秋津洲国における魔種族、魔獣報告   作:koe1

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web版完読者並びに、11月13日現在販売済み小説版、コミック版読破済み者以外は閲覧注意。
要はネタばれが一部でています。


-秋津洲国における魔種族、魔獣報告 三十一通目-

親愛にして尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。

 

 

 

先生、一体何が起きたというのでしょうか?

この道絶である道洋にて産声を上げたばかりの小さい近代国家ですら大変な騒ぎとなっております。

約3週間ほど前に突如としてオルクセンがエルフィンドに対して、宣戦の布告から僅か2時間後に奇襲攻撃をおこない、エルフィンド海軍主力は壊滅。

国境線近くの重要拠点も制圧。

さらに両国とも民間人が居住している町に対して容赦のない攻撃を加えているとのこと。

もちろん一部の情報は誤っているものもあるかと思いますが、先生、本当に一体何が起きたというのでしょうか?

 

ここ秋津洲でも政府は大変な騒ぎとなっています。

戦火という意味ではこの世界において最も遠い場所の1つなのでしょうが、星欧各国が中立を宣言しているとはいえ、星欧主要各国に外交的余裕が無い今、星欧で条約破りの常習者といえるロヴァルナに対して秋津洲政府は、道洋において積極的軍事行動を起こすのではないかと大変な警戒をしている様子です。

実際公使閣下も、オルクセンとエルフィンド開戦以降、ずっと狼狽している政府のとある高官・・・過日のウシオニ騒動の際に皇帝陛下や皇后陛下の旧首都への避難を唯一主張した政府高官が、3日おきぐらいに公使閣下を『一個人の要望』として召喚し、道洋にてロヴァルナが何か軍事行動を起こした際のキャメロットによる安全保障行動を繰り返し要求しております。

正直、政府でもない『一個人』としての要求に対しては、公使閣下は何も答えることが出来ないのは当然で、流石に3回目の召還の後は公式に秋津洲政府に対し、政府に属している一個人による勝手な要求に対する抗議文を手渡す自体となりましたが、それでも召還してくるので、公使閣下としては本国より『オルクセン公使館に積極的にに接触し、情報収集の強化をせよ』という訓令が来ているこの忙しい状況にとぼやいております。

なおツノダ女史を経由して、皇帝陛下並びに交流のある政府並びに軍高官から複数の非公式の謝罪を受けており、それらを要約すると『ご迷惑をおかけして大変申し訳ないが、何とか止めようとしているが止められない』とのことです。

その政府高官はこの秋津洲の現政権が前政権より政権を奪取した際において、大変大きい功績があるため、皇帝陛下ですら止めようがないとのことです。

ただ皇帝陛下、ツノダ女史や各政府軍高官達が非公式の謝罪文で記し、我が公使閣下も認めておりますが、その高官が臆病とか卑怯、そして自己保身のみを図って我が公使閣下に色々と要求をしているのではなく、純粋に秋津洲という国家のことのみを考えているのは間違いないと思われます。

実際に武力衝突には至っていませんが、外交的衝突を繰り返している我がキャメロット以外に現時点の道洋においてロヴァルナに対抗できる勢力が存在しないという事実もあります。

さらに我が国の道洋における最大拠点は華国にあり、それらはロヴァルナの道洋の拠点から離れており、前進拠点として秋津洲が大変重要であるという事実もあります。

そのため公使閣下としても無碍にできないという政治的事情も存在しているようです。

 

話しを本来の私の役目である先生への秋津洲における魔種族魔獣報告に戻します。

まず秋津洲北方諸島探検に同行しているタシロ氏は未だに戻ってきておりませんが、手紙は一度到着し、現地では大変苦労していることが記されていました。

港湾が整備されていないため、物資の運搬や備蓄にも苦労しているそうです。

その様な中でゴブリン族と思われる種族と、既に戦闘を数回おこなっているようです。

言語的に近いのではと推測した秋津洲北方巨島の東部に住む人間族や魔種族を雇って北方諸島に来てもらったり、さらにこちらから軍に同行していったコボルト族が考えられる限りの意思疎通を試みたそうですが、やはり全く意思の疎通がとれないそうです。

タシロ氏曰く、秋津洲の伝承にある通り、言語らしいものは有しており、同族間での意思疎通に関しては問題ないようだが、こちら側とは全く意思疎通が出来ない。

とはいえ魔獣というわけではなく、粗末なものとはいえ一部は鉄製の武器を使い、ボロ布と変わらないが衣服を纏い、火をおこして調理に使い、建築物を作る能力もあり、最低限度の意思疎通・・・降伏の際は武器を棄てることをすることから、魔種族であることは間違いないと現地では判断しているそうです。

ただその場で降伏しても、警護の兵が少なくなると素手でも反抗を始め、武器を奪い、再度襲いかかってくるため、もはや族滅しかないと同行しているジンギカン高官の狐系コボルト氏が決を下したそうです。

ちなみに現時点で鍋等の調理器具や、焼き物や木製の食器類は発見できていないとのことです。

 

なお剥製等は届いておりませんが、タシロ氏より届きました手紙の内容と同封されていた写真からですと、そのゴブリン族と推測されている魔種族の身長は3~4フィート前後と背の低い方が多い秋津洲在住各種族よりさらに小柄。

皮膚の色は緑っぽい色で、鼻が大変高くて2インチ前後で、さらにエルフ族のような突耳を持っております。

これらは星欧各所に伝承として残っているゴブリン族の外観と、我らが信ずる星教の一部宗派において『神の怒りに触れたエルフ族の成れの果て』と数百年前にいわれたという言葉と共に記録されているその外観とほぼ一致しております。

なおゴブリン族の写真ですが、生きている状態を撮影したものはなく、遺体や焼き払う前の住居、武器や生活道具等が撮影されておりますが、手紙によると写真技師は民間人であり、命の危険がある場に連れ出すわけにも行かず致し方ないので許して欲しいと記されておりました。

なお繰り返しですが武器は一部とはいえ鉄製ですが大変粗末なものといえる短剣を持ち、大半が木製や石製の棍棒を持ち、弓は現時点では発見もされておらず、使用された痕跡もないそうです。

これら写真も、私が接写したものを同封させて頂きます。

 

 

そして話しがまたオルクセンとエルフィンド間の戦争に関わるものに戻りますが、電信がこの秋津洲まで既に延びていることや、華国居留地にて発行されている我が国やグロワールの新聞が秋津洲に持ち込まれていることによって、内容の正確性はともかく、ある程度の情報も秋津洲の市民達も把握しています。

当初は人間族、魔種族共に遠い外国の戦争という感覚のみしか持っていないようでしたが、あのおぞましい『レーラズの森事件』が秋津洲の新聞に転載という形で掲載されますと、一部の魔種族が激高。

その激高した一部の魔種族のさらに一部が行方不明になったそうです。

現在ジンギカンが捜索をしているようですが、発見に至っていないそうです。

ツノダ女史曰く、族長級の魔術力を持っている者も行方不明者の中に含まれており、行方不明になる前の各人の言動やこれらが所有していた武器もなくなっていることから、どうもオルクセン軍へ参加する義勇兵として星欧へ向けて旅だったのではないかと推測されているそうです。

なぜか私を相談に呼んだツノダ女史は本当に頭を抱えておりました。

なお行方不明になっている魔種族はオニ族が最低1頭、タヌキ系コボルトが最低でも200頭、最大で600頭だそうです。

彼らが徹底的な偽装工作をしたため、正確な頭数ですら把握できていないそうです。

ただどうもキャメロット語をある程度は話すことが出来る。元騎士の人間族も数名同行しているようで、なぜか私を相談に呼んだサーゴー大将殿や外務大臣殿も文字通りに頭を抱えておりました。

とはいえ本当に義勇兵として旅だったのならば、秋津洲の国内法や国際慣習法の観点からは罰することは出来ず、オルクセン側が義勇兵を拒否し、さらに入国自体も拒否しない限りは、居場所もわからない現時点では秋津洲政府としてはなにもできないとのことでした。

 

 

続いてこれから報告することが、私の秋津洲における最後の魔獣に関する報告になるかもしれませんが、オルクセンとエルフィンドが開戦する一週間ほど前に、ツノダ女史より『今年は近郊でトンボが沢山現れており、トンボ狩りに行きませんか?』と誘われました。

先生もご存じの通り、キャメロットではトンボは比較的珍しい昆虫であり、寄宿舎時代の親友で現在は博物学を専考している友への秋津洲のトンボ標本はよい土産になるだろうと軽い気持ちで了解したのですが、ツノダ女史自らがわざわざ誘ったという理由を、この大変愚かなる弟子は全く考えておりませんでした。

翌日、動きやすい市民服姿で写真機や交換用の乾板を持ち、公使館倉庫の奥に埃を被っていた昆虫採集用網等を用意して、公使館にてツノダ女史を待っていますと、ウシオニ騒動時の様な秋津洲の鎧を身に纏ってカナボウを持ったツノダ女史が、キャメロット語が話せる狐系コボルト氏と通訳氏、いつもの護衛の警官3人が騎乗でやってきて、さらに巨狼族2頭もいました。

しかし大変愚な私は『トンボ採集に行く先に魔獣がでるのか?』としかおもわず、ツノダ女史と『秋津洲という国名は、元来トンボの島という意味で、遙か大昔はトンボが今よりも遙かに沢山住んでおり、かなり大変だったようです』等、秋津洲の伝説に関わるお話を聞いたりし、過去に何度か訪れた首都北方にある河川輸送の拠点の町に到着しました。

過去に訪れたときより住人が多いと感じていると、過去に数回泊まった宿を素通りし、秋津洲兵が立哨している建物に到着しました。

通訳氏曰く、この町の役場だそうです。

そこには既に沢山の軍人やコボルト族が詰めており、大きな地図も用意されており、まるでウシオニ騒動の司令部のようでした。

既に日も暮れていましたが、すぐにこの場の指揮官である少佐殿が状況を説明してくださり、愚かな私が大変な誤解をしていたことがわかりました。

この町と西の大きなジンジャがある町の間にある大きな沼から大量のトンボが発生しており、犠牲者こそ出ていないものの、家畜類に大きな被害が出ているのとこと。

近隣に住んでいた者達は既に警察がこの町に避難させており、警官隊と出動したチンダイ部隊が町の東側に防衛線を構築し、トンボの町への飛来を許していない。

東にさらに行ったジンジャのある町でも防衛線を他の部隊が構築しているが、コボルト族とオニ族がおこなってくれている魔術による意志伝達によると、東側には一切飛来していないとのこと等、現時点では発生源である沼の西側にしか、つまりこの町にしか飛来していないことを説明してくださりました。

先生ならば既にご理解しているでしょうが、秋津洲においてはトンボとは昆虫ではなく魔獣でした。

正確に申しますと、昆虫としてのトンボも当然生息しているのですが、今回に限っては魔獣のトンボでした。

この愚かすぎる弟子を破門なさらないよう何卒お願い致します。

 

翌日、夜明けと共にトンボの発生源である沼を目指して移動を開始しますと、町を出て1マイルも行かないうちに、人間サイズのトンボ達が飛んでいるのが確認できました。

昨日拝見させて頂いた地図で理解はしていましたが、この町から1と1/2マイルほど離れた沼から飛び立っているようで、餌を求めて一番近い町に・・・つまり人間が沢山住んでいる私達がやってきた町に向かおうとしているようでした。

ただ軍や警官隊の激しい射撃に何匹が既に打ち落とされており、地面に落ちたトンボにサーベルや銃剣でとどめを刺して回っていました。

私はその様子をぼんやりと見ながら『これは網では無理だし贈り先は親友ではなく、先生だな・・・』と半ば唖然と感じていましたが、ツノダ女史より『それでは一狩り行きましょう!』と朗らかに言われ、狐系コボルト氏が渡してくれたオルクセン製のライフル銃を持って騎乗のまま進んでいきました。

護衛の警官3人はもちろんのこと、通訳氏もライフルを持っていました。

200ヤードも進まないうちに、ライフルの射程内に一匹の巨大トンボが、私達を横切るような形で現れました。

ツノダ女史より『先手をどうぞ』と言われましたので、騎乗のままトンボに狙いをつけていましたが、引き金を引こうとした瞬間に『あ、これでは当たらない』と、昔祖父に連れられてやりました鴨狩りの時のことを思い出して気がつき、トンボ自体に狙いをつけるのではなく、トンボが飛んでいる少し先に銃を向けて引き金を引きました。

銃声とほぼ同時にトンボが揺れて、地面に落ちました。

全員から歓声が上がり、ついてきてくれていた2頭の巨狼族が走って行き、落ちたトンボに噛みついてとどめを刺しているのがわかりました。

私はこれは大変贅沢すぎる狩猟だなと感じました。

ツノダ女史は初弾命中を絶賛しつつも、少しすねたような顔つきで『手取り足取りトンボ狩りの極意を教えて差し上げようとしていたのに残念です』と冗談半分にいってくださいましたが、散弾でもないライフルで初弾で命中したのは本当に偶然だと私は感じていました。

その私が撃ち落とし、巨狼族がとどめを刺してくれたトンボのところに行きますと、全長は6フィートほどで、羽根回りも含めた全幅は8フィートほど。

胴回りの直径2インチ前後と思われ、頭部と胸部の直径は5インチほどでその口は牙といえるものでした。

とりあえず、写真機で1枚撮影しました後、また沼に向かって進んでいきました。

ツノダ女史曰く、普段は飛んでいる鳥を食べているそうですが、大量発生しますと餌不足に陥り、家畜や人間も襲い出すそうです。

ただ魔獣としてはかなり弱い部類にあたり、普段は人間を襲わないので無視されていて、皇帝居城の堀に住む亀の魔獣の餌として最も利用されているそうです。

ただしヤゴの状態では水に入った人間を襲う場合もあり、水中にいる魔獣に対しては、過日のウシオニのような例外を除いて魔術による探知も出来ないので注意が必要だそうです。

 

その後も100ヤード前後進む度にトンボが射程内に入ったので発砲し、命中したり外れたり、命中しても落とすことが出来ず、怒り狂ってこっちに飛んできたトンボをツノダ女史がカナボウの一振りで地面に叩き付けたりしている内に、発生源と説明された沼に到着しましたが、沼の様子をツノダ女史が見た瞬間、先ほどまでの散歩といった雰囲気は消え失せ、ウシオニ騒動の時のような雰囲気に切り替わり、『急いで戻ります!』と言い、全員が沼から離れ、元来た道を戻っていきました。

騎乗のままこめかみに指を当てるという魔術による意思疎通の姿勢を取っていたツノダ女史に率いられた私達一行は町近くまで戻りますと、ツノダ女史は私に向かって『トンボ狩りはこのぐらいにして引き上げますか?もちろん首都までは私達が護衛としてつきます』と仰ってくださいました。

私はそれに対し『つまりトンボの大量発生ではなかったわけですね?』と尋ねますと、ツノダ女史はその大変美しい顔を少し歪め『はい。大量発生ではなく・・・超大量発生でした・・・私もあそこまでの数は初めて見ました』と言いました。

私は先ほどみた、大量のトンボが水面間際を飛び交い、それ以上の数の巨大なヤゴが池から上がって羽化しかけている様子を思い出しつつ、流石に魔獣慣れした秋津洲の基準でもあの数になると超大量発生なのかと理解しました。

気がつくと、ウシオニ騒動の時のように、秋津洲の粗末な鐘が乱打されている音が耳に聞こえました。

 

15分もしないうちに昨日お会いし、今日の朝も見送ってくれたこの町の防衛部隊の指揮官である少佐殿が慌てた様子で騎乗でやってきて、ツノダ女史との打ち合わせを始めました。

10分ほどで打ち合わせを終えたツノダ女史は、再び魔術による意思伝達をする姿勢を取りました。

そしてその後は、私達も協力して3時間ほど段々と数を増して飛んでくるトンボたちを撃ち落とし続けました。

警官や兵士だけではなく、猟銃や古式然としたマッチロックガン、さらにはサーベルや槍をもった義勇市民も駆けつけて町を守るために戦いに加わっていました。

たまたまタイミングが合い、一斉射撃状態となりますと回りは凄まじい白煙に包まれましたが、風が適度に吹き続けており、その場にとどまることがなく、すぐにうっすらと漂う程度の煙に包まれている程度に収まりました。

もし風が吹いていなければ視界は妨げられどうなったかは想像もしたくありません。

時折、射撃を潜り抜けて兵士や警官を襲おうとするトンボもいましたが、巨狼族が飛びかかって腹部付近に噛みついて墜とし、その落ちたトンボを兵士や警官、市民達が銃剣や銃尻、サーベルや槍ででとどめを刺したり、ツノダ女史が襲われそうな兵士や警官の元へ猛烈な速さで駆けよってカナボウの一撃でたたき落としていました。

そうしている内にツノダ女史と少佐殿がまた打ち合わせを始めた後、警官と義勇市民を町の守りに残し、軍部隊と私達は前進を開始しました。

おもちゃのような前装式砲・・・ウシオニ騒動の時に何門もみた大砲も4門ほどもついてきました。

途中でもトンボたちの襲撃を受けつつも前進していきますと、ようやく沼の近くまで到着しました。

そこで部隊は前進を止めました。

沼までの距離は1/2マイルほどだったと思われます。

その場で大砲が発射の準備をし、我が国陸軍の精鋭兵が如くの速さで沼めがけて撃ち始めました。

沼の上で砲弾が静かに炸裂している様子から榴弾ではなく榴散弾のようでした。

少ししますと、沢山のトンボたちがこちらめがけて飛んできました。

すぐに私や通訳氏、護衛の警官、狐系コボルト氏も加わり、猛烈な射撃を加え、時折射撃を突破して噛みつこうとしてくるトンボたちをツノダ女史や、2頭居る頼もしい巨狼族、そしてサーベルと拳銃を持った士官達が叩き落とし、兵士達を守っていました。

あまりの数に撃ち落としたトンボにとどめを刺すのは後回しにされました。

それでもとうとうその数に撃ち落としきれなくなりかけたところで、私より後方にいた兵士が何ごとかを叫びました。

その声は幾人もの兵士があげている複数の声でした。

私は後ろからもトンボたちが現れたのか!と感じましたが、隣にいた通訳氏が『味方が来ました!』と射撃音に負けないような大きな声で私に伝えてくれました。

私はとっさに後ろを振り返りそうになったところで、自分に影がさしたのに気がつきました。

私は頭上にトンボが来た!と慌てて前を向きなおライフルを空に向けて構えようとしましたが、そこには味方が居ました。

その味方はワイバーン達でした。

大勢のワイバーンがおそらく300~500フィート程の高さにいました。

まるで獲物を探している鷹や鷲のようにぐるぐると円を描いて空を飛ぶ沢山のワイバーンがいました。

ただその時の光景は、まるで世界が滅びるその日のように一瞬感じてしまいました。

空を巨大なトンボたちが飛び交い、それに狙いすましているであろうそれ以上に巨大なワイバーン達が空を覆っていました。

私は無意識に『神よ・・・』と口にしてしまいました。

しかしそれほど恐ろしくも、同時に大変神秘的な光景でした。

ワイバーンが秋津洲で人間族の間で聖獣として扱われていた理由を理解しました。

ワイバーンのことを見たことがない星欧人ですら恐怖と共に神秘を感じると思います。

 

20頭以上いると思われるワイバーン達によってトンボたちはどんどん数を減らしていきました。

先ほどまでは私達を襲わんとしていたトンボたちはただ逃げ惑うだけになっていました。

その1匹1匹がワイバーンの牙や爪によって墜とされていました。

その様子を観察していた少佐殿は号令をかけると大砲は射撃を中止し、大砲の護衛の兵を残し、部隊は沼にめがけて前進していきました。

沼が見えてきますと、そこもまた地獄のような光景でした。

榴散弾がまき散らした銃弾によって打ち倒されたのであろう沢山のトンボたちが水面に浮いていました。

同時に上陸して羽化しかけていたヤゴ達も沢山打ち倒されていましたが、無事なヤゴ達もまた沢山いて、私達の姿を見ると仲間の敵を討たんが如く、まだ羽化しかかっている仲間を守る如く私達に向かってきました。

すぐに少佐殿が号令をかけて猛烈な射撃が加えられました。

ヤゴ達はどんどん打ち倒されていきましたが、やはり数が多すぎました。

そうしている内に、とうとう銃剣や銃尻、サーベルを用いたヤゴとの白兵戦になる兵士や士官も現れ始めたところで、またも頼もしい援軍が現れました!!

オニ族です!

ツノダ女史と同じような鎧を纏ったオニ族達が10名ほどが、私達がやって来た方向とは反対側から凄まじい速さで駆け寄ってきて、手に持っていたカナボウでヤゴ達を叩き潰し始めたのです。

いつの間にか隣に来ていたツノダ女史は『遅いです。常日頃から鍛え、備えていないから遅いのです』とキャメロット語でぼやいていらっしゃいました。

そしてそのオニ族達は東にある、私が訪れたことのある大きなジンジャから駆けつけたオニ族達だともツノダ女史に教えて頂きました。

 

その後、30分もしないうちに生きているヤゴ達がいなくなったために部隊はさらに沼に近寄ることが出来、その沼めがけて工兵隊が岸辺や残されていたボートを利用して爆薬を投げ込み始めました。

爆薬が爆発する度に、沼の中からヤゴ達が陸に飛び出してきましたが、沼を取り囲んでいる兵士やオニ族達が達が銃撃やカナボウで仕留めていました。

しかし大きめの沼ではありましたが、とてつもない大きさというわけでもないのに、なぜこれほどの巨大なトンボやヤゴ達が生息していたのが不思議でなりません。

餌も間違いなく不足していたはずですし、もしヤゴの頃に共食いをしていたとしてもこの様な数になるはずがない沼の大きさでした。

隣にずっと私にいらしたツノダ女史は

『この沼の広さであれだけのトンボたちが現れたのが不思議に思われますか?正直申し上げてその通りでございます。私達ですら理解できないことが魔獣達には時折起こります。この沼でもトンボたちは毎年でるそうですが、普段は多くても5匹ぐらいだそうです。それなのに今年はこの数・・・。何が起きているのでしょうか・・・』

と大変憂いた表情で述べられていましたが、先生にはこの愚かなる弟子をお叱りになるのは間違いないと思いますが、私はその顔を見て、大変場違いなことに『美しい女性とはいつ如何なる表情でも美しいものなのだな』と感じてしまいました。

 

その後は私達だけが先にその場を引き上げ、町で再び一泊した後、首都に戻り解散となりました。

トンボたちはその巨大さから標本にするのも難しく、簡単に持ち運べそうな羽も傷みやすく、荷物運搬の馬引きもいないため、大変申し訳ございませんが、先生に贈れるものは今回はございません。

その代わり、比較的状態のよいトンボの死体を大量に撮影しましたので、それをこの手紙に同封させて頂きます。

 

 

 

最後に先生。

グフタス王よりの要請で、今回のオルクセン・エルフィンド間では発生した不幸な戦争において、グフタス王個人の外交顧問に就任されたとのこと。

大変、おめでとうございます。

グフタス王はその本営を前線近くに置くとのことで、先生もベレリアント半島に向かわれていると思います。

何卒お気をつけください。

 

そしてご存じかどうかはわかりませんが、なぜかこの私が・・・戦場となっているベレリアント半島より遙か離れた秋津洲にいる私が、なぜか先生の秘書官として任命され、可能な限り迅速に帰国せよという命令を受領しました。

先生をただ1人を戦場に送り込むのは我が国の恥であると。

帰国に関してはありとあらゆる配慮を各公使館並びに陸海軍に指示したとのこと。

なお先生の秘書官と申しましても、外交官身分としてではなく、外務省を休職の上での一個人として先生に付き添うようにという訓令でした。

ただその間の給料は外務省が負担するという不思議さです。

しかもこの命令が本国外務省より発信された時点で、先生への私の秘書官としての同行の了承がまだとれていないとのこと。

例えとれていたとしても合流はベレリアント半島になる可能性が高いとのことでした。

正直申せば、先生には他にも沢山の弟子がいらっしゃいますし、外交官としてお勤めになっている経験からも他にも適切な者は沢山いると思われるのに私が秘書として選ばれたことが不思議でなりません。

なお先生が私の秘書官としての同行を、先生もしくはオルクセン側に拒否された場合はそのまま長期休暇という形になるそうですが、その際はすぐに秋津洲に引き返し、魔種族魔獣の研究に励みたいと思っております。

ただ公使閣下や先任書記官殿達が私の荷物は念のために全て追送すると仰っており、秋津洲に戻ってきても居場所があるかどうかはわかりません。

しかし私にとってすれば、進めば戦場になっているとはいえエルフィンドという憧れの地。

戻っても未だに魔獣が跋扈し、魔種族と人間が共に暮らす秋津洲の地。

どちらになっても幸福なのかもしれません。

もちろん他国への外交官としての再赴任という可能性もございますが、それに関しては気がつかないふりをしたいと思っております。

 

この手紙と私自身、どちらが先生の元に先に到着できるかわかりませんし、そもそも既にベレリアント半島にいらっしゃるであろう先生の元に到着できるかすらわかりませんが、もし先生の元にこの身がたどり着くことが出来ましたら、何卒ご指導ご鞭撻の程をお願い致します。

明日朝にはバック1つで公使館を出発し、ニイハシ駅より鉄道を利用してタテハマにいき、そこより我が国の軍艦にて秋津洲よりまずは華国目指して出国致します。

そこで民間船に乗りかえるそうです。

それではそろそろ冬の足跡が聞こえてきそうな秋津洲より失礼致します。

 

 

追伸

秋津洲で大変お世話人なった皆様と挨拶をする間もありませんでした。

この後、ツノダ女史をはじめとする皆様にお別れと再会を願う手紙を書きたいと思います。

 

 

追伸その2

ふと思ったのですが、我が国やグロワールの劇作家が今回のオルクセン・エルフィンド間の戦争劇を作るとしたら、あのおぞましい『レーラズの森事件』が判明しているとはいえ、オーク族に対するイメージや100年以上前の対オルクセン戦以外に殆ど戦争をおこなっていないエルフィンドの本土が戦場になっていることを考えますと、その架空の戦争劇の題名は『野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか』になるのではないでしょうか?

 

 

 

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明智9年11月16日発行 日々新報記事より抜粋

新橋(ニイハシ)ステーションで大騒動!

 

前11月15日朝、新橋ステーションにて大騒動が発生。

鬼族の長にて神祇官の副長官である角田三位中将様をはじめとする鬼族、犬人族、狐人族、狸人族、猪人族、槌工族、大神族等の魔種族がステーションに大集合。

さらには才郷大将軍や秋津洲一の魔種族数寄者として知られる花房某氏、数名の政府軍高官、大勢の開成学校学生、戦争真っ最中のオルク国の魔種族等も参上し、空には竜も飛び交う有様。

溢れんばかりの馬車、人、竜によりステーション近辺は大騒動。

噂によれば、畏れ多くも帝も変装してその場にお忍びでいらしたよしとの噂もあり。

居合わせた当社記者が調べるも、大勢の官憲に阻まれ謎は解けず。

ただ某政府高官によれば、たった1人のキャメロット国人の見送りに公務を投げ捨て参上したとのこと。

真相はいかに?

 

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秋津洲義勇兵の話は、Gonzou@創作頑張る@NGonzou様の野生のオルクセン『トヴィーとギサブロー』(https://x.com/NGonzou/status/1902959458533417229)のオマージュとなっております。


これにて完結だそうです。
番外編はちょっと追加するかも?だそうです。
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