秋津洲国における魔種族、魔獣報告   作:koe1

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相互理解、とても大事というお話です。


-秋津洲国における魔種族、魔獣報告 二十六通目-

親愛にして尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。

 

 

秋津洲はとうとう冬を迎え、冷たい北風に悩まされる日が始まりましたが、そのような秋津洲の魔種族、魔獣と人間族の関係はやはり複雑怪奇です。

先日お送りした手紙で私が竜に・・・ワイバーンに乗り、その上成り行きとはいえ、もしかすると『Dragon Slayer』になってしまったかもしれないとお伝えしたかと思います。

その続報も兼ねて、秋津洲の魔種族、魔獣と人間族の関係はやはり複雑怪奇であることをお伝えしたいと思います。

 

前回の手紙で私やハナブサ氏、タシロ氏がツノダ女史よりまるで馬に乗るような気軽さでワイバーンへの騎乗を誘われたこと、その際にキャメロット人である私はともかく、ハナブサ氏、タシロ氏、通訳氏の3人が驚きのあまり固まったこと。

公使閣下達の見学要請があっさりと認められたどころかワイバーンへの騎乗する事を許されたこと。

私達と共にワイバーンによる空の騎行を秋津洲のサーゴー大将殿をはじめとする軍人達も私達に同行を要請して堪能したことや、皇帝陛下ですら同行を希望していたこと、ツノダ女史が秋津洲の人間族のワイバーンへの反応に対して疑問を抱いていることを記したかと思います。

それらの疑問が、あれから1ヶ月だった今日、完全に解けることとなりました。

それについて報告させて頂きます。

 

 

まず人間族とワイバーンを管理している魔種族のワイバーンに対する認識が全く違うことが判明しました。

人間族からするとワイバーン・・・竜は魔獣でありながらも神聖にして不可侵な生物であり、竜がいる場所は聖地であり安易に近寄ってはいけない、そもそも彼らと共に暮らしている魔種族が近寄らせてもらえない、彼らが厳重に管理している。

その背に人間族が乗るなぞもってのほか。

竜の背に人間族が乗ることを許すことが出来るのは皇帝陛下か、皇帝陛下より勅命を受けた者・・・つまり魔種族の長だけであり、それですら可能な限りおこなってはいけないという認識だそうです。

これはハナブサ氏、タシロ氏、通訳氏、そしてオルクセンへ旅立つ前にわざわざ挨拶に来てくださった、中尉から昇進して大尉になったアキヤマ大尉をはじめとして、キャメロット大使館で雇っている下人の秋津洲人数人、私が私的に雇っている形になっている学生2人、翻訳してもらった秋津洲の魔獣関係書籍数冊の内容、全てがその様な認識でした。

ちなみに私が『ではどうして私や皆様がその神聖である竜の背に乗ることを許されたのですか?』と訪ねると、皆が皆『皇帝陛下が自ら認めているウシオニ退治の英雄だからです。竜の背に乗った他の者達はあなた様のおこぼれに預かったに過ぎません、ウシオニ退治の英雄にして、ワイバーン退治の英雄であるあなた様の』と答えました。

 

 

ところがです!

実際にワイバーンを管理しているツノダ女史をはじめとする、ここ1ヶ月で合うことが出来た魔種族達から聴き取ったところ、馬よりは確かに珍しい生き物で、餌は肉しか食べない上にオーク族ですら比較にならないぐらいの大食漢なので維持費がかかりすぎるので沢山飼うことは出来ないが、その背中に御者をしている犬系コボルト族、もしくは人間族なら2人は乗せて空を飛ぶ便利な生き物で、別に隠してもいないし、神聖でもないし、頼まれればすぐに見学させるし、騎乗希望者の体調や体重等に問題がなければ乗せることもする。

それなのに人間族側は普段は見学希望すら出さず、首都上空を飛んでいても誰も気にしない。

ツノダ女史が知る限り、少なくともここ800年ほど前から時折、時の皇帝陛下や有力諸侯より竜を見せるように要請されたことは何回かあったそうですが、『クウバ』の様な広くて遮蔽物がなく平坦で土の地面がある場所でないと飛び立つことや降り立つことが出来ないので、ここに来るように言われても対応できない場合ばかり。

そもそも1回に休憩無しで飛べる距離も130マイル前後だそうで、『クウバ』のあるところからその場に飛んでいくことすら出来ないことが殆ど。

ならばと『クウバまで来て欲しい』とお願いすれば断られる。

なんとか飛んでいける場所ですら『クウバ』がないので降り立つことが出来ず、その上をぐるぐると回って飛ぶだけだったそうです。

ワイバーンの飛行できる距離では旧首都と現首都間を無休憩で飛行することは不可能だそうで、200年ほど前に現首都が開拓され、前政権が誕生したときから現在まで複数回、旧首都と現首都間に中継地点となる『クウバ』の設置を要請したそうですが、常に却下されていると、公使館からのワイバーン騎乗の返礼品を届けに行った私に対してツノダ女史はぼやいておりました。

ただごく希にワイバーンが飛行できる距離内にある『クウバ』間や複数の『クウバ』を経由した付近で使者の輸送が皇帝陛下より命令されれば従ったが、その命令ですら滅多になかった。

そのくせ人間族は実際に竜を見ると皇帝陛下や大将軍、有力諸侯ですら子供のように大喜びし、戦争の最中ですら竜を見ると停戦して和議を結び、下級市民はひれ伏して顔すら上げない、その背に乗る使者は、確かに空の上で風に当たりながら目を開けるのは辛いとはいえ、常に『クウバ』にやってくる前から、竜の背に乗り、降りたって『クウバ』から離れるまでの間ずっと目隠しをして乗る。

なので、正直竜に関しては人間族が何を考えているか全くわからない。

そのため竜の厩番や餌となる動物を飼育するのですら全て魔種族であたらないといけないとぼやいておりました。

 

正直、双方でのあまりの認識の違いに、私は秋津洲の魔種族と人間族の間で『RYU』という魔獣を全く別な生き物をそれぞれ認識しているのではないかと思ってしまったほどでした。

つまり魔種族側は『ワイバーン』、人間族側は『ドラゴン』というそれぞれ別な魔獣を『RYU』として認識しているのではないかと。

しかし先日のワイバーン騎乗の際の秋津洲側人間族の反応や、ハナブサ氏タシロ氏から聴き取り、秋津洲側の複数の書物・・・もっとも古い物で300年ほど前の物でも描かれている『RYU』の形状は間違いなく『ワイバーン』でした。

キャメロット人の私はただ混乱するだけでした。

 

しかし本日、またハナブサ氏とタシロ氏に同行する形で皇帝居城にて魔種族魔獣に関する公文書を閲覧していた際にツノダ女史がいらっしゃったので、私がその疑問をぶつけると、ツノダ女史、そして私の言葉を通訳氏が秋津洲語に訳して伝えられたハナブサ氏とタシロ氏、そして通訳氏自体も全員がきょとんとした顔をされていました。

そしてその場で私を半ば無視する形でツノダ女史、通訳氏、ハナブサ氏、タシロ氏の間でかなり激しい話し合いがおこなわれた上、サーゴー大将殿や役人1名、さらにはウシオニ騒動の際に拝見した記憶がある秋津洲国の大臣2人までがその場に呼ばれて話し合いに参加。

その間、秋津洲語がわからない私はただそれを黙ってみていることしか出来ませんでした。

私がツノダ女史に質問してから約2時間ほどで全員が疲れ果てた様子で話し合いが終わり、通訳氏と私だけをその場に残し、皇帝陛下への緊急の報告があると全員が部屋から去ってしまいました。

私は、一体何が起きたのかを通訳氏に尋ねると、彼は

『おそらく・・・少なくとも約2500年もの長い間、人間族と魔種族間にあった誤解が解けた歴史的瞬間です。私達秋津洲に住まう全ての者はあなたに感謝しないといけません。流石はキャメロットの魔種族魔獣研究の第一人者の弟子であらせられる』

と尊敬溢れる目をしていった後、なぜか握手を求められました。

そしてその後、ワイバーンに関して人間族と魔種族間で激しい認識のズレがあったことを説明されました。

私はそれを聞き終わると、とてつもなく大きな寿命差はあるとはいえ、魔種族と人間族間でここまでワイバーンに対する認識がずれていたのかと驚きました。

その認識のズレを私が理解できた範囲で下に記させて頂きます。

 

 

・魔種族側はワイバーン運用方法に関してはしっかりと人間族側に伝えていたという口伝がある。

 

・人間族側ではそのワイバーン運用方法に関する口伝は、現在では完全に失伝している。

 

・ツノダ女史が魔種族の長になってからの約220年間、人間族側からワイバーン運用方法に関する問合せを受けたことはない。

 

・人間族側すると『クウバ』は聖地であり、聖地には広い平坦な土地が必要で、その付近に建物を建ててはならないので人は住んではならない。なので既に人が沢山住んでいる場所付近に『クウバ』を設けることに関しては、土地保障の問題もあって拒否していた。

 

・私達魔種族はそんなことを言った記憶はない。ただ『クウバ』は広くて平坦な土地が必要で、近くに邪魔になる高い木を植えたり、建物を建ててはいけないことになっている。

 

・あと『クウバ』は拓かれているため、野生の若いワイバーンが餌場と誤解して飛んでくることがあるので、人間族に対して『危険だからあまり近寄ってはいけない』とは確かに常々言っていた。

 

・人間族からは、古くからある『クウバ』近くに少数住んでいる人間族は、商業や農業問わず、人間族の間では『クウバ維持』のために特別に許されている者達であり、準神官であると認識されていた。

 

・そんな彼らですら必要以上『クウバ』に近づくのは禁止されていると認識していた。

 

・『クウバ』近くに住んでいる人間族や魔種族達は、竜の姿を見ると、住居や耕作地近くに複数設けている『穴』に入り、竜がいなくなるまでじっとしていなければならないという掟がある。

 

・私達魔種族はそんな掟を定めた記録はない。ただ『野生のワイバーンは地上に人がいると餌として襲いかかってくるので、餌場と勘違いして野生の若いワイバーンがよってくるクウバ近くに住む人間族や魔種族に対しては家や耕作地近くに穴を掘っておいて、野生のワイバーンを見かけたらそこに飛び込んでやり過ごすように』とは言っていたのは確か。

 

・人間族からするとワイバーン見学や使者利用が拒否されていたのは、ワイバーンが神聖な生き物であり、滅多に利用してはならないからだと認識していた。

 

・時折、見学や使者利用が出来たのは、その時の皇帝や大将軍の力が強かっただけだと思っていた。まさか地上に降り立てないとか、距離があるから飛べないという理由とは思ってもみなかった。

 

・使者の目隠しは竜は神聖であり、『クウバ』は聖地なので、直接見てはならないと思っていたから。

 

・少なくとも見学をしたことのある人間族で記録がある者達は、確かに魔種族側からの特別な許可で『聖地』へ出向き、竜を見たと記されている。

 

・先の内戦でもワイバーンによる空からの地上監視が、現政権、前政権共に拒否されたのはワイバーンの神聖さからだと思っていた。

 

・先の内戦でのワイバーンによる空からの地上監視を拒否したのは、初期は現政権、前政権共に皇帝陛下の正式な命令がないためだと魔種族側が認識していただけけ。

 

・皇帝陛下のしっかりとした命令が出されるようになった内戦後半で拒否したのは、ただ『クウバ』が戦場付近になかっただけ。

 

・日頃空を常に見上げている者はいない。例えたまたま飛んでいる竜を見たとしても鳥と思っているのではないか。

 

・先日私が倒した野生のワイバーンの死体捜索や発見後の調査をツノダ女史が即決で許したのは、私という英雄の力だと思っていた。

 

 

私はそれを聞くと、相互理解というものは絶対に必要であり、相互理解のためには思い込みと恥を棄て、常に相手に対し質問し、こちらからも全てを包み隠さず答えていかないといけないと感じました。

秋津洲の複雑怪奇さは魔種族と人間族の、共に長年暮らしているのにもかかわらず相互理解不足のためなのかもしれないと感じつつあります。

 

 

そして私が倒した野生のワイバーンに関してですが、剥製や詳細な記憶を得ることは出来ませんでした。

なぜかといいますと、調査にあたったハナブサ氏やタシロ氏が神聖な生き物であるからと尻込みしたわけではなく、3日後にようやく死体を山中で発見した差には既に複数の魔獣や獣達がその死体を食べていたようで、殆ど残っているものがなかったそうです。

ただ牙と爪は複数残っており、それらだけは何とか回収できたそうです。

爪は4本、牙は大きなものが2本、小さなものが10本ほど回収できました。

私はそれらをハナブサ氏達と公平に分けようとしたのですが、倒した私に全ての権利があると2人が主張したため、調整に手間取りましたが、最終的に私が爪を2本、大きな牙を2本全て、小さい牙を4本受け取ることで纏まりました。

残った爪2本と牙6本はそれぞれハナブサ氏とタシロに贈りました。

彼らはそれを家宝にすると喜んでいました。

今日、竜が・・・ワイバーンが特に神聖な生き物でないと知ってもそれは変わらないといっておりました。

先生には今回の手紙で大きな牙と爪を1本と、小さな牙3本を贈らせて頂きます。

失礼ながら大きな牙と小さな牙、そして爪を1本ずつ私が頂戴させて頂きます。

 

 

それでは寒さが厳しい秋津洲より失礼させて頂きます。

 




2次創作の元となっている『オルクセン王国史』にありましたが、相互理解、とても大事。
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