秋津洲国における魔種族、魔獣報告   作:koe1

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要はネタばれ注意。



-秋津洲国における魔種族、魔獣報告 三十通目-

親愛にして尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。

 

 

いよいよ秋津洲は夏を迎えましたが、最初の年のような地獄のような湿度と暑さは今のところ訪れていません。

もちろんキャメロット本国に比べれば大変な湿度と暑さに見舞われているといえますが、赴任初年度の暑さに比べれば、現時点では冷涼とすらいえる夏です。

そしてその様な夏を迎える少し前、既に3週間ほど前ですがタシロ氏は秋津洲軍と共に北方諸島探検に旅だって行かれました。

ただ秋津洲の船舶保有数の都合、1回では予定している部隊全てを輸送しきれないそうで、4回ほどに分けて軍を輸送し、徐々に捜索範囲を広げ、同時に測量を実施していくとのことです。

なお軍やタシロ氏だけではなく、伝承からは意思疎通はほぼ不可能と推測されている、生息が噂されているゴブリン族とおもわれる魔種族との意思伝達がとれるのではないかという淡い希望を抱いて、魔術による意思伝達が出来る犬系コボルト族が20頭ほどに、彼らコボルト族の護衛をかってでた巨狼族が5頭ほど。

さらにゴブリン族と思われる魔種族と意思疎通がとれ、皇帝陛下に使えると宣誓した場合に備えてジンギカンに属する魔種族の高級官僚が・・・狐系コボルト族が1名ほど今回の第一陣に同行しておりました。

もちろん探検であるので、タシロ氏以外に博物学者や記録撮影のための写真技師、さらに剥製師も同行しております。

 

ちなみに今回の秋津洲国の北方諸島探検に関し、道洋にも触手をさらに伸ばしつつあるロヴァルナに対して牽制になると判断したらしい我が国の外務省の後援により、王立地理協会と我が公使館が共同でタシロ氏にオルクセン製の最新型プリズム式双眼鏡をプレゼントしました。

先生ならばプリズム式双眼鏡のことはご存じでしょうが、お恥ずかしながら私はその存在を知らず、タシロ氏が出発する港で彼に私と一緒に見送りに来た公使閣下自らタシロ氏に双眼鏡を手渡したとき、私は最初は少し大きめのオペラグラス・・・小型の双胴式望遠鏡かと思っておりました。

タシロ氏は単胴式望遠鏡の存在は知っていたものの、倍率は低くとも双胴小型化したオペラグラスのことは知らなかったようで、嬉しそうにそれを覗いた瞬間、変な声を・・・秋津洲語が理解できない私ですら変な声と理解できる声を上げました。

その証拠にタシロ氏と一緒にいらした派遣される秋津洲軍の士官達もタシロ氏の方をみて驚いていました。

タシロ氏はもう一度覗いて辺りをぐるりと見た後、通訳氏を介して『これは一体何なのでしょうか?』と公使閣下に大変真剣なまなざしで尋ねました。

つい私が公使閣下が答えるより速く『そのオペラグラスがどうかされたのですか?』と尋ねると、言葉はわからずとも事情を察したタシロ氏は私にオペラグラスを・・・双眼鏡を手渡したので、私もそれを覗くと大変恐ろしい倍率でした。

諸般の事情で利用したことのあるオペラグラスの比ではない倍率でした。

過去に利用したことがある双胴式望遠鏡に匹敵する倍率でした。

さらに双胴のため、単胴の望遠鏡に比べると大変に視野が広いものでした。

そしてこの・・・後に公使閣下よりプリズム式双眼鏡と教えられた物の真の恐ろしさはその軽さと小ささでした。

過去に使ったことのあるこれと同じ程度だったと思われる倍率の双胴式望遠鏡は倍以上重く、4倍近くの長さがあった憶えがあります。

倍率だけでいえば単胴式や双胴式の望遠鏡で上回る物はあるでしょうが、この軽さと大きさでこの倍率というのはただ恐怖といえる物でした。

実際、タシロ氏と私の反応をいかぶった秋津洲軍の士官達もタシロ氏からプリズム式双眼鏡を借り、それを覗いていきますとその軽さと大きさからは信じられない倍率に大変驚き、通訳氏を介し、失礼ながらとタシロ氏と公使閣下に詫びた後、価格がどのぐらいするのかと公使閣下に尋ねられした。

公使閣下はだいたい私の3~4ヶ月分の俸給全にあたる金額をお答えになりました。

その金額は最新型の小型化した写真機よりは安かったですが、俸給の根本的な差や為替差もあるためでしょうが、通訳氏曰く秋津洲軍士官の俸給に換算するとほぼ1年分という金額に、秋津洲の士官達は皆が皆、絶望的な顔をされていました。

間違いなく買える金額ならば、少々の無理をしてでも買おうとされていたのだと思われますが、あまりの高価格に絶望されたのだと思われます。

そのプリズム式双眼鏡をタシロ氏は宝物のように大事に持ち、乗船していきました。

タシロ氏曰く、もしゴブリン族と思われる魔種族と意思の疎通がとれた場合は必ず連れて帰ってくることを、意思の疎通が一切とれず、討伐するしかない場合は同行している写真技師に必ず記録写真を撮ってもらうことや、可能ならば剥製にしてくるを約束してくださいました。

もちろん未知の魔獣が生息していた場合も同様だそうです。

どんなに早くとも戻るのは今年の初冬、可能ならば現地で越冬するので来年以降となるそうですが、もし本当にゴブリン族が未だ絶滅せず生息しているのならば、星欧諸国では・・・魔種族研究家の間では大変な驚きを持って迎えられると思います。

 

そして先日、オルクセン公使館にてコボルト書記官殿と魔種族に関する情報交換をした際、秋津洲の北方諸島に生息しているかもしれないゴブリン族や探検に行かれたタシロ氏の話となり、オルクセン製のプリズム式双眼鏡の話にもなりました。

そして私がワイバーンに乗ったときの体験や、リュウシ達に教えられた彼らの任務の1つに地上観測があることを話すと、彼は少し考えた後『その・・・リュウシ達は地上はどうやって観測しているのだろうか?』と尋ねられたので、私は『肉眼でした』とだけ答えました。

私はそう答えながら、ワイバーンの背でそのプリズム式双眼鏡を使うのならば、その小ささや軽さ、倍率と視界の広さからから観測が凄く楽になるのではないかと考えていました。

リュウシ達が単眼の望遠鏡すら使っていないのは、大きさの割に倍率がさほどでないこと、さらにワイバーンに移動速度の速さと望遠鏡の視界の狭さから観測がしづらいので肉眼での観測を選んでいるからだろうと想像しました。

なお翻訳が進んでいるワイバーン教本には地上観測の方法について望遠鏡の使用については一切記されていませんでしたが、他には色々と記されていました。

公使閣下やヴァイス少佐殿、副官殿達から『ワイバーンに関してはオルクセン側から明瞭に尋ねられない限りは可能な限り回答しないように。ワイバーン教本をプレゼントされていることについても聞かれない限りは触れないように。ただオルクセンがリュウシと接触したりするのを妨害する必要はない。もし見学の仲介を依頼された場合は仲介してもよいし、彼らが私達が持つ教本をプレゼントされそうになったとしても妨害しないでいい。ただ翻訳は一切手を貸さず、彼ら自身の手によっておこなってもらうように。ワイバーンに関してはあくまで受動的な立場に徹して欲しい。そして可能な範囲で大鷲族について聞き出して欲しい』と言われていたので、私も外交官の端くれですので友好国とはいえ質問されたこと以上については話しませんでした。

コボルト書記官殿は少し考えた後、もしオルクセン公使館がプリズム式双眼鏡をリュウシ達に贈ったら受け取って頂けるだろうか?と尋ねられたので、私は実際に贈ってみないとわかりません。とだけ答えました。

その日はワイバーンに関する話題はそれだけで終わったのですが、数日後オルクセン公使館よりワイバーン部隊の見学への仲介依頼が来たので、公使閣下とヴァイス少佐殿の許可を得てからツノダ女史に連絡を取ると快諾して頂き、オルクセン公使館に連絡したところ、一昨日が出発日だったのですが、オルクセン側は予想外にも公使閣下や公使夫人も含めて、コボルト書記官殿やオーク族の駐在武官殿も含めた御一行でした。

今回の見学に関して私達キャメロット側は、私の他にも公使閣下やヴァイス少佐殿に副官殿以外にも今回は公使夫人も共に行かれました。

通訳氏や護衛の騎馬警官隊、そして騎乗でついてきてくださっているツノダ女史と共にその日の夕方には前回も訪れたクウバに到着し、イタガー中将殿達に出迎えられました。

 

翌日、早速ワイバーンの見学となりましたが、正式に皇帝陛下直轄の秋津洲軍に編入されたためか、ワイバーンだけではなく気球も管轄するようになり、イタガー中将曰く『ワイバーンと気球は観測という任務は同じであるが、使い勝手が違うし、そもそもワイバーンの数がまだ少ない。なので気球も管轄に組み込んで併用して運用研究をおこなっている。さらに敵部隊が気球を使って観測している場合の妨害方法研究も開始する予定である。先進国である星欧諸国に我が国も早く追いつかねばならない』と述べられていました。

オルクセン側は、犬系コボルト族のリュウシ2頭ずつ乗せて空に駆け上がっていくワイバーンを見て、国民に空を舞う大鷲族が居るにも関わらず、呆然といった様子で眺めていました。

なお彼らから先日頂いた翻訳が進んでいるワイバーン教本にはワイバーン2頭ずつで1組を作るのが基本だと記されていました。

過日の野生のワイバーンに襲撃された際の飛行は何らかの事情で、少々運用方法が違っていたのではないかと思われます。

実際、ワイバーンパレートの際の確認できた限りの総数は10頭という2で割りきれる数でしたので。

 

ある程度のパレード飛行が終わった後は体験騎乗となり、まずコボルト書記官殿と我が公使閣下がワイバーンの背に乗り、空に上がっていきました。

前回の野生のワイバーン襲撃の反省からか、先に4頭のワイバーンが舞い上がり、さらに望遠鏡と信号喇叭や信号手旗を持った人間族の兵2人が乗った気球も上がっていき、周辺の警戒をされているようでした。

私はイタガー中将殿の副官であると紹介されたノルギ少佐殿に、通訳殿を介してあの気球の今回の役割は何でしょうか?と、おそらく周囲の警戒のためと感じつつもお尋ねすると、やはり周辺の監視だそうでした。

本来の気球の任務は地上監視だそうですが、今回は将来的な運用研究もふまえて、野生のワイバーン監視のために望遠鏡と信号手旗、信号喇叭、そして鏡で光を反射することによって信号を送る信号鏡をもっているとのことでした。

気がつくとツノダ女史も隣にいらっしゃり、オルクセン一行はかなり真剣に観測・・・見学ではなく観測といった方がふさわしいほどワイバーン達に見入っている様子だと教えてくださいました。

私は時折地上に向かって手を振っている公使閣下やコボルト書記官殿を眺めつつ、イタガー少佐殿に『望遠鏡は周辺監視のためだとわかるのですが、信号手旗や信号喇叭、信号鏡はどうして持っているのですか?』とお尋ねすると、ノルギ少佐殿は地上やワイバーンとの連絡のためと教えてくださいました。

ただ地上との連絡については信号手旗や信号喇叭、信号鏡で何とかなるものの、どうしても空を早く飛んでいるワイバーンとの通信がとりにくい。

喇叭の音は距離が遠かったり、近くても風の音で聞こえない。

手旗や信号鏡はそもそもワイバーン側の移動速度が速すぎて信号が見える範囲からすぐに外れてしまい、芳しくない。

ならばと気球に乗っている信号手をワイバーンの居る方向に向けて常に移動させながら反射信号や手旗信号を送るという方法は、気球の籠が狭すぎて動きが取りづらく、さらに動きながらの発信は信号手の技量の差が激しく、全体的には現時点では困難だとのことでした。

私は何気なく『ならば気球にも魔術による意思疎通がとれるコボルト族を乗せれば・・・』と言い出しそうになりましたが、コボルト族による魔術による意思伝達ができる距離は1と1/2マイル程ということと、先日私が野生のワイバーンに襲われた位置はこのクウバから3マイルほど離れていた位置だったので、私の前にいたリュウシである犬系コボルト氏と地上にいたツノダ女史との間で、オニ族の強力な魔術による意思伝達ができるツノダ女史からの一方的ではあるものの指示ができましたが、コボルト族が魔術による意思伝達がお互いにとれる距離である1と1/2マイルほどでは、地上と空の上を飛び回るワイバーンに乗るリュウシとのやりとりは困難だと気づき、口に出すのをやめました。

しかし次の瞬間、この前のように伝えるだけで良いのでは?別に会話する必要はないのでは?と思いつき

『遙か遠距離に魔術による意思伝達が可能であるオニ族に地上にいてもらい、気球からの情報をオニ族が受け取り、それを魔術により意思疎通によって遠距離にいるワイバーンの背に乗るリュウシに伝えるというのは如何でしょうか?もちろん一方的に伝えるのみで、リュウシ側に伝わっているかはわかりませんし、伝わらない場合もあるでしょうが、現在のように一度空に上がってしまうと、一緒に飛んでいるリュウシ同士での魔術による意思伝達やハンドサイン以外での情報のやりとりが出来ないのに比べますとよいのではないでしょうか?最善はオニ族に気球やワイバーンに乗ってもらうことでしょうが、さすがににそれは無理でしょうし』

と思ったことをそのまま口に出しますと、ツノダ女史に私の言葉を通訳した通訳氏、そして通訳氏からそれを伝えられたノルギ少佐殿の3人は私の顔をじっと見た後、ノルギ少佐殿はオルクセン公使閣下達と共にいるイタガー中将殿の元に走って行かれました。

私は何かまずいことを言ってしまったのかと思うと、ツノダ女史は私の手を取り『素晴らしいご提案です!流石は星欧でも名高い魔種族研究家のお弟子であらせられる!』といってくださり、通訳氏も頷いていました。

その後、流石オーク族であるオルクセン公使閣下や夫人、駐在武官殿はワイバーンに乗ることは出来ませんでしたが、我が公使夫人やヴァイス少佐殿や副官殿達も、我が公使閣下同様再び空を楽しんでおりました。

そして私の隣では、臨時で地上連絡役のオニ族の役目をかってでたツノダ女史が、気球からの手旗信号や信号喇叭、信号鏡による反射、そして気球から落とされる筒に入った手紙等の内容を空にいるリュウシに伝えるという実験も平行しておこなっていました。

ツノダ女史曰く『体重の軽い子供のオニ族をワイバーンに乗せる手もありますね・・・』と、ウシオニ退治の時に見たような真剣この上ない顔つきで仰っていました。

 

ワイバーンへの体験騎乗の後は、私達はクウバの各施設の案内をして頂きました。

馬用の厩をそのまま巨大化させたワイバーン達の厩や、池にしかみえないワイバーン達を洗うための水場、ワイバーン用の鞍や武器などのリュウシ用道具の整備場や鍛冶場、リュウシ達や厩番達の食堂、さらには餌用の家畜の屠殺場まで見学させて頂きました。

リュウシや厩番のコボルト族曰く、ワイバーンは新鮮な肉しか食べないので私達もそのおこぼれに預かり、肉を沢山食べられるとニコニコしながら言っておりました。

翌日の帰りの馬車ではコボルト書記官殿と同乗してワイバーンの話題等で盛り上がったのですが、不自然なほど、オルクセン国民で飛行能力がある大鷲族について触れていませんでした。

公使館に戻りました後、公使閣下とヴァイス少佐殿にコボルト書記官殿とのやり取りについて報告しましたが、御2人とも何かを考えている様子でした。

 

そしてオルクセンとエルフィンドの関係ですが、昨日本国から届いた緊急電信にてオルクセンにおいて亡命闇エルフ族のみで編成された騎兵部隊の披露パレードが実施されたとのこと。

さらにその新設された闇エルフ部隊に、今まで警官のみで警備していた王宮の警備まで任せたとのこと。

私はそういったこともあるのか程度でしたが、公使閣下とヴァイス少佐殿、副官殿は異常な事態だと述べておりました。

公使閣下とヴァイス少佐殿達曰く、移民や亡命者が国への忠誠を示すために軍に志願することは近年多々あるそうですが、同族のみで編成され、しかもその部隊が即日王宮警備の任を与えられるのはあり得ないと。

魔種族に関することなので会議に呼ばれた私も、軍事的知識は皆無ですが、貴族家の一員としての感覚で考えますと、新しく雇用した紹介のない見知らぬ者を、家令とまでは言いませんが、日ごろ自身の身の回りの世話をする執事とするようなあり得ないことだと感じました。

公使閣下とヴァイス少佐殿より闇エルフ族とオルクセン王国間に何かつながりがあるのか?と尋ねられましたが、先生ならば何かご存じでしょうが、私の知識ではそのようなものはなく、秋津洲赴任の際に本国より持ってきましたエルフィンドに関する資料にもこれといったものは記されていませんでした。

ただ唯一記されていた闇エルフ族とオルクセン王国の関係は、100年以上前のオルクセンとエルフィンド間の戦争において闇エルフ族部隊も交戦した程度だけでした。

 

 

実は本日、その件についてと明示されたうえでツノダ女史に皇帝居城に、珍しく公式な秋津洲政府の召喚状にて召喚されました。

オルクセンとエルフィンド間に関する件と召喚状に明記されていたことと特に人員制限がなかったこともあり、なぜか私服の公使閣下とヴァイス少佐殿も、公使閣下用ではない格の落ちる馬車で同行され、ツノダ女史に面会しました。

ツノダ女史は公使閣下達の同行を予想されていたのか、挨拶のみで何も言わずに私達を部屋に案内し、不思議なことにドアを開けたまま話をされようとしたその時、なぜか皇帝陛下にサーゴー大将殿が通訳氏を連れて通りかかりました。

皇帝陛下にサーゴー大将殿はツノダ女史と少し話をされてから部屋に入られて、ドアを閉めました。

通訳氏いわく『偶然通りかかったところ、大変興味深い話をされるとのことで、是非ともご一緒させて頂きたい』とのことでした。

私は大変驚き、ヴァイス少佐殿は少し驚かれていましたが、公使閣下は予想していたようでまったく驚いた様子はありませんでした。

 

まず私が闇エルフ族とオルクセン王国間には過去においては特につながりがないことを説明しました。

続いてヴァイス少佐殿が、星欧の常識でも移民や亡命者のみで軍部隊が編成されることはなく、キャメロットの植民地軍でも指揮官は本国人で、現地人は下士官までであること。

さらに王宮警備という最重要任務につけることはあり得ないことを説明しました。

通訳氏がそれを皇帝陛下とサーゴー大将殿に伝えると、御2人は何かを考えられている様子でした。

再び私が闇エルフ族について説明しました。

白エルフ族と比較すると圧倒的少数種族であること。

白、闇両エルフ共に長い突耳を持つが、白エルフ族の肌は白く、闇エルフ族の肌の色は濃いこと。

体格としては白エルフ族のほうが細いこと。

闇エルフ族はエルフィンド南部のオルクセンとの国境地帯にあたるシルヴァン河に沿うような森林山岳地帯に居住していること等を説明した後、白、闇両エルフ族で最も重要なことを…白、闇両エルフ共に女性のみで構成される種族で男性は存在せず、彼女たちの生活域にある聖なる白銀樹の根元で前触れもなく赤子の姿で発見されることを説明すると、皇帝陛下とサーゴー大将殿、そして通訳されている通訳氏は驚かれている様子でした。

最後に公使閣下がキャメロットとエルフィンドは伝説上で繋がりがあり、そのため現在唯一エルフィンドと外交関係を結んでいる国であり、ほぼ唯一の大規模貿易国であることを説明されました。

 

皇帝陛下、サーゴー大将殿、ツノダ女史の3人は何かを考えている様子で、しばらく無言でしたが、サーゴー大将殿が突然『もしオルクセンとエルフィンドが不幸にも戦争状態になった場合どちらが勝つと思われるか?』と今まで見たことがない、無表情ともいえる顔つきで質問されました。

私達キャメロット側の3人は立場上回答することができず無言となってしまいましたが、突然公使閣下が『失礼ではございますが酒はありますかな?』と仰り、私はなぜそのようなことを急に仰られたのか理解できませんでしたが、ツノダ女史が無言で立ち上がり、室内の棚からワインと通訳氏分も含めたグラスを持ってきて全員にグラスを渡し、ワインを注いでくださいました。

公使閣下はそのワインを一息で飲まれ『これは仕事に疲れた元王立海軍軍人の酒に酔った上での戯言にございますが…』と仰い、それを通訳氏が秋津洲語に通訳しますと、私とすでにグラスを空にされております公使閣下以外の皆様もワインを一息で飲まれ、それを見た私も慌ててワインを飲みました。

私がワインを飲んだのを見た皇帝陛下は通訳氏を介し『ここにいる皆は全て酒に酔っている』と仰いました。

公使閣下はご自身で運んできた小さめのトランクを開け、一冊の本を取り出し『これはメリー海軍年鑑という、毎年発行されます世界各国の軍艦を余すところなく掲載しましたものです。もちろん秋津洲海軍の船も載っております』と説明しながらページを捲っていき、とあるページで指を止め、そのページを皇帝陛下達の方にお見せしました。

ツノダ女史がそれを読み上げ、最後に通訳氏が何事かを付け足すと、皇帝陛下とサーゴー大将殿は感嘆のため息をされました。

『我が国がエルフィンドの注文により建造したリョースタ級装甲艦。この船をエルフィンドはリョースタとスヴァルタの2隻を保有しております。そして星欧各国海軍ではこの2隻はオルクセン海軍が全滅を賭しても沈めることができないと判断されております。つまりエルフィンドの海軍戦力はオルクセンの海軍戦力を圧倒しており、オルクセン海軍の勝利はあり得ない』と静かに言われました。

今度は通訳氏がそれを皇帝陛下とサーゴー大将殿に通訳し、ツノダ女史は全員分のワインのお代りを注がれていました。

公使閣下は再び一息で飲まれますと『大変おいしいワインですな』というと、ツノダ女史は『オルクセンのモナート産のものでございます。ワインだけで嗜むのならばこれだと思いまして。何せ女性は甘いものを好んでおりますので』と微笑みながら仰り、優雅にワインを飲まれました。

公使閣下は再び口を開き『ただ私の個人的な意見ですが、勝利とは絶対ではございません。オルクセン海軍がエルフィンド海軍を撃破するのは不可能ではないと考えております。もちろんそれは困難ではありますが。オルクセン側が我が王立海軍が常に求め、おこなうような正面からの艦隊決戦を避け、想像もつかない別な方法での勝利を目指す可能性もございます。この私がこの国の西で船を沈められましたように』。

続いてヴァイス少佐殿が喋り始めました。

『酔っている休暇中の陸軍軍人の独り言でございます。エルフィンド陸軍の火器のほぼ全ては我が国が輸出した優秀なものばかりです。装備面ではオルクセンとほぼ互角だと判断いたしますが、総戦力は両国の推定人口から判断いたしますとオルクセンが圧倒いたしております。しかしオルクセンはその国境線をグロワール、アスカニア、ロヴァルナ等と接しており、国境を接しているのがオルクセンのみのエルフィンドは全兵力をオルクセンに指向できますが、オルクセンは周辺国を警戒する必要があるためにそれはできません。さらに大規模兵力動員には数か月はかかります。当然エルフィンドもオルクセンも相手国の動員を察知すれば、対抗して兵力動員の動員を開始し、国境地帯への兵力展開、警戒体制構築を実施することは間違いなく、オルクセンとエルフィンドの国境であるシルヴァン河を渡河し相手国へ早期に侵攻するのは困難と考えております』と話した後、ワインをまた口にし『ただ私としましては…ここ秋津洲での最後の魔種族と人間族との武力衝突のことを考えますと不安が頭をよぎります。オルクセン、もしくはエルフィンドが私達人間族からすると不可能な、魔法を使ったようなありえない速さで動員を完了し、相手国へ迅速に侵攻するのではないかと』。

それを聞いたツノダ女史は大変美しく微笑まれますと『あの愚か者を滅ぼしたのをそのように高く評価してくださいますとは、命を下したものとしては大変うれしゅうございます』と仰り、私、公使閣下、ヴァイス少佐殿の3人は大変驚きました!

まさかこのような形で魔種族の永遠ともいわれている寿命の長さを体感できるとは思いもしませんでした!

そのツノダ女史の言葉を通訳氏が秋津洲語に通訳されると、サーゴー大将殿が咳ばらいをされました。

皇帝陛下は何とも説明しがたい表情をされておりました。

ツノダ女史は『これは失礼いたしました』と皇帝陛下とサーゴー大将殿にキャメロット語で謝罪をされました後、私達の方に向き直し『ただあれは魔種族としての力は僅かでございました。永い永い時をかけて私達魔種族が準備し、維持していたものをほんの少しだけ利用した結果にすぎません。おとぎ話にあるような道術を使ったわけではございません。命を下した者として最後まで心が安らぎませんでした。もしあの愚か者どもに気が付かれ、待ち伏せされているのではと考えますと本当に心が安らぎませんでした。しかしそのようなことはなく、あの愚か者どもを滅ぼすことができました』と、大変美しい笑顔で仰ったツノダ女史の顔をみて、今までツノダ女史に一度も感じたことがなかった恐怖を心の底から感じました。

 

その後、さらに星欧情勢に関する雑談を少しした後、皇帝陛下とサーゴー大将殿はツノダ女史との『雑談』の邪魔をしたことを詫びられた後、ツノダ女史と通訳氏を残し退室されました。

私達はもう少しだけ雑談を、本当に何気ない雑談をしました後、皇帝居城を辞しました。

 

帰りの馬車の中で私は公使閣下とヴァイス少佐殿に『このようなことになるのを予想されていたのですか?』と尋ねますと、まずヴァイス少佐殿は『軍の高官はいらっしゃるとは思っていたが、皇帝陛下と大将閣下がいらっしゃるのまでは予想していなかった』と答え、公使閣下は『大将殿は予想していたが、さすがに皇帝陛下は予想していなかった。だが公使として驚いたところを見せるわけにはいなかったので、平然としたふりをしていた』と、冗談ぽく言われました。

そして公使館に馬車が到着するまでの間、上級外交官の心得について公使閣下自らご指導を受けました。

 

先生、オルクセンとエルフィンドはどうなってしまうのでしょうか?

ヴァイス少佐殿曰く、最悪の場合数年以内に戦争になるのではないかと仰っていました。

本当にオルクセンとエルフィンドはどうなってしまうのでしょうか?

私は心配でなりません・・・

 

それでは夏盛りの秋津洲より失礼させていただきます。

 

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