一応二期範囲含まれますがほぼネタバレにはならない程度です
pixivにも同様の内容で投稿しています
「ソロリス。我、孤高を恐れる勿れ」
「え、何やってるの……」
「あ、お、大槻さん」
STARRYに訪れた大槻ヨヨコは、出迎えとは思えないような奇抜な挨拶に思わず後退った。
当たり前である。そもそも、ヨヨコがここを訪れたのは今しがた彼女を出迎えた少女、後藤ひとりの誕生日パーティーに呼ばれたからだ。
しかし呼び出した張本人が不在で、肝心の主役は星形のサングラス姿でこのように哀れな名乗りを上げている。そもそも然して親しくない者との集まりが好きではないヨヨコからすれば今すぐにでも帰りたい気分であった。
だが是非来てやってくれと言われ、一応プレゼント(もちろん歌などではない)まで用意して来たのだ。このまま引き返す選択肢は採れなかった。
「で、後藤ひとりは何をやってるの?」
初めの質問に答えが無かったため、もう一度尋ねる。
「ご、後藤ひとり? わ、我が名はソロリs……」
「あ、もうそういうの良いから。何でこんなことになってるかを知りたいんだけど」
後藤ひとりは何かと影響されやすい。おそらくイライザ辺りに何か吹き込まれたのだろうと当たりをつけながら、何故ひとりだけがこの場に残されることになったのかを尋ねる方に切り替えた。
「あっはい。じ、実は今日もバンド練があったはずなんですけど……こ、ここに来る途中で喜多ちゃんは急用を思い出したみたいで……。ここに来ても虹夏ちゃんどころか店長たちもいませんし。そ、そういえばお、大槻さんはどうしてSTARRYに来たんですか?」
何も知らされていないどころか自分の誕生日すら忘れているらしい。学校で祝われることもなかったからだろうなとヨヨコは瞬時に勘付いた。
それにしてもこんな状況に陥ってよく家に帰ろうと思わなかったな、と半ば感心しながら、ヨヨコは虹夏から無言のプレッシャーをかけられている現状を理解していた。
すなわち、ひとりに現状を悟らせず、かつヨヨコがここにしばらく居続ける理由を答えなければならないのだ。
いや、無理では?
そう思いながらもそれっぽい話題を探す。
「あーいや……うん。あー、この前の結束バンドの新曲についての改善点を言いに来てやったのよ」
ライブを観に来た、はおそらく通じない。結束バンドの出番がない日に来た事は無いうえに、今日は貸切状態にしているみたいだからだ。
では何故ヨヨコが? と聞かれた際の応答としては今回のものも少し苦しいと言わざるを得ない。が、相手が他の三人ではなくひとりだけなのであれば十分すぎる答えになる。それ以上の深掘りができないからだ。
「新曲……『グルーミーグッドバイ』ですか?」
「そうよ。まず歌詞ね。これまでのよりは幾分かマシだけど陰鬱すぎるし万人受けするようなものじゃない。これで審査に出そうと思えるのが不思議なくらい」
執拗なまでに陰鬱な、外の世界への不満をぶつけるような歌詞は結束バンドの歌の特徴である。今回はそれらよりは多少爽やかさを意識した歌詞になっているし、ヨヨコもそれを認識している。
ただ、未確認ライオットという大舞台に上がるための審査で出す曲としてはまだまだ挑戦的すぎるのではないかと心配しているのだ。
「次に曲。今までの貴女たちの曲に比べて迷いが見える、というか正直に言えば今までの貴女たちらしくない曲だった」
もちろんそれが悪いわけではない。何か思うところがあった、誰かに何か言われたなど、バンドとしての曲が急に変化することはままある。
今回の曲は、結束バンドとしての大元は変わっていない。いつもよりベースが大人しいだとか、ギターが少々強めだとかその程度でしかない。
作曲担当が迷走した結果、“結束バンド”としての曲が出来上がったのだということを知らないヨヨコは、その変化を「バンドとしてギターヒーローを際立たせることで審査を有利にするための作戦だろう」と自分の中で結論付けた。
「で、MV。初めてのMVにしてはよくできてると思うけど、曲調に対して画が明るすぎる」
これに関しては仕方のない部分もある。画面が暗すぎるとそれだけで敬遠したくなるからだ。ヨヨコもそれを理解してはいるが、一応今後のための改善点を言いに来たという名目上は触れなければならない問題だった。
「あとボーカル以外のメンバーの出番はできるだけ均等になるようにした方が良いわよ。メンバー間での人気格差は最悪解散に繋がる可能性もあるから」
ボーカルはバンドの顔だ。もちろんそれを売り出さなければならないし、そこが人気にならなければバンドとしても売れない。だからMVでもボーカルは特に強く押し出す。
問題はそれ以外のメンバー、今回は特にひとりについてだった。他二人は公園で遊んでいたり、黄昏ていたりと出番がそこそこあるにもかかわらず、ひとりは演奏中のカットだけである。
ギターヒーローとしての名声を利用していない以上、このMVを見ただけの人から「結束バンドのリードギターは大したことがない」と思われる可能性もある。一方的にではあるが、ひとりをライバル視しているヨヨコにとってそれは許しがたいことだった。
「というか後藤ひとり、貴女はそれで良いの? 全然映ってないけど」
「あっはい。私写真とか苦手なので」
「あっそう。まあ好きにすれば良いんじゃない?」
わざわざ動画サイトに自分の演奏を投稿していて、かつCDにデカデカとサインが書けるほど自己顕示欲が高いにもかかわらず、こういう場面では鳴りを潜める。ヨヨコにはあまり理解できない感情だ。
「それじゃあ最後は……」
歌。と言いかけたところで、ひとりの後ろにある扉から虹夏が覗いているのが目に入った。準備ができたのだろう。
扉は再びサッと閉じてしまったが、『ぼっちちゃん連れて来て』と口パクしていたのがなんとなく理解できたヨヨコは話を急転換する。
「あー、その前に私トイレに行きたくなってきたわ。案内してもらえる?」
「え? あっはい。こっちです」
ひとりに先導されて向かう先は私の背後、つまり件の扉の真逆である。
やってしまったと内心で舌打ちした後、トイレに入って五秒で出てきた。
「えっと……トイレに行きたかったんじゃ?」
「ええ、いや、入ったらあまり行きたくなくなったから」
苦しい言い訳だ。
「そ、それよりあの扉は何なの? 少し気になって来たわ。うん、行ってみましょう」
誤魔化すのも下手なら話題転換も下手。焦った際には会話の流れが不自然であることも気にしない突拍子の無さ。ヨヨコがコミュニケーションに難があると言われる所以である。
「え、いや、あそこは虹夏ちゃんたちの家に繋がってる扉なので……あ、開けない方が」
「でも店が開いてるのに店長もいないなんておかしな話じゃない。ここにいると思うのが普通でしょ。そうだ、部外者の私が開けるよりも後藤ひとり、貴女が開けた方が都合がよさそうね」
「で、でも、もし開けたことを怒られたら……」
「つべこべ言わずにさっさと開けなさい、っよ!」
そう言いながら顔面が崩れたひとりにやや引きながらも、ヨヨコはひとりを扉の前に立たせ、ノブを握らせる。
そのままレバーハンドルを下げて後ろから押せば、分厚い扉の向こうで待っている人たちが祝いの言葉を……と思っていたヨヨコだが、残念ながらそうもいかなかった。
いや、ひとりを扉の向こう側へ押し出すことには成功したものの、扉の先にはまだ部屋はなく、上階へ上がるための階段があるだけだった。
「あー、まだ部屋じゃなかったのね。まあそれもそうか」
ライブハウスとして経営している場所のすぐ横に部屋を作れば、防音にしているとはいえうるさすぎて勉強やら日常生活にも影響を及ぼし得る。
その結論に至ったヨヨコは、再起不能となり紙のように軽くなったひとりを引っ張って階段を昇る。
ヨヨコが初めに言った目的とは明らかに異なる行動をしていても、ひとりが再起不能に陥っているため気にする者もいない。ある意味でサプライズを行うには都合が良かった。
階段を昇った先にある扉の前で耳を澄ます。
中に人がいることを確認してから、引っ張ってきたひとりの頬をペチペチと叩き起こす。どうして自分がこのような役目を担わなければならないのだろうかと疑問を抱きながらも、ヨヨコはひとりの目の前にある扉を開けてやった。
途端、目に飛び込んでくる眩い光と耳を塞ぎたくなるような轟音が場を支配した。
「ぼっちちゃん」
「ぼっち」
「ひとりちゃん」
「後藤さん」
「お誕生日おめでとう(ございます)!」
結束バンドのメンバー、STARRYの店長とPAさん、結束バンドのファンの二人、あとついでに廣井きくりもいる。
この状況をひとりは瞬時に理解できなかったのだろう。何せ今まで友人たちに誕生日を祝われた事など一度もなかったのだから。誕生日は夜ご飯に好物が出てきてプレゼントをもらえる日くらいにしか感じていなかったひとりにとって、このサプライズはあまりにも刺激的過ぎた。
「ぼっちちゃんが喜んでくれてよかった。大槻さんも来てくれてありがとうね」
「べ、別にこのくらい……せっかく誘ってもらったから来ただけよ」
その後虹夏の一言によって始まったこのパーティーは、ひとりにとってもヨヨコにとっても忘れ難い思い出となったに違いない。