秋津洲国における魔種族、魔獣報告   作:koe1

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本編にて時折出ていた『コボルト氏暗殺事件』こと幻禄赤河(げんろくあこう)事件のお話だそうです。


秋津洲国における魔種族、魔獣報告 -番外編その4-1-

『私を、私を討ったのは赤河麻野家だ!私を闇討ちしたのは赤河麻野家だぁーーーー!!』

まるで耳元で叫ばれたような導術で目を覚ました。

いや、叩き起こされたかというべきかもしれない。

導術は先ほどの一度のみで途絶えた。

『夢か…?しかし今の導術の声は牙良様…?』

戸板越しに耳を澄ませても鳥の鳴き声も聞こえない。

おそらくまだ明け六つにもなってはいないだろう。

『宮司さまぁ!!宮司さまぁ!!』

私同様に導術を使える権宮司や禰宜、権禰宜達が寝巻のまま私の部屋に慌てて集まってくる。

つまり先ほどの導術は夢ではないのか?

あの導術の声は確かに牙良様の声…しかしここから牙良様のお屋敷のある本条松坂町まで1里以上あるはず…鬼族でもない同族の牙良様の導術が届くはずは…

『宮司様。いましがたの導術、牙良様の声と存じますが…』

迷いをも見せている私に、権宮司が声をかける。

『やはり牙良様か?』

集まった中で私以外に牙良様の声を知る権禰宜は無言でうなずく。

ならば…することは決まった。

『魔種族で角田様に次ぎ、我ら犬人族の長である牙良様が因縁のある人間族の赤河麻野家に討たれたとなれば、これは我ら魔種族にとって大変!府内変事取り決めにもとづき、私は神多神社に赴く!副宮司は奉行所に変を知らせ、権禰宜達は牙良様御屋敷と赤河麻野家上屋敷を物見!禰宜はここに残り、各々からの知らせに備えよ!!』

そう指示すると、枕もとの手文庫から銭を取り出し、これから飯も食えずに府内に散る者達にそれを渡し、途中で合間をみて飯をこれで食べるように言って、ここへの使いも雇えるように多めに渡す。

私もすぐに支度をし、神多神社に向かわないと…

 

 

『牙良殿が赤河麻野家に討たれたのは真か!?』

出仕時間より遥かに早い朝五つだが、登城すると既に部屋には同輩である老中が2人に大目付がすでに着いており、部屋はこのような時間にもかかわらず出入りが激しく、次から次へと新たなる知らせが届いている。

某の声に気づいた大目付が『委細不明なれど確実かと』と返事をしたので、間違いであってほしいという淡い気持ちは消え去った。

明け六つになって間もない頃、近所の神社の犬人族が屋敷の門を叩き、門番に『牙良様、赤河麻野家に討たれたご様子!』と告げ、赤河麻野家と牙良殿の因縁を知る門番はすぐに家来を起しそれを伝え、その家来もすぐに某を起し伝える。

寝ぼけていた頭も、寝巻のままの家来より『殿!!近所の神社より牙良様、赤河麻野家に討たれたご様子との急の知らせが!』と伝えられた瞬間、冷水をかけられたように目が覚め、『真か!!!』と夜具より飛び起きる。

ろくに着替えも済まぬままの家来衆を物見に出すと、うち1人がすぐに戻り『赤河麻野家の家紋入りの火事場装束の一団が槍の穂先に犬人の首を晒し、鬨の声を上げつつ、赤河麻野家の上屋敷のある大筒洲の方へ向かっておりました!』と伝えられたときは、目の前が真っ暗になりそうだった。

『すぐに城に出仕する!共は少なくてもよい!すぐにつける者だけでよい!』といい、籠にも乗らず、徒歩にて慌てて登城すればこの有様。

すぐに同輩たちの輪に加わり、次々に入る知らせをさばきつつ下知を出し、文が必要な下知は、身分が低いため犬人族の誰からも委細を伝えられなかったものの変を察し急ぎ登城した祐筆達が記し、新たに参じた同輩も加わり共に善後策を練っていると、気の利くものが台所に頼んだのかたっぷりとある握り飯を持ってきてくれた。

朝飯を食べていない某達はそれにかぶりついた。

出入りする者や祐筆達にも、作法はなっていないが立ち食いでも構わぬので食ってゆけと申して握り飯を勧める。

この様な時ではあるが腹減っては戦はできぬ。

握り飯なぞ久方ぶりだが、うまい。

 

 

『よくやった!!よくやった!!』

牙良様の首と仇討ちを果たした、具足代わりに身に纏っている火事場装束姿の家来たちを前に殿は飛び上がらんが如き様子でお喜びになられているが…当家は大丈夫なのか?

『この犬っころが!!よくも!よくも!!!』

殿は狂を発せられたかのように牙良様の首に刀を繰り返し打ち付けて辱めていらっしゃるが…本当に当家は大丈夫なのか?

殿は幕閣の皆様には既に話が通っていると仰っているが真なのか?

そのお言葉を信じ、大目付様に仇討ち届の使者を出したが…本当に当家は大丈夫なのか?

すでに門外には町雀どもが集まり、その中の不届き者は卑怯者と声を上げつつ屋敷に礫を放っている。

他家の家来衆や魔種族達も当屋敷を物見をしているとのことだが…。

『御家老さま!!ご本家より急ぎの使者が!町奉行所からも使者が!!』

本当に幕閣の皆様には話が通っているか?

本当に当家は大丈夫なのか?

 

 

『赤河麻野家よりの使者が仇討ち届けを持ってまいりました…』

先ほど部下に呼ばれ中座した大目付がその手に書状を持って困惑した表情で部屋に戻ると、某をはじめとする誰もが理解できぬ言葉を言った。

ちょうど麻野家本家より書状が届き『当家関係なし。赤河麻野家庇い立て一切せず。後ほど当主自ら登城の上で委細説明』と記された書状を回し読みしているときだった。

沈黙が部屋を支配した後、某か同輩かもわからぬが『アダウチトドケ…?』と、理解できぬものを尋ねるような口調で誰となく口を開いた。

大目付は無言で頷き、座るとその『アダウチトドケ』なるものを皆の前で読んだが、まとめると

 

 

・過日、当家に度重なる無礼を働いた犬畜生を無礼討ちにした。

 

・暁七つに犬畜生の犬小屋にわざわざ赴いて無礼討ちにしたが、その前に陣太鼓で無礼討ちを知らせたので卑怯な不意打ちではない。

 

・具足を纏って襲うのは卑怯なので、代わりに家紋入り火事場装束を身に纏い無礼討ちをした。

 

・火付けはおこなっていない。

 

・当家方に討ち死になし!これぞ当家の誉れである!

 

・これは無礼討ちなので当家に咎なし!

 

 

その場にいた皆が理解できない内容であった。

『真に…赤河麻野家の者がこれを持ってまいったのか…?』

どなたかが絞り出すような声で大目付に尋ねた。

大目付は無言で頷いた。

『魔種族次席にて、犬人族筆頭にして、本来は帝のご家来である牙良殿のことを犬畜生や、その屋敷を犬小屋と申すとは…』

また別などなたかが絞り出すような声で呟いた。

大目付が『この書状、この場限りにしたく…これが魔種族に知れましたら今以上の騒動になりますぞ…』と言うと、全員が無言で頷き、大目付がその書状を懐に入れ《なかったこと》にしようとしたところに廊下より騒々しい足音が聞こえ、『牙良の爺が闇討ちにあったとは真か!!!!』と叫びながら、側用人殿を従えた上様がやっていらした。

某を含めた全員が平伏して上様を迎えるが、平伏する前に側用人殿を見ると、心底申し訳なさそな顔をしていた。

上様に隠し通そうとして失敗したのだということのその顔で理解した。

上様は大目付が持ったままの書状を奪うとそれを読み、読み進めていくと怒りで体が震えだしていかれた。

『爺が…爺が…犬畜生だと?母上のために尽力し、あの一件で赤河麻野をかばい、気を使い隠居した上で屋敷替えまでした爺のことを犬畜生だと…?余が幼き頃遊んでくれた爺を犬畜生だと…』

『アダウチトドケ』なる書状を読み終えた上様は逆に落ちついたような平坦なお声で『これは前の沙汰を下した幕府に対する、余に対する謀反である。切腹改易などで済ますのは以ての外。直ちに旗本達に陣触れを出せ。府内の赤河麻野の上屋敷、下屋敷共々焼き払うぞ。諸大名にも触れを出せ。赤河麻野の領地を攻め滅ぼせ』とご下知を下すが、どなたかが懸命に異議をとなえ始めた。

『お待ちください!上様がお怒りはごもっともでございますが、牙良様は魔種族においては筆頭の角田三位中将様に次ぐ御身分にして、犬人族の族長であらせられます!確かに武士として一家をたてて、上様が直臣ではございますが、本来は畏れ多くも帝のご家来!!我らが勝手に赤河麻野家を罰すれば帝の怒りを買うばかりか、我らが赤河麻野家を使い牙良様を誅殺したと誤解されれば、角田三位中将様が自ら金棒を振り回し、魔種族を引き連れ、府内に討ち入ってまいります!!何卒!!何卒!!!!』

平伏したまま、どなたが上様に御忠言申し上げているのか?と考えていると、それが自分だと気が付き驚いた。

勝手に口が動いていた。

それだけ角田三位中将様が…角田姉様が怖かった。

普段は大変美しいが、怒り出せばその美しい顔を夜叉のようにして金棒を振り回し、ありとあらゆるものを打ち壊す角田姉様が怖かった。

鬼族の男衆が10人がかりでも全く敵わぬと申す角田姉様が怖かった

武士として怖いというのは恥かもしれぬが、角田姉様は別だ。

20年ほど前に朝廷の朝議の際に『いかず後家』と罵った公家を、帝の御前にもかかわらず、不浄が許されぬ御所にもかかわらず、その公家を金棒にて文字通り磨り潰したという角田姉様が怖かった。

上様も角田姉様の名を出すと、恐ろしさのあまりか落ち着きを取り戻され『先ほどの沙汰はすべて取り消す!まずは帝に余の名にて導術をもって委細お知らせするのだ!もちろん書状も出す!早馬を用意せよ!帝からの沙汰が下るまで赤河麻野家は上屋敷、下屋敷共に蟄居閉門!』

そうご下知を下すと、座布団も敷かぬまま車座になっている我らの中に、座布団なしで座りになって『うまそうだな』と仰り、まだ残っていた握り飯を食べ始め、『お主も食べよ』と側用人殿にもお手ずから握り飯を渡された。

そのお姿を見て、上様や側用人殿も朝餉も取らずにこちらにいらしたことをようやく理解した。

同輩が上様に茶を入れるべく慌てて部屋を出て行った。

今日は長い一日になりそうだ…。

 

 

『おい!聞いたか?聞いたか?』

一膳飯屋で早めの昼飯を食おうとしていると、同じ長屋に住む大工の源助がやってきて、飯を頼みつつ、俺の前に座った。

『いってー何がだ?』

俺は飯を掻き込みつつ源助に尋ねると、源助は『おうよ!!牙良のお殿様が赤河の連中に闇討ちされたことよ!うちの町の番太郎も犬人の首を槍の穂先にさらして練り歩いている連中を見たってさ!!親方にお願いして仕事ほっぽり出して、赤河のお屋敷を見に行けば野次馬が取り囲んでいやがるし、自分たちの親分がやられた犬人族は右往左往!神多神社には犬人族の神主が大集合だぜ!』という。

俺は飯を食う手を止めて『マジか…?』と尋ね返すと『マジもマジ!大マジだ!お前さんいつも長屋にこもって細工物か鍛冶ばかり!出るときは飯か材料の買い出しか用を足すときだけ!!浮世に疎すぎる!さすがに種族は違えどおめ-さんも槌工族の魔種族だ。他人事じゃねえだろ?おめーさんにはうちの組がみな大工道具で世話になっているからな。さっきも言ったが親方におめーさんに知らせてーとお願いしたら一発よ!!』

まったく知らなかった…。

確かに言われてみれば犬人族の連中が右往左往していたが、そんな大事が起きていたのか…

これは何度礼を言っても足りねーな。

俺は銭入れの中に幾ら入れていたかを思い出しながら

『おめーだって長屋が痛めば材料代だけで手直しくれているじゃねーか。お互い様よ。だけどありがとうな』

そう言って残った飯を掻き込むと、自分の飯代と源助の飯代、そして酒を一杯飲める程度の銭を置いて飯屋を一膳飯屋を飛び出していった。

後ろから源助が『こんなのもらえねーよ!』といっているが無視だ無視。

急いで神多神社に向かわねーと!!

 

俺は同じ長屋に住む槌工族が短い脚でドタバタと走っていくのを眺めながら、店の中に戻り、頼んでいた飯をガツガツと食い、銭に咎はないので酒も一杯頼む。

あんな長屋に住んどるが、あれでも槌工族のお偉いさん。

本来ならお屋敷を構えて、俺なんて口もきけねー御身分だが、大工道具は直してくれるし、他の連中も包丁や鍋釜も直してくれる。

ありがてえ限りだぜ。

さて、あいつは神多神社に向かったようだから、もうひとっ走りして今度は麻野のご本家様の様子でも見てくるか!!

 

 

 




長くても4話程度だそうです。
何卒お付き合いのほどをお願いいたします。


用語?説明
赤河麻野家→アコウアサノケ
牙良→キラ
神多神社→カンダジンジャ
角田三位中将様=ツノダ女史
大筒洲=オオヅツス(地名)
導術=ドウジュツ=魔術
1里=約4㎞
導術=魔術通信の通常到達距離約2.5㎞(※原作の設定による)

明け六つ=午前6時ごろ
朝五つ =午前8時ごろ

犬人族=犬系コボルト族
槌工族=ドワーフ族
鬼族=オニ族=オーガ族?
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