なお未だ秋津洲在住の魔種族とは出会えていません。
尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。
まずは前回の報告から3か月もの期間があいてしまったことを、この不肖の弟子は深くお詫び申し上げます。
ただ言い訳が許されるのならば、前回の報告直後にこの国は雨期に入り、いまだ道路や鉄道が未整備といえるこの新興国において、公使館の書記官という公務をこなしつつ、私的な遠出をするるは困難と言える状況でした。
さらにようやく雨期が終わったと思ったところに、今度は言葉では説明しきれない、暑さと湿気が同居する不快極まる季節がやってきました!!
この国の公使館に派遣される者が、公使閣下からコックまですべからず比較的若い者ばかりの理由がわかりました。
失礼ながら、もし先生がこの国の夏季に訪れたのならば、その健康を害してしまう可能性が非常に高いと言わざるを得ません。
それほどの不快さです!!
特に今年は、暑さと湿気が同居する不快極まる季節に慣れているはずの秋津洲人ですら、きついとこぼすほどです。
そのような中、公使館各員が交代でとっている秋津洲国でもかなり清涼な気候の地方にある湖畔にある公使館別荘での休暇を、まったくこの暑さに慣れていない私は、公使閣下のご配慮により早めにとることになりましたが、その休暇に入る前に、私と同時にこの国に派遣された若手コック氏と共に倒れました。
倒れた私達2人ともに緊急の本国送還が真剣に公使館内にて検討されていたそうです。
しかしこの我が国の危機を感じ取った…文字通り『感じ取った』オルクセン公使館より人道的配慮に基づいた、私とコック氏2人の同公使館内にある病棟での治療と静養が我が公使館に対して提案され、それを公使閣下が受諾したことにより私とコックの2人は命を救われました。
大げさではなく救われました。
馬車によってオルクセン公使館に運び込まれた私達2人が公使館内に入ると、暑さと湿気が同居する不快極まる環境は『魔法のように』消え去り、清涼以外言葉が浮かばない快適な屋内で、これだけで体調が回復しそうなほどでした。
さらに私とコック氏の2人が案内された病棟は、病人である私達にはこれ以上のものを望むと天罰が下ると思うほど静謐かつ快適としか言いようがない空間でした。
オルクセンへの亡命すら本気で検討するほどでした。
なおオルクセン側から出された治療と静養の条件は私とコック氏とが同室になることのみでした。
私とコック氏は若さと静謐かつ快適な空間があいまって、僅か数日にて復調し、私は彼ら魔種族…オークやコボルトたちで構成されているオルクセン公使館員達を魔種族研究家の目で観察する機会を得、コック氏は調理場にて、火を使う調理場は灼熱地獄であってもおかしくないのに、こちらも清涼な空間であったとコック氏は申しておりましたが、軽い調理補助をしつつ、オルクセン料理やグロワール料理をオルクセン大使館のオークばかりのコックたちに学んでいました。
そして約2週間ほど静養させて頂いたのち、コック氏共々、公使閣下も含めたオルクセン公使館の皆様に見送られて、相変わらずの暑さと湿気が同居する不快極まる気候の中をキャメロット公使館に戻ることとなりましたが、その際に公使閣下直々に縦横高さ1フィートほどの木箱に詰まった『冷えたもの』の提供を受け、以後は私とコック氏だけでなく全キャメロット公使館員がその『冷えたもの』の恩恵を受け、以後は以前よりはるかに快適にこの秋津洲国の夏を過ごすことが可能となりました。
なお木箱内に『冷えたもの』と共に同封されていたオルクセン公使閣下からの、私も拝読させていただいた『私的な手紙』には、私達秋津洲国駐箚キャメロット公使館員一同の健康を、オルクセン国王グスタフ・ファルケンハイン陛下が心配していると記されており、『冷えたもの』の提供もオルクセン公使閣下の報告により、キャメロット公使館の危機的状況を知った、我が王、グスタフ・ファルケンハイン国王陛下の思し召しであると記されておりました。
同盟国でもない我が国の、道洋の果て、ロードエンドにある秋津洲国駐箚キャメロット公使館員に対するオルクセン国王グスタフ・ファルケンハイン陛下のご温情には100の言葉、1000の言葉をもってしても感謝をささげつくすことができません。
失礼ながら先生は、私たちの命の恩人ともいえるグスタフ・ファルケンハイン陛下の友人と称しても問題がない間柄と、過去に先生自身より聞き及んでおります。
もし先生がグスタフ・ファルケンハイン陛下と私信をやり取りする、もしくは拝謁する機会がありましたら、ロードエンドにいる魔種族研究家の雛が陛下に感謝を捧げているとお伝えくださいますよう、この不祥の弟子はお願いいたします。
なお明日より、公使閣下の指示による『秋津洲国における魔種族、魔獣調査』の一環として、1週間ほどかけて秋津洲国首都北西の山岳地帯にある40マイルほど離れた神殿と、北に20マイルほど離れた神殿の2箇所を秋津洲国の案内の元、視察をしてまいります。
まだこの秋津洲国の魔種族には出会えていませんが、今回の視察で出会えるのではないかと期待しております。
以上にて、不肖の弟子により秋津洲国からの報告を終わりとさせて頂きます。
次の第三報でこそ、秋津洲の魔種族について報告できるかと思われます。
※文字通り『感じ取った』オルクセン公使館
⇒ 魔術探知によるもの。師には伝わるように書いている。
※湿気が同居する不快極まる環境は『魔法のように』消え去り
⇒ 刻印式魔術による冷房。同じく師には伝わるように書いている。
※『冷えたもの』
⇒ 服につけられるサイズの冷却や送風の刻印式魔術が刻まれた金属板多数。
※『冷えたもの』については下手にはっきり書いて他国に知れた際には他国公使館や秋津洲国も必死に要求し、外交問題に発展する危険性があるほど秋津洲の夏が不快で暑いために、師には伝わるようにしつつ、誤魔化して書いている。