は?純血かつ高貴な吸血鬼であるこの私が美少女とはいえ元男の汚らわしい血なんて吸わないし手も出す筈ないけど??? 作:鎌獺
オリジナル:ファンタジー/コメディ
タグ:R-15 ガールズラブ 性転換 吸血鬼 肉体的ガールズラブ
この私、エスエヌエス・タイムラインは真に恐ろしき吸血鬼である。
再生能力、観察眼、思考能力。それら全てが吸血鬼の中でも高水準。あらゆる
例えば再生能力。私レベルであれば例え日光に晒されたとしても、地獄のような熱さと痛みを受けながら夜まで生きながらえることができるだろう。
つまり、最強と言う訳だ。
例えば観察眼。どんな
つまり、最強と言う訳だ。
例えば思考能力。恵まれた観察眼から一瞬で最適解を導きだし、戦うまでもなく勝敗を察することができる。この能力により、私は既に三度も負け試合を回避している。
つまり、最強と言う訳だ。
そして、そんな最強の吸血鬼である私は今を生き抜くことすら苦労する木っ端吸血鬼とは違う。人間の血であればなんでも良いと考える奴等とは違い、私が喰らう血は美少女の血のみ。
常に美しくあろうと努力を重ね、欲望に耐えてきた美少女の血の味は、努力を知らずただ欲望のままに生きる男の血とは比べるまでもない程に味が違う。
食事とは娯楽だ。不味い物を食べ続ければ、いずれ食べることが嫌になる。故に、私は甘美な美少女の血を吸うのだ……あと、良い匂いもするし。
そして、今宵も私の毒牙にかかろうとする美少女が一人。
短くまとまった赤い髪をした可愛らしい少女だった。
恐らく、この廃教会から拾ったであろうボロボロのシスター服を身に纏い、少し錆び付いた十字架をこちらに向けている。
そして、少し怯えた様子で。そして、その怯えを誤魔化すように強がって、彼女は口を開く。
「来るな、化け物……!」
そんな様子を見て、私は少しだけ笑って彼女の元へと近づいていく。そして、目の前といった所で立ち止まって、手に持つ古びた十字架を、
「なっ……!?」
「神父様の洗礼を受けた訳でも修行を受けた訳でもないのに、シスター服を着て十字架に祈りを捧げれば救われると思っている……ふふ、人間って愚かよね。でも、安心して?私はそんな愚かな所も愛してあげられるわ」
「まっ、待て……」
「大丈夫。その恐怖の表情も、すぐに恍惚とした表情に変わるから」
彼女顎に手を当てて、血を吸おうと首筋に口を近づけた所で──
「は?」
──
いや、気づいてしまった。その次の瞬間には身体が勝手に彼女から距離を取り、優れた思考能力を利用して何故その匂いがしたのかを考える。
当の本人はまるで何が起きたのか分からないようにきょとんと可愛い顔をしていて、とそんな時間がほんの少しだけ、沈黙と共に続いた。
「どうして貴女から男の匂いがするの」
「……?」
「貴女はどこからどう見ても美少女の筈よ。それなのに微かに男の匂いがする。それも、他の男の匂いという訳でなく、
「……多分、俺が元男だからじゃない?」
「は?」
類いまれなる私の思考能力はそこで一瞬止まった。
言葉の意味は分かるのに、何を言っているのかが分からない。だから、何も理解できていないままに思ったことをそのまま口に出してしまう。
「なっ、何を言ってるの!?男なんかが美少女になるわけないでしょ!?」
「それはそうだけど……なんか、なっちゃったしさ。美少女」
「貴女、本気で言ってるの……?」
私の観察眼はその言葉が嘘ではない、と結論づけていた。
意味は分からない。納得できる筈もない。ただ、確かに彼女からする汚らわしい男の匂い。そして、彼女の一人称は
目の前の美少女は美しくあろうと努力していた訳でもなく、欲望に耐え続けた訳でもないのだろう。元男だし。なぜか美少女になったからそのまま美少女でいるのだ。ただ、それだけ。
でも、だとすると、だとするとだ。
「ああ、もう!元男の汚らわしい血なんて吸えないじゃん!」
「えっ?」
「時間の無駄だったわ……折角、美少女の噂を聞き付けてやって来たのに……!」
「えっ、えっと、あの……吸わないの、血?」
「はぁ?この私が元男のなんて汚らわしい血を吸う訳ないでしょ?全く……」
計算が狂ったとでも言うべきだろう。美少女の血が吸えるからと、わざわざ遠出をしてきたというのにそれが結果的に空振りになってしまった。別にまだ血は吸わなくても大丈夫だが、それはそれとして大幅な時間ロスは避けられない。
傍迷惑な人間に文句の一つでも言おうとして──少しの間だけ、口が止まってしまった。
「……何故、首筋を見せつけてくるのかしら」
「ん?いや、べっつに~?さっき吸われかけちゃったから気になって確認してるだけだけど?何々?気になっちゃった?」
「別に、気にならないわよ。元男の汚らわしい血なんて吸う訳ないんだから」
「そういう割には、俺の首筋にずっと視線を向けてるみたいだけど?」
「……」
図星だった。
なぜか美少女になっただけの元男である汚らわしい血が美味しい筈はない。それが分かっているのにも関わらず、まるで条件反射のように、見せつけられた首筋へと目線が行ってしまう。
冷静な心で何度彼女の首筋から目線を外しても結果は同じだった。
「まっ、今の俺は美・少・女、だからぁ~?吸いたくなっちゃうのも分かっちゃうかな~」
「はっ、はぁ?元男の血なんて汚らわしい物吸わないけどぉ!?」
「ふーん……これでも?」
そう言いながら、彼女はナイフを取り出す。それを黙って見ていればそのナイフで自身の指をなぞり出したので、私は慌てて止めようと、再び彼女の元へと近づいてナイフを奪いさった。
「ちょっ、ちょっと貴女!綺麗な肌に傷がつくで……あっ」
「それ、銀でできたレプリカナイフだから傷一つつきませんよーだ。それにしても、汚らわしい血の元男なのに心配してくれるんだ、やっさしー」
「こっ、この娘……」
そこで、ようやく私の思考能力が一つの結論を下す。"あっ、こいつ私が血を吸えないからって調子に乗っている"と。
先ほどまで私に怯えていたのが嘘のように。元男であった事実に動揺していた私に困惑していたのが嘘のように。ただ、私が"血が吸いたいのに吸えない状況"だと分かった瞬間に調子に乗って、私をからかい出したのだ。どういう神経?
しかし、この私が舐められて、そのままで終わる訳にもいかない。しっーかりと、お灸を据えてやる必要があるだろう。
手に持つナイフよりも鋭い爪を立てて、私は彼女に脅し始める。
「貴女ねぇ……別に血は吸わなくても、殺してあげても良いのよ?」
「できるの?」
「はぁ?」
「俺に傷がついちゃうことに焦ってたのに、俺を殺せる程傷をつけられるのかな~って」
「そっ、それは……」
「試しに、やってみようか?」
そう言いながら彼女が私の手を自身の首へと持っていこうとしたので、慌てて爪を引っ込める。それを見て、予測通りとでも言うかの様ににやける彼女。ただ、私はそれどころではなかった。
手と手が触れたまま、そして顔が近い。
目の前の少女が美少女で可愛らしいなんてことはとっくに分かっていたつもりだったが、今は先程までと状況が違う。だって、
とても楽しそうに、少し笑いを堪えようとして、堪えきれていないような笑顔で──それは、私が見てきた美少女の表情の中でも全く見たことのない表情で。そして、これまでも、これからの中でも最も可愛らしいと思ってしまうような表情で。
この娘を自分の物にしてしまいたいと、ずっと側でその表情を見せ続けて欲しいと──そんなことすら、思ってしまった。
だから、
そして、
あのままじゃ、彼女に手を出してしまう気がして。見た目が美少女なだけの男だと分かった上で、それでも良いと汚らわしい血を吸ってしまう気がして。
要は、私の、吸血鬼としての最後のプライドだった。美少女の美味しい血しか飲まないという、強き吸血鬼にのみ許された食事を娯楽だと捉える行為。
それが、欲望に負けてしまいそうだった私を立ち直らせた、最後の理由だった。
思っていたよりも早く帰ろうとする私に驚いたのだろう。彼女が後ろから声をかけてくる。まあ、何を言われようが、私はもう振り返りすらしないが。
「あれれ、帰っちゃうの?」
「……そうよ。どれだけ見た目が可愛くて声が良くても、貴女は元男でその血は汚らわしい。そんな相手に手を出せた物じゃないわ」
「へぇ……」
「なっ、何よその声は?」
「別にぃ……?ただ、もう帰っちゃうんだなって思ったら……少しだけ、寂しくて、ね?」
「……」
「な~んて、じゃあ俺はここで一夜明かすから帰るならばいば~い」
「……吸うわ」
「……えっ?」
「……」
「えっ、なんで振り返ったの?出口はあっち──って、なんで無言で近づいて来るの?帰るって話だったじゃん……ちょっと倒さないでって!力強い力強い!痛いから早く手を離し──えっ?元男の汚らわしい血は吸わないんじゃあ……ほら、あんなに我慢してたじゃん!そんなさ、急にされても覚悟とか決めてな──ああ、待って!待ってって!お願いだから!待って!」
「はい、
「お願──あっ、好き」
「ねぇ、血を吸わせてくれる?」
「好き。どうぞ、早く吸って?好きだから。好き。早く、好きなの。好き」
「……ちょっと強すぎたかも。まあいいや。頂きます」
「あっ──」
そこから語ることはないけれど、冷静になった私が一つ言い残すとすれば──うん。
べっ、別に血も吸ってないし、手も出してないけど???