親愛にして尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。
先生、いよいよ秋津洲は冬が終わり、だいぶ暖かくなってきました。
冬の間に皇帝居城の東側に一時的な仮設という形ですが建設されていた、ワイバーン達の巣である『クウバ』も完成し、本日そのクウバを使い、皇帝家主催の大ワイバーンパレードがおこなわれました。
その様子を記させて頂きます。
どのようなパレードをおこなうかですが、クウバが完成する前から、皇帝家家臣や秋津洲政府、ツノダ女史を筆頭とする魔種族、そして最近秋津洲政府の筆頭魔種族補佐官扱いされているハナブサ氏が主として検討を重ねて参りました。
なお北方探検準備に忙しいタシロ氏は大変残念がっておりましたが、北方探検を主として据えているため、パレードの準備に関しては不参加でした。
ちなみになぜ私がこの様なことを知っているかと申しますと、忙しい合間を縫ってハナブサ氏やタシロ氏、そしてツノダ女史と魔種族魔獣研究でお会いする際、『隠しているものではない』ということで詳細も含めて教えて頂いていたためです。
なお私・・・魔種族魔獣研究家としては意外と感じつつも、星欧人の一員であるキャメロット人としては納得していたのですが、今回のワイバーンパレードは秋津洲の国内向けにおこなわれるもので、海外公使館は一切招待されませんでした。
私個人としては秋津洲と国交のある星欧や北星、南星各国に対して招待状を出すべきではないかとアドバイスしたのですが、ハナブサ氏、ツノダ女史共に難色を示され、その理由を説いたところ
『我が国内に対しては竜に対する神秘的な伝説や神聖なる伝統がありますが、我が国より遙かに機械文明が進んでいる諸外国に対し、魔獣などという凶暴な獣を見せびらかすというのはいかがなものでしょうか・・・?我が国と同程度の機械文明の華国に対しても、伝承が正しいという前提ならば華国側が主張する竜は我が国が現在騎乗している竜とは完全に別な種・・・魔種族である可能性が高い種なので、圧倒的な国力の差も合わさり今以上に下に見られるだけで終わるかと思います。それに前政権末期に沢山の星欧人や北星人の皆様が私達の警告を無視して魔獣狩りに行き、その殆どが帰らぬ人となっておりますので魔獣に対する忌避感は大変強いと思いますので・・・』
といわれて、確かに魔獣や動物、博物学の研究家でなければ、野蛮な未開国のイベントとしてみなされる可能性が非常に高いと感じました。
見るべき視点が違えば全くもってその通りだと思い、思い込みによって発言してしまった自分の愚かさを恥じるばかりです。
なので私は公使閣下の許可の元、個人としてパレード見学の許可をツノダ女史に申し出たところ、至極あっさりと許可が下り、そのことを公使閣下に報告しに行きますと、先に公使室にいらしたヴァイス少佐殿とその副官殿、たまたま私の公使室到着直後に慌てていらっしゃった様な公使夫人もそれを聞かれることとなりました。
私の報告が終えると公使夫人が聖母のような笑みを浮かべつつ、じっと公使閣下の方を見つめていらっしゃいました。
ヴァイス少佐殿と副官殿はなぜか直立不動で公使閣下の方をみていらっしゃいました。
公使閣下は椅子に座られたまま身じろぎもしませんでした。
私は公使閣下より退室の許可が出されなかったので、どうしてかと不思議に思いつつじっとその場で立っていましたが、約2分ほどたった後でしょうが、公使閣下は咳払いをされますと
『2等書記官。戻った直後なのに大変申し訳ないが、これからすぐに手紙を書くので私と我が妻、当公使館の駐在武官2名、合わせて4名を追加で招待して頂けないか秋津洲政府に至急お願いしてきてくれないだろうか?秋津洲側の立場を考慮して他の諸外国も招待しなくてすむように、依頼先は秋津洲国の外務省ではなくツノダ女史個人とし、4人とも当日は休暇とし、公的身分がない1キャメロット人と見学させて頂く形でだ。もちろん拒否されても仕方がないが』
私は全くもってかまいません。公使閣下が手紙が書き終わり次第、すぐに出発いたしますと返事をすると、公使閣下は手紙を書き始め、私は退室を許可されました。
私が公使室を出ると、公使夫人とヴァイス少佐殿達も退室され、公使夫人からなぜかお礼を言われ、ヴァイス少佐殿と副官殿からは握手を求められました。
その後1時間ほどで手紙を書き終わった公使閣下に再び呼ばれ、まだ帰らずに公使館にいてくれた通訳氏と共に公使館付き馬車で皇帝宮城に再び赴き、パレードの打ち合わせの会議をされていたツノダ女史やハナブサ氏や皇帝家家臣、秋津洲政府官僚の皆様にところに案内されました。
私は案内される途中、『流石に政府行事会議の場に外国人がお邪魔するのは問題なのではないでしょうか?』と案内してくれている皇帝家家臣に通訳氏を介して尋ねると、『ツノダ女史、そして皇帝陛下直々にあなた様に関しては、来城の際はいつ如何なる状況でもすぐにご案内するようにと賜っております』と返事をされ、単なる一外交官としては恐縮する限りでした。
星欧風の会議室に通されますと、秋津洲語は相変わらずわかりませんが、ちょうど激しい議論をしていたようで、何かしらの秋津洲における会議の風習なのでしょうが、ツノダ女史が大変美しい笑顔で小振りのカナボウを頭上で振り回し、それをハナブサ氏を含む他の会議参加者が円形で取り囲んでおりました。
私達の入室に気がつくと、皆全てが私の方を無言でじっと見ました。
私はその視線に大変強い圧力を感じましたが、案内してくれた家臣の方が秋津洲語で何かを言うと、歓声のような声が上がり、なぜか皆様より心のこもった握手を沢山求められました。
通訳氏曰く『ウシオニと戦いで子供を救い、その両目を潰し、ワイバーンを退治した英雄であり、人間族の竜への誤解を問いた偉大なる人だからです』とのことでした。
数分かかった皆様との握手が終わった後、既にカナボウをしまっていたツノダ女史が『先ほどお戻りになられのに何かございましたか?』と訪ねられたので、理由を話し公使閣下からの手紙を渡しますと、その場で手紙を読まれると大変驚かれた様子で、読み終わった後に、おそらく手紙の内容を秋津洲語で会議参加者に伝えて、その後手紙を通訳氏に渡しました。
ツノダ女史より秋津洲語で手紙の内容を伝えられたときの会議に参加されていた皆様の反応ですが、とても驚いているような様子でした。
通訳氏に手紙を渡したのは、おそらく手紙の内容と秋津洲語で伝えた内容に齟齬がないかを確認してもらっていたと思いますが、手紙を読み終わった通訳氏はそれを頷きながらツノダ女史に返しました。
ツノダ女史は、会議参加者全員の服装から推測し、大臣もしくはそれに準ずる方と思われる方の元に行き、何かしらを秋津洲語で相談されてから、私の元に戻っていらっしゃり
『我が国の立場をご理解してくださった上での見学希望、私人としてのご招待全く問題ございません。キャメロットの皆様5名分のお席は当日かならずご用意させて頂きます』
と仰ってくださり、正式な招待状は後日公使館にお届け致しますとも仰ってくださいました。
その後すぐに会議が再開される様子だったので、私がその場を辞そうとするとハナブサ氏がいらっしゃり、通訳氏を介し『お恥ずかしいところをお見せしてしまった』と詫びられましたが、秋津洲独特の会議風景を一瞬でも拝見できた私としては貴重な体験をしたという想いの方が強かったので、『全く気にしておりません。こちらこそ大変重要な会議の際にお邪魔してしまい申し訳ございませんでした』と謝罪した後、『やはりどの国でも国家行事の打ち合わせは大変なのですね・・・』と、私自身の過去の経験から心から同情して申し上げると『全くその通りで・・・今はどのようにして皇帝陛下がパレード会場にご臨席して頂くかで白熱しておりました』と深く悩んでいる顔をされて仰ったので、ハナブサ氏の気分を紛らわせるつもりの冗談で『皇帝陛下が竜に跨がり空から降りてくるというのは如何でしょうか?』というと、通訳氏は流石に不敬であると感じたのか、一瞬無言になった後にハナブサ氏に私の冗談を通訳をされていました。
そしてそれを聞いたハナブサ氏も無言となりました。
私は流石に不敬すぎて冗談にもならなかったかと気がつくと、慌てて誤魔化すかのように『それではお忙しいようなのでこれにて失礼致します』とだけ言い残し、その場から逃げるように辞しました。
公使館への馬車の中でも何かを考えているような顔の通訳氏と会話はなく、公使館へと戻りました。
私の愚かな発言によってハナブサ氏や通訳氏との友誼が解け、さらには外交問題に発展するかと思うと恐怖に襲われ、公使閣下に私が放言してしまった冗談の件も含めて報告し、その日は一睡も出来ませんでした。
しかし次の日、私の恐怖が杞憂だということが判明しました。
翌日朝早くに先触れがやってきた後、通訳氏を共にして昨日の会議の場にいた秋津洲の大臣が馬車で、身体の大きいツノダ女史は騎乗で共に公使館にやってきて、公使閣下に正式な招待状をお渡しになった後、こう言ったのです!!
『ウシオニとワイバーンを退治した英雄にして、我が国の人間族の竜に対する誤解を解いた偉大な人であるキャメロット国の優秀なる外交官殿の素晴らしいアドバイスによって、紛糾していた我が国で初となるワイバーンパレードの内容がようやく決まりました。感謝に堪えません。当日は私人なので全ての皆様が私服での正装という形でのご来場をお願い致しますが、席順に関しては可能な限り上位とさせて頂きます』
と仰り、大臣殿は私との握手を希望された後、通訳氏を介して大臣殿との打ち合わせを始められたので、私とツノダ女史は許可を得た上でその場を辞しました。
部屋を出るとツノダ女史より『あなた様のおかげでパレードの大まかな形がようやく纏まりました。ありがとうございます』と大変美しいお辞儀をして頂きました。
私は全く理解できなかったので訪ね返しますと
『あなた様が仰いました、皇帝陛下が竜に跨がり会場に現れるということ。皆大変な驚きでした。人間族の皆様の竜への誤解が解けたからといっても皇帝陛下がその背に跨がるということは、誤解がない魔種族の私も含めて誰も考えつかなかったのです。しかし我が国の伝説では、初代皇帝陛下は竜の背に跨がってこの国にやってきたというものがあります。遙か昔の皇后陛下は竜に跨がり、異国の蛮族を打ち破ったという伝説もございます。あなた様が仰られたことは皇帝陛下の威を我が国の民に示す最高のものとなりましょう。そのことを昨夜に皇帝陛下に奏上しましたところ、まるで童のように竜に乗れるのか!見るだけではなく自ら竜に乗れるのか!!と大変喜ばれ、あなた様に感謝の言葉を伝えるようにとのお言葉を賜っております』
と全く予想していなかったことを伝えられ、こちらが恐縮してしまうほどでした。
その後、準備があるとのことで大臣より先に帰られるとのことなので、見送りのために公使館玄関まで行きますと、ヴァイス少佐殿と副官殿が、大きな箱を持ったそれぞれもっている海兵隊員3人を連れて私達を待っていました。
ツノダ女史に挨拶をされた後、先日のワイバーンへの騎乗の2人からのお礼の品ということで、海兵隊員が持っていた箱の1つ自身が手に取り、箱を開け、中にはいっていた小さな箱を取り出し、それを『失礼ではございますがこの場でご覧ください』といって渡されました。
ツノダ女史が箱を開けますと、かなり造りのよい防塵ゴーグルが入っていました。
ツノダ女史はそれを手に取ると、防塵ゴーグルのことをご存じなかったようで『・・・大きな眼鏡でしょうか?』と尋ねられました。
すると副官殿が先日のワイバーン騎乗の際、風が当たる目が大変辛かったこと、通訳氏を介してリュウシであるコボルトに目は辛くないかと尋ねたところ、皆が皆、辛いがそれに耐えるのがリュウシである。ただ本音を言うのならば、何とかしたいし、時には失明する者もいる。過去に色々と試したが上手くいかなかったとのことでした。
なので何か方法がないかと考えたところ、未開地探検用の防塵ゴーグルを思いつき、これならば激しい動きでも外れない上に視界も遮られないだろうと、ヴァイス少佐殿と相談の上で秋津洲に支店を開業しているキャメロットの商会に注文したそうです。
そしてその防塵ゴーグルが、2人が注文する以前に在庫用としてたまたま商会側が既に本国に発注していたため、想像よりずっと速く届いたので、本日この様な形で失礼ではあるがお渡しさせて頂いた。
リュウシのコボルト族の皆様でも装着できると思うが、実用上問題なければよろしければ使って頂きたいとのことで、予備も合わせてとりあえず19本用意したとのことでした。
副官殿の説明を聞く内に顔つきがどんどん真剣になっていたツノダ女史は、説明を聞き終わった後、二人の手を取って誠意溢れるお礼をされた後、こめかみに手を当てるという魔術による意思疎通をされる姿勢を取って暫くした後、大臣殿が乗ってきた馬車の御者に防塵ゴーグルを馬車に積んで皇帝居城まで持ち帰って欲しいとお願いしつつ、5個ほどの防塵ゴーグルをなんとか自身が乗ってきた馬に括り付け、慌てて戻っていかれました。
そしていよいよ今日というパレードの日を迎えました!!
風は殆ど吹いておらず、暖かい春の晴天でした!
私人での参加ということで最上級の馬車ではなく、それより格が落ちる普段使い用の馬車2台に分乗した私達5人と公使閣下夫人の侍女1名は、会場となる皇帝居城東側が大変な混雑であるという理由から、皇帝居城西側の門から入り、居城内を通り向ける形で会場向かうこととなりました。
私人ということでヴァイス少佐と副官殿の二人は軍服でなく、公使閣下や私同様に私服でした。
私達一行はツノダ女史自ら迎えられ、通訳氏といつも護衛についてくれている3人の警官も合流し、会場に案内されました。
会場には艶やかな幕が張られ、テントも設けられ、沢山の椅子がテント外に並べられていました。
反対側に70ヤードほど離れた場所に、同じように艶やかな幕が張られ、テントが用意され、椅子が並べられているのか見えました。
どうやら仮設のクウバを挟んで席が用意されているようです。
クウバの東側先端の方をみますと、クウバが途切れてから70ヤードほど離れたところから市民達も沢山いるのも見えました。
こちら側と反対側には既に沢山の来賓が到着しており、席に座っている方や他の方と雑談を楽しまれている方等様々でしたが、私達一行から少し距離を取って様子見をされてるという感じでした。
少ししますと、ハナブサ氏がやっていらっしゃり、通訳氏を介して私達一向に挨拶をされると、ハナブサ氏を介して私達を紹介して欲しいという方が幾人もいらっしゃいました。
その方達と挨拶をしている内に、サーゴー大将殿や先日公使館にいらした大臣までもがお越しになり、私達一行に挨拶と、そして私個人へのお礼を述べられていったので、私としてはただ恐縮するだけでした。
そしてワイバーンパレードが犬系や狐系コボルト達によって開始されることが告げられると、全員が席次に従い着席をしました。
私達の脇には通訳氏の他にも、3名ほどの通訳が配置されました。
いつもの通訳氏は私の専属としてパレード中共に行動してくださるそうで、遺った3名は公使閣下達と共に行動するそうです。
通訳氏は小声で『あなたのおかげで1等席でワイバーンパレードを見学することが出来ました。先日のワイバーンへの騎乗といい、感謝に堪えません』といってくださいました。
私は『あなたという優秀な通訳がいなければ私はこの国で一切の調査活動が出来なかった。こちらこそ感謝します』と同じく小声で礼を述べ、無言で握手を交わしました。
数分ほどでざわつきが始まり、回りに釣られ北の方を見上げると、北の方に幾つかの点が見え、それが段々と大きくなってくるとそれが皆ワイバーンだということがわかりました。
1分ほどでワイバーンの群れが私達の真上を通過しました!
その高さは200フィート程あったと思われます!
私達キャメロット人は当然のこと、回りの秋津洲人達も驚きに包まれた歓声を上げていました。
1頭を先頭にし三角形のような、渡り鳥が取るような陣形を取っており、三角形は5頭のワイバーンで構成されていて、その三角形の中にさらに1頭のワイバーンがいました。
そしてこれは後ほどヴァイス少佐殿と公使閣下夫人が教えて頂いたのですが、私が見た三角形の陣形のワイバーン達の上さらに200フィートほどと、さらにその上200フィートの二段で2頭ずつ、合わせて4頭のワイバーンがいたそうで、おそらく私が体験したような野生のワイバーンによる襲撃を警戒していたのではないかと思われます。
5頭のワイバーン達は、一糸乱れぬ陣形のまま私達や市民達の上を飛び回り、大歓声が会場を包んでいました。
そして暫くすると三角形の中心にいた1頭のみが陣形を組んだまま段々と下がっていき、仮設のクウバに降り立ちました。
そのワイバーンは、ワイバーンを正面として左側には軍服を着たサーゴー大将、右側には兜は被っていないものの鎧を纏っているツノダ女史が直立不動で待っていた位置の少し前で立ち止まると、その場で寝そべりました。
ワイバーンが寝そべるときはその背中からの乗降時となります。
ワイバーンが寝そべると、秋津洲の神官服に身を包んだ人間族やコボルト族達が優雅に近づいていき、ワイバーンのただ1人乗っていた方・・・軍服のようにしか見えない造りをしている革製のコートを身に着け、革製の帽子と・・・先日ヴァイス少佐殿達が贈ったと思われる防塵ゴーグルを着けていた皇帝陛下をワイバーンとを固定していたベルトを外し、踏み台を用意しました。
皇帝陛下も優雅な動きでワイバーンの背からおり、ゴーグルと帽子を脇にいたコボルトに手渡し、礼をしたサーゴー大将殿とツノダ女史の間を通り、2人の後ろに設けられていた演説台に上がりました。
ワイバーンが降り立ったときから周りは、クウバの先にいる市民達も含めて自主的に無言になっていました。
演説台に上がった皇帝陛下は静かでありながらも、回りにはっきりと聞こえる秋津洲語で20分ほど演説をされました。
そして演説が終わった瞬間、会場は大歓声に見舞われました!
我が国であるのならば拍手の嵐であった事でしょう!
演説が終わると同時に、私達の頭上では遺った5頭のワイバーンがぐるぐると飛び回り、時折甲高い声で鳴いていました。
市民側からも大歓声がずっと聞こえました。
我が国ではこの後も色々とおこなわれるのでしょうが、私達キャメロット人としては意外なことにこれでパレード自体は終了しました。
後ほど聞いたところ、上空を飛んでいたワイバーン達は陣形を保ったまま、首都やその近辺の町の上を飛び回ったそうです。
そして会場は、そのまま立食パーティー会場となりました。
地上に降り立った皇帝陛下が自ら手綱を取っていたワイバーンは『チハヤ』という雌のワイバーンだそうで、ワイバーン達の中で最も頭がよく、最も美しく、最も勇敢で、そして最も凶暴だそうです。
ただ凶暴といっても、魔獣と戦うときにのみに凶暴性は発揮されるそうで、普段は大変大人しい、慈愛に満ちた性格をしているそうです。
テントの下には、いつの間にか私達キャメロット人も食べるような星洋料理と秋津洲の料理が沢山並べられており、ワインも含む酒もありました。
給仕として沢山の皇帝家家臣と思われる人達もいました。
ワイバーンのチハヤは沢山の秋津洲の人間族に取り囲まれていました。
公使閣下や夫人、ヴァイス少佐殿達もその輪にいました。
私は一旦馬車に戻り、馬車に置いてきた写真機を持ってきて、チハヤやパーティーの様子を撮影していました。
その内、皇后陛下と思われ気品に満ち溢れている女性と共に、サーゴー大将とツノダ女史を従えた皇帝陛下が私の元に畏れ多くもやってきてくださいました。
私と通訳氏、当然周りにいた秋津洲人達も礼をして皇帝陛下を迎えました。
通訳氏を介し、皇帝陛下は私に対し、
『貴殿のおかげで伝説の初代皇帝と同じようにワイバーンの背に乗れた。おそらくワイバーンの背に皇帝が乗ったのは初代皇帝以来だと思う。異国成敗にあたった皇后を含めても3人目だと思う。人間族と魔種族間にあったワイバーンに対する誤解を解いただけではなく、この様な素晴らしい提案をしてもらい、感謝の極みである』と仰ってくださいました。
そしてさらに近づいていらっしゃり小声で・・・通訳氏には聞こえる程度の小声で『キャメロットから頂戴した防塵ゴーグルは大変役に立った。あれがあるとないとでは空の上では全然違う。リュウシであるコボルト達も感謝していた。頂戴した分だけでは足りなかったので、慌てて似たような物を作らせたほどだ』と仰ってくださいました。
私は『用意してくださったヴァイス少佐殿とその副官殿に必ずや伝えさせて頂きます』と答えさせて頂きました。
その後皇帝陛下はサーゴー大将だけを共にして、皇后陛下と共にチハヤの方に行かれました。
私は残ってくださったツノダ女史と通訳氏を共にし、次々と挨拶に訪れる秋津洲の人間族や魔種族達と挨拶を交わし続けました。
そうしている内に、チハヤが飛び立ちました。
後で聞いたところ、皇帝陛下の特別な許可という建前で抽選にて騎乗できる人間族を選んだそうです。
先ほどの皇帝陛下と違い、リュウシが前に乗っているので1回につき1人しか乗れませんでしたし、1回につき5分ほどの短い飛行のようでしたが、抽選がおこなわれる場所にはその背に乗るチャンスを逃すまいと沢山並んでいて、驚くべきことに公使閣下や夫人、ヴァイス少佐殿と副官殿も並ばれていらっしゃいました。
そのためその時の私は、例えるのならば臨時キャメロット公使のような立場になってしまい、先ほど記しましたとおり、秋津洲の人間族や魔種族達の方達と挨拶を交わし続け、写真を撮る余裕もなくなってしまったほどでした。
その様に臨時キャメロット公使として挨拶を繰り返していますと、抽選がおこなわれている場所から今までと違う歓声が上がりました。
何ごとかと思いますと、ツノダ女史が『公使夫人が抽選に当たったご様子です』と教えてくださいました。
私は流石に公使夫人の服装では乗れないだろうと思っていましたし、そもそも女性という理由から拒否されると思っていましたが、私の考えが大変愚かなものであることをすぐに思い知らされました。
確かに抽選事務にあたっていた秋津洲の係員は一瞬躊躇したそうなのですが、抽選の係員達が全て魔種族だったために竜に対する誤解が存在していなかった、実はリュウシの中にも女性が・・・雌がいること、公使夫人がなんと女性用の乗馬服を侍女に準備させていたこと、そしてたまたま近くにいた皇帝陛下が豪快に笑われ『異国討伐をされた皇后もいたのだから御婦人がお乗りになれても全く問題はない』と、流石にどうかという声を上げていた秋津洲の人間族を押さえてくださったので、公使夫人もワイバーンに乗り、短い時間ですが空を堪能できたそうです。
降り立ったときの姿を写真に収めた私や公使閣下、ヴァイス少佐殿達に対し、公使夫人は静かに『空とは素晴らしいものですね・・・』と仰り、私達は全員無言でうなずきました。
その後、さらにもう1枚公使夫人がチハヤとの記念写真を撮り、私の臨時キャメロット公使の任は解かれました。
そして今、ランプを友にし、この手紙を書いております。
撮影した写真も既に現像とプリントをすませており、この手紙に同封させて頂きます。
それで先生。
エルフィンドとオルクセンは一体どうなっているのでしょうか?
華国で発行されているキャメロット新聞が届いたのですが、闇エルフ達が大量にオルクセンに亡命したとか・・・。
新聞には大量の亡命があったとしか記されておらず、詳細は不明とのこと。
公使閣下も詳細は外務省より送られてきておらず、ただオルクセン公使館に対する情報収集強化が指示されているとのことでした。
清らかで平和なエルフ達の国と、一般星欧人達からすると野蛮なオークな国とされている、実際には先進的な国家であるオルクセンとの間で一体何が起きているのでしょうか?
外交官以前に魔種族魔獣研究家として心配でなりません。
もし何かご存じあれば何卒この弟子に教えて頂きたいと思います。
それでは暖かさが日に日に増す秋津洲より失礼させて頂きます。
あと2~3話程で完結の予定だそうです。