親愛にして尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。
秋津洲は完全に春となり、沢山の花が咲き誇る、暖かくて過ごしやすい素晴らしい季節となりました。
そして前回の手紙でお送りしましたワイバーンパレードに関する続報について報告させて頂きます。
私は何気なく、ツノダ女史やハナブサ氏に対して諸外国も招待した方が良いのでは?と提案し、秋津洲と星欧、北星、南星諸国での環境の違いから、ワイバーンパレードは国内向けイベントであり、諸外国公使等は招待はされなかったと記したと思います。
そのツノダ女史とハナブサ氏の判断は大変正しかったことがわかりました。
事前に各公使館に通知がされていたにもかかわらず、パレード当日は首都各所やタテハマで秋津洲人とキャメロット人以外の国籍を持つ者達が、恐慌状態に陥ったそうです。
事前に通達されていた在留キャメロット人ですら大きな驚きを持って迎えたそうです。
意外なことにオルクセン人達ですら恐慌状態に陥ったそうです。
パレード翌日から翌々日にかけてオルクセン公使館を除いた各国公使館から秋津洲外務省に対して抗議が殺到したそうです。
ちなみにどうして『オルクセン公使館を除いた各公使館のみ』が秋津洲外務省に抗議し、オルクセン公使館が秋津洲外務省に抗議しなかったと申しますと、なぜか我が公使館がオルクセン公使館の抗議の対象となったからです!
パレード翌日にオルクセン公使館のコボルト書記官が私を公使館まで訪ねてきて、事情を確認。
どうやらこの時点で既に私達5人が昨日のパレードに招待されていたことを掴んでいたようでした。
公使閣下やヴァイス少佐殿から『オルクセンにも空を飛ぶ大鷲族がいるのだから特に隠すことはないだろう』とのことで、過日のワイバーン騎乗体験も含め、私が説明をしたところ、意外にもコボルト書記官殿はかなり驚かれていた様子で、すぐにオルクセン公使館に戻られていきました。
しかし1時間ほどでまたやってきて、先触れとしてオルクセン公使がこれからやっていらっしゃることを伝えてくださいました。
おそらく、オルクセン公使館への道すがら、魔術による意思疎通でオルクセン公使館に連絡を取ったのでこの様な迅速な行動がとれたと思われます。
コボルト書記官殿の再来訪から1時間ほどでオルクセン公使閣下がやっていらっしゃいました。
すぐに公使閣下そしてオルクセン側の希望で私も同席の上での会談となりましたが、オルクセン公使閣下来訪の理由は一言でいいますと、先ほど既に触れておりますとおり抗議でした。
『なぜ我が国もワイバーン騎乗やパレードに招待して頂けなかったのか。これはキャメロットによる不当な独占ではないか』と。
それに対し公使閣下は謝罪をせずに正面からの論戦?となりました。
ワイバーン騎乗体験への招待はあくまでもこちらにいる二等書記官の個人的友誼によるお誘いに私達が便乗させて頂いたものである。
それなのに・・・例えるのならば面識のない『友達の友達』も誘うというのは、彼らの友誼を破壊するものである。
パレードに関しては参加した5名全てが休日で公的身分がない私人としての招待という形であり、さらに秋津洲外務省ではなく、こちらも最初に招待をして頂いた二等書記官殿を通じて秋津洲外務省や政府でない、皇帝家直属といえる魔種族の長に個人的立場という形で招待を要請してそれが通ったに過ぎない。
それにどんなに遅くとも前日までには秋津洲外務省よりワイバーンパレードがおこなわれるので注意喚起をする連絡があったはずである。
私人とはいえ招待されていた我がキャメロット公使館にも一週間前には通達が来たので、可能な範囲で在住キャメロット人への注意喚起をおこなった。
その時点でパレードへの招待を要請すればよかったのではないか?
そもそもオルクセンには大鷲族という飛行可能な魔種族が・・・魔獣であるワイバーンと違いしっかりと言語による意思疎通がとれる、オルクセンの国民である大鷲族が居住しているのに、なぜここまでのこだわりを見せるのですか?
そして二等書記官と秋津洲側魔種族魔獣関係者との友誼は彼個人の努力によってのみ培われたものです。
幾ら上司であるこの私といえども、外交官として我が国の不利益にならない限りその友誼に対して口を挟むことは一切出来ないと。
それに対し、オルクセン公使閣下は意外にもしどろもどろの回答をされていましたが、次にワイバーン関係のイベントがあり、私が・・・二等書記官が個人的に招待された場合は、オルクセン側も招待して頂けないかという要請だけはするという形で纏まりました。
最後になんとかワイバーンの写真だけは頂けないかとオルクセン公使閣下は依頼されましたが、私が返事をする前に公使閣下は、私個人が研究用に撮影したものであり、二等書記官の魔種族魔獣研究の発表を阻害してしまう恐れがあるという理由で明瞭に拒否されました。
オルクセン公使閣下とコボルト書記官殿がお帰りになった後、ヴァイス少佐殿が副官殿と共に呼ばれ、緊急の会議となりました。
公使閣下は大鷲族という飛行可能な魔種族が国民としているオルクセンがなぜあそこまでワイバーンに拘るのかという疑問をヴァイス少佐殿や副官殿、そして私にぶつけました。
ヴァイス少佐殿と副官殿は、秋津洲では遙か昔からワイバーンの軍事的運用がおこなわれており、オルクセンもそれに習うため、もしくは既に大鷲族の軍事的運用をしており、大鷲族の軍事運用ノウハウの入手か既にあるノウハウとの比較研究のため、もしくは大鷲族への空での対抗手段としてワイバーンを警戒しているのではないか?と意見を述べられました。
私は、オルクセンにおいて大鷲族は、巨狼族と共にここ100年ほどでエルフィンドから亡命する形でオルクセン国民に加わった比較的新しい国民であり、オーク族やコボルト族に比べると圧倒的少数な種族であることを説明した後、オルクセンでの大鷲族の主たる仕事は郵便の速達配達や気象観測であること。
飛行速度や飛行可能高度、距離等は不明であること。
そもそも秋津洲のワイバーンで関する事で私達が知っているのは人間族サイズであるならば2名の騎乗が可能であることと最大飛行可能距離が160マイルということだけで、現時点ではそれが真実かはわからない。
大鷲族のサイズは書籍情報と、実際に私達が乗り、そして見たワイバーンと比較すると二回りは小さいこと。
私がオルクセンで大鷲族を目撃したのは空を飛んでいる様子だけなので本当にそのサイズかどうかは断言が出来ないが、先生も特に触れていなかったので正しい可能性が非常に高いという、大鷲族に関する情報のみを伝えました。
その後も色々と話し合いはおこなわれましたが、結論としてはとにかく本国外務省ならびに戦争省に対して秋津洲のワイバーンと、オルクセン側がワイバーンに対して並々ならぬ興味を抱いていることを報告するという形で纏まりました。
ちなみにある意味国家機密に関わるべきことを私がこの手紙で先生に対して伝えられているかと申しますと、公使閣下より先生が有する大鷲族らに関する知識を是非とも賜りたいと申しているからです。
外務省並びに戦争省への報告にも、大鷲族に関しては情報不足であることが記されているので、自然と先生へ問合せが行くだろうとのことでした。
続いてそのワイバーンに跨がり、空を駆ける『リュウシ』達に関してなのですが、パレードがおこなわれて4日ほどたった後、リュウシの犬系コボルト族4頭と人間族1名が通訳氏に案内されて我が公使館にいらっしゃいました。
公使館にいらした理由ですが、過日ヴァイス少佐殿と副官殿の駐在武官の2人がワイバーン騎乗体験への返礼として贈った防塵ゴーグルに対するお礼でした。
私もなぜか同席という形になったのですが、ヴァイス少佐殿と副官殿は返礼品なのでお礼をされる必要はないと丁寧な対応をされていましたが、コボルト族の4頭は『あれは大変ありがたいものであり、これで失明するものもだいぶ減るだろう。確かに返礼に対してさらに返礼をするのは無礼であるでしょうが、ワイバーンと共に空をかけるリュウシであるコボルト族としては礼を言わないのは種族としての恥と感じるほど感謝している』と大変な感謝をしている様子でした。
ちなみに彼らと一緒にやってきた人間族の方はイタガー氏で、先の秋津洲の内戦において活躍した軍人で、内戦後は政治家として活躍されたあと、現在は下野している方だそうでした。
なぜその様な方かいらしたのかと考えていますと『あなたのおかげで秋津洲における人間族が抱いていたワイバーンに対する長年の誤解がとけた。そのため皇帝陛下の命により、彼らリュウシとワイバーンが正式に軍に組み込まれることが決定し、私に対して皇帝陛下とサーゴー大将より直接、軍籍復帰の上でリュウシとワイバーンの指揮官になるようにと要請された。私はそれを受けるつもりで、私が軍に・・・しかも名誉ある皇帝陛下直属のリュウシ隊司令官である中将として軍に戻ることに関してあなたにお礼が言いたく同行させて頂いた』とのことでした。
私は『イタガー中将殿、おめでとうございます』というと、イタガー氏は『まだ正式な辞令は頂いていないのでまだ一市民である。なので階級はまだご容赦して頂きたい』と笑われながら言われました。
そしてリュウシ達からヴァイス少佐殿と私に本がプレゼントされました。
秋津洲語は読めませんが、表紙の造りからいって同一の本だと感じ、
『何の本でしょうか?』と尋ねますと、『リュウシの訓練とワイバーンの飛ばし方、そして戦闘方法が書かれた教本』と教えて頂きました。
私達は大変驚きましたが、手渡してくれたリュウシであるコボルト氏より『何の役には立たないと思いますが、魔獣や私達の研究をされていらっしゃるとのこと。私達がお渡しできるものはこのぐらいしかないのでよろしければお受け取りください』とのことでしたが、私とヴァイス少佐殿は大喜びでそれを受け取りました。
皆様がお帰りになった後、ヴァイス少佐殿は私の両手を掴み『頼む!これを翻訳をしてくれ!』と必死な目でお願いされたので、私も元より翻訳を学生達に依頼するつもりだったのでそのことを伝えると、駐在武官2人の私費並びに使用権限がある公使館の駐在武官予算から、翻訳してくれる秋津洲の学生達に対して礼金を出すとのことでした。
私はここでふと思い立ち、2人に対して『キャメロットの軍隊用語に関する辞典のようなものがあれば彼らにプレゼントして頂けないでしようか?軍隊用語がわかれば翻訳の精度が上がると思います』と伝えると、副官殿が慌てて自室に戻り、数冊の教本を持ってきて『機密にあたらない用語に関する教本だとこれらになる。本国にも最新版やさらに細かいものを要請する』とのことでした。
私は翌日、キャメロット語を私に習いに来る予定になっている学生2人を介してお願いすることを約束しました。
なおそのワイバーン教本の翻訳を依頼した学生2人は大変驚いており、本当に手を触れて、中身を読んで良いのかと繰り返し私に確認を取っておりました。
その様子からも、秋津洲においてはワイバーンは・・・竜は本当に神聖なる生き物であることを感じ取りました。
なおワイバーン教本については翻訳後、必ず先生にもお送り致しますので、今しばしのお待ちをお願い致します。
続いては秋津洲に住まうドワーフ族に関する報告です。
ツノダ女史の御協力により、ドワーフ族の族長にあたる方と、皇帝居城にてお会いすることが出来ました。
ツノダ女史立ち会いの上で、通訳氏を介し双方挨拶をし、雑談から入りましたが、ハナブサ氏に教えて頂いたとおり、金属加工以外にも建築、酒造、鉱山開発に従事しているのが大半を占めているそうです。
ただ意外なことにその4業種のうち、金属加工が最も少数派だそうです。
オルクセンではかなりの数が金属加工業に携わっていることを考えるとかなり意外で、オルクセンでの例を挙げてそのことを尋ねますと
彼は布に包まれた折れた秋津洲のサーベルを取り出しました。
そして私にルーペと共にその折れたサーベルを手渡し、折れた断面部分を見るように言いました。
私は言われたとおりその折れた断面を見ました。
最初はわかりませんでしたが、細かい模様があるのに気がつきましたが、それ以外は何もわかりませんでした。
私は『大変細かい模様が切断面に見えます』と正直にいいました。
ドワーフ族はため息をついた後『これが私たちドワーフ族の大半が金属加工を棄てた理由だ』と言いました。
そしてこのサーベルが人間族の鍛冶師が作ったものだとも。
曰く、現在もなお『製鉄』というレベルでは、この秋津洲の人間族は
私達ドワーフ族にかなわない。
私達からするととても劣っている程度の鉄を少量しか生産できない。
しかしだ、人間族の鍛冶師達は劣っている鉄で・・・私達ドワーフ族からしてみると圧倒的に劣っている鉄で、私達の鉄なら鋳造とその後の軽い鍛造で作れるレベルのサーベルを、遙かに劣る鉄を使い鍛造のみで私達並の・・・品によってはそれ以上サーベルを作るようになった。
その時の・・・だいたい1000年ほど前の私達の祖先の衝撃ときたら・・・。
もちろんそれ以上ものを作る!と奮起した者達もいたが、心が折れたものが多数でた。
それで元々酒好きということもあり、美味い酒を造ろうと始めたものや、物作りが得意なのは変わらないので建設を始めたり、鉱山開発に特化していったりした。
私は奮起して金属加工を続けている者の子孫だが、今では金属加工というよりも製鉄がメインになっている。
製鉄ならまだ負けんが、油断をするとすぐに人間族に追いつかれそうなので日々研究に明け暮れている。
私達が作った質の良い鉄は、サーベルを作っている人間族の鍛冶師達もしっかりと利用し、私達の質の良い鉄をサーベルの芯にするという方法を編み出し、サーベルの質をさらに向上させていったりする。
もちろん価格や製造量という面では鋳造とその後の軽い鍛造で作れる私達の方が上だが、戦場で命を張るという意味では、上級騎士の間では人間族が作るサーベルの方が好まれた。
気がつけば私達のサーベルをはじめとする武器類は、300年ほど前に始まって100年ほど続いた内戦においては農兵とかが使うものになっていった。
今のドワーフの金属加工に携わる者達は製鉄そのものか、よほど特殊な加工品か、250年ほど前に伝わった銃や大砲生産に従事している者が大半となっている。
銃製造や大砲生産では、元の鉄の質の差からいって負けはしないし、そもそも銃はともかく、この国の人間族は大砲はまだ銅でしか作れないとのことでした。
そして魔獣退治に関しては、貴重な技術職が多くて免除はされているが、一度魔獣が現れれば武器を持ち、義勇兵として馳せ参じるそうで、ツノダ女史も大変頼りになる皆様方ですと申しておりました。
その後、私は貴重な時間を割いてあって頂いたお礼を述べ、我が国のウィスキーを3本進呈したところ、大変真剣なまなざしでそれを見つめられた後、この場で飲んで良いかと尋ねられたので、グラスを渡しましたところ、大変気に入られて、輸入できるかどうか真剣に問われていました。
なので、公使館に戻った後に公使閣下に許可を頂いて公使館の在庫の一部、1ダースほどを後日追加で進呈すると大変喜ばれていました。
オルクセンのドワーフ族同様、秋津洲のドワーフ族も大変お酒が好きなようです。
ちなみに香辛料に関してですが、やはり秋津洲のドワーフ族も大変好んでいるそうです。
以上が今回の報告となりますが、先生。
最近の突如としたエルフィンドとオルクセンの関係悪化、一体どうしてなのでしょうか?
エルフィンドとオルクセンが争ったのは既に100年以上前のこと。
その間、小競り合いもなかったというのに不思議でなりません。
確かに両国間には国境を面しているというのに外交関係は全くなく、そもそもエルフィンド自体が我が国以外との外交関係構築をおこなっていないというのもありますが、この様な短期間での急激な2つしかない魔種族国家である両国の関係悪化は何者かの強い意志を感じます。
星欧の地図を塗り替えるべく第三国が暗躍しているのでしょうか?
心配でなりません。
それでは先生、そろそろ恐ろしい夏を迎えるであろう秋津洲より失礼させて頂きます。