尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。
先生、私は公使閣下への数日かけて記した報告書を提出したおかげで興奮が落ち着いた…ようなことはなく、事実と私が感じ取ったままの思いを冷静な文章で報告書を記し続けた結果、魔種族研究家の雛としての猛る思いを更に高めることとなりました。
今はこのロードエンド、秋津洲国でも日は完全に落ち、人間種が行動すべき時間ではなくっていますが、私は今日もまたランプの灯りを友として、感情におもむくままに興奮しながら先生へこの手紙を記しています。
山中にあるジンジャから麓の町に戻った私達は、翌早朝に宿を出てまた1日かけて河川輸送の拠点となっている町に戻りました。
本来の予定でしたら、この町を通り過ぎて更に東に8マイルほどある町まで行く筈だったのですが、日が暮れてしまったために通訳氏と護衛の警官の勧めによりこの町で再び宿を求めることとなりました。
翌日の朝早くに宿を出て、途中、船で川を渡り、約2時間半ほどで広大なジンジャがある町に到着しました。
そして私はこの町で私は魔種族研究家の雛として更なる驚きと興奮とに遭遇しました!!
星洋では既に絶滅している、古典やおとぎ話でしか知り得ることができない魔族種『オーガ族』と私が推測している魔種族達と出会ったのです!
私が何故彼らをオーガ族と推測したかですが、この秋津洲においては『オニ』と呼ばれている彼らの全高は、今回の私達一行で最も背が高いオルクセン公使館書記であるコボルト族シェパード種の約7フィートより背が高く、目算で約10フィート前後もあること!
さらに筋骨隆々という言葉で表しきれない筋肉の塊といえる体格です!
この身長や体格は、古典やおとぎ話に記されている『オークよりも背が高い』という点と『蛮族の頂点に立つ者が如くはち切れんばかりの筋肉をもつ』とう点と完全に一致しています!
ただ古典やおとぎ話に記されていない点が2点程彼らにはありました。
まず1点目が彼らの体格以外の特徴であるとされている頭部に目立つように生えている角です。
この角は牛と似た角が1本もしくは2本、おでこ付近より斜めに生えており、長さは目算で2~3インチほどと思われ、直径は1/3~1/2インチほどだと思われます。
2点目は肌の色で、赤銅色といえる者と、秋津洲人よりずっと肌の色が薄い、私達の肌の色に似ている者の2種が存在しました。
なお角の数と肌の色は一致しておらず、赤銅色の者や肌が薄い者両方共に角が1本と2本の者が混ざっておりました。
なお肌が赤銅色の者は『アカオニ』、薄い者は『アオオニ』と呼ばれているそうです。
そして彼らもまたこの広大なジンジャで神官を務めており、6名ほどいたオニ族の中で最も年上の360歳ほどだというアカオニ殿はこのジンジャの神官長であると同時に、この広大な敷地をもつジンジャは秋津洲国首都があるこの州全てを大管区としているとのことで、州内各所に点在しているこのジンジャグループの神官達の頂点である大管区長も兼ねているそうです。
このジンジャも彼ら6人以外の神官は人間種で占められており、実務は人間種が、神事は彼らが中心になっているとのことです。
ちなみにこちらでは彼ら以外の魔種族を見ることはありませんでした。
なお私は彼らを『オーガ族であると推測』していますが、それが証明されたわけではないので、以後彼ら魔種族のことを秋津洲風に『オニ族』と記します。
その彼らオニ族ですが、驚くことになんと魔術が使えました!
先生が記した書籍によりますと、白エルフや闇エルフ、そして一部のコボルト達だけが使えるという離れた場所にいる仲間と意思の疎通がとれるという奇跡の術。
それを彼らも使えるとのことです!
しかもです、これも先生の書籍によりますが、白エルフや闇エルフ、コボルト達が意思の疎通がとれる距離は約1.5マイル前後と記されていましたが、彼らオニ族は、彼らの弁によりますと、信じがたいことにオニ族同士ならば魔術によって60マイルほどの距離で意思の疎通がとれるとのことです!
そしてこれはそのジンジャをあとにした帰路にて通訳氏から聞き及んだことなのですが、秋津洲のおとぎ話では『オニノセンリガン』というものがあり、その意味は『オニは約2500マイル先までみることが出来る』だそうです。
その距離については色々と考える点がありますが、根本的な内容自体については『離れた場所にいる同族と魔術による意思疎通をはかることにより、遠くをまるで見たかのように知ることができる』という事ではないかと考えており、星洋でのフンデ同盟に代表されるようなコボルト族の商人連合が実施していた魔術による遠距離意思疎通に対して人間種の商人が、電信が発明され、その電信網が星欧諸国を、星洋全体を隅々まで結ぶまで市場情報の入手速度で全く対抗できなかった歴史的事実からみても、その能力を有していることは間違いないと不肖の弟子は断定しております。
実際、ジンジャにて神官長がオニ族全てに魔術による遠距離意思疎通能力があり、その距離について『ここから首都までの距離、20マイルほどあっても意思疎通が可能である』と回答したところ、コボルト書記官は大変興奮した様子でその意思疎通能力の到達距離について事実であるのかと再度質問しました。
それに対し神官長のアカオニ殿は、コボルト族よりも遙かに遠距離で意思疎通がとれることを不完全ながらも証明するための手段として、コボルト書記官が決めた複数の合い言葉を通訳氏が秋津洲語で記した手紙を合い言葉1つ毎に封書にして神官長殿に手渡し、私達一行がここを去ってから1時間おきにコボルト書記官殿へその合い言葉を1つずつ、3回繰り返して伝えてる事を提案し、それを快諾したコボルト書記官との間で帰路にて遠距離意思疎通実験がおこなわれました。
その結果ですが、帰路で1時間毎に神官長から一方的に意思疎通が届くのみで、コボルト書記官からは神官長殿へは一切意思の疎通がとれなかったそうです!
さらにコボルト書記官の弁では、意思疎通の魔術とは別に、意思疎通ができる距離の倍ほどの距離でどこに誰かがいるかという気配を感じ取る魔術もあるそうですが、神官長から合い言葉が届いてる間ずっと、もしかすると神官長が実際には近距離に身を潜めて意思の疎通をとっているかもしれないと探知を試みたそうですが、探知が可能な範囲内・・・つまりコボルト書記官が意思の疎通をとることができる倍ほどの距離の中に神官長の気配を感じることはできず、さらにコボルト書記官が神官長の合い言葉が聞こえる方角を何度も地図と方位磁針で確認しても、ずっとそのジンジャの方角を示しており、最終的には私達一行がオルクセン公使館に到着しても神官長からの合い言葉は聞こえ続け、その方向もずっと神官長のいるジンジャの方向を指し示し続けいたそうです。
これは魔種族研究家である私にとって大きな驚きでしたが、コボルト書記にとっては驚きを遙かに超えるものだったようで、最後の合い言葉が伝わった後の彼の様子は、大変失礼ではありますが、まるで餌を3日も与えられなかった犬のように悲しい姿にみえました。
なお最初の山の中のジンジャにいたコボルト族も、もしかすると巨狼族も魔術による意思の疎通ができたのかもしれません。
これを記しますと、帰国後に先生の激しい指導を受けることとなるのは確実かと思いますが、この不肖の弟子は彼ら魔種族にこの道洋にて出会えたことに興奮し、そのあたりを確認するのを完全に失念しておりました。
申し訳ございません。
そしてこのオニ族による遠距離意思疎通を秋津洲では『魔術』ではなく『ドウジュツ』と呼んでいるそうです。
通訳氏曰く、これをキャメロット語に直訳しますと『導く技』と訳すとのことで、彼曰くこの『ドウジュツ』は秋津洲においては遠距離意思疎通だけではなく、魔種族が行使する魔術全般を指す言葉でもあるそうです。
続いてオニ族についてもう2点ほどお伝えすることがございます。
1点目は、彼らの肉体についてです。
既に『筋肉の塊といえる体格』であると記しましたが、この出会った6名のオニ族は全員全く同じ体格をしており、恐るべき事ですが彼らは神官であると同時に秋津洲の皇帝に直接仕えている騎士であり、彼らは4~5フィートほどある鉄のみでできた棍棒、秋津洲語で『カナボウ』という、重さに至っては想像もできない恐るべき武器を持っており、その鉄でできた棍棒を、私達一行が誰一人として持ち上げることができなかった武器を自由自在に軽々と操りました。
これをみた私達一行は、秋津洲人の通訳や護衛の警官も含め、唖然とみるしかありませんでした。
私は呆然と、オルクセンの猛将である巨大な戦斧を振り回すというシュヴェーリン将軍と戦ったのならばどちらが勝つか全くわからないのではないか・・・と妄想する以外なにも考えることができませんでした。
そして2点目ですが、彼らオニ族は人間との間で交配が可能だそうです!!
もちろん我らが敬愛するキャメロット王家もその始祖はエルフィンドより渡ってきたエルフと交わったという伝説があります。
しかし近代においては他種族間で交配に成功したという確たる事例はないと聞き及んでおり、私が外交官として服する直前に、先生や他の弟子仲間と共に聞き取りをさせてもらった、白エルフを妻に娶ったエルフィンド在住のキャメロット人、エドワード・ロンズデール氏もその時点で妻での間に未だに子をなしてはいないと話していたと記憶しております。
更に古典でやおとぎ話でも『邪悪で強欲なオークが美しい人間やコボルト、エルフを奴隷にし弄んだ』とう話は多々ありますが、その奴隷達が子を成したという話はありません。
ただ内容が内容だけには話が削られてしまった、もしくは女性達の立場が立場なだけに『生まれてきた子供がなかったことにされた』もしくは『女性ごとなかったことにされた』可能性も否定はできません。
しかし現時点では、繰り返しですが、この不肖の弟子が知る限りでは他種族間での交配に成功したという確たる事例がないこともまた確かです。
しかしです、私は確たる証拠をみてしまいました。
見てしまったのです!!
ジンジャで出会った6人のオニ族の内、2人が人間種を配偶者としており、内1人は人間種の男を夫としたオニ族の女性で、もう1人は人間種の女性を妻としたオニ族の男性でしたが、驚くべき事に、先生が信じてくださるか全くわかりませんが、オニ族の女性は人間種の夫の子を妊娠しており、オニ族の男性の妻である人間族の女性は、豆粒のような角が2本生えている、赤銅色の肌をした赤ん坊を抱きかかえておりました。
もちろんその女性は乳母ではなく、オニ族の男性の妻であり、角が示すとおり、その人間種の女性が生んだオニ族の子だそうです!
書き記している間に、冷静になってしまいました。
先生、私は興奮を通り越し冷静になってしまいました。
この事例は魔種族研究家として、冷静な目で見て、研究していかないといけないことに今更ながら気がつきました。
なお今回は彼らオニ族全て、妊娠している女性オニ族や赤ん坊のオニ族も含めて写真撮影については、自分達にも写真を分けるという条件で快諾してくれたので、彼らを色々なポーズで撮影した写真を、先生以外の魔種族研究家にも配布することを考えてそれぞれ複数枚、前回送りそびれましたコボルト族の写真と共に手紙に同封させて頂きます。
本来ならばガラス乾板ごとお送りすればよろしいのですが、幾ら外交行李とはいえ、割れやすいガラス乾板を遠い祖国へ送るのはためらわれますので、私が帰任する際に先生へ直接お届けしたいと思っております。
写真が不足する場合は、送った写真を撮影複写、もしくは手紙で伝えてくだされば更に追加でプリントしてお送りいたします。
以上にて、不肖の弟子によりの秋津洲国からの4回目の報告を終わりとさせて頂きます。
現時点では公使館任務としての新たな魔種族調査は予定されておりませんが、私的な時間をもって秋津洲における魔種族と魔獣研究活動に励みたいと思っております。
もちろん新しい驚くべき事が判明しましたらすぐに手紙を出させて頂きますし、これといったことがなくともある程度の調査が纏まりました手紙を出させて頂きます。
それでは幾分か過ごしやすくなった秋津洲より不肖の弟子がお伝えしました。
失礼いたします。
彼は大鷲族も魔術通信ができることを知りません。
そして『魔術通信』という言葉を使わずに『魔術による意思の疎通』という言葉を使っているのは、この時点で『魔術通信』にあたる適切な単語がキャメロット語に無いのと、彼が魔術通信が会話のように話せるということを知らない…という設定のためです。