親愛にして尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。
先生、秋津洲の夏は今年も酷い暑さですが、昨年よりは過ごしやすい気温のままなのと、オルクセン公使館から頂いた『冷たい物』のおかげで、倒れることはなく過ごせています。
それと最近こちら秋津洲首都では『ハンサムキャブ』をベースとした人力の、人が馬の代わりに牽引している1人乗り馬車?が目立ち始めました。
公使閣下や夫人、参事官殿、ヴァイス少佐殿は格式の都合で利用は控えていますが、私達書記官以下は近隣への外出に時折利用しており、厩番の仕事が少し減ってしまいました。
それでは先生、本題に入りますが、秋津洲にもオーク族が住んでいました!ハナブサ氏、タシロ氏は伝えていなかったことを謝罪してくださいましたが、全ては私の観察眼と情報収集能力の低さが原因であり、情けないです。
そして当人にとって当たり前なことは他人にはわからないということをまたも身をもって経験することとなりました。
話を戻し、秋津洲のオーク族は星欧の…オルクセン在住のオーク族に比べると身長は低く、オルクセンのオーク族の身長が7フィート前後ぐらいに対し、私が今回会うことができた秋津洲のオーク族の身長は6フィート前後ばかりでした。
私が彼ら秋津洲のオーク族を最初に目撃したのは、今回ハナブサ氏とタシロ氏より彼らを紹介して頂けた、秋津洲で人気の『SUMO』という名のレスリングの会場でした。
ハナブサ氏とタシロ氏の説明では『SUMO』は今では興行になってしまったそうですが、本来は秋津洲における神に捧げる神事だそうで、まるで神に捧げていた古代におけるスポーツの祭典のようです。
そして神事であるからこそ、それを務めている彼らオーク族は秋津洲の神官の長でもある皇帝に仕えているという形になっているそうです。
秋津洲において彼らオーク族の主要生息域は、首都のある秋津洲最大の島の首都付近から中央付近の南岸域だそうです。
その数は、ハナブサ氏とタシロ氏によると推定で総数は10万頭前後ではないかとの事で、秋津洲在住魔種族の中では中規模派になるそうです。
なお秋津洲最大の島の首都付近から中央付近の南岸域が主要生息域なのは、オルクセンのオーク達同様に食料消費が激しいので、比較的食糧生産量が多い上に、物流が盛んだった地域だったので他地域のオーク達が食糧不足で滅びる中、運よく生き延びれただけらしいとのことです。
そんな彼らの一部が神事であり、興行となった『SUMO』の選手をしています。
なお『SUMO』とはレスリングに似ており、土で作られたリングで一対一で戦います。
だたリングから一歩でも出れば負け、リング内でも足の裏以外かリングに着けば負けというルールで、主たる戦い方は双方全力の体当たりから相手をリングから出す、組み合ったうえで投げ飛ばすものとなります。
その『SUMO』にオーク族は多数参加していますが、圧倒的多数は人間族が占め、オーク族は少ないものの数としては二番手にあたり、現時点では他にオニ族と犬系コボルトがそれぞれ2頭ずついるそうです。
『SUMO』におけるオーク族はオニ族と並び強者にあたるそうですが、絶対的強者とまではいかないそうです。
6フィートほどの身長の者が多数を占めるオーク族や8フィートほどのオニ族ですら、小柄な秋津洲人の中での比較的大柄なものが多数いるものの、それでもオーク族やオニ族に比べると小柄な人間族に負けることが多々あるそうです。
実際、6フィート8インチほどと思われるオークの選手が5フィート6インチほどと思われる人間族の選手に負けたのを目撃しました。
なお『SUMO』の人間族選手はほぼ全てがまるでオーク族のような体形…悪く言いますと肥満体のような体つきなのですが実際にはオーク族のような筋肉体で、その人間族の選手は突進してくるオーク族の選手を軽やかにかわし、勢いのついたオーク族の選手が体勢をたてなおす前にリングの外に押し出したのは素晴らしかったです。
そして最後におこなわれた前回のチャンピオンである8フィートもある筋骨隆々なオニ族と、彼といつもチャンピオンの座を争っているという7フィートはあるであろうオーク族の戦いはすさまじいものでした。
審判の合図とともに双方正面から激しく衝突しました。
人間族ならばどんなに大男でも吹き飛ばされることは間違いない、轟音がとどろく魔種族同士の本気の衝突でした。
しかし双方ともに微動だにせず、そのまま組み合いました。
通訳氏を介したタシロ氏の解説によりますと、オニ族の前回チャンピオンがそのままオーク族を力任せに持ち上げようとしていたそうですが、オーク族は微動だにせず、逆に少しづつですが、オニ族をリング際まで押していきました。
土でできたリングに鉄道の軌条がごとく二本のオニ族の押された脚で印されたまっすぐな轍が残りました。
あともう少しでリングの外に出されるというタイミングでオニ族は反撃に出ました。
オーク族の一瞬のスキを突き、横に投げ飛ばしたのですが、オーク族はオニ族を掴んでいた両手の内、片手を離さずに耐えきり、体勢を立て直し、無理な姿勢のままのオニ族を投げ返し、耐えきれなかったオニ族はリングの下に落ちました。
会場は拍手喝采に充ち溢れました。
この戦いで勝利したオーク族はこれによって、今回の大会のチャンピオンになったそうです。
戦いの後、私はハナブサ氏とタシロ氏の案内で選手控室に案内して頂くと、魔種族人間族の選手問わず、大変な敬意をもって出迎えてもらえました。
ハナブサ氏いわく、やはり先日のウシオニの一件のためだそうで、彼らに握手を求めようとした私が逆に選手たちから握手を求められました。
秋津洲民から握手を求められたのは珍しく、私は驚きましたが、通訳氏いわく、私との挨拶時のマナーだと魔種族の間に急速に広まったらしく、人間族の選手達も魔種族の選手たちから教えてもらっていたそうです。
続いて通訳氏を介し、彼ら『SUMO』の選手から話を聞くと、魔種族と人間族が共にプレイしている『SUMO』に関していろいろと面白いことが聞けましたので、以下に記します。
・魔種族の選手は年齢を問わず、選手登録をしてから最大で20年しか選手としてプレイできないルールがある。
・ただし魔種族の選手は19年で選手を引退するというマナーがあり、誰もがそれを守っている。
・もちろん19年より早く引退する魔種族選手もたくさんいる。
・選手引退後は所属していたチームの支配人やコーチになることもできるが、こちちも最大で20年しかなれないルールがあり、19年で引退するマナーがある。
・支配人になった場合は『SUMO』競技団体の構成員になれるが、魔種族は団体長には絶対になってはならないというマナーが存在する。
・構成員からの引退はチーム支配人から引退したときと同時。
・人間族側にはルールとしての年齢制限はなく、選手、コーチ、支配人、団体長すべては本人が気力、体力に限界を感じた時に引退する。
不老不死と言ってもいい魔種族と人間族が同じルールで行うスポーツとして、かなり良くできているルールだと思われます。
そして最後に魔種族、人間族問わず、『SUMO』選手の写真を撮影しました。
選手、支配人、団体長の皆様方の好意により、特別に疑似的な試合の様子も撮影させて頂きました。
その写真もこの手紙に同封させて頂きます。
それでは先生、キャメロット人には耐え切れない暑さの秋津洲より失礼いたします。