秋津洲国における魔種族、魔獣報告   作:koe1

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-秋津洲国における魔種族、魔獣報告 二十四通目-

親愛にして尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。

 

先生、秋津洲の夏もそろそろ終わりを迎えるようでだいぶ涼しくなって参りました。

キャメロット本国と比べますとまだ十分に暑いといえますが、秋津洲の基準ではだいぶ過ごしやすくなったことは事実です。

そしてオルクセン公使館のコボルト書記官殿も再び秋津洲に戻って参りました。

予定では夏が始まる頃には戻ってくるはずだったそうですが、オルクセン国内で色々とあり、再任が2ヶ月近く遅れてしまったそうです。

前回の手紙で秋津洲の神事であり興行でもある『SUMO』という、人間属と魔種族が共にプレイしているレスリングに似たスポーツについてお伝えしましたが、先日その『SUMO』の魔種族選手達をはじめとする関係者との食事会がおこなわれましたので、その時の様子をお伝え致します。

 

当初の予定では私が『SUMO』の魔種族選手と会い、色々と聞き取りをするという話しだったのですが、なぜか段々と話しが大きくなり、最終的にはオルクセン公使館内での私たちキャメロット公使館と共催による食事会という形になりました。

会場がオルクセン公使館になったのは、オルクセン在住の魔種族に比べて小柄とはいえ、私たち人間族と比較すると圧倒的大柄といっていい秋津洲在住の魔種族を出迎える椅子やテーブル等の調度品がキャメロット公使館内に存在しなかったこと。

実際にウシオニ騒動の際は、キャメロット公使館に一時的に移転したオルクセン公使館の公使閣下やその御夫人をはじめとするオルクセン公使館一同のベッド等の調度類を最後までまともに準備できなかったという事実がありました。

さらにこの話を私からコボルト書記官殿経由で知ったオルクセン公使館側より、秋津洲国内の魔種族同胞の調査をしたいと非公式に公使閣下に協力要請があったため、公使閣下が共催という形でオルクセン公使館側と話をまとめ、秋津洲側に対しても了承を取った上での開催となりました。

正直、私としては意外な話しですがオルクセン公使館はこの秋津洲に住む魔種族や魔獣に対する調査が殆どおこなっていなかったようで、先日のウシオニ騒動以後、再度魔獣がこの秋津洲首都やその近郊に出現した際の協力体制維持という目的もあるそうですが、公使閣下が許可した範囲の私が収集した魔種族魔獣に関する情報提供をコボルト書記官殿の再任以後頻繁におこなっており、現在のオルクセン側はかなり積極的に秋津洲の魔種族魔獣に関する情報収集をおこなっているようです。

 

話を食事会について戻します。

秋津洲側の参加者は『SUMO』の団体長、先日チャンピオンを勝ち取ったオーク族と、彼とチャンピオンを争ったオニ族、犬系コボルト族と人間族で最強と言われている選手。

そして彼ら4人が所属するチームの支配人の合わせて9人でした。

我らがキャメロット側からは公使閣下、ヴァイス少佐殿に先任書記官殿に私の4人。

オルクセン側からは公使閣下と公使夫人、駐在武官殿にコボルト書記官殿の4人でした。

もちろん秋津洲側から通訳氏とオルクセン語通訳氏が派遣されており、キャメロット公使館からオルクセン公使館に至る道中ではいつも護衛についてくれている3人の警官の他にも、複数の騎馬警官が護衛についてくれました。

食事会の料理はオルクセン料理を主としてグロワール料理を組み合わせた物でした。

残念ながらキャメロット料理は食卓には上がりませんでしたが、今回の食事会の料理を頂いた限りでは致し方ないかと思われます。

秋津洲人は種族を問わず肉類よりも魚類を好むということで、オルクセン公使館の料理人は事前に招待する秋津洲側に魚類や野菜類のみを主とする料理を用意するべきかを問い合わせたそうですが、秋津洲側からは『本物の星欧料理というものに私たちは始めてお目にかかる。なので遠慮なく、肉魚を問わずに出して頂きたい』という回答だったそうです。

ただ食事会終了後に聞いたことですが、オルクセン側では念のためにいつでもメイン料理を魚料理に切り替えられるよう準備をしていたそうです。

 

私たちキャメロット一行は馬車にてオルクセン公使館に到着しましたが、秋津洲側一行は徒歩にてオルクセン公使館にやって来ました。

『SUMO』のトップ選手が4人、団体長や支配人、そして食事会には参加しない彼らの下人の一行が彼らが着ることを許される最上級の秋津洲の伝統的礼服に身を包み、秋津洲首都を徒歩にて移動するのは大変目立つのは当然のことで、それなりの騒ぎになったようです。

彼らについてオルクセン公使館まで来てしまった見物人も沢山いたほどでした。

彼らの到着後、通訳を介した自己紹介がおこなわれ、早速食事会がおこなわれました。

そして食事会が始まってすぐに、秋津洲側に対して大変失礼ではありますが、彼らのテーブルマナーは完璧とはいえませんでしたが、及第点には全く問題なく達しているレベルだということが判明しました。

正直、星欧の感覚ではある程度以上の不作法があると覚悟し、キャメロット、オルクセン側参加者の全員にその旨が伝えられていたのですが、国王陛下御臨席の晩餐会ならばともかく、食事会では、繰り返しですが全く問題ないレベルでした。

これも後ほど聞いたことですが、今回の食事会開催が決まった後、秋津洲側では政府にも達する伝手を使って講師を複数招集し、マナー講座を開催し、全力で星欧のテーブルマナーを習熟したそうです。

 

食事会では秋津洲側の通訳2人とオルクセン語を理解している私を含む3人を介し、色々な雑談がおこなわれましたが、気がつけば過日のウシオニ騒動の話になりました。

驚くことに4人の選手はウシオニ騒動に全て兵士、もしくは義勇兵として参加していたそうです。

まずオニ族の選手はウシオニとの戦いに直接参加していたそうで、皇帝居城での戦いにも参加し、最後にウシオニを掘に破城槌のような丸太で叩き込んだオニ族の1人だったそうです。

オーク族とコボルト族、人間族の選手は避難民輸送に従事していたそうで、妊婦、赤子を抱えた女性、幼い子供、自力では動けない病人や怪我人や老人達を荷車に乗せて、避難場所へ何往復もして運んでいたそうです。

前にも先生にお伝えしましたが、秋津洲の馬は馬格が小さく、そのためか馬車が未だ殆ど普及していません。

そのためでしょうが馬よりも人間が引く荷車の方が未だ主流となっており、前回の手紙でもお知らせしましたが、人間が馬のかわりに引く1人乗り馬車も広まりつつあります。

人間族より圧倒的に力が強い魔種族や人間族の中でも力が強い『SUMO』の人間族選手は魔獣が出現した際には兵士として招集されたもの以外は避難民輸送に従事するのが伝統であるそうです。

さらに軍が魔獣討伐に失敗し、討伐部隊が壊滅した際は、市民達が避難する時間を少しでも稼ぐ最後の盾として魔獣に対して戦いを挑むそうです。

ちなみに彼ら選手全員がウシオニ騒動に関わっていたためと、人間族の団体長や支配人も過去に魔獣討伐に、避難輸送のみだったそうですが参加したこともあり、たまたまウシオニの両目を潰してしまった私に対する敬意が大変凄いものになっており、逆に私に対して秋津洲側より色々と質問が集中する場面もありました。

 

なお秋津洲側の参加者全員が大変な健啖家で、体格が非常に大きいオニ族やオーク族の選手はともかく、5フィートと4インチ程度しかないコボルト選手や人間族選手、ほぼ同じ身長の40~60歳ほどであろう人間族の団体長や支配人も、オルクセン側も驚くほどの量を食べていました。

ちなみにオーク選手はシュニッツェルを大変気に入ったようで、驚くことに5回ほどおかわりをしていました。

彼はシュニッツェルを絶賛し、引退後は故郷の街・・・この秋津洲首都と旧首都の中間ほどの位置にある都市だそうですが、そこに戻り料理店を開きたいと思っていたそうですが、これをきっかけにシュニッツェルを出す料理店を開きたいと、まるで子供のように純真に熱く語っていました。

ただ彼はシュニッツェル料理店を出したいと語りつつも、このままでは秋津洲人の大部分は受け入れてくれないだろうから、かなりの改良が必要なことや、シュニッシェルの調理法を聞いた上で、調理に絶対必要なパン粉の入手が秋津洲では困難だがそれを何とかしないといけないということも真剣な目で語っていました。

後ほど、彼が所属するチームの支配人が不作法を詫びるついでに話したところ、彼は大変な料理好きで、元々引退後は料理店を開きたいと話していることや、彼ほどの立場ならば見習いがすべき料理担当を、しなくてよいのにあまりの料理好きなためにチームでトップの立場になってからもずっと料理担当を自ら進んでしているこのことでした。

 

食事会が終わった後はオルクセン公使館の庭で『SUMO』の実演となりました。

流石に土でできた『SUMO』独特のリングを造ることはできず、事前に砂を厚くまき、そこにリングを模した円を描いた簡単な『SUMO』リングでした。

通訳を介した簡単なルール説明がおこなわれたあと、まず最初はオニ族とオーク族の選手の戦いからでした。

先日拝見したような正面からの激しい衝突とその後の戦いに、私たち食事会に参加していた者達だけではなく、手空きに見学しにきたオルクセン公使館職員や警備のオルクセン兵達も驚いていました。

さらに驚いたことですが、オニ族選手と人間族選手の戦いもおこなわれたのですが、5フィートと4インチ程度しかない人間族の選手は8フィートものオニ族の選手の体当たりを正面から受け入れ、吹き飛ばされるどころか、流石にオーク選手のような微動だにすることはありませんが、ある程度押され、砂のリングの上に2本の鉄道軌条のような痕を残したものの受け止めることに成功しました。

その後、人間族選手を持ち上げようとしたオニ族選手の一瞬の隙を突いた人間族選手はオニ族選手を投げ飛ばすことに成功し、オルクセン公使館の庭は大歓声に見舞われました。

なお彼が所属しているチームの支配人は、通訳氏を介し『あれがオニ族選手の弱点です。ランクの低い選手なら正面からの体当たりとその後の持ち上げで安易に勝てるのですが、トップランクの選手には中々通じない。とはいえ他の手段での勝利を目指すとしても身長差が大きすぎるせいで逆に難しい』と解説してくださいました。

続いて7フィート程のオーク族選手と5フィートと4インチ程のコボルト族選手の戦いとなりましたが、コボルト族選手は正面からの体当たりをするふりをして軽やかに躱したあとに後ろからオーク選手に襲いかかり、オーク選手が体勢を整える間もなく、リングの外に落としました。

オルクセン側・・・特にコボルト族からは凄い大歓声が上がりました。

最後は身長がほぼ同じな人間族選手とコボルト族選手の戦いでしたが、2人は正面から体当たりをしましたが、なんと信じれないことに人間族よりもずっと力がある魔種族のコボルト族選手が打ち負け、体勢を崩しました!

オルクセン側からは信じられないというニュアンスを含んだ悲鳴のような驚きの声が上がりました。

ただすぐにコボルト選手は体勢を建て直し、人間族選手と組み合った上で激しい戦いとなり、最後は人間族選手をギリギリのところで投げ飛ばすことに成功しました。

 

一連の実演が終わった後、どうした流れかオルクセン兵達と選手達の模擬試合が開始されました。

しかし驚くべき事に、オルクセン側のオーク兵達は人間族族を含む選手達に殆ど勝つことはできませんでした。

体格が6~7フィートほどのオーク兵達が、8フィートほどのオニ族選手はともかくとして、オーク族兵より体格が小さいオーク族選手相手ですら、大半が最初の体当たりに耐えられずに吹き飛ばされてしまい一瞬で勝負がついていました。

さらに2フィートもの身長差がある、彼らからすると子供のような身長のコボルト族選手にも勝つことができず、コボルト族選手とほぼ同じ身長の人間族選手相手ですら3頭に1頭ほどしか、接戦の上でなんとか勝つことができたという状況でした。

なおコボルト族の中で比較的体格が大きい5~6フィートほどのコボルト族兵達も模擬試合に参加しましたが、信じられないことに人間族選手相手ですら誰も一勝を挙げることすらかないませんでした。

 

その様な戦歴のなか、見学していたオルクセン兵の中でただ1人の下士官であったオーク族だけがオニ族を含む各選手と常に接戦を繰り広げました。

オニ族選手相手には体当たりこそ少し押されたましたが耐え抜き、その後組み合ってから持ち上げられてしまい敗北。

オーク族選手相手には体当たりを微動だにせずに受け止め、その後激しい競り合いの上、ほぼ同時に同じ方向に投げ飛ばし合いましたが、ほんの少しだけ先に身体が地面についてしまい敗北しましたが、大接戦といえる戦いでした。

コボルト選手相手には体当たりを受け止めた上でそのまま彼を押していき、リングの外に出す寸前まで行きましたが、一瞬力が緩んだ隙を突かれて投げ飛ばされてしまいました。

そして人間族選手相手には、なんと正面からの衝突で彼に唯一競り勝ち、人間族選手が完全に体勢を崩したところで組み付き、そのまま投げ飛ばしました。

他にも人間族選手に勝ったオーク族兵士はいましたがここまで軽やかに勝負が決まったのは唯一でした。

ただ人間族選手相手の戦いは一連の模擬試合の最後におこなわれたので、人間族選手がだいぶ疲労していたためかと思われ、実際にオーク族下士官も絶賛する周囲に対し、『彼が疲れていたからだ』という言葉を繰り返し発していました。

しかし幾らプロの格闘選手の相手側ルールに従っているとはいえ、オルクセン軍の主力であるオーク族兵が、オニ族は兎も角としても体格が小さい同族であるオーク族やコボルト族に太刀打ちできず、そして体格と力が圧倒的に上回っているはずの人間族選手を相手にしても殆ど勝利できなかったのは、オルクセン側にとっては大変驚きだったようで、オルクセン側の駐在武官殿とヴァイス少佐殿はかなり真剣に色々と話しをされていました。

 

ただ最後に・・・これを記すとオーク族下士官の名誉に関わることですが、彼自身の口から発せられたものなので先生だけにはお伝えします。

全ての予定が終了し、引き上げようとしていた私にそのオーク族下士官が声をかけて私にこうお願いしました。

『機会があるときでいいので、手を抜いてくれた選手達全員にお礼を言って欲しい』と。

私は驚きました。

どういうことか、私にはどうみても選手達全員が全力を出しているようにしか見えなかったと、回りに聞こえないよう小さい声で、オルクセン語で訪ね返すと、彼は

『他の試合を見ていればわかる。私が回りの兵士より階級が上ということで、私の名誉のために彼らは少しだけ手を抜いてくれていた。私は軍でのレスリングの指導者資格を持っているので、彼らが意図的に、回りにわからないように手を抜いてくれていたり、接戦を演じてくれていたのがよくわかる』

と真剣な目で言いました。

私は大変驚きましたが、機会があればという条件でそれを受け入れました。

 

以上が今回の報告となります。

厳しい冬になる前に、涼しく行動しやすい秋の間に魔種族魔獣に関する新しい情報が入るよう努力したいと思います。

そして新しい情報が入りましたら先生へすぐにお知らせすることを誓いつつ、そろそろ失礼させて頂きます。

 

 

 

追伸。

今回の食事会に参加した秋津洲側の参加者者全員と、何枚かぶれずに撮影できた模擬試合の写真を同封させて頂きます。

模擬試合での秋津洲側とオルクセン側の体格差を写真にてご確認ください。

 

 

 




2週間前に執筆者から原稿が送られていたことに気がついていませんでした。てへ♪
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