めに従い、ここを一時的に放棄し、避難するかどうかの検討をおこなっていたところだった。
公使閣下は自ら私に対し、そう説明してくれました。
私は公使閣下に避難する場合、正門からは見ての通り流れ弾の危険性があり、裏門から避難する場合、道路が狭い箇所があり、馬車の使用は難しい事を伝えました。
公使閣下は悩んでいる様子でした。
もし馬車を使用しないとなると、オーク族の公使閣下が騎乗できるような馬はおそらくなく、馬車に使っている比較的大型の輓馬に鞍をつけて乗ることになるのでしょうが、果たして鞍が都合良くあるか、それ以前に輓馬でも公使閣下が乗れるかどうかわかりませんでした。
コボルト族なら馬体の小さい秋津洲の馬でも乗れるのでしょうが、オークの公使閣下では不可能でしょう。
しかし閣下は『徒歩で避難する』と決断しました。
まずは北上し、秋津洲政府に保護を要請するとしましたが、私はそれに対し僭越ながら『既に公使夫人が避難しているキャメロット公使館へ一時的に公使館機能を移転するのはいかがでしょうか?』と提案しました。
『避難』ではなく『移転』と言って提案しました。
『避難』であると、後ほど秋津洲オルクセン両国間での公使館警備に関しての外交問題が発生する可能性がありますが、『一時移転』ならば、その問題は軽減できる可能性が高いと判断しました。
さらに『一時移転』ならば、名目上はオルクセン公使館公使館機能は維持され続けているからです。
もちろんキャメロット公使館到着後には、警護兵の指揮権の問題が発生するでしょうが、両国の兵力によってキャメロット公使館の警備体制も万全になるというキャメロット側のメリットもあると考えました。
その私の提案を公使閣下は一瞬考えた後、了承しました。
私は護衛の警官2人に先触れとしてキャメロット公使館へ伝えて欲しいと通訳氏を介してお願いし、2人に私が書いた手紙とオルクセン公使閣下の書いたキャメロット公使閣下宛の手紙を託しました。
彼らは直ちに出発してくれました。
その間にもオルクセン公使閣下は、警備兵の中から秋津洲の馬でも騎乗できる上に乗馬技術を持つコボルト兵を2頭ほど選抜すると、彼らに対しタテハマにあるファーレンス商会のタテハマ支店に対して口頭で、同時に隣にいる書記がそれを口述筆記し、伝令をするように伝えていました。
私は近くでそれを聞いていましたが、内容はだいたい以下の通りでした。
・現在オルクセン公使館付近一帯、場合によっては首都付近が全て魔獣によって危険地
帯になる可能性が高い事。
・オルクセン国民並びに友好国であるキャメロット国民に対し、可能な限りで良いので
首都には近寄らないように警告するよう努力して欲しい。
・オルクセン公使館は一時的にその機能をキャメロット公使館内に移転する。
・可能ならば本国外務省に状況を報告して欲しい。
・今回の一件がすむまで派遣した2頭はオルクセン公使館に帰任する必要はなし。そのままタテハマのファーレンス商会支店長の監督の下で、同商会支店の警備につけ。その際かかった費用は後ほど秋津洲駐箚オルクセン王国公使館が精算する。もし秋津洲駐箚公使館での支払いが諸般の事情で不可能な場合は、華国駐箚公使館もしくは本国外務省に請求すること。
2頭のコボルト兵はそれを復唱し、書記が手渡した口述筆記した命令書を受け取ると、我が国の馬に比べるとポニーといっていいサイズの秋津洲の馬に乗り、勇敢なことに表門より飛び出していきました。
その後私達オルクセン公使館一行も、機密品を隠してから誰も欠けることなく、総員が警備兵と秋津洲警察の護衛の元でオルクセン公使館を後にしました。
私は騎乗していたこともあり、通訳氏と護衛の警官1人と共に最後尾についていました。
公使館の裏門から出て少し行くと、魔獣の姿がよく見えました。
私は興味からつい立ち止まってそれを見てしまいました。
私は初めてどのような魔獣かを、その全身をはっきりとみることが出来ました。
長さは馬車より二回りほど長く、高さは馬車と大して変わらないようにみえました。
蜘蛛のような脚が胴体より6本生えていました。
そしてその身体についている頭はまるで牛のような顔でした。
しかし牛の顔がそのままついているのではなく、牛と似ている凶暴な動物の顔がついていたとすべきかもしれません。
その魔獣は包囲している警官隊や軍の銃撃をものともせず、周りの建物を破壊しながら暴れ続けていました。
やはり銃撃はその身体を貫いているようにはみえませんでしたが、銃弾が当たるのは嫌なようで、ある程度銃撃が集中すると下がっていきました。
その暴れている範囲は、100ヤードほどの範囲だと思われます。
その内、私達が暴れている場所の近くにあったオルクセン公使館から避難したためか、銃撃だけではなく、砲撃も始まりました。
この首都を守る要塞からの砲撃でした。
砲撃が始まると警官隊や軍隊は一旦後退しました。
私は後悔しました。
私はのんびりと魔獣が攻撃されているのをみていたことを後悔しました。
砲撃も魔獣に対してはさほど打撃を与えられていなかったようでした。
しかし2発、3発と至近距離に砲弾が魔獣の近くに落ち始めると、魔獣は私の人生において聞いたことがない、例えようなのないおぞましい大きな鳴き声で、あれは悪魔の声であると信じてしまうような声で鳴くと、一番近くの目算で300ヤードほど距離をとって、道路上で周りから集めた家具等で簡易な防壁を作っていた警官と兵士達の部隊へ凄い速さで近づいていきました。
そして私は後悔したのです!
その魔獣は防壁へとりつくと、それでも逃げずに踏みとどまり、射撃を繰り返していた勇敢な警官や兵士達に向かって、その口から青白い何かを吐いたのです!
私がいた位置からもそれははっきりとみえました。
その青白い何かは最低でも30ヤードは飛んだかと思います。
そしてその青白い何かを浴びた警官や兵士達はその場で凄まじい絶叫をあげながら苦しみ始めたのです!!
私はあの様な叫び声を、救いを求める声を聞いたことはありませんでした!
ただ、ただ馬の上すら呆然と眺めていました。
それをきっかけにその防壁は崩壊しました。
生き残った警官や兵士達は、先ほどまでと打って変わり、武器を棄て、逃げ惑いました。
その彼らの背中へ向けて魔獣はまた青白い何かを吐き、そのたびに新しい絶叫が増えていきました。
ただその絶叫の数は増えませんでした。
なぜならば最初に浴びた警官や兵士達は既に無言となり、動かなくなっていたからです。
『早く!早く!』
私は通訳氏から声をかけられて、ようやく我に返りました。
元々最後尾だったこともあり、私と通訳氏の他には、騎乗のままで魔獣がいる方へ銃を構えている護衛の警官が1人いるのみでした。
オルクセン公使館の一行は既にかなり先にいました。
私は慌てて馬を走らせました。
通訳氏と警官もついてきました。
私はある程度距離をとってからまた魔獣の方を振り返ると、既に魔獣の姿は視認できなくなっていましたが、魔獣がいた付近に砲弾が落ち始めていました。
しかしその砲煙の中から、あの悪魔としか例えようがない鳴き声がまだ聞こえていたのです。
その後、私達は2時間ほどかけて無事にキャメロット公使館にたどり着きました。
そして私は公使閣下への報告や先触れとして向かってくれた警官2名への感謝の言葉を伝えたり、通訳氏と護衛として最後まで一緒にいてくれた警官に謝罪したり、オルクセン公使館一行の受け入れや、数は少ないながらも避難してきたキャメロット国民の受け入れ等の作業を手伝ったりしている内に日も暮れ、今ランプを友にし、この手紙を書いています。
この手紙を書いても先生へすぐに出せるような状況ではないというのは理解しているのですが、書かずにいられません。
書くことによって少しでも恐怖を紛らわそうとしているのです。
そしてもしかすると、もしかするとですが、これが私がだす最後の手紙になるかもしれないからです。
公使閣下は明日にでも秋津洲側の道案内で、魔獣との戦闘がおこなわれていたオルクセン公使館付近を大きく迂回し、タテハマへの伝令を出す予定だと述べていました。
既にこの首都の電信が不通になっているため、キャメロット本国へ報告が出来ないためだそうです。
私の報告から、魔獣もしくは砲撃でタテハマと首都を結んでいる電信が切断されたと判断したそうです。
タテハマまで行けば電信が生きている可能性があり、そこから本国へ報告する予定だそうです。
伝令として駐在武官副官殿が、コボルト族のオルクセン公使館参事官殿や我が国の海兵隊員を2名、さらに通訳として私が雇っている学生を1名連れて行くそうです。
この手紙はその彼らに可能ならば預けたいと思います。
もし託すことが出来なければ、公使館の庭の指定位置に他の物と共に埋めておき、もし私の身に何かあれば先生へいつの日か届くことを祈ります。
最後に、魔獣を目の前にして最後まで勇敢に戦って散っていった秋津洲の警官や兵士達がせめて神の御許に安らかにたどり着いていることを祈りつつ、失礼いたします。
追伸
家族への手紙はこれから別に書きたいと思います。
魔 獣 襲 来 。