親愛にして尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。
先生、秋津洲はそろそろ冬を迎えようかという季節になりましたが、昨日大変貴重な、星洋道洋問わない大変貴重な経験をすることができました。
そのため未だ興奮しております。
この不肖の弟子は大変興奮しております。
どうして興奮しているのかをこれより説明させて頂きます。
先日、皇帝居城にてハナブサ氏、タシロ氏、通訳氏と共に皇帝家が有する魔種族魔獣に関する秋津洲の公文書を閲覧させて頂いていたのですが、ツノダ女史がふらっとやってきて何気なくこういったのです。
『そろそろ冬を迎えて寒くなる前に竜に少し乗ってみませんか?ハナブサ殿とタシロ殿も如何ですか?』
と、まるで少し馬に乗りませんか?と気楽に誘うような感じで言ったのです!
ツノダ女史はそれをキャメロット語で話したのも関わらず、私は最初何を言っているのか理解できず、動きが固まってしまいました。
隣にいた通訳氏も固まっているのが見てとれました。
私と通訳氏の様子を見て不信がったハナブサ氏、タシロ氏に対して、通訳氏が慌ててツノダ女史が私に向けて話した内容を伝えると、私同様に動きが固まったのが今にして思い出すと大変面白かったです。
ただ逆に言えば秋津洲人にとってもそれほど驚きだったということであったわけです。
その後ようやく動き出すことに成功した私達3人は大慌てでその場を片付け、ツノダ女史と日取りの確認してその場を辞し、私は急ぎ公使館に戻り、公使閣下にそのことを報告しました。
報告を受けた公使閣下も慌てだし、ヴァイス少佐殿を呼び出し、私が竜に乗ることを誘われたことを話すと少佐殿も大変驚き、公使閣下とヴァイス少佐殿も、乗るのはともかく見学だけではさせて頂けないかというツノダ女史への手紙を公使閣下自らその場でしたため、私がその手紙を持って再び皇帝居城のツノダ女史の元へ訪れることとなりました。
なお公使閣下の手紙を読んだツノダ女史は、至極あっさり『全く問題ございません。どうせなら見学ではなく、お乗りになりませんか?もしお乗りになるのでしたら動きやすい、冬の最も寒い日でも寒くないような暖かいお召し物の上で是非ともお越しを』と見学どころか騎乗の許可までくださいました。
そして一昨日の朝に私と公使閣下、ヴァイス少佐殿とその副官殿の4人は2台の馬車に分乗し、秋津洲側のいつもの3人の警官を含む10名ほどの騎馬警官隊の護衛下で公使館を出発しました。
なお実を申しますと公使閣下夫人も強く参加を希望されていたのですが、文化風習が違う異国の地での泊まりがけであるということから女性を同伴するのは難しいと公使閣下が深夜まで説得し、致し方なく断念されました。
ちなみに私と公使閣下の2人と、ヴァイス少佐殿とその副官の2人で馬車は分かれたのですが、私達の馬車には通訳氏が途中まで同乗し、秋津洲側が用意した事前説明の文章を私達に翻訳して伝えて、私達の質問に対して可能な範囲で答えてくれました。
途中の休憩の際に通訳氏は馬車を乗り換えて、ヴァイス少佐殿達に同じ内容を伝え、質問に答えたそうです。
そして夕方になる頃に目的地である町に到着しました。
場所としては首都の北西に当たる町で、公使館からの距離は約19マイルほどかと思われます。
これまで数度中継地点として訪れた河川輸送の拠点の町からすると南西にある位置にある町で、そこが首都近郊にある唯一の『Dragoons』、ツノダ女史言うところの『リュウシ』の駐箚地だそうです。
そこで先に到着していたツノダ女史と狐系コボルト氏にハナブサ氏にタシロ氏、さらに驚くことにサーゴー大将殿と彼が引き連れている軍人一行もいらっしゃいました。
私達は彼らの出迎えを受け、その日は簡単な会食を彼らと共にしました。
そして私達は翌日、つまり昨日、竜を・・・ワイバーンを目にしました!
私達キャメロット一行や秋津洲側一行の前に、1頭ずつに馬丁の様な2頭の犬系コボルト氏が馬のように手綱を引いた3頭のワイバーンが連れられてきました!
私達キャメロット一行は元より、意外なことに秋津洲一行もツノダ女史と狐系コボルト氏を除いて驚きと興奮に包まれている様子でした。
私は秋津洲一行も驚きと興奮に包まれている様子が不思議だったのでツノダ女史にどうして彼らも興奮しているのかと尋ねますと
『隠しているわけではなく、頼まれればすぐにお見せしたりするのですが、人間族の皆様は竜には興味があまりないご様子で・・・。とはいえ、ご覧になるといつもあの様な童のように興奮され・・・。最近は廃れていますが、前は合戦の最中でも竜を見かければ戦いを辞めて和議を結ぶという不思議さもありました・・・。確かに数はさほどではないですが、時折首都上空を飛んだりしていますが注目もされず。今回もキャメロットの皆様にお見せすると言うことを知ったサーゴー大将殿がご自身が慌てていらっしゃり、皆様の見学への同伴をお願いされたり、皇帝陛下も見学したいと文を送ってこられたりと・・・。人間族の皆様は普段は気にもされていないのにどうしてこの様に興奮されるのかと正直、私達も困惑致しております』
と、本心から困惑した様子で答えてくださいました。
ツノダ女史と話していて出遅れてしまった私は、興奮しているキャメロット一行と秋津洲一行によって取り囲まれている3頭のワイバーンを眺めつつ、秋津洲側人間族の態度の不思議さは一旦置いておき、ワイバーンのサイズ等を観察していました。
まずワイバーンの構造ですが、我がキャメロットに伝承で伝わるものとほぼ同じです。
細かい部分をあげていきますと、翼を除く全身が子供の掌ほどの鱗で覆われていて、大人の親指ほどのサイズの牙が生えそろっているトカゲのような口を持った頭、翼を兼ねている前脚、意外に太い後ろ足、そして長い尻尾という構造で、体色は濃い緑色。
体長は頭から尻尾を含めて約50フィートで、その内尻尾が13フィートほどかと思われます。
翼は薄い膜で鱗はなく、翼を完全に広げた状態での全幅は80フィートはあるかと思われます。
そして私は御者?を勤める犬系コボルト1頭と共にワイバーンの背中に着けられている2人用の鞍・・・基本構造は馬用と大して変わらない鞍で、繋がっているものの前後に4フィートほどの間隔を空けて設けられている鞍の後ろ側にまたがりました。
ちなみにその鞍の左側には非常に大型のライフル銃が括り付けられており、口径は1インチはあると感じました。
鞍に跨がった後はしっかりと革製のベルトで身体を鞍に括り付けられました。
ちなみに私のこの時の服装は乗馬服で、その上に厚手のウールのコートを着て、手袋もしていましたが、ツノダ女史より毛皮のマフラー、裏側に毛皮が縫い付けてある革製のマントのような物と同じく毛皮が裏付けされている耳まで覆う皮の帽子を渡され、それらも着込まされました。
端から見るとかなり着ぶくれをしていたかと思われます。
そして私は御者のコボルト氏と共にワイバーンで空に飛び上がりました!!
秋津洲人が『クウバ』と呼んでいる、しっかりと整地された1/2マイルほどの長さと50ヤードほどの幅を持つグラウンドを翼をたたんだままのワイバーンが最初はゆっくりと走りつつ、速度が上がってから少しずつ翼を広げていき、最後は凄まじい速さで駆けた後、私は空に飛び上がったのです!!
おそらく気球を除いた手段で星欧の人間が空を飛んだのは私が初めてではないでしょうか!!
もしかしますとオルクセンでは既に大鷲族の背に跨がり飛んでいる魔種族がいるかもしれませんが、星欧の人間族では私が初めてではないかと思われます!!
空の上は凄まじい寒さでしたが、大変に素晴らしいものでした!!
御者を務めてくれている犬系コボルト氏は残念ながらキャメロット語が話せず、私も秋津洲語はまだ片言以下なので空で意思の疎通はとれませんでしたが、私と似たような服装の彼は、私の興奮する様子を時折振り返ってみては嬉しそうな表情を浮かべていました。
5分ほどすると横にもう1頭のワイバーンが並んで着て、その背中には、こちらも御者である犬系コボルト氏と共に私と似たような服装をしているハナブサ氏が乗っており、私に向かって大きく手を振ったので、私も同じように手を振りました。
だいたい15分ほど周りをぐるっと回るような形で飛び、私は再び地面に降り立ちました。
私は凄い興奮状態であったといえます!
なにせ、地上に待っていたコボルト族の手によってベルトを外された後、私はワイバーンの背から飛び降り、母親に一刻も早く素晴らしい体験を自慢する子供が如くツノダ女史にのもとに駆けつけ、自身が何を話したか覚えていないほど興奮して、空の素晴らしい様子を語っていたほどです!
そして私がようやく落ち着きますと、ツノダ女史はそんな私を微笑ましく黙って眺めていらっしゃっており、近くではハナブサ氏がタシロ氏や他の秋津洲一行の人間族に、何を言っているかはわかりませんが、私と全く同じような口調で喋っているのが聞こえました。
私とハナブサ氏に続いて次は、タシロ氏となんと公使閣下がワイバーンで空に上がっていきました。
ワイバーンは3頭いるものの、残った1頭には客人は乗せずに御者の2人のコボルト族だけを乗せて、支援と思われますが、客人を乗せているワイバーンより高いところをずっと旋回しているのにようやく私は気がつきました。
2人も15分ほどで降りてきましたが、私と同じ様に乗馬服姿にウールのコートの上から、私と同じように毛皮の裏打ちされている革のコートや帽子、毛皮のマフラーを追加で着た公使閣下はゆっくりとワイバーンから降りて、コートと帽子、マフラーを脱いで、コボルト族に渡すと、降りるとき同様にゆっくりとした動作で私達キャメロット一行の元に戻ってくると、一言だけ『素晴らしかった・・・』とだけ静かに言い、次の客であるサーゴー大将殿と秋津洲の軍人が鞍に跨がってベルトで固定されつつある様子を羨望のまなざしで、まるでこれから遊園地に行く友達を見る子供のような目で見ていました。
サーゴー大将殿と秋津洲の軍人、後にオルクセン語で挨拶をされましたが、アキヤマ中尉殿という方で、オルクセンへ駐在武官として赴任することが決定しているそうですが、その2人が戻った後は、ヴァイス少佐殿と副官殿がワイバーンに跨がり、空へと飛んでいきました。
ようやく興奮から冷めた私は、2人が空を飛ぶ様子を何とか写真に収めようと努力しましたが、遠いときは点としかわからず、近づいてくると今度は速すぎてぶれてしまい、現像してみたところ飛んでいる様子をしっかりと確認できる写真は3枚程度しかありませんでした。
先生の弟子として失格であり、謝罪させて頂きます。
私達同様に15分ほどで空から戻ったヴァイス少佐殿と副官殿は興奮する様子もなく、2人ともまるで寄宿舎の試験成績が悪かった子供のような顔をしていました。
ヴァイス少佐殿は『空は大変素晴らしいが、これはまずい・・・』とだけつぶやき、副官殿は何かを考えられている様子で無言でノートにメモを取っていました。
その後は、通訳氏も含む秋津洲側一行の軍人達が空へ飛び上がっていきましたが、私達キャメロット一行はツノダ女史よりワイバーンの運用について説明をうけ、それを私が理解できた範囲でまとめますと以下のようになっております。
・基本的に2人で乗る。
・乗るのは基本的には魔術による意思疎通が出来るコボルト種のみ。
・オニ族、オーク族等の大柄な種族は1頭でも飛べない。
・主たる任務は空からの地上偵察と飛行可能魔獣の駆逐。
・副任務として遠隔地への重要人物の緊急輸送や秘匿性の高い情報の運搬。
・ただしワイバーンの運用にはそれなりに広くてしっかりと平坦な整地された『クウバ』が必要なので、副任務は自由におこなえるわけではないし、主任務もクウバ周辺に限られる。
・2頭乗っている者の役割は分かれており、前に乗る1頭がワイバーンを操りつつ周辺の空を監視し、地上偵察の場合は後ろの1頭が地上の様子を監視し、魔術による意思疎通を持って地上へ連絡し、飛行可能魔獣駆逐任務の場合は、後者は周辺監視と魔術による意思疎通にのみ徹する。
・地上偵察の際に、魔術による意思疎通を『敵対物』に察知されたくないときは、ワイバーンに乗ったまま状況を記したものを筒に入れて、味方の上に投下する。
・この様な運用がおこなわれたのはここ50年ほどで、前は一頭で乗り、好き勝手に飛んでいた。
・先の内戦では前政権、現政権どちらからも参戦を要請されたが拒否した。
・そのせいで現政権の極一部からは大変恨まれている。
・先日のウシオニ騒動の際も、空からウシオニの行動を監視し、逐次魔術による意思伝達で司令部に伝えていた。
とのことでした。
そして最後に私とハナブサ氏だけがもう一度だけ特別に乗せて頂いたのですが、その時に今にして思うと大変貴重な体験を、その時点では大変恐ろしい体験をしました。
2度目のワイバーン騎乗は1度目である程度の感覚を掴んだので、写真機を持って飛び立ちました。
1度目はもし落としてしまったらと考えると恐ろしくて躊躇したのですが、2度目は写真機と乾板を入れたバックも首から下げるだけではなく、自由は効きませんが、首紐自体も身体に固定するベルトに括り付け、地上に落下しないようにしました。
そして空からの地上の様子や隣で飛んでいるハナブサ氏や、私の前でワイバーンを操っているコボルト氏を撮影したり、乾板を交換したりしていたのですが、飛んでいる間はじっとして体勢を一切変えることがなかったワイバーンが突如として左上の方に頭を向けると、かなり甲高い声で鳴きました。
その瞬間、私はワイバーンから振り落とされたと一瞬錯覚するほど急角度での降下を始めました。
私は何が起きたかは全く理解できませんでしたが、前にいるコボルト氏が姿勢をかなり低くしているのに気がつき、片手で写真機を抱きしめてその姿勢と近い姿勢と自分で思った姿勢を取りました。
地上がどんどん近くなってきましたが、地形から判断しておそらく500フィートほどで水平に戻りましたが、今度は激しく左右に揺さぶられました。
それが永遠かと思ったほど長く続いたように感じたのですが、後ほど聞いたところによると1分もなかったとのことです。
そしてようやく真っ直ぐ飛んでいることに気がつき、私は何が起きたのかと起き上がると、こちらを心配そうな目で見ているコボルト氏と目が合い、彼は片手をあげて何かを指しました。
指を指した方向を私がみますと、およそ500フィートほどの空の上で2頭のワイバーンが追いかけあったり、じゃれ合っていました。
私はハナブサ氏が乗ってるワイバーンと、常にエスコートで上を飛んでいたワイバーンが何かの拍子にじゃれ合い始めたのかと思ったのですが、気がつけば隣にハナブサ氏が、ぐったりとした様子で伏せったままのハナブサ氏が乗ったワイバーンがいました。
となるとワイバーンが4頭いることになります。
私は最初、何が起きたか理解できませんでした。
私が救いを求めるように前にいるコボルト氏を見ると、彼はこめかみに手を当てている、魔術による意思疎通をおこなっている姿勢になっていました。
そしてこめかみから手を離すと、私の方を振り向き、何かもごもごした様子の後、意を決したような顔つきで一言だけいいました。
それは訛ってはいましたが、大変短いキャメロット語でした。
彼は私達の上でじゃれ合っているワイバーン2頭を指さし、風切りの音に負けない大きな声でこう言ったのです。
『Kill Wyvern』
私はこの一言によって、今現在ワイバーンが4頭いること、つい先ほどツノダ女史に『飛行可能魔獣駆逐任務』がワイバーンの任務の1つであること、前にワイバーンは2種類いて、内1種類が凶暴な種であると聞いたことを思い出しました。
私は野生の凶暴なワイバーンが私達に襲いかかってきたと理解しました。
そして先ほどまでの激しい飛び方はその凶暴なワイバーンから逃れるためであった事を。
そして地上に降りた後、その理解が正しかったことを教えられました。
さらに私が同意したのならば逃げずに野生のワイバーンを打ち倒すようツノダ女史が指示したことも。
私ならば『Kill Wyvern』とだけ言えば理解することを魔術による意思伝達で伝えたそうです。
そしてそれは全くの正解だったわけです。
ツノダ女史の洞察力の深さには尊敬しか出来ません。
ツノダ女史かせ予想していた通り、状況を理解した私はコボルト氏に向かって、紳士らしくないかもしれませんが、ニヤリと笑い『GO!』と返事をしました。
キャメロット語が通じていないにもかかわらず、彼は理解したようでニヤリと笑い、何ごとかを叫んだ後、私達の乗るワイバーンは上昇を始めました。
私はこれは絶好のチャンスだと思い、鐙に乗せている足に力を入れ、両手で写真機を構えました。
上昇自体はゆっくりとしたもので、時折激しく羽ばたきながら、段々と高くなり、とうとうじゃれ合っている・・・実際には時折入れ替わりながら激しく追いかけ回し合っている味方と野生のワイバーン2頭より高い位置にたどり着きました。
そして前にいるコボトル氏が手で下を指すと同時に一気に降下していきました。
大変凄い風圧でした。
流石に両手で写真機を持つわけにはいかず、私は姿勢を低くし、片手で手綱を強く握り、もう片手で写真機を抱きしめましたが、顔だけは前を向けてしっかりと前方を見ていました。
最初は視界に入っていなかった2頭が視界の端に小さく入り、そして一気に大きくなりました。
私達が乗っているワイバーンが、なぜか喇叭のように感じた声で鳴くと、下にいるワイバーン2頭の内1頭が凄まじい鋭角で落下するかのように下に落ちていきました!
そしてもう1頭のワイバーンがこちらに頭を向けた瞬間、突如として姿勢を変えた私達が乗っていたワイバーンがそのワイバーンに衝突しました。
地上に戻った後に聞いたことですと、鷹や鷲が獲物を捕まえるが如く、襲ってきたワイバーンを脚に生えている爪で切り裂こうとしたそうです。
その攻撃は半分だけ成功したとのことでした。
ある程度の傷は与えたものの致命傷ではなく、一旦姿勢を乱したそのワイバーンは体勢を立て直すと、その場から逃げ出すが如く真っ直ぐ飛び始めました。
私達が乗るワイバーンはその手負いのワイバーンを追っていきました。
そして鞍の脇に括り付けられていた大型ライフルをコボルト氏は手に取り、構えました。
私は凄い風を感じつつも両足に力を入れて写真機を構え、大型ライフルを構えているコボルト氏越しにシャッター切りました。
その瞬間それなりの距離にいたはずの前を飛んでいたワイバーンが突如として距離を詰め、私達の真上にやってきました!
私は恐怖から写真機を抱きしめて姿勢を低くしました!
次の瞬間何か鈍い音が聞こえ、顔を上げて前を見ると大型ライフルを構えていたコボルト氏がぐったりとして前のめりに横たわっているのが見え、革紐で鞍と結ばれていた大型ライフルが私の脇にあるのもみえました。
後ほど聞いたところによると、脚の一撃は避けたものの、尻尾の一撃がコボルト氏の頭を掠めてしまったそうです。
私は救いを求めるが如く・・・実際救いを求めて回りを見みました。
私達の乗るワイバーンは真っ直ぐ飛んでいました。
その後ろ、約300ヤードほどのほぼ同じ高さの位置に先ほどまで野生のワイバーンと戦っていた味方のワイバーンがいるのが見えました。
そして私達の左手からぐるっと回って私達の方に向かっている野生のワイバーンにも気がつきました。
その時の距離はおよそ150ヤードほどだったと思われます。
その野生のワイバーンは私が乗るワイバーンより速く飛べるようで、ただ真っ直ぐ飛んでいる私が乗るワイバーンの正面にやってくると、私達に向かって一直線で飛んできました。
その時、私が乗っているワイバーンが私の方を向き、小さく鳴きました。
その時のそのワイバーンの顔つきと鳴き声は凶暴で巨大な魔獣ではなく、なぜか町にで迷子になっている子供のように感じました。
私はワイバーンの鞍のかかっていない部分をなでると、風に任せるままとなっていた大型ライフルに結ばれている革紐をたぐり寄せ、その大型ライフル・・・なんと古めかしい石打式のライフルをたぐり寄せ、風に負けないよう脚に力を入れてしっかりと鐙を踏みしめ、大型ライフルを構え、撃鉄を起こしました。
今にして思いますと、どうも私が知っている石打式とは少し構造が違うようでしたが、その時は気にする余裕はありませんでした。
風切り音に負けないよう大きな声で『GO!』と叫びました。
その声に反応したのか、偶然なのかわかりませんが、私の乗っているワイバーンは甲高い声で一声鳴くとそのまま真っ直ぐ飛び、野生のワイバーンに向かっていきました!
短い時間で私の乗るワイバーンと野生のワイバーンの距離はつまりました。
正面から向かっているワイバーンが口を大きく開くのを見ました。
その瞬間、私は引き金を引きました。
今まで撃った銃よりもずっときつい衝撃が私を襲いました。
ライフルを手放すことはありませんでしたが、私はのけぞってしまったほどで、鞍にベルトで結びつけられていなければ間違いなくワイバーンから落ちていたことでしょう。
普段なら回りにまとわりつくもうもうたる白煙も感じることはありませんでした。
ただ嬉しそうに聞こえるワイバーンの鳴き声が聞こえました。
私は何とか上体を起こし、片手で手綱を掴み、周りを見ると野生のワイバーンの姿は見えず、もしやまた上から襲ってくるか!と慌てて上を見上げましたが、上にも野生のワイバーンの姿はありませんでした。
続いて下を見ましたが、左右どちらから下を見ても野生のワイバーンの姿は見えませんでした。
野生のワイバーンはどこかへ消えてしまいました。
私はこの時、野生のワイバーンは銃声に驚き逃げていったと考えていました。
その後私は、追いついた味方のワイバーンが私と気を失っているコボルト氏が乗っているワイバーンを『クウバ』まで誘導し、私達が乗るワイバーンは操る者がいないにも関わらず、地上に降り立ちしました。
私はその瞬間、心の底からホッとし、自身の無事を神に感謝しました。
すぐにツノダ女史が駆け寄ってきて、素早くベルトを外してくださりました。
そして『ご無事で何よりでした・・・』と言ってくださいました。
遅れてやってきた公使閣下をはじめとするキャメロット一行や秋津洲の軍人達も私に声を、秋津洲語は理解できませんが、全員無事を祝うような声をかけてくれました。
ただ私は今更ながら恐怖心が襲ってきてワイバーンから降りることが出来ませんでしたが、気を失ったままのコボルト氏がワイバーンから降ろされた後、私は子供が親が抱えて子馬から降ろされるが子供のように、ツノダ女史の手によってワイバーンから降ろされました。
私は『これは紳士らしくない。お願いですからこの情けない姿を我が父と祖父にだけは伝えないでください』と冗談めかしくお願いしました。
ツノダ女史は『これで化粧をしていない女性の姿を写真に残す酷さを理解して頂けましたか?』と微笑みながら返されたので私は『その際は失礼致しました』と真剣に謝罪しました。
後に聞いたところ、私が放った銃弾はなんと野生のワイバーンに口の中に命中したとのことで、頭を吹き飛ばされたワイバーンは私が乗っていたワイバーンとすれ違った後に地上に落ちていったそうです。
そのため私は再び英雄として称えられてしまい、その夜は急遽の祝勝会となりました。
公使閣下やヴァイス少佐達やツノダ女史はもちろんのこと、秋津洲側一行からも沢山の感謝と賞賛の言葉を頂きました。
なお地上に落ちていったワイバーンの死体は翌日・・・つまり今日の朝に私達一行が公使館に戻る際に聞いたところ、捜索隊を出しており、発見次第ここに残るハナブサ氏とタシロ氏が責任を持って調査やスケッチ、撮影をしてから、状態がよければば剥製にし、剥製が無理ならば解体し、公使館まで送ってくれるそうです。
気が早いですが、大変楽しみです。
そして今この手紙を書いていて気がついたのですが、もしかすると私は『Dragon Slayer』になってしまったのでしょうか?
先生はどう思われるでしょうか?
先生以外には笑われてしまうか、頭がおかしくなったと思われるでしょうか?
貴族としてはとても大事なことだと思うのですが、私のような若輩者には判断がつきません。
どうするべきなのでしょうか?
それはおいて置いて、何とか撮影できた写真をこの手紙に同封させて頂きます。
ワイバーンについては後日送れるものがあれば先生にお送りさせて頂きます。
キャメロットも冬を迎える頃となっております。
何卒、体調にはお気をつけください。
それでは先生、失礼致します。