尊敬する我が師、サー・マーティン・ジョージ・アストンへ。
秋津洲の地獄のような暑さと湿度はようやくやわらいできましたが、それでもなおキャメロット本国が冷涼な気候に感じるほどの暑さと湿度を未だに維持しております。
オルクセン公使館の人道的救護がなければ、オルクセン国王グスタフ・ファルケンハイン陛下のご温情がなければ、私や友人のコック氏は最悪、命をも失っていたかもしれません。
肝心の最近の魔種族研究ですが、前回の公使閣下指示の調査以降、新たな調査指示はなく、私自身もまとまった休暇がないため、ほんの少しだけ覚えた秋津洲語と調査に同行してくれた通訳氏が秋津洲語で『魔種族や魔獣について書かれた本が欲しい。おとぎ話でもいい』と書いてくれたメモを持ち、首都の書店や古書店を回り、書籍資料を入手しております。
ただ私の乏しい語学力のせいでそれらの翻訳がいまだできないのが最大の問題ではありますが。
そのような状況ではありますが、本の挿絵や、数日におきにオルクセンのコボルト族書記官を伴ってやってくる通訳氏のおかげで、大変興味深いことがわかりました。
私もまだ実際に目撃はしておらず、写真すらなく、本の挿絵のみが私が理解できる情報ですが、秋津洲国には『龍』が数種類生息している、もしくは生息していたようです。
通訳氏いわく『龍がいるとは聞いてはいるが私は見たことがないし、親族や友人を含めても見たことがあるという話しは聞いたことがない』とのことです。
この龍についてはコボルト書記官も大変な興味を示しています。
秋津洲には龍にまつわる話がいくつもあるそうですが、通訳氏が本の中から選んで話してくれた先生が興味を引きそうな話を2つほど記したいと思います。
まず1つ目ですが、騎士達によって作られていた秋津洲国の前政権のさらに前の騎士達による政権の末期、今から300年近く前のことだそうですが、秋津洲は騎士同士による激しい内乱状態だったそうです。
しかし内乱といっても、皇帝や皇帝に任命された騎士の大将軍、さらに彼らによる政治体系は維持されたままという不思議な内乱です。
そのような不思議な内乱の中、騎士たちが戦いを収める時、当人同士での話し合いによる停戦の他に、皇帝や大将軍の一方的命令による、私からすると大変不思議な停戦もあったそうですが、それら以外に『龍による停戦』もあったと本には記されているそうです。
その詳しい停戦方法は不明ですが、戦っていた騎士同士が、有利不利関係なく『龍の前で戦うのはマナー違反である』として双方の合意で戦闘を中止していたそうで、何例も実例があったと記されているそうです。
そしてもう1つ、これは購入してくれた本に記されていたおとぎ話なのですが、海にすむ龍の話です。
通訳氏がキャメロット語で語ってくれた内容を以下に記したいと思います。
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昔、漁村に病気がちの母をもつ、正しい心をもつ漁師の若者がいました。
父は嵐で大切な船ごと沈んで死んでいます。
しかしその漁師は正しい心を持っていたので村長から期待され、船と網を貸し与えられ、村長の一人娘と結婚させようと考えていました。
もちろん漁師と一人娘は心を通い合わせていました。
しかしある日、漁に出た漁師を突然嵐が襲い、船は転覆し、網は海に沈み、漁師も海に投げ出されました。
漁師は転覆した船にしがみつき、神に祈りました。
すると彼の前に龍が現れました。
龍は『珍しい食べ物に出会った。食べよう』と無慈悲に言いました。
漁師は言いました。
『龍よ、立派な龍よ。私を食べないでおくれ。私には病弱な母と結婚を約束した娘、そして厳しくも優しい義父となる方がいるのだ。龍よ、立派な龍よ。私を食べないでおくれ』と龍に願いしました。
しかし龍は『悲しいがお前がここで私の血肉となるのは定めだ。久方ぶりの人間。じっくりと食べてやろう』と返事をし、転覆した船にしがみついたままの漁師を食べようとしました。
漁師は再び龍に話しかけました。
『龍よ、立派な龍よ。私を食べないでおくれ。人が久方ぶりならば、龍よ、立派な龍よ。あなたは猪を食べたことはないのか?鹿を食べたことはないのか?熊を食べたことはないのか?龍よ、立派な龍よ。もし私を食べるのをやめて漁村に連れて帰ってくれるのならば、10日のうちに必ずや猪か鹿か熊を差し出そう。もし10日のうちに猪か鹿か熊を差し出せなければ私を食べてもかまわない』
それを聞いた龍は考え、漁師を食べるのをやめ、背中に漁師を乗せて漁村へ向けて泳ぎました。
漁師と龍が漁村につくと村人たちは龍に脅え逃げ出しましたが、漁師の母と娘、村長は龍に漁師が乗っているのを見つけ龍の前にやってきました。
3人を前に龍は言いました。
『人間達よ、人間達よ。この漁師が自分の代わり猪、鹿、熊を差し出すと言っている。10日のうちに差し出すと言っている。10日の内に差し出さなければ漁師を食べる。漁師を逃がしたら代わりに村人10人を食べる』と言いました。
まず母が言いました。
『龍よ、立派な龍よ。この辺は猪も鹿も熊も少ないです。10日の間に捕まらないかもしれません。龍よ、立派な龍よ。10日ではなく5日の内に猪も鹿も熊も差し出せねば代わりに私を食べてほいい』
次に娘が言いました。
『龍よ、立派な龍よ。この辺は猪も鹿も熊も少ないです。5日の内に猪も鹿も熊も差し出せねば義母なる方がその身を差しだすとのことですが、龍よ、立派な龍よ。10日にしてください。10日の内に猪も鹿も熊も差し出せねば私も漁師と一緒に食べて下さい。代わりに義母は助けてください』
最後に村長が言いました。
『龍よ、立派な龍よ。まずは我が息子となる漁師を助けてくれてありがとう。龍よ、立派な龍よ。私は漁師の義父になるものとして、娘の父として、正しい心を漁師を生み育てた母と縁がつながる者として私は誓う。龍よ、立派な龍よ。5日の内に必ずや猪か鹿か熊の内、1頭を差し出そう。そして10日の内に猪か鹿か熊の内、もう1頭を差し出そう』
龍は彼らに向かって言いました。
『人間達よ、その心意気やよし。10日の内に2頭用意すればよい。もし用意できねば漁師だけ食べる』と言い残し海に去っていきました。
次の日から村長の命令で狩りが始まりました。
村人は皆、漁師も母も娘も村長も好きだったのでとても頑張りました。
3日目に猪が狩れました。
漁師と母と娘と村長は海に猪を流しました。
すると龍が現れ、猪を一口で食べ『これはうまい』と言い、消えました。
5日目には鹿と熊が狩れました。
村長は悩みましたが、鹿と熊を海に流しました。
すると龍が現れ、鹿を一口で食べ『これもうまい』と言い、次に熊も一口で食べ『これもうまい。うまい』と言い消えました。
次の日に龍は再び現れました。
龍は嵐で沈んでしまった漁師が村長から借りていた船と網を持ってきました。
他に沢山の珊瑚や真珠を持ってきました。
龍は漁師と母と娘と村長と村人たちを前に言いました。
『人間達よ、人間達よ。小さいも立派な心を持つ人間達よ。約束は2頭だったが3頭を差し出した。10日の内なのに5日で差し出した。人間達よ、人間達よ。小さいも立派な心を持つ人間達よ、約束より多くの事を早くなした人間達よ。私も多くの事をなそう。沈んだ船を渡そう。沈んだ網を渡そう。珊瑚をやろう。真珠をやろう』
村長は言いました。
『龍よ、立派な龍よ。大切な船をありがとう。大事な網をありがとう。しかし珊瑚と真珠は受け取れない。龍よ、立派な龍よ。私は卑しい人間だ。鹿と熊が取れたとき、1頭だけでいいのではと悩んだ。龍よ、立派な龍よ。私は卑しい人間だ。珊瑚と真珠は受け取れない』
龍は言いました。
『人間よ、人間よ。小さいも立派な心を持つ人間よ。では珊瑚と真珠の半分は預かっておく。残った半分は熊の代金だ。海では熊は食べられない。海では鹿は食べられない。海では猪は食べられない。残った半分は熊の代金。海では食べられない物の代金だ』
そう言って龍は船と網と半分の珊瑚と真珠を残し消えました。
村長は珊瑚と真珠を売り、いろいろな道具を買い、村人達に公平に分けました。
1年たちました。
漁師は娘と結婚しました。
3年たちました。
2人に子供が生まれました。
5年たちました。
母が安らかに死にました。
10年たちました。
漁師が村長になりました。
15年たちました。
前の村長が安らかに死にました。
30年たちました。
村に飢えが襲いました。
畑は実らず、山の生き物も消え去り、海の魚も貝も捕れず、ありとあらゆる草木も食べつくしました。
村人はみな死にそうでした。
龍が現れました。
山のように大きい鯨をもって龍が現れました。
龍は言いました。
『人間達よ、人間達よ。小さいも立派な心を持つ人間達よ。預かっていた半分の珊瑚と真珠の代わりを持ってきた。預かっていた半分の珊瑚と真珠の代わりに鯨を持ってきた。人間達よ、人間達よ。小さいも立派な心を持つ人間達よ。鯨を食べるのだ』
そう言って龍は消えました。
村長とその妻は鯨を公平に村人に分けました。
村人はみな助かりました。
でも鯨はまだたくさんあります。
村長は周りの村にも鯨を公平に分けました。
周りの村もみな助かりました。
それでも鯨はまだたくさんあります。
村長は飢えていた領主様にも鯨を分けました。
領主様も助かりました。
領主様はお礼に村長を騎士にしました。
村を騎士となった村長の領地としました。
騎士になった村長は龍を紋章にしました。
そして村で猪、鹿、熊が10頭取れるたびに1頭を海に流しました。
それから騎士がいる村では急な嵐にあってもいつも龍が助けてくれるようになりました。
ハッピーエンド
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このようなおとぎ話です。
この内容から推測できることは
・この龍は水棲である可能性が高い。
・この龍は意思の疎通が取れていることから魔獣ではなく、魔種族の可能性が高い。
・この龍は高潔な精神を持つ。
の3点だと思われます。
そして話を書籍の挿絵に戻しますが、入手した魔種族、魔獣について記してある本の内、龍の挿絵ですが3種類存在しています。
まず1つ目が先ほどのおとぎ話の海に住む龍。
挿絵では長い蛇のような首が海上から出ているのみで、他の海に住む龍の挿絵もほぼ同じものばかりとなっています。
もしかしますと、キャメロット北部の湖にすんでいるという伝承がある龍と類似しているかもしれません。
2つ目が長い角が生えた蛇のように細く長い胴体に4本の脚が生えているもの。
もう最後が、先生も見慣れている、我らがキャメロット各所に伝承が残る、星洋では絶滅しているワイバーン型の龍で、その描かれている挿絵は脚は後脚のみで前脚は翼になっているワイバーンそのものです!!
星洋と道洋でここまで一致しているのは不思議でなりません!!
なお入手した本の各所に描かれている2種の龍ですが、通訳氏いわく前述のおとぎ話のように人間種と意思の疎通を、会話をしている物語ばかりだそうです。
つまり物語上では秋津洲国に数種類生息している、もしくは生息していた『龍』は魔獣ではなく、魔種族の可能性が高いと推測できるわけです!
これからも秋津洲での調査研究に励み、実地調査ができない時は先生のように古典の内容を比較し検討したい…のですが、まずはその古典を読み解くために秋津洲語の勉強を進めていきたいと思います。
以上、秋津洲より不肖の弟子がお伝えしました。
そろそろ冷えてきますので先生もご健康には何卒お気お付けください。
おとぎ話が変な文章なのは、通訳氏が上手く翻訳できなかったので、直訳や意訳を多用しているためです。